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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第五章 世界壁Ⅱ

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第二十七話 世界壁の底の風呂には、規律というものがない

リーゼが谷底で初めて露天風呂へ入ったのは、歩き回っても傷が痛まなくなった日の夕方だった。


「……これは認めよう」


湯に肩まで浸かりながら、リーゼは言った。


岩を組んだ大きな湯船。そこへ温泉が流れ込み、溢れた湯はそのまま下流へ抜けていく。周囲には高い岩と木々。空を見上げても世界壁の上など見えない。


だが、風呂そのものは快適だった。


「何を認めるんだ?」


エヴァが聞く。


「谷底にも文明的な設備が存在することをだ」


「聖者が作ったけどな」


「またあの男か」


「大抵そうです」


シズクも湯へ浸かっている。三人で入るには十分すぎる広さだった。


リーゼは湯を手ですくった。


「配管もない。ボイラーもない。それでこの温度を維持しているのか」


「ぼいらあ?」


シズクが聞く。


「今はいい」


リーゼは諦めた。


そして、正面のエヴァを見る。


視線を少し下げる。


それから。自分を見る。黙る。


エヴァが気づいた。


「どうした?」


「何でもない」


「胸か?」


「言うな!」


シズクが静かに顔を背けた。もう慣れている。


エヴァは自分の胸を持ち上げるようにして笑った。


「戦うなら、お前くらいの方が便利だぞ」


「慰めるな!」


「別に慰めてない。俺は鎧に押し込むのが面倒だった」


「聞いていない!」


「走ると邪魔だし」


「聞いていないと言っている!」


「捕虜になった後は、まあ別の意味で便利がられたけどな」


リーゼが止まった。


「……それは」


まただ、急に笑ってよいのか分からない話を混ぜる。


シズクは湯へ顎まで浸かりながら言った。


「エヴァはそういう人です」


「お前はなぜ平然としていられる」


「慣れました」


「慣れるな!」


エヴァが笑う。


「いいじゃないか。昔の俺の胸をどう扱うかは連中が決めた。今は俺が決める」


「それは……そうかもしれんが」


「だから今は、聖者に好きなだけ揉ませてる」


「なぜ最後にそれを付け足す!」


「重要だから」


「重要ではない!」


シズクが訂正する。


「エヴァにとっては重要です」


「お前まで!」


リーゼは頭を抱えた。


数日、この館で暮らして分かったことがある。


エヴァには羞恥心がない。正確には、羞恥心を感じる場所がリーゼとはまるで違う。昼間に聖者と所構わずセックスをしている。夜中に大声で喘いでいる。翌朝には洗濯物が増えている。


たまに風呂へ来る前から裸で館を歩いている。行為のあとが、まざまざと分かるままで。


そして、そのすべてについて質問すれば普通に答える。


リーゼには理解できなかった。


「一つ聞きたい」


「何だ?」


「この館の規律はどうなっている」


エヴァが考える。


「規律?」


「生活上の規則だ!」


「便は便所」


「それだけか!」


「飲み水の上流を汚さない」


「そうではない!」


「知らない植物には触るな」


「もっと人間関係の話だ!」


エヴァはようやく意味を理解した。


「ああ。聖者とのことか」


「なぜそう即答できる!」


「お前、ずっと気にしてるだろ」


リーゼの顔が赤くなる。


「気にしているのは風紀だ!」


「俺はやりたい時にやる」


「それを風紀が無いと言うんだ!」


「嫌な時はやらん」


「当然だ!」


「聖者も嫌なら止める」


「それも当然だ!」


「じゃあ何が問題だ?」


リーゼが両手を上げた。


「うがあああっ!」


谷底に軍人らしくない叫びが響いた。


エヴァは腹を抱えて笑う。


「言っとくけどな。シズクも大概だぞ」


「え?」


シズクが顔を上げた。


リーゼも見る。


「この巫女が?」


「ああ」


「何の話ですか」


「最近ちょいちょい覗きに来るだろ」


「え?」


「バレてるぞ」


「え?」


シズクの顔が少しずつ赤くなる。


エヴァがにやにやしている。


「しかも見てるだけじゃない」


「エヴァ」


「何だ?」


「それ以上はいけません」


「もう遅い。こっちに見せつけてるだろ!」


リーゼがゆっくりとシズクを見る。


「……お前もなのか?」


「違います」


「何が違うんだ?」


「……色々です」


「答えになっていない!」


エヴァが笑いながら、さらに何か言おうとした。


シズクが湯を両手ですくう。


ばしゃん。


エヴァの顔へ浴びせた。


「おい!」


「黙ってください!」


「図星か」


もう一杯。


「わかった! わかったから!」


リーゼは二人を見た。


元王女。巫女。航空隊大尉。そして館の外にはオーガの聖者。


リーゼは湯船の縁へ額をつけた。


「……帝国軍規が恋しい」


シズクが同情するように言った。


「リーゼ」


「何だ」


「諦めると楽になります」


「その境地には絶対に行かん」


その時点では。


リーゼは本気でそう思っていた。

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