第二十四話 谷底の住人
リーゼは役に立たない。少なくとも、家の中では。
「それを切ってください」
シズクが芋を渡した。
リーゼは短刀を持つ。
切る。大きい。
もう一つ。小さい。
次。斜め。
「揃えてください」
「食えば同じだろう」
「煮える時間が違います」
「……なるほど」
理解はする。改善はしない。
洗濯物を畳ませる。角が合わない。
服を繕わせる。針目が大きい。
布を干させる。妙に間隔が広い。
「風が抜けるように配置した」
「そのせいで竿が足りません」
「合理的ではないか」
「全部干せなければ意味がありません!」
エヴァは腹を抱えて笑っていた。
「大尉殿、使えんなあ」
「黙れ!」
「飛行機は操縦できるのにな」
「飛行機の操縦と芋の皮剥きを一緒にするな!」
だが、外へ出すと話が変わった。野営場所を選ばせる。
「ここは駄目だ」
リーゼは即答した。
「なぜですか?」
「低い。雨が降れば水が集まる」
少し上へ移動。
「ここも駄目だ。枝が落ちる」
別の場所。
「風向きはこちら。火はこっちだ。寝床は地面から少し上げろ。湿気で体温を奪われる」
シズクは感心した。
簡単な縄の結び方。荷物の防水。目印の残し方。迷った時の方角確認。疲労した者の歩かせ方。携行食の分配。
リーゼは次々に知っていた。
「すごいです」
シズクが言う。
リーゼが少し胸を張った。やはり平らだった。
「軍では当然だ」
「料理はできないのに」
「軍用食は温めれば食える!」
「ここに軍用食はないぞ」
エヴァが言う。
リーゼは黙った。
「銃も無い」
「預かってるだけだ!」
「飛行機も無い」
「墜落しただけだ!」
「部下もいない」
「それは……」
言葉が止まる。
エヴァが追い打ちをかける。
「で、今のお前は何ができる?」
「私は航空機を操縦できる」
「無い」
「射撃」
「銃は俺が持ってる」
「偵察」
「空へ上がれない」
「地図作成」
「この辺の地図なら聖者が作ってる」
長い沈黙。
シズクが助け舟を出した。
「バルトリをご存じでした」
リーゼがシズクを見る。
エヴァも見る。
「知ってるだけじゃ洗濯は終わらんぞ」
「エヴァ!」
「お前はどちらの味方だ!」
リーゼが叫んだ。
シズクは少し考える。
「どちらでもありません」
「一番ひどい!」
結局、その日のリーゼの仕事は薪を運ぶことになった。
「大尉なのに薪運びか……」
ぶつぶつ言いながら運ぶ。
それでも、昨日よりは少し。
谷底の住人らしくなっていた。




