第二十五話 谷底で私にも分かる事
転機は、ノアがバルトリの横で何かを組み立てていた時だった。
木製の軸。大小の歯車。飛行機から回収した金属部品。
シズクには、何を作っているのか分からない。
エヴァも覗き込んだ。
「何だこれ」
「回転を別の場所へ伝えたいんだ」
「回せばいいだろ」
「その回し方を考えてるんだよ」
「じゃあ回るようにしろ」
ノアが困った顔をする。
シズクも頷いた。
「回るように作ればよいのでは?」
「うん。二人とも間違ってはいないんだけど……」
そこへ、リーゼが来た。一目見て止まる。
「その歯車では回転が落ちるぞ」
ノアが顔を上げた。
「分かる?」
「当然だ」
リーゼはしゃがみ込む。
「こちらが駆動側だろう」
「そう」
「なら、何が欲しい。力か。回転数か」
「回転数」
「逆だ。大きい方から小さい方へ伝えろ」
ノアが、初めて嬉しそうな顔をした。
「そう、それ」
シズクとエヴァは顔を見合わせた。
リーゼは部品を指す。
「この軸受けは何だ」
「飛行機から取った」
「使えるなら木より良い。だが砂を噛ませるな。油は?」
「少し回収できた」
「なら密閉した方がいい」
会話が、止まらない。
シズクには、半分も分からない。
エヴァも途中から黙った。
ノアが言う。
「発電機は分かる?」
「当然だ」
「直流?」
「機体には直流系統がある」
「蓄電池は?」
「分かる」
「モーター」
「分かる」
ノアが笑った。
「すごい」
リーゼが少し驚く。
「何がだ」
「ここへ来てから、こういう話がそのまま通じたの初めてだから」
エヴァが眉を上げた。
「悪かったな」
「エヴァには剣とか狩りとか、僕より詳しいこといっぱいあるから」
「ならいい」
シズクが聞く。
「私は?」
ノアが少し考える。
「裁縫が上手い」
「今、かなり考えましたね?」
リーゼが鼻で笑った。
「つまり」
立ち上がる。
「私は聖者を手伝える」
その声には、久しぶりに大尉らしい自信があった。
「この男の知識は、私の国の技術とかなり近い。全てではないが、少なくとも説明を一から受ける必要はない」
エヴァが言う。
「でんき、から?」
シズクが言う。
「私は未だに分かりません」
「だからだ」
リーゼは胸を張る。
「小官は役に立てる」
エヴァが笑った。
「また小官になってるぞ」
「今は重要な場面だ!」
だが、エヴァの笑いは、そこで少し消えた。
「問題が一つある」
「何だ」
エヴァはノアを見る。
「聖者の近くで働くってことだ」
リーゼは眉を寄せた。




