百八十一話 喉越しだけは評価したくない
第五で。
また。
新しい食べ物が見つかった。
ティセラが持ち帰った時。
リーゼは。
最初。
何も警戒しなかった。
「自然薯です」
机の上。
細長い芋。
土。
根。
ひげ根。
少し曲がっている。
それだけ。
リーゼは。
しばらく。
見た。
「……普通だ」
スージーも。
猫耳を立てたまま。
見る。
「普通ね」
シズクも。
「自然薯ですね」
リーゼが。
少しずつ。
嬉しそうになる。
「第五で?」
「はい」
「鳴かない?」
「確認されていません」
「白い汁を吹かない?」
「通常の植物汁以外は」
「震えない?」
「現在のところ」
「人間の身体に似ていない?」
「普通の自然薯に近い外見です」
「中から悲鳴を上げながら何かが出てこない?」
「ありません」
リーゼが。
両手を広げた。
「普通だ!」
第五。
聖者自己処理池及び周辺生物災害監視区域。
オホ声マンゴー。
キンカンの木。
電動トウモロコシ。
白濁石油。
動物を追う植物。
その他。
数々。
その第五から。
自然薯。
ただの。
芋。
リーゼは。
少し感動していた。
「第五にも良心があったんだな……」
ティセラが答える。
「まだ食べていませんよ」
リーゼの顔が。
止まった。
「教授」
「はい」
「何かあるのか」
「食味は非常に優れています」
「その言い方!」
◇
まず。
洗う。
土を落とす。
皮。
薄く処理。
すり鉢。
すりおろす。
ねば。
ねばねば。
とろ。
シズクが。
少し驚く。
「強いですね」
普通の山芋より。
粘りが。
かなり強い。
箸で持ち上げる。
伸びる。
落ちない。
スージーが見る。
「粘度、高そう」
ティセラが頷く。
「かなり」
リーゼは。
まだ平気だった。
「自然薯なら粘るだろう」
「そうですね」
「何もおかしくない」
エヴァが。
すり鉢を覗く。
「食っていいか?」
リーゼが振り返る。
「待て!」
「何でだよ」
「安全確認!」
ティセラが答える。
「済んでいます」
リーゼ。
「誰が」
ティセラ。
「私」
シズク。
「私も」
エヴァ。
「俺も」
リーゼは。
三人を見る。
そして。
頭を抱えた。
「また貴様らか!」
エヴァが笑う。
「美味かったぞ」
シズクも。
「とても」
ティセラも。
「食用資源としてかなり有望です」
リーゼが。
警戒する。
「ただし?」
三人。
少し。
黙った。
リーゼの目が。
細くなる。
「何故黙る」
エヴァが。
にや。
シズクが。
少しだけ。
視線を逸らす。
ティセラが。
真面目な顔で。
「喉越しに特徴があります」
リーゼは。
すり鉢を見た。
「……どんな?」
「食べれば分かります」
リーゼが叫んだ。
「その言葉を使うな!」
◇
最初は。
何もかけず。
そのまま。
小鉢。
少量。
リーゼ。
箸。
取る。
ねば。
重い。
口へ。
濃い。
自然薯。
非常に。
濃い。
香り。
土のような。
芋のような。
それでいて。
嫌な泥臭さはない。
旨味。
強い。
甘みもある。
リーゼの目が。
少し開く。
「……うまい」
スージーも。
一口。
猫耳が立つ。
「濃い」
アデラも。
「これ芋か?」
レティも。
「味が強いでござる」
麗華も。
「何もつけずに、これほど?」
そして。
飲み込む。
リーゼ。
止まる。
スージー。
止まる。
アデラ。
止まる。
レティ。
止まる。
麗華。
止まる。
とろ。
粘る。
喉。
通る。
はずが。
一瞬。
引っかかる。
まとわりつく。
喉の奥へ。
妙に。
残る。
完全に詰まるほどではない。
危険でもない。
しかし。
普通の食べ物の。
喉越しではない。
全員。
無言。
リーゼが。
ゆっくり。
水を飲んだ。
スージーも。
飲む。
アデラが。
口を開いた。
「これ」
リーゼが即座に言った。
「言うな」
「まだ何も言ってねえ」
「分かる!」
レティが。
少し困った顔をする。
「拙者も、何となく……」
「言うな!」
