第四十話 教授は、太陽と大地について五人へ聞く
「世界は、どんな形をしていますか?」
ティセラの最初の質問に、エヴァは即答した。
「でかい」
リーゼが机を叩く。
「形を聞かれている!」
「知らん」
「少しは考えろ!」
「戦争に必要なかった」
「貴様の世界は何でも戦争基準だな!」
シズクは少し考えた。
「大地があって」
「はい」
「その上に天があります」
リーゼが眉間を押さえる。
「平らなのか?」
「地面は平らですよ?」
「世界全体だ!」
「世界全体?」
シズクには、問いの意味そのものが、いまひとつ分からない。村がある。山がある。川がある。国がある。そして神の大瀑布。世界の果て。それで十分だった。
リーゼが立ち上がる。
「世界は球体だ!」
シズクが目を瞬かせた。
「丸い?」
「ああ」
「でも地面は平らです」
「大きすぎて丸みが分からないだけだ!」
「下側にいる人は落ちませんか?」
「落ちない!」
「なぜ?」
「重力が――」
リーゼが止まった。
シズクには、その言葉そのものがない。
ノアが外から助ける。
「物は大地の中心へ引っ張られる、と思えばいいかな」
「大地の中心?」
「うん」
「その下へ?」
「……今は、世界は丸いという考え方があるくらいでいいよ」
「はい」
シズクは、素直に諦めた。
ティセラが聞く。
「太陽は?」
リーゼは即答。
「恒星だ」
「世界は?」
「太陽の周囲を回っている」
エヴァが立った。
「待て」
「何だ」
「太陽が回ってるだろ」
「違う!」
「朝に向こうから出る」
「ああ」
「夕方に反対へ沈む」
「ああ」
「なら太陽が動いてる」
「世界が回っているんだ!」
エヴァはシズクを見る。
シズクもエヴァを見る。
二人。
頷く。
「太陽が動いていますね」
「ああ」
リーゼ。
「うがあああっ!」
ノアが笑う。
「僕の前世も、昔は天動説だったよ」
エヴァが指を差す。
「ほら!」
「昔はね」
「裏切ったな!」
「その後、観測が進んで地動説になった」
リーゼの顔が、ぱっと明るくなる。
「聖者!」
「何?」
「貴様の世界にも地動説が!」
「僕の時代では普通の知識だったよ」
「そうか!」
妙に嬉しそうだ。
ティセラが記録する。
「独立した二つの文化で、ほぼ同型の宇宙モデル」
リーゼ。
「同じ世界の証拠になるか?」
「なりません」
「なら何故書く」
「一致した資料だからです」
「教授は面倒だな」
「ありがとうございます」
今度はリーゼが聞く。
「教授は?」
「天球座標を使います」
ノアが反応する。
「ああ、天球」
ティセラが振り向く。
「聖者の世界にも?」
「実際に球があるというより、空を巨大な球面として扱う座標モデルだけど」
ティセラの目が輝いた。
「同じです!」
「同じ?」
「少なくとも私の学派では」
リーゼ。
「学派?」
「天球が物理的に存在すると主張する学派もあります」
「まだ決着していないのか?」
ティセラが眼鏡を押し上げる。
「学者だから決着していないのです」
「何だそれは」
「証明できないことを、分かったことにしてはいけません」
ノア。
「それは正しいね」
リーゼも渋々。
「……そうだな」
エヴァがシズクへ小声で聞く。
「俺たちは?」
シズクは窓の外を見る。
「明日も太陽が出れば十分では?」
「俺もそう思う」
リーゼ。
「少しは興味を持て!」
ティセラは最後に、一行書いた。
『宇宙観の違いは、別世界の証明にならない』
ノアが言う。
「僕の前世一つだけでも、時代によって世界の理解は変わったからね」
シズク。
「では、私が知らないだけかもしれない」
「はい」
ティセラは頷いた。
「ただし」
「?」
「シズクさんの地域には、天文学より説明しにくいものがあります」
シズク。
「何でしょう」
「鬼です」
「ああ」
普通に頷いた。
リーゼが嫌な顔をした。
「そこからか……」




