第四十二話 教授の世界では、オーガもオークもゴブリンも隣人です
「次は知的種族です」
ティセラが言った。
リーゼはもう、少し疲れている。
「エルフ」
「います」
「ドワーフ」
「います」
「オーク」
「います」
「ゴブリン」
「います」
「オーガ」
ティセラはノアを見る。
「います」
リーゼもノアを見る。
ノア。
「僕はそっちのオーガじゃないけどね」
「分かっている!」
リーゼ。
「オークは人間を襲う?」
「盗賊なら」
「普通のオークは?」
「普通に暮らしています」
「ゴブリンは?」
「商人もいます」
「オーガは?」
「兵士や衛兵に多いですね」
「エルフは?」
ティセラが自分を指す。
「教授にも」
「見れば分かる!」
ティセラの地域では、種族と善悪は別の話。
オークの犯罪者。人間の犯罪者。ゴブリンの犯罪者。全部いる。
オークの職人。ゴブリンの商人。オーガの兵士。ドワーフの研究者。エルフの学生。人間の教授。それも普通にいる。
エヴァが聞く。
「じゃあ魔物は?」
「別の分類です」
「何で決める」
「知性だけではありません。社会形成能力、生態、繁殖、魔力構造、系統、法的身分などを――」
「やっぱり面倒だな」
「分類学です」
ノアがシズクへ聞く。
「シズクのところの鬼は?」
「いますよ」
リーゼ。
「本当に?」
「はい」
ノア。
「伝承じゃなく?」
「はい」
討たれた鬼の角が、神社へ奉納されている。山で襲われた者もいる。それをシズクはごく普通のこととして話す。
ノア。
「文化や服装は、僕の前世の古い日本によく似てるんだけど」
シズク。
「はい」
「僕のところでは鬼は昔話だった」
「いなかったのですか?」
「少なくとも確認されてはいなかった」
シズクが少し不思議そうになる。
ティセラが記録する。
『社会形態は聖者前世の古い時代と類似。ただし生物相・超常現象が一致しない』
シズクが追加する。
「狐や狸にも化かされます」
ティセラの筆が止まる。
「どのように?」
「道を変えられたり」
「はい」
「同じ場所を何度も歩いたり」
「はい」
「家へ入ったと思ったら、朝には野原だったり」
ティセラの目がだんだん光り始める。
「幻惑系魔法生物?」
「狐です」
「妖精種?」
「狐です」
「魔物?」
「狐です」
「普通の?」
「はい」
ティセラ。
「普通の狐は人間の認識を書き換えません!」
シズク。
「でも、しますよ?」
リーゼが笑う。
「教授もこっち側へ来たな」
「来ていません!」
ノアは少し笑った。
「僕の前世の昔話が、そのまま現実に混ざってるみたいなんだよな」
シズク。
「聖者の国は、本当に私の国によく似ていますね」
「似てるけど」
ノアは答えた。
「同じじゃない」
その差が少しずつ見えてきていた。




