第四十四話 教授は、シズクが女を好きでもあまり気にしない理由を知る
「では、性愛対象について」
ティセラが言った。
リーゼがゆっくり顔を上げる。
「本当にやるのか」
「やります」
「飛ばせ」
「飛ばしません」
エヴァが嬉しそうにしている。
ティセラ。
「シズクさん。女性同士で関係を持つことは?」
「ありますよ」
リーゼが反応した。
「普通に言うな!」
シズク。
「何がです?」
「女同士だぞ」
「そうですね」
「それだけか!?」
シズクが本気で困る。
「好きなら、よいのでは?」
ティセラが静かに頷いた。
「なるほど」
リーゼ。
「何が分かった」
「シズクさんの地域では、子供の性が変化する」
「そうだな」
「成人には両性も存在する」
「ああ」
「なら」
ティセラはシズクを見る。
「相手を男か女かだけで性愛対象から分類する意味が、リーゼさんの地域より弱い」
シズク。
「そうなのでしょうか」
エヴァ。
「要するに好きならいいんだろ」
シズク。
「だいたい」
リーゼ。
「だいたいで終わらせるな!」
もちろん、誰でもよいわけではない。
好き。嫌い。触れてほしい。触れてほしくない。怖い。安心する。その違いはある。
ただ、女だから、男だから、そこだけで絶対的な線を引く感覚が、シズクには薄い。
ノア。
「僕の前世だと、性的指向を表す言葉はいくつもあったけど」
シズク。
「分ける必要があるのですか?」
「人によるかな」
リーゼ。
「小官の社会では、男と女の区別はかなり大きい」
ティセラ。
「婚姻や相続にも?」
「当然だ」
リーゼの地域。
帝国。王国。共和国。第一次世界大戦期のヨーロッパに近い社会。男女の役割。家。婚姻。相続。軍。
シズクより、ずっと性別を固定的に扱う。
ティセラ。
「同性関係は?」
リーゼの顔が少し硬くなる。
「存在はする」
「公には?」
「……大っぴらにするものではない」
シズク。
「どうしてです?」
リーゼ。
「そこから説明するのか……」
エヴァが笑う。
「シズクの方が谷底向きだな」
リーゼ。
「谷底を基準にするな!」
ティセラは静かに書いた。
『シズク本人の女性への性的関心は、本人固有の嗜好だけでなく、出身文化の流動的性別観とも整合する』
シズクが紙を覗く。
「難しく書くのですね」
「研究記録です」
「好きだから、では駄目ですか?」
ティセラが止まる。
エヴァが笑う。
「それで十分じゃねえか」
リーゼが頭を抱えた。
「教授の数十分を一言で殺すな……」




