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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第四章 谷底Ⅱ

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第二十一話 谷底の新人

翌朝。


シズクは、リーゼが強いものだと思っていた。エヴァと同じくらい。少なくとも、それに近いくらい。何しろ軍人である。戦う者をまとめる立場。しかも空を飛ぶ。シズクの中では、すでにかなり恐ろしい人物になっていた。


その認識は。結界の見回りに出たところで崩れた。


「待て」


後ろから声がした。


エヴァが振り返る。


「何だ」


「少し、速度を落とせ」


リーゼが息を切らしていた。


「もう疲れたのか?」


「負傷明けだ!」


「昨日、もう大丈夫だと言ったろ」


「歩けるという意味だ!」


シズクはリーゼを見る。


「大丈夫ですか?」


「問題ない」


「息が荒いですが」


「問題ない!」


エヴァが笑う。


「シズクよりは速いな」


「比較対象がおかしい!」


「私ですか?」


「お前は十二日前まで神社にいただけだろう!」


「はい」


「私は航空兵だ!」


胸を張る。あまり胸はない。シズクは見ないようにした。


エヴァが言う。


「航空兵って、身体は鍛えないのか?」


「鍛える。だが貴様の基準がおかしい」


リーゼは腕を捲った。細い。しかし筋肉はしっかりついている。


「飛行には持久力も必要だ。墜落時の脱出、野営、長距離行軍の訓練も受ける」


「じゃあ走れるだろ」


「貴様は馬か何かか!」


「人間だ」


「嘘をつけ!」


シズクは思わず言った。


「私も最初、エヴァは普通の人間ではないのかと思いました」


「シズク?」


「今も少し思っています」


「おい」


リーゼが初めて、シズクへ同意するように頷いた。


「お前とは話が合いそうだ」


見回りの途中、エヴァが結界の外に獣の足跡を見つけた。


「リーゼ。これ分かるか?」


リーゼはしゃがんだ。急に表情が変わる。


「四足。体重はそれなりにある。爪が出ている。ここで一度止まっているな」


シズクが目を丸くした。


リーゼは周囲も見る。


「風上から近づいている。こちらの臭いを取ろうとした可能性がある」


エヴァも少し感心した。


「分かるじゃないか」


「軍人を何だと思っている」


「空飛んでる奴」


「地上に降りることもある!」


野営の知識。方角。水の探し方。火の起こし方。足跡。簡単な罠。食べられそうな植物を勝手に食べない。そこまでは、リーゼもかなり知っていた。


ただし、谷底では。


「この足跡なら大型の肉食獣だ」


リーゼが言う。


エヴァが首を振る。


「六本脚だぞ」


「……何?」


「ほら、こっちにも二つある」


リーゼが固まった。


「なぜ六本ある」


「そういう獣だから」


「そんな獣はいない」


「いる」


「我が国にはいない!」


「ここにはいる」


さらに先、大きな花が動いた。


リーゼが反射的に身構える。


花弁が開く。中に牙があった。


リーゼが三歩下がった。


「何だあれは!」


「花」


「花に牙があるか!」


「ここにはある」


リーゼはしばらく黙った。


それから。


「拳銃を返せ」


「駄目だ」


「今すぐ返せ!」


シズクは少し嬉しくなった。


十二日前、同じような顔を、自分もしていた気がする。


軍人でも。空を飛べても。


谷底では、新人なのだ。

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