第百九十二話 新人は、新人に案内される
翌日の昼。
イルゼは、ようやく客室の外へ出ることを許された。
許可を出したのはティセラである。ただし、長時間歩かない、走らない、重い物を持たない、戦わない、そして墜落した飛行機を見に行かないという条件つきだった。
最後の一つだけ、イルゼは露骨に不満そうな顔をした。
「何故、飛行機を見てはいけない」
「あなたの場合、見れば状態確認だけでは終わらないからです」
「自分の機体だ。損傷箇所くらい確認する」
「昨日、リーゼさんが確認しています」
「自分の目で見なければ意味がない」
「明日です」
「今日でも――」
「明日です」
ティセラは表情すら変えなかった。
イルゼは数秒、教授を睨んだ。
ティセラも見返した。
やがてイルゼが息を吐く。
「……了解した」
医療担当者の命令と判断したらしい。
そこは妙に素直だった。
では、誰が館の周囲を案内するか。
リーゼはイルゼの機体を改めて調べるため工作室側へ行っている。スージーは昨日までのこともあり、今日は互いに少し距離を取った方がいいという判断になった。
エヴァは畑。シズクは昼食の後片づけ。
そこで名乗り出たのが、アデラ、レティ、麗華だった。
「俺たちでいいだろ」
アデラが言う。
「拙者も、まだこちらへ来て日が浅いでござる」
「わたくしも同じですわ。案内される側だった者の方が、新しく来た方が何に驚くか分かるのではなくて?」
イルゼは三人を見る。
「新人が新人を案内するのか」
「だからちょうどいい」
アデラは笑った。
「古参に聞くと、普通だと思って説明を飛ばすことがあるからな」
その言葉が、後になってかなり正しかったと分かることになる。
◇
客室を出たイルゼは。
まず廊下で止まった。
「……広いな」
アデラが振り返る。
「最初にそこか」
「軍の宿舎でも、こんな廊下は造らん」
イルゼは天井を見る。
高い。
扉も大きい。
柱も太い。
廊下は、何人かが横に並んでも余裕がある。
さらに妙なのは、単純に豪華な館だから大きいのではないということだった。
扉の取っ手。
椅子。
机。
棚。
調理台。
何もかもが、少しずつ大きい。
「何人住むことを想定して造った?」
「人数ではありませんわ」
麗華が答えた。
イルゼが眉を寄せる。
「では何だ」
レティが言う。
「聖者殿の大きさに合わせてあるのでござる」
イルゼは黙った。
「……あの大男か」
「そうだ」
アデラが頷く。
「聖者が自分で使うことを前提に作ったからな」
イルゼは近くの扉を見る。
自分が使えばやたらと大きい。
だが。
二メートルを軽く超えるノアが通るなら、むしろ普通だった。
「家具も?」
「大体そうだ」
「調理場も?」
「聖者が使いやすい高さになっておりますわ」
「風呂も?」
「大きいでござる」
イルゼは少し歩いた。
そして。
上を見る。
さらに左右。
「二階は?」
三人が答える。
「ない」
イルゼが止まった。
「……ない?」
アデラが言う。
「平屋だ」
「これだけ大きくて?」
「平屋ですわ」
「全部?」
「全部でござる」
イルゼは、もう一度館を見る。
長い廊下。
大きな部屋。
高い天井。
巨大な扉。
それらが上へ積まれているのではない。
全部。
横へ広がっている。
「馬鹿みたいに広いな」
「俺も最初は城かと思った」
「城なら二階を造れ」
「聖者が一人で作り始めた館だからな」
イルゼの顔が変わった。
「一人で?」
麗華が扇子を開く。
「基本的には、そう聞いておりますわ」
イルゼはまた館を見た。
今度は見る目が少し違う。
軍人というより。
工兵か整備兵が、妙な設備を見つけた時の顔だった。
「……飛行場の格納庫の方が、まだ理解できる」
アデラが笑う。
