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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第七章 教授Ⅰ

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第三十九話 教授は、聖者がすでに世界を考えていたと知る

「まず、世界について確認したいのですが」


朝食の後。


ティセラは食堂の長机いっぱいに紙を広げた。


エヴァ。シズク。リーゼ。そしてティセラ。


ノアだけは、開け放した扉の向こう。軒下に置いた大きな机へ座っている。女性が四人になった以上、以前よりさらに距離を取るようになった。必要な話には参加する。だが、館の中へ長く留まらない。自分が近くにいるだけで、女たちの身体へ影響を与える。そのことを、ノア自身が、誰より気にしている。


「世界?」


エヴァが聞いた。


「ええ」


ティセラは紙へ大きな円を描こうとして、途中で止めた。


「ですが」


ノアを見る。


「これは、聖者がすでに考えているのですよね」


「考えただけだけどね」


「シズクさんも知っている?」


エヴァが答えた。


「こいつが落ちてきた翌日に俺が説明した」


シズクも頷く。


「はい」


あの日、大瀑布の前で、エヴァが土へ大きな円を描いた。世界そのものが、巨大な断崖に囲まれているのではないか。


エヴァの国では、水のない乾いた断崖、魔界大穴と呼ばれていた。


シズクの国では、そこへ川が流れ込み、世界の果ての、神の大瀑布となる。


上から落ちてくる荷物や生き物には、どちらの地域にも存在しないものがある。ならば、自分たちが「世界」と呼んでいた土地は、本当の世界の、ごく一部分でしかないのではないか。それが、ノアが谷底で考えていたことだった。


ティセラは紙へ四つ書く。


魔界大穴。神の大瀑布。世界壁ヴェルテンヴァント。牙塔。


リーゼが紙を覗く。


「小官の世界壁も、同じ巨大断崖の一部だと?」


「可能性があります」


「牙塔も?」


「それを確認したいのです」


シズクが首を傾げる。


「牙塔は、山では?」


「巨大な天然岩峰です。ただ」


ティセラは簡単な図を描く。


「巨大断崖の一部が、周囲より突き出していたと仮定すれば」


ノアが外から続けた。


「見る側からは、巨大な塔に見えてもおかしくない」


「はい」


リーゼが二人を見る。


「話が早いな」


エヴァが笑う。


「聖者と教授だしな」


ノアが首を振る。


「僕は教授じゃないよ」


ティセラが真顔で聞いた。


「では聖者は、元の世界では何だったのです?」


「普通の人」


沈黙。


ティセラが、ゆっくり眼鏡を押し上げた。


「普通の人が」


水路。濾過槽。冷蔵設備。水力洗濯装置。農業設備。建物。衛生設備。簡単な機械。


それらを見る。


「これだけの分野を?」


「知ってることを、失敗しながら試しただけだよ」


リーゼが鼻を鳴らした。


「貴様の世界の一般人は信用できん」


「リーゼまで」


ティセラは今度は、五つの名前を書く。


エヴァ、シズク、リーゼ、ティセラ、ノア。


「比較対象は五名です」


シズクが聞いた。


「聖者も?」


「むしろ聖者が重要です」


ティセラはノアを見る。


「私たち四人は、上から物理的に落ちてきました」


「そうだね」


「聖者は?」


「前世で死んで、気づいたらここでオーガだった」


「つまり」


ティセラは紙へ線を引く。


「私たち四人については、同じ巨大世界の遠く離れた地域から落ちてきた可能性がある」


リーゼが頷く。


「聖者の前世だけは、本当に別世界かもしれない」


「はい」


ティセラはきっぱり言った。


「ですから、最初から五つの世界とは呼びません」


エヴァが頭を掻く。


「学者は細かいな」


「正確です」


「それを細かいと言う」


「褒め言葉として受け取ります」


ティセラは項目を書き始めた。


世界の形。天体。魔法。科学。知的種族。人体。生態系。宗教。国家。戦争。武器。出生。性別。婚姻。性行動。


最後まで見たリーゼが。


静かに手を上げた。


「教授」


「はい」


「最後の三つを消せ」


「消しません」


「即答するな!」


エヴァの口元が上がる。


シズクはため息をついた。


「嫌な予感がします」


「出生と性別は社会構造へ直結します」


リーゼ。


「性行動は?」


「当然、文化比較に必要です」


「当然と言うな!」


エヴァが笑う。


「いいじゃねえか」


リーゼ。


「貴様は嬉しそうにするな!」


シズクが静かに言う。


「リーゼ、諦めた方が早いと思います」


リーゼがシズクを見る。


「お前はいつからそんな側になった!」


シズクは少し考え。


「谷底へ来てから?」


「自覚があるのか!」


ノアが外で笑った。


ティセラは筆記具を持ち直す。


「では」


眼鏡の奥が、完全に教授の目になった。


「聖者の仮説が、どこまで成立するか比べてみましょう」

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