第百七十九話 服は芋虫と羊の木と虫の尻から作る
別の日。
朝食の後。
シズクは、レティ、アデラ、麗華の三人を並べていた。
手には採寸用の紐。
その横には帳面。
リーゼも一緒にいる。
「今日は服を作る準備をします」
麗華が少し嬉しそうに聞いた。
「新しい服を?」
「はい。今は館にあったものを使っていただいていますけれど、三人それぞれの着替えを増やした方がよいですから」
レティが自分の巫女装束を見る。
元の世界から着てきたもの。
洗濯はしている。
だが。
当然。
一着しかない。
「ありがたいでござる」
アデラも頷く。
「俺も今の借り物だけじゃ足りねえと思ってた」
麗華は少し考えた。
「できましたら、普段着はもう少し一人で着られるものがよろしいですわ」
シズクが頷く。
「その方がよいと思います」
あの舞踏会用のドレス。
一人で着ることすら難しい。
谷底の日常生活には。
どう考えても向いていない。
「麗華は、普段はこちらで着やすいものを作って、元の服は必要な時に着る方がよいですね」
「お願いしますわ」
アデラが言った。
「俺は丈夫なら何でもいい」
「動きやすい方が?」
「ああ。袖も邪魔にならない方がいいな」
レティも。
「拙者は、できれば今の装束に近いものがありがたい」
「分かりました」
シズクは。
三人を見る。
肩。
胸。
腰。
腕。
脚。
おおよその体格。
リーゼも横で見ていた。
そして。
何故か。
少し嬉しそうになった。
スージーが気づく。
「大尉」
「何だ」
「また普通の体格だって喜んでる?」
「違う!」
一拍。
「布の必要量を見ていただけだ!」
「エヴァと比べて?」
リーゼは黙った。
少し離れたところで。
エヴァが聞いていた。
「俺の話か?」
リーゼが即答する。
「貴様は一着で他人二人分くらい布を使うんだ!」
「でかいからな」
「知っている!」
シズクが帳面を閉じる。
「三人とも、館にある布だけでも何着かは作れます」
アデラが聞く。
「じゃあ今日は?」
シズクが答えた。
「材料を増やしに行きます」
レティが聞いた。
「布の?」
「はい」
麗華も少し興味を示した。
「綿や羊毛ですの?」
リーゼが。
少しだけ。
嫌そうな顔をした。
三人が。
それを見逃さなかった。
アデラが言う。
「何だ」
「何でもない」
「大尉、その顔をすると絶対何かあるでござる」
レティまで言った。
麗華も頷く。
「昨日までで、わたくしたちも学習しておりますわ」
リーゼは。
少し考えた。
そして。
「先に言っておく」
三人を見る。
「絹」
レティが頷く。
「分かる」
「羊毛」
アデラも。
「分かる」
「綿」
麗華も。
「分かりますわ」
リーゼは。
深く息を吸った。
「以上だ」
三人が。
一瞬。
安心した。
スージーが横から言う。
「材料名だけならね」
三人の顔が。
一斉に曇った。
◇
最初に取りに行くのは。
絹だった。
参加者は。
シズク。
リーゼ。
スージー。
ティセラ。
レティ。
アデラ。
麗華。
そして。
ノアとエヴァ。
危険度が高い場所なので。
二人も同行する。
出発前。
防護衣。
顔を覆う布。
手袋。
首元まで覆う服。
大きな布。
刃物。
縄。
装備が並んでいる。
アデラが言った。
「服の材料取りに行く装備じゃねえな」
リーゼが答える。
「小官も初回はそう思った」
レティが防護衣を見る。
「毒?」
ノアが説明する。
「成虫の鱗粉が残ってる可能性があるんだ。吸わない方がいいし、肌にもつけない方がいい」
麗華が聞く。
「成虫?」
「絹を作る生き物の」
一拍。
「成虫です」
麗華は。
まだ普通の蚕を想像している。
「蚕のようなものですの?」
リーゼが答えた。
「その認識は、現地まで大切にしておけ」
「何ですの、その言い方」
全員。
装備を整える。
リーゼは。
三人の首元。
袖。
足首。
顔周り。
一つずつ確認する。
「皮膚を出すな。暑くても脱ぐな。現地で何か異常を感じたら、すぐ言え」
アデラが笑う。
「こういう時は、本当に軍人なんだな」
リーゼが睨む。
「小官は常に軍人だ!」
スージーが。
小さく笑った。
◇
森へ近づいたところで。
音。
ばき。
めき。