「外へ出たら、もっと理解できなくなるぞ」
「それは脅しか?」
「忠告だ」
◇
館を出る。
イルゼは歩きながら、周囲をよく見ていた。
建物。
森。
水場。
見通し。
地面の傾斜。
人が隠れられる場所。
館から各施設までの距離。
軍人の目だった。
レティが横から眺める。
「やはり軍人というものは、似たところを見るのでござるな」
「何がだ」
「リーゼ殿も最初は、そのようなところばかり見ていたでござる」
イルゼの眉が僅かに動いた。
「大尉が?」
「そうでござる」
アデラも頷く。
「敵が来るならどっちからか、火が出たらどう逃げるか、どこなら守りやすいか。そんなことを最初に確認してたな」
麗華が呆れたように言う。
「あなた方は、どこへ行ってもまず戦うことをお考えになりますのね」
イルゼが麗華を見る。
「お前は何を見た」
「わたくしは、あの巨大な館を本当に一人の男性が造ったのか疑いましたわ」
イルゼは館を振り返る。
「それは私も疑っている」
「でしょう?」
妙なところで意見が合った。
◇
最初の水場へ着いた。
水車が。
からん。
からん。
流れる水を受けて回っている。
イルゼはまず水車を見る。
構造を見る。
水路を見る。
そして。
その脇を見た。
止まる。
小さい家。
小さい道。
小さい橋。
小さい畑。
そして。
飛んだり歩いたりしている小さな人型。
イルゼが長い間、黙った。
「……何だ、あれは」
アデラが即答する。
「妖精」
「見れば小型の人型生物だとは分かる」
「じゃあ何を聞いた」
「何故、水車の横に町を作っている」
レティが答えた。
「妖精だからでござる」
イルゼがレティを見る。
「説明になっていない」
「拙者も最初はそう思ったでござる」
水車の周囲には。
完全に一つの集落ができていた。
小さな屋根。
小さな柵。
小さな道。
妖精が荷物を運び。
別の妖精が水車を見上げ。
また別の妖精が橋の上から、四人へ手を振っている。
麗華が扇子を軽く振った。
妖精も大きく手を振り返した。
イルゼが見る。
「知り合いか?」
「存じ上げませんわ」
「なら何故、返した」
「向こうが挨拶しましたので」
「……そういうものか」
「そういうものですわ」
イルゼは少し迷い。
次に手を振ってきた妖精へ。
自分も軽く手を上げた。
妖精は満足そうに飛び去った。
アデラが笑う。
「順応が早いじゃないか」
「敵意がない相手へ、わざわざ敵意を見せる必要はない」
「軍人らしいな」
◇
少し下流へ。
今度はバルトリ。
水流を利用した洗濯設備である。
イルゼは、こちらについてはかなり興味を示した。
「水流だけで衣類を回すのか」
「そうらしい」
「動力を別に取らなくていい。単純だが合理的だな」
ようやく理解できるものがあった。
イルゼの表情が少し緩む。
しかし。
その周囲を見た。
また。
妖精の町。
しかも。
先ほどの水車の町とは、まるで雰囲気が違う。
家の形も。
飾りも。
服も。
イルゼの顔から安心が消えた。
「待て」
三人が見る。
「あれも妖精か」
「妖精ですわ」
「さっきと同じ種類?」
「そう見えるでござる」
「何故、町並みが違う」
三人。
黙る。
アデラが答えた。
「知らん」
イルゼがゆっくり振り返る。
「知らない?」
「俺たちも聞いた」
麗華が補足する。
「水辺ごとに、何故か違う文化のようなものを作るのですわ」
「誰が決める」
「知りません」
「代表者は」
「存じませんわ」
「統治者は?」
「分からぬでござる」
「誰が建設許可を出した?」
「多分、誰も」
イルゼは。
眉間を押さえた。
「誰も管理していないのか」
アデラが言う。
「今のところ、それで困ってない」
「困ってからでは遅い場合もある」
