第四十七話 教授は、エヴァの性倫理まで環境から説明できると考える
エヴァの地域では「弱い」という言葉が比喩ではない。
軍馬に踏まれる。軍馬に食われる。魔物に食われる。盗賊に奪われる。戦争で死ぬ。そして、人間にも奪われる。
リーゼが聞く。
「法は?」
「ある」
「軍は?」
「ある」
「国家は?」
「あるぞ」
「なら弱者を守れるだろう」
エヴァが少し笑った。
「国が勝ってる間はな」
リーゼが止まる。
「城が落ちたら?」
「……」
「兵が逃げたら?」
「……」
「敵国の軍が入ってきたら?」
エヴァは肩をすくめた。
「最後に自分を守るのは、自分だ」
男だから安全ではない。女だから必ず守られるわけでもない。
「弱けりゃ、男でも女でもどうとでもされる」
金。食料。服。身体。命。
取れる奴が取る。
それが戦争になれば、さらに露骨になる。エヴァ自身も国が負けた。捕まった。権利を奪われた。身体を好きにされた。
だが。
「だから今は楽だぞ」
リーゼ。
「何がだ」
「自分で決められる」
誰に触らせる。誰と寝る。何をする。いつ止める。全部、自分で。
「昔は俺の身体をどう扱うか、鎖を持った連中が決めた」
エヴァは淡々と言った。
「でも、俺があいつらを主人と認めるかどうかは、俺が決める」
誰も笑わない。
「国は奪われた。身体も好きにされた。だからって、俺が俺であることまで渡す理由はない」
ティセラは、静かに書いた。
「自己決定を、非常に強く重視する」
エヴァ。
「難しく言うな」
そして、いつもの顔になる。
「やりたい時にやる、嫌ならやらん。それだけだ」
リーゼ。
「最後はいつものエヴァだな……」
シズク。
「分かりやすいです」
「お前まで納得するな」
ティセラは別の線を引く。
「興味深いですね」
「何がです?」
シズクが聞く。
「シズクさんも、エヴァさんも、性別への拘束が比較的弱い」
リーゼ。
「だが理由は全く違う」
「はい」
シズク。子供の性が変わる。両性もいる。性別自体がふわりとしている。
エヴァ。性別より、強いか、弱いか。そして自分で決められるか。そちらの方がずっと重要。
ティセラ。
「リーゼさんが最も男女を固定的に考えています」
リーゼ。
「小官の社会では、それが普通だ!」
エヴァ。
「ここじゃ少数派だぞ」
シズク。
「そうですね」
リーゼ。
「お前ら二人で組むなあああっ!」