麗華が。
上品に。
口元を押さえている。
何も言わない。
だが。
顔に。
出ている。
リーゼが。
麗華を見る。
「貴様も分かったな」
「わたくしは何も申しておりませんわ」
「顔!」
スージーが。
猫耳を伏せながら言う。
「大尉」
「何だ」
「たぶん全員同じこと考えてる」
「確認するな!」
エヴァだけが。
楽しそうだった。
「だろ?」
リーゼが。
勢いよく振り向く。
「貴様は最初に食った時、何も思わなかったのか!」
「思った」
「思ったのか!」
「でも美味かったからもう一口食った」
リーゼ。
黙る。
自分の小鉢。
見る。
もう一口。
食べる。
味。
美味い。
そして。
飲み込む。
また。
ぬる。
ねば。
喉の奥へ。
まとわりつく。
リーゼの眉間。
深く。
「……美味い」
スージーが笑う。
「そこが困るのよね」
「そうなんだ!」
◇
次。
醤油。
少しだけ。
自然薯。
混ぜる。
香り。
増す。
色。
少し濃くなる。
シズクが。
小鉢を配る。
リーゼ。
食べる。
「……うまい!」
アデラも。
「こっちの方が好きだな」
レティ。
「醤油が合う」
麗華も。
「先ほどより味が締まりますわ」
飲み込む。
全員。
少し。
黙る。
リーゼが。
先に言った。
「喉越しについては評価しない!」
スージー。
「まだ誰も聞いてない」
「先に宣言しておく!」
次。
卵。
生卵。
自然薯。
混ぜる。
とろ。
さらに。
滑らか。
シズクが言う。
「これなら少し通りやすくなるのでは?」
リーゼの顔が明るくなる。
「そうだ!」
食べる。
旨味。
自然薯。
卵。
まろやか。
非常に。
美味い。
飲み込む。
リーゼ。
「…………」
スージー。
「…………」
アデラ。
「…………」
レティ。
「…………」
麗華。
「…………」
エヴァが笑った。
「駄目だったな」
リーゼが叫ぶ。
「卵を混ぜても残るのか!」
ティセラが答える。
「粘性の主体が自然薯側ですから」
「科学的に説明するな!」
◇
次。
米。
炊きたて。
白い。
湯気。
そこへ。
自然薯。
醤油。
少し。
卵。
とろ。
かける。
シズクが。
茶碗を渡す。
リーゼが食べる。
一口。
止まる。
「……これは」
もう一口。
「うまい」
アデラ。
「飯と合うな」
レティも。
「これは危険でござる」
麗華が聞く。
「危険?」
レティは。
もう一口。
「止まらぬ」
本当に。
止まらない。
自然薯。
米。
醤油。
卵。
相性。
完璧。
喉越し。
相変わらず。
おかしい。
だが。
飯と一緒なら。
少し。
気にならない。
少しだけ。
リーゼが。
茶碗を見る。
「……おかわり」
スージーが。
すぐ横を見る。
「大尉」
「何だ」
「もう二杯目」
「試験だ」
「食味試験、もう終わってるよ」
「再現性確認!」
以前にも。
聞いた言い訳だった。
◇
そして。
麦飯。
ティセラが。
自分の世界でも似た食べ方があると言う。
シズクが。
麦を混ぜて炊いた飯。
そこへ。
自然薯。
出汁。
醤油。
少し。
卵。
かける。
リーゼ。
食べる。
止まる。
スージーも。
止まる。
エヴァは。
何も言わず。
食べ続ける。
シズクも。
一口。
「こちらの方が合いますね」
ティセラが頷く。
「麦の食感がある分、粘りとの対比が良いです」
アデラも。
「白飯より好きかもしれん」
レティ。
「拙者も」
麗華まで。
「これは、本当に美味しいですわ」
全員。
食べる。
食べる。
食べる。
そして。
誰も。
喉越しの話をしない。
だが。
飲み込むたび。
ほんの少しだけ。
顔。
止まる。
リーゼが。
とうとう。
机を叩いた。
「味と喉越しを別の食べ物にしろ!」
スージーが吹き出す。
「無理よ!」
「味だけなら最高なんだ!」
アデラが言う。
「俺、もう慣れてきた」
リーゼが。
アデラを見る。
「慣れるな!」
レティも。
「拙者も二杯目からは」
「レティ!」
麗華も。