イルゼの返答は早かった。
軍人としては当然の発想だった。
そこで。
アデラが少し真面目な顔になる。
「そこだ」
「何がだ」
「ここで最初に覚えた方がいいこと」
レティも。
麗華も。
少しだけ空気を変えた。
◇
「過干渉するな」
アデラが言った。
イルゼの目が細くなる。
「妖精へ?」
「妖精だけじゃない」
アデラは館の方を見る。
「ここにいる連中全部だ」
レティが続ける。
「出身の国も、種族も、世界も、常識も違うのでござる」
麗華も頷いた。
「誰かが困っているなら助ける。それは構いませんわ。危険なら止めるべき時もございます」
扇子を閉じる。
「ですが、自分から見て変だから、自分の世界では間違っているから、というだけで他人の暮らしへ手を入れ始めると、収拾がつかなくなりますの」
イルゼが妖精の町を見る。
「危険かどうかは判断する」
「ああ」
「危険ではないが理解できない」
「放っとく」
「非効率でも?」
「本人たちが困ってないならな」
イルゼが少し嫌そうな顔をした。
「軍なら通らん考えだ」
「ここは軍じゃない」
アデラが即答する。
イルゼが見る。
アデラも見返す。
元軍人。
元騎士。
違う世界。
それでも。
そこは通じた。
「……そうだな」
イルゼは短く答えた。
◇
もう少し歩く。
イルゼが尋ねた。
「お前たちも、ここへ来た時には同じように戸惑ったのか」
「当然だ」
アデラが答える。
「俺の世界には魔物そのものがいない」
「魔物が?」
「いない。人間と普通の動物だけだ」
イルゼがレティを見る。
「お前のところは?」
「魔物はいるでござる。ゴブリンなどもおりまする」
「ダークエルフも?」
イルゼが何気なく聞いた。
レティの顔が。
少しだけ変わった。
「いるでござる」
「なら、クロエを見ても驚かなかった?」
「逆でござる」
イルゼが眉を寄せる。
レティは少し困ったように頭を掻いた。
「拙者の世界では、ダークエルフは魔王の配下にいるのでござる」
イルゼが足を止めた。
「敵なのか」
「基本的には」
「ではクロエを見た時は?」
「当然、警戒したでござる」
アデラが横から言う。
「刀に手をかけてた」
「仕方なかろう!」
レティが声を上げた。
「拙者の世界で、あの姿の者を見れば魔王側と思うのでござる!」
イルゼが聞く。
「今は?」
レティは少し考えた。
「クロエ殿は、クロエ殿でござる」
「ダークエルフなのに?」
「ダークエルフではある」
レティは頷いた。
「だが、拙者の世界の魔王とは何の関係もないでござる」
イルゼが黙る。
麗華が言った。
「同じ名前の種族でも、世界が違えば立場まで同じとは限りませんの」
アデラも続ける。
「俺の世界じゃ、ダークエルフ自体がいない」
レティ。
「拙者の世界では敵」
麗華。
「そして、ここでは館で普通に一緒に食事をする方」
イルゼが。
少し遠くを見る。
「同じ外見を、自分の知っている分類へ入れるなということか」
「それでござる」
レティが笑った。
「拙者も覚えたところでござる」
イルゼは鼻を鳴らした。
「私の世界なら、ダークエルフも魔王も物語の中だ」
アデラが言う。
「じゃあクロエは?」
「今のところ、妙な技術を身体へ入れた女だ」
「本人が聞いたら多分そのまま認めるぞ」
「なら問題ない」
三人。
少し笑った。
◇
さらに下流。
生け簀。
水槌。
水場ごとに。
妖精。
しかも。
いちいち様式が違う。
イルゼは最初こそ、
「あれは何だ」
「何故あの屋根なのだ」
「あの服装はどこのものだ」
「誰が決めた」
と質問していたが。
段々。
口数が減った。
「……あそこも?」
「妖精の町ですわ」
「さっきとは違う」
「違いますわね」
