第四十一話 教授は、魔法より学院の方が理解できないと言われる
ティセラが、保存蔵から魔宝石を一つ持ってきた。淡く冷気を放っている。
シズクは、もう知っている。谷底へ落ちてきた翌日、保存蔵を見せてもらった。さらに後にはエヴァから、魔宝石を使った冷蔵庫だと教えられた。
「冷蔵庫の石ですね」
シズクが言った。
ティセラが反応する。
「冷蔵庫?」
ノアが外から答えた。
「僕の前世では、食料を冷やして保存する設備をそう呼んでた」
「なるほど」
ティセラは石を示す。
「低温系魔宝石です」
シズク。
「冷たい石」
「使用するだけなら、その理解で問題ありません」
「どうして冷たくなるかは?」
「説明できます」
シズクの目が少し大きくなる。
「そこまで分かるのですか?」
「それを調べるのが魔法科学です」
内部魔力。固定術式。熱移動。出力。劣化。加工。
しばらくして、シズクがエヴァへ小声で言った。
「冷たい石でよかった気がします」
「俺もだ」
ティセラ。
「聞こえています」
今度はリーゼの番。
電気。蒸気機関。発電機。電線。電動機。内燃機関。
ティセラは、明らかに楽しくなった。
ノアも話へ加わる。
水車。回転。軸。発電。蓄電。
ティセラが、魔宝石側の変換を提案する。すると、ノア、リーゼ、ティセラ、三人だけ突然会話の速度が上がった。
歯車。摩擦。電流。熱。魔力。蓄積。変換効率。
エヴァがシズクを見る。
「分かるか?」
「水車までは」
「俺もだ」
そして、話題がティセラの社会へ移る。
「王立魔法学院」
リーゼが確認する。
「はい」
「学校だな?」
「教育機関であり、研究機関です」
「軍学校でも?」
「部門があります」
「魔物討伐は?」
「実地訓練があります」
「遺跡?」
「調査します」
「政治?」
「王侯貴族の子弟が多数在籍しています」
「外交?」
「当然関係します」
「決闘?」
「あります」
「戦争?」
「学院が動く場合も」
リーゼが止まった。
エヴァ。
「学生も戦うのか?」
「場合によります」
シズク。
「国には兵士がいますよね?」
「います」
「役人も?」
「います」
「冒険をする人も?」
「います」
「では」
シズクは本気で不思議そうだった。
「どうして学院の人が、何でもするのですか?」
ティセラが、止まった。
ノアが小さく言う。
「……学園世界だ」
「何です?」
「僕の前世の物語でね」
ノアは説明する。
学校へ通いながら魔物を倒す。遺跡へ行く。貴族と揉める。決闘する。国を救う。
ティセラが真面目に聞く。
「普通では?」
沈黙。
リーゼ。
「待て」
「はい」
「貴様の社会は、何故それで普通に繁栄している?」
「普通に繁栄していますが?」
「そこが分からん!」
エヴァ。
「学校だろ?」
「学院です」
「同じだ」
「違います」
シズク。
「学生は学ぶ方なのでは?」
「実践も学習です」
リーゼ。
「戦争まで実践するな!」
ティセラは、不思議そうに四人を見る。
「皆さんの教育機関は、ずいぶん役割が狭いのですね」
今度は、四人が黙った。
ノア。
「やっぱり、ティセラの地域は魔法より社会制度の方が不思議だな」
エヴァ。
「ああ」
シズク。
「私もそう思います」
リーゼ。
「全面的に同意する」
ティセラ。
「何故です!?」
そこだけは教授自身にも、うまく説明できなかった。




