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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第四章 谷底Ⅱ

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第二十六話 はじめて谷底に助手がうまれた

「何が問題だ」


リーゼが聞いた。


エヴァは答えず。


少し離れた場所で作業を続けるノアを見た。


「お前、聖者を最初に見た時、何だと思った?」


「……人間ではない」


「まあな」


「角がある。二メートルを超える巨体。異常な腕力。傷を治す体液。しかも女の精神と身体へ影響する」


リーゼの声が硬くなる。


「率直に言えば、化け物ではないのか」


シズクが少し顔を強張らせた。


だが、エヴァは怒らなかった。


「ああ」


あっさり頷く。


「身体だけ見れば、そう思っても仕方ない」


リーゼが少し意外そうな顔をする。


「否定しないのか」


「俺だって最初に殴ったからな」


「それは聞いた」


「でもな」


エヴァの声が変わった。


「お前、昨日から聖者がほとんど館に入ってこないのに気づいたか?」


「……ああ」


「食事も外だ」


「見た」


「雨の日もだ」


リーゼが黙る。


「俺と聖者は一年一緒にいる。それでも昼間は必要以上に一緒にいない。シズクが来てからは、もっと離れるようになった」


「なぜだ」


「お前が今言ったからだよ」


エヴァは自分のこめかみを指した。


「聖者の身体は、近くにいる女へ勝手に作用する」


リーゼの顔が険しくなる。


「なら、なおさら危険だ」


「危険だぞ」


即答だった。


「だから、聖者自身が一番気をつけてる」


「本人が?」


「ああ」


エヴァは指を折る。


「館には長居しない。寝てる女の部屋へ勝手に入らない。必要が終われば出ていく。触る時は聞く。俺が相手でも確認する」


「お前とは、その……関係があるのだろう」


「ある」


「それでも?」


「それでもだ」


エヴァはリーゼを見る。


「聖者が一番怖がってるのは、自分が女を襲うことじゃない」


「何?」


「女が自分から望んだ時、それが本当にその女の意思なのか分からなくなることだ」


リーゼは黙った。


シズクも。


何度も聞いた話だった。だが改めて聞くと、ノアがいつも遠くにいる意味が、よく分かる。


「俺たちが『したい』と思っても、あいつは聞く」


エヴァが続ける。


「本当にいいのか。嫌じゃないか。身体が勝手にそうなってるだけじゃないのか」


リーゼがノアを見る。


遠く、こちらへ背を向け一人で部品を削っている。


「……そこまでしているのか」


「一年だぞ」


エヴァが鼻で笑った。


「毎日面倒なくらいにな」


シズクが言う。


「本当に何度も確認します」


「シズク?」


「事実ではありませんか」


「まあな」


リーゼはしばらく考えた。


「だが危険性が消えるわけではない」


「その通り」


「なら管理すればいい」


エヴァが眉を上げた。


「管理?」


「屋外で作業する。距離を取る。時間を決める。長時間連続して接触しない。異常を感じたら作業を中止する」


一つずつ、軍人らしく数えていく。


「必要なら交代要員を置く」


「俺か?」


「貴様しかいない」


「シズクは?」


「技術的な監視役にならん」


「失礼ですね!」


リーゼは聞いていない。


「危険だから近づかない、では何もできない。危険性を把握し、手順を定める。それが管理だ」


エヴァが笑った。


「お前、そういうところは聖者と合いそうだな」


リーゼはノアへ歩き出す。


数歩。


そして止まった。


振り返る。


「どのくらい離れればいい」


エヴァが大笑いした。


「もう怖がってるじゃないか!」


「安全確認だ!」


「はいはい」


リーゼは顔を赤くした。


それでも、ノアから少し離れた位置まで行く。


「聖者」


ノアが振り返った。


「何?」


「貴様の仕事を見せろ」


「……貴様?」


「私は基本的にこういう話し方だ」


「そっか」


ノアは笑った。


「でも、近くにいると危ないよ」


「聞いた」


「エヴァから?」


「かなり詳しく」


遠くからエヴァが叫ぶ。


「俺は説明が上手いからな!」


「余計なことまで聞いた!」


リーゼが怒鳴り返す。


そして、ノアを見る。


「危険なら手順を決める」


「手順?」


「屋外。距離を取る。時間制限。異常が出れば中断」


ノアが少し驚いた。


それから、ゆっくり頷く。


「それなら、いいかもしれない」


「私は機械を知っている」


リーゼは言った。


「お前の知識を全部理解できるとは言わん。だが、あの二人よりは話が早い」


遠くから、シズクが叫んだ。


「聞こえています!」


エヴァも叫ぶ。


「俺も聞こえてるぞ!」


リーゼは初めて、少し楽しそうに笑った。


墜落した飛行機は壊れた。銃は取り上げられた。部下はいない。帝国も、世界壁の遥か上。ここでは、航空隊大尉という肩書きそのものには、大した意味がなかった。


だが、自分にできることは、ようやく一つ見つかった。


「では聖者」


リーゼは腕を組む。


「まず、その歯車からだ」


ノアも頷いた。


「うん」


谷底に、初めて。


聖者の技術を理解できる助手ができた。

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