「あっちも?」
「妖精でござる」
「何故あんな帽子を?」
「知らぬでござる」
「何故船がある」
「知りませんわ」
「誰も知らないのか」
アデラが笑った。
「慣れてきただろ」
「何に」
「聞いても答えがないことに」
「慣れたくはない」
「俺も最初はそう思ってた」
◇
そして。
湯気。
イルゼの足が止まった。
「煙?」
「湯気でござる」
「露天風呂ですわ」
アデラも指す。
「野外の浴場だ」
イルゼは近づく。
石組みの大きな浴槽。
屋根のある場所。
脱衣所。
周囲には森と水。
「この館には浴室があるだろう」
「ありますわ」
「何故外にも作る」
麗華が当然のように言う。
「気持ちがよろしいからですわ」
イルゼ。
「……そうか」
軍事的合理性を探すのを諦めた顔だった。
そして。
また。
見つけた。
妖精。
しかも。
今回は。
温泉町だった。
小さな宿。
小さな暖簾。
小さな桶。
浴衣らしきものまで着て歩いている。
イルゼは。
長いこと。
何も言わなかった。
アデラが聞く。
「どうした」
「確認している」
「何を」
「私が回復薬の副作用で幻覚を見ていないか」
レティが笑う。
「残念ながら、拙者にも見えているでござる」
「わたくしにも」
「俺にもだ」
イルゼが深く息を吐いた。
「……妖精だな」
アデラが頷く。
「進歩した」
「褒めるな」
◇
イルゼはまだ傷が治りきっていない。
そのため全身浴は禁止。
四人は。
足湯だけ使うことにした。
靴を脱ぐ。
石へ座る。
イルゼが足を湯へ入れた。
「……温かい」
麗華が笑う。
「温泉ですもの」
「それは分かる」
少し離れた場所では。
妖精たちも足湯をしている。
こちらの人間用とは別に。
石の窪みへ湯を引いた、小さな妖精用。
イルゼが横目で見る。
妖精も見る。
そのうち一人が。
ぴしっ。
敬礼した。
イルゼが。
止まった。
妖精。
もう一度。
ぴしっ。
イルゼは数秒迷った。
それから。
軍人らしく。
きちんと敬礼を返した。
妖精は満足したように頷き。
そのまま温泉へ戻った。
アデラが笑う。
「知り合いになったな」
「違う」
麗華が言う。
「水車でわたくしへ言ったことと同じですわ」
イルゼが一瞬考え。
「……そうだったな」
◇
しばらく。
水音だけが続いた。
イルゼがぽつりと言う。
「過干渉しない」
アデラが頷く。
「ああ」
「自分の常識を、そのまま他人へ当てはめない」
レティ。
「そういうことでござる」
「危険なら止める」
麗華。
「ええ」
「困っているなら助ける」
「その通りですわ」
「だが、単に理解できないだけなら、まず放っておく」
アデラが笑う。
「だいぶ分かってきたな」
イルゼは温泉町の妖精を見る。
「軍人としては気持ちが悪い考え方だ」
「だろうな」
「管理できるものは管理した方がいい」
「そうだろうな」
「だが」
イルゼは。
さっきの妖精を見る。
頭に小さな布を乗せ。
湯へ浸かっている。
「ここを全部管理しようとしたら、先に自分の頭がおかしくなる」
アデラ。
「そこまで分かれば十分だ」
レティが笑う。
「拙者より順応が早いかもしれぬでござる」
「お前はダークエルフで一度引っかかったからな」
「アデラ殿!」
麗華が扇子で口元を隠した。
◇
少しして。
イルゼが言った。
「昨日、客室から少し聞こえた話も同じか」
三人が見る。
「何の話だ?」
「自分のことは自分で決めろ。人が決めたことへ、勝手に口を出すな」
アデラが。
「ああ」
と声を出した。
「エヴァの話か」
「途中から聞こえた」
レティも頷く。
「根は同じなのでござろうな」
「スージーのことも?」
イルゼが聞く。
三人が。
少し黙った。
イルゼは湯を見る。
