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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
断章Ⅷ

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第百八十三話 最近、キマイラを見ませんね

昼食の後。


屋根付きのバルコニーでは、いつものように何人かが食後の茶を飲んでいた。


少し離れた土俵では、エヴァとアデラが何やら次の勝負について話している。ルヴァナも混ざっているので、放っておけば午後にはまた相撲が始まるだろう。


麗華は茶器を置き、庭の向こうを眺めた。


黒がいた。


四メートル級の巨体で、口に大きな籠を咥えている。


籠には肉、果物、野菜。それから何かの葉まで大量に詰まっていた。


黒は館へ寄らず、そのまま森の方へ歩いていく。


麗華が首を傾げた。


「そういえば」


レティもそちらを見る。


「何でござる?」


「最近、キマイラを見ませんわね」


アデラも振り返った。


「言われてみりゃそうだな」


以前なら、黒が館の周辺にいればキマイラも近くにいることが多かった。


獅子頭。


山羊頭。


竜頭。


そして蛇の尻尾。


一頭だけで何人分もうるさい。


それが、ここ数日ほとんど姿を見せていない。


レティが言った。


「体調でも崩したのでござろうか」


すると。


ルヴァナが。


何でもないことのように言った。


「妊娠してるからじゃない?」


沈黙。


麗華。


「……はい?」


アデラ。


「何?」


レティ。


「妊娠?」


リーゼも、少し離れた席から勢いよく振り向いた。


「待て!」


ルヴァナが驚く。


「え?」


「あれ? 知らなかった?」


「小官も知らん!」


「大尉も?」


「何故、小官まで当然知っている側に入れられた!」


スージーの猫耳がぴんと立った。


「私も聞いてないわよ」


「スージーまで?」


ルヴァナが周囲を見る。


「あれ? これ、みんな知ってると思ってた」


ティセラが茶を飲みながら言った。


「私は知っています」


全員の視線が教授へ向いた。


リーゼが立ち上がる。


「教授!」


「はい」


「何故報告しない!」


「危険事象ではありませんので」


「四メートル級のキマイラが妊娠したんだぞ!」


「妊娠は病気ではありません」


「そういう問題ではない!」


エヴァも土俵の方から戻ってきた。


「何騒いでる?」


アデラが指差した。


「キマイラが妊娠したって」


「ああ」


エヴァは普通だった。


リーゼが振り向く。


「貴様も知っていたのか!」


「知ってるぞ」


「何故!」


「見りゃ分かるだろ」


「分からん!」


         ◇


事情を聞くことになった。


ティセラが記録板を持ってくる。


「最初に変化へ気づいたのは、二週間ほど前です」


麗華が聞いた。


「見た目で?」


「食欲と行動ですね」


キマイラは元からよく食べる。


だが。


さらに食べるようになった。


黒と一緒に出歩く時間が減った。


長時間横になっていることが増えた。


水をよく飲む。


さらに、腹部にわずかな変化。


ティセラが触診。


魔力反応。


脈。


身体内部の状態。


複数の観察から。


妊娠。


ほぼ確定。


レティが聞いた。


「父親は?」


沈黙。


全員。


黒が消えていった森を見る。


アデラが言った。


「……聞く必要あるか?」


ティセラが答える。


「行動記録上、黒である可能性が非常に高いです」


リーゼが額を押さえた。


「黒なのか……」


スージーが横を見る。


「意外だった?」


「いや」


リーゼは考える。


黒。


四メートル級。


キマイラ。


四メートル級。


いつも一緒。


竜頭は黒に対する欲望を隠そうともしない。


蛇尾に至っては、黒を一貫して「お兄ちゃん」と呼びながらまとわりつく。


「……むしろ、今まで考えなかった小官がおかしいのか?」


スージーが答えた。


「谷底では考えない方が楽なこともあるから」


「それはそうだな」


麗華は、まだ別のところで引っかかっていた。


「少々お待ちくださいませ」


「何でしょう」


ティセラが見る。


麗華は慎重に尋ねた。


「キマイラが妊娠したということは」


一拍。


「何が生まれますの?」


全員。


止まった。


ティセラも。


止まった。


リーゼが。


ものすごく嫌そうな顔で教授を見る。


「教授」


「はい」


「分からないんだな?」


「分かりません」


「即答!」


レティが言う。


「馬のようになるのでござろうか」


アデラ。


「キマイラみたいになる可能性もあるだろ」


スージー。


「両方混ざる?」


麗華。


「すでに混ざっているものへ、さらに混ざりますの?」


全員。


キマイラを想像する。


獅子。


山羊。


竜。


蛇。


そこへ。


黒。


リーゼが両手で顔を覆った。


「増やすな……!」


ティセラが言う。


「非常に興味深い事例です」


「教授だけ喜ぶな!」


         ◇


その日の午後。


結局。


様子を見に行くことになった。


ただし。


大人数で押しかけない。


ティセラ。


スージー。


リーゼ。


レティ。


