第四十六話 教授は、エヴァの馬を馬として分類することを諦めかける
「軍馬に踏まれれば、弱い奴は死ぬ」
エヴァが何気なく言った。
リーゼ。
「それは普通だ」
全員がリーゼを見る。
リーゼ。
「何だ」
ノアが聞く。
「そういえば、エヴァの馬ってどれくらい大きかったの?」
「俺の黒か?」
「ああ」
エヴァは軒下のノアを見る。
少し考える。
「聖者を二人、縦に置いたくらい」
沈黙。
シズク。
「……聖者を二人?」
「ああ」
ノア自身、二メートルを大きく超える。
その倍。
リーゼがゆっくり立ち上がった。
「馬ではない」
「馬だぞ」
「そんな馬がいるか!」
「俺が乗ってた」
ティセラが即座に質問する。
「肩高ですか? 頭部まで?」
エヴァ。
「知らん。とにかくでかい」
リーゼ。
「それを先に言え!」
ティセラ。
「食性は?」
「何でも食う」
「草?」
「食う」
「穀物?」
「食う」
「果実?」
「食う」
「肉?」
「食う」
ティセラの筆が止まった。
ノア。
「馬が?」
「ああ」
「動物も?」
「腹が減ってれば」
シズクが、恐る恐る聞く。
「人は?」
エヴァ。
「弱い奴なら食うぞ」
沈黙。
リーゼ。
「……食う?」
「食う」
「軍馬が」
「ああ」
「人間を」
「弱けりゃな」
リーゼはゆっくり座った。
「小官の知っている馬ではない」
エヴァ。
「馬だぞ」
ティセラが書く。
『大型馬類。広食性。機会捕食性。人間を捕食する場合あり』
エヴァ。
「馬でいいだろ」
「よくありません」
ノア。
「じゃあ、軍馬に踏まれて死んだ人は」
エヴァ。
「食われることもある」
リーゼ。
「先に言え!」
「何で?」
「何で、ではない!」
さらに馬同士で噛む。蹴る。弱い獣を襲う。戦場で倒れた兵士へ、そのまま食いつくこともある。
ティセラは、だんだん無言になる。
「エヴァさん」
「何だ?」
「あなたの地域の草食動物という分類は?」
「草だけ食う奴?」
「います?」
エヴァが本気で考え始めた。
「……いるかな」
ティセラ。
「そこからですか」
ノアが顔を覆った。
「そこそこじゃないな」
リーゼ。
「何がだ」
「世紀末覇王」
「だから何だそれは」
ノアはエヴァを見る。
「思ってたより、だいぶ本物だった」
エヴァ。
「格好いいな」
リーゼ。
「褒めていない!」
そして魔物の話。
巨大。頑丈。人間を丸呑み。城壁を壊す。再生する。卵を植え付ける。人間を苗床にする。
ティセラ。
「……馬まで含めて」
ノア。
「うん」
「人間だけではありません」
「うん」
生態系全体が強い。
ティセラは以前の記録を修正する。
『エヴァ出身地域――高強度・高捕食圧生態圏』
ノア。
「世紀末生態圏」
ティセラ。
「却下します」
エヴァ。
「俺はそっちがいい」
リーゼ。
「学術名をエヴァに決めさせるな」