上品に。
三杯目へ手を伸ばしている。
リーゼが。
信じられないものを見る。
「麗華!」
「何でしょう」
「貴様まで!」
「喉越しと味は別問題ですわ」
リーゼが。
頭を抱えた。
「収穫祭の時と同じことを言い始めた!」
◇
さらに。
問題。
一度。
食べる。
また。
食べたくなる。
翌朝。
リーゼは。
普通に仕事をしていた。
地図。
記録。
資材。
第五管理表。
その途中。
ふと。
昨日の麦飯を。
思い出した。
自然薯。
濃厚。
醤油。
卵。
麦。
リーゼの手。
止まる。
「……」
スージーが。
向かいを見る。
「大尉?」
「何でもない」
少し。
仕事。
また。
止まる。
「……昨日の」
スージーの猫耳。
立つ。
「自然薯?」
リーゼが。
ものすごく。
嫌そうな顔。
「食いたい」
スージーが笑った。
「私も」
二人。
黙る。
喉越し。
思い出す。
二人。
顔。
少し。
引きつる。
味。
思い出す。
二人。
また。
黙る。
リーゼ。
「……麦飯で」
スージー。
「卵も」
「醤油」
「少し濃いめ」
「……食うか」
「食べよ」
◇
昼。
館。
自然薯。
また。
出た。
シズクが。
すりおろす。
ねば。
ねばねば。
エヴァが。
嬉しそうに座る。
「今日は生でも食う」
アデラも。
「俺も」
レティ。
「麦飯を」
麗華。
「わたくしもお願いしますわ」
リーゼが。
周囲を見る。
「貴様ら」
一拍。
「昨日、あんな顔をしていただろう!」
アデラが答える。
「美味かったから」
レティも。
「また食べたくなったのでござる」
麗華も。
「喉越しについて考えなければ、何の問題もありませんわ」
リーゼが。
麗華を指差す。
「考えなくても飲み込んだ瞬間に思い出すだろ!」
麗華は。
少しだけ。
黙った。
「……それは」
一拍。
「そうですわね」
スージーが。
笑いすぎて。
猫耳を伏せる。
ティセラは。
真面目に記録する。
「反復摂食希望率が非常に高いですね」
リーゼ。
「食べたいだけだ!」
「全員が?」
「美味いからだ!」
「喉越しに明確な違和感があるにもかかわらず?」
リーゼが止まる。
教授。
見る。
「その言い方をするな」
「事実ですが」
「分かっている!」
ティセラは。
自然薯を見る。
「味覚的評価が、食感上の違和感を大幅に上回ると考えられます」
スージー。
「つまり」
一拍。
「喉越しは嫌だけど、また食べたい」
リーゼが。
深く。
頷いた。
「それだ」
◇
第五管理記録。
新規植物。
自然薯様植物。
外見。
一般的な自然薯と大きな差なし。
発声。
なし。
自発運動。
なし。
異常な臭気。
なし。
白濁液噴出。
なし。
人型構造。
なし。
食味。
極めて良好。
特徴。
粘性。
非常に強い。
濃厚。
そのまま。
良。
醤油。
非常に良。
卵混合。
非常に良。
白飯。
極めて良。
麦飯。
極めて良。
反復摂食希望。
高。
喉越し。
ティセラが。
筆を止めた。
リーゼが。
横から見る。
「何故止まった」
「どう記録するか考えています」
「普通に書け」
ティセラは。
少し考えた。
そして。
書いた。
『高粘度。嚥下時、咽頭部へ強く付着する感覚あり。安全性に問題は確認されていないが、独特の違和感を伴う』
リーゼが。
読む。
何度か。
読む。
そして。
深く頷いた。
「完璧だ」
スージーが。
横から覗く。
「何を連想したかは書かないの?」
リーゼが。
即座に。
記録板を閉じた。
「書くな!」
ティセラが。
真顔で言う。
「私は何も連想について記録していませんが」
「それでいい!」
エヴァが。
向こうから言った。
「何だ、みんな同じこと考えてたのか?」
一斉。
「言うな!」
館に。
声が揃った。
そして。
夕食。
自然薯は。
また。
麦飯の上へ。
たっぷり。
かけられた。
誰も。
喉越しについては。
褒めなかった。
だが。
誰も。
食べるのを。
やめなかった。