アデラ。


麗華。


そこへ。


シズク。


六人。


いや。


七人。


十分多い。


リーゼが気づいた。


「これでも多くないか?」


ティセラが答える。


「遠くから観察するだけにしましょう」


森の手前。


川に近い。


少し開けた場所。


そこに。


簡単な雨除け。


大量の枯れ草。


布。


羽毛。


毛布。


巨大な寝床が作られていた。


リーゼが止まる。


「いつの間に」


シズクが答える。


「少し前に作りました」


「誰が?」


「聖者とエヴァと黒と、皆で」


「小官は?」


「お仕事をされていました」


リーゼ。


黙る。


最近。


第五。


新種。


土俵。


地図。


管理記録。


色々。


忙しかった。


スージーが肩を叩く。


「大尉、全部把握しなくても共同体は回るのよ」


「分かっている!」


寝床。


その中央。


いた。


キマイラ。


横になっている。


確かに。


以前より。


腹部が少し丸い。


獅子頭が。


こちらに気づく。


「何よ」


山羊頭も。


「あ、見舞い?」


竜頭は。


こちらより。


黒を見ていた。


黒が。


籠を置く。


「ぶるるるっ」


蛇尾が。


すぐ。


にょろ。


黒へ伸びる。


「お兄ちゃーん。遅ーい」


リーゼが。


小声で。


「元気そうだな」


ティセラが答える。


「健康状態は良好です」


獅子頭が言う。


「何よ。妊娠したくらいで見物?」


麗華が。


少し慌てる。


「申し訳ございません。最近お姿を見ないので、体調を崩されたのかと」


獅子頭。


少し。


表情が柔らかくなる。


「ならいいけど」


山羊頭が笑う。


「最近さー、ちょっと動くと疲れるんだよね」


竜頭。


「黒が全部持ってきてくれるから動く必要もない」


蛇尾。


「お兄ちゃん優しいのー」


黒。


「ぶひひーん」


リーゼが黒を見る。


「完全に世話を焼いている……」


アデラが笑う。


「いい雄じゃねえか」


黒は。


何となく。


胸を張った。


         ◇


問題は。


食事だった。


黒が運んできた籠。


肉。


果物。


野菜。


羽毛ガチョウの可食部。


バロメッツの肉。


魚。


さらに。


麦飯まで。


リーゼが籠を見る。


「食い過ぎでは?」


獅子頭が即座に言う。


「二人分だから!」


山羊頭。


「いや、何人分か分かんないけどね」


リーゼの顔が止まる。


「……何人分?」


ティセラが答える。


「胎児数も現時点では断定できません」


リーゼ。


教授。


見る。


「一頭とは限らない?」


「限りません」


リーゼが。


ゆっくり。


空を見る。


「そうか……」


スージーが笑う。


「現実逃避しないの」


レティは。


キマイラを見る。


「何か必要な物があれば、拙者も運ぶでござる」


山羊頭。


「ほんと? じゃあ果物!」


獅子頭。


「肉!」


竜頭。


「黒」


リーゼが即座に言う。


「それは食べ物ではない!」


竜頭が。


ものすごく。


嫌そうな顔をした。


「誰が食べ物って言ったのよ」


「貴様の言い方が悪い!」


蛇尾が。


くすくす。


「お兄ちゃんは、ここにいるだけでいいのー」


黒。


「ぶるるるっ」


アデラが小声で言った。


「俺、なんか居ちゃいけない話聞いてる気がする」


麗華も。


「わたくしもですわ」


         ◇


帰り道。


レティが。


まだ考えていた。


「しかし、本当に何が生まれるのでござろう」


アデラも。


「気になるな」


麗華。


「生まれるまでは分からない?」


ティセラ。


「現在は、そうですね」


リーゼが。


警告する。


「教授」


「はい」


「無理に調べるなよ」


「しません」


「絶対だぞ」


「母体と胎児の安全を優先します」


リーゼが。


少し安心した。


「それならいい」


スージーが。


猫耳を揺らす。


「大尉、なんだかんだ心配なのね」


「当然だ!」


リーゼは。


後ろを振り返る。


木々の向こう。


巨大な寝床。


黒。


キマイラ。


今は。


見えない。


「共同体の一員だからな」


スージーが。


少し笑った。


その時。


遠くから。


キマイラの声。


竜頭。


「黒ー! もっとこっち来てー!」


獅子頭。


「ちょっと! 押すな!」


山羊頭。


「腹つぶれるって!」


蛇尾。


「お兄ちゃーん!」


黒。


「ぶひひひーん!」


リーゼは。


前へ向き直った。


「……元気ならいい」


アデラが。


笑いながら言う。


「ほんとにな」


そして。


館へ戻ると。


ルヴァナが。


何でもない顔で聞いた。


「どうだった?」


リーゼが答える。


「元気だった」


「でしょ?」


「それより貴様」


「何?」


「いつから知っていた」


ルヴァナは。


少し考えた。


「結構前?」


リーゼの眉が。


ぴくっ。


「何故、小官に言わなかった!」


「知ってると思ってた!」


「またそれかああああっ!」


館に。


大尉の声が響いた。

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