「私が何を言おうが、最後に決めるのはスージー」
「そうだ」
アデラが答えた。
「リーゼも?」
「同じだ」
「私も?」
「同じ」
イルゼは。
少し笑った。
「随分と面倒な場所だ」
麗華が穏やかに言う。
「自由というものは、案外面倒ですのよ」
イルゼが麗華を見る。
「貴族の言葉とは思えないな」
「谷底へ来て覚えたことですわ」
レティも頷く。
「拙者も、こちらへ来てから自分の世界の常識だけでは判断できぬことが増えたでござる」
アデラ。
「俺もだ」
イルゼは三人を見る。
なるほど。
新人が新人を案内する。
確かに。
悪くなかった。
この三人も。
少し前には自分と同じだった。
何故。
どうして。
誰が許した。
そんなことばかり考えていた側だ。
今は。
分からないものを、分からないまま置いておくことを覚え始めている。
それは。
イルゼには少し奇妙で。
少し面白かった。
◇
帰り道。
イルゼが聞いた。
「妖精の集落は、他にもあるのか」
三人。
止まる。
アデラ。
「ある」
「どれくらい」
「数えるのをやめた」
イルゼの眉が動く。
レティが言う。
「館の屋根にもいるでござる」
「屋根?」
麗華。
「洗濯場にもおりますわ」
「洗濯場?」
アデラ。
「雨だれの跡にも」
「雨だれ?」
レティ。
「油の池にも」
「油?」
麗華。
「第五の入口には、勝手に通行を管理している妖精までおりますわ」
イルゼが足を止めた。
「待て」
三人が見る。
「一度に言うな」
アデラが笑った。
「その方がいい」
「今日は水場だけにするでござる」
「全部を一日で理解する必要はありませんもの」
イルゼは深く息を吐く。
「……飛行機を見に行きたい」
アデラが吹き出す。
「現実逃避か?」
「違う」
「本当に?」
「飛行機なら理解できる」
即答だった。
レティが妙に納得する。
「その気持ちは少し分かるでござる」
麗華も。
「わたくしも、普通のお茶を見ると安心いたしますわ」
アデラ。
「俺は普通の魚だな」
イルゼが三人を見る。
「お前たちも大概だな」
「ようこそ」
アデラが言う。
「谷底へ、でござる」
レティが続ける。
麗華は扇子を閉じた。
「最初から全部を理解なさらなくてもよろしいのですわ、イルゼさん」
イルゼは。
水車の周囲で暮らす妖精を見る。
少し前なら。
誰が管理している。
何故そこにいる。
何を目的としている。
そう聞いていただろう。
今。
妖精の一人が。
小さな橋の上から手を振った。
イルゼは。
少しだけ手を上げる。
それだけにした。
「……努力しよう」
その直後。
水路の向こうで。
小さな船に乗った妖精が、岸にいる別の妖精へ何かを投げた。
受け取った妖精が旗を振る。
別の集落から。
鐘。
からん。
イルゼが止まる。
「……今のは何だ」
アデラ。
「知らん」
「確認しなくていいのか」
レティが見る。
「危険そうではないでござる」
麗華が微笑む。
「ですから」
三人。
ほとんど同時に言った。
「過干渉しない」
イルゼは。
妖精たちを見た。
旗。
船。
鐘。
何をしているのか。
さっぱり分からない。
だが。
誰も困っていない。
誰も助けを求めていない。
イルゼは。
今度は追いかけなかった。
ただ一度だけ振り返り。
巨大な平屋の館を見る。
聖者の身体に合わせて造られた。
自分の世界なら、馬鹿げていると言われるほど大きな家。
その中で。
出身世界も。
種族も。
常識も違う者たちが。
一緒に暮らしている。
「……なるほど」
イルゼが呟く。
アデラが聞いた。
「何がだ」
「いや」
イルゼは前を向いた。
「ここで普通に暮らす方が、飛行機を直すより難しそうだと思っただけだ」
三人は。
誰も否定しなかった。