むしゃ。
ばきばき。
三人が止まる。
アデラが聞いた。
「何か木を倒してる?」
エヴァが答える。
「食ってる」
「何が」
「芋虫」
沈黙。
レティが聞く。
「何を?」
「木」
沈黙。
麗華が言った。
「木を食べる芋虫?」
「そうだ」
エヴァは普通だった。
リーゼが指を立てる。
「大声を出すなよ」
「何故?」
「見れば分かる」
アデラが嫌そうに言った。
「その言葉、本当に嫌いになってきた」
森の中。
白っぽい。
巨大なもの。
ゆっくり。
這っている。
頭。
持ち上がる。
木。
幹へ。
噛みつく。
ばきっ。
めきめき。
むしゃむしゃ。
三人。
止まった。
レティが。
非常に小さな声で言った。
「……モンスターでは?」
「生物分類については後で教授に聞け」
リーゼも小声。
アデラは。
芋虫を見る。
人間など。
簡単に飲み込めそうな口。
太い胴。
木そのものを食べる。
「これの」
一拍。
「糸?」
シズクが頷いた。
「はい」
麗華が。
自分の着ている借り物の服を見る。
「まさか」
シズクも見る。
「滑らかな布には、この糸を使っているものがあります」
麗華が。
服。
芋虫。
服。
もう一度。
芋虫。
「……知りたくありませんでしたわ」
レティも。
自分の肌着の一部を触る。
「これも?」
「可能性はあります」
「拙者も聞かなければよかった」
アデラは笑いを堪えている。
「お前ら、今さらだろ」
その時。
少し先。
巨大芋虫が二匹。
一本の木を挟んでいる。
身体。
引く。
どおんっ!
ぶつかった。
レティ。
「…………」
また。
引く。
どおんっ!
アデラ。
「…………」
もう一度。
どおんっ!
麗華。
「……何をしておりますの?」
エヴァが答えた。
「木の取り合い」
「芋虫が?」
「そうだ」
リーゼが小声で叫ぶ。
「小官の知っている蚕は、木の取り合いで正面衝突などしない!」
レティが。
少し考えて。
「リーゼ殿の世界の蚕は、普通でござるな」
リーゼの目が輝く。
「そうだろう!」
スージーが。
リーゼの腕を引いた。
「大尉、声」
「分かっている!」
◇
目的は。
芋虫ではない。
成虫が抜けた後の。
空の繭。
巨大な白い塊。
木と岩の間へ。
固定されている。
ノアが。
群れの外縁にある一つを指した。
「今日はあれだけ」
アデラが聞く。
「一つで足りる?」
シズクが答える。
「かなり取れます」
近づく。
麗華が。
繭を見上げる。
「……大きいですわね」
人間が。
中へ何人も入りそうな大きさ。
レティが触れずに観察する。
「これだけ大きければ、糸も大量でござるな」
リーゼが言う。
「だから有用なんだ」
アデラが。
巨大芋虫の方を見る。
「危険と量が釣り合ってるのか?」
「館でこれだけ人数が増えると、釣り合う」
シズクが答えた。
ノアが。
必要な箇所だけ。
静かに切る。
エヴァ。
支える。
アデラも加わる。
「重いな」
「繭だから軽い方だぞ」
「これで?」
レティも。
反対側。
麗華は。
大布を広げる役。
リーゼが指示する。
「取れたらすぐ包め。外側に残っている鱗粉を持ち帰るな」
最後の繊維。
切れる。
巨大な繭。
外れる。
全員で支える。
包む。
縛る。
一つ。
それだけ。
ノアが言った。
「帰ろう」
ティセラが。
奥にある別の繭を見る。
リーゼが。
即座に。
「教授」
「まだ何も」
「帰るぞ」
「……はい」
スージーが笑う。
「大尉、教授の扱いに慣れたわね」
「危険区域で研究者を放置するな。これは基本だ!」
◇
森をかなり離れたところで。
遠く。
ばさっ。
空気が。
押された。
三人が振り返る。
森の向こう。
巨大な翅。
ゆっくり。
上がってくる。
長い触角。
太い胴。
巨大芋虫が。
変態した。
成虫。
ばさっ。
木々の梢が。
揺れる。
レティが。
空を見る。
「…………」
アデラも。
「…………」
麗華も。
「…………」
リーゼが言った。
「何か言え」
アデラが答えた。
「でかい」
レティも。
「洒落にならぬ」
麗華は。
遠ざかる成虫を見る。
「わたくし」
一拍。
「今後、絹の服を見るたびにあれを思い出しそうですわ」
リーゼが深く頷く。
「小官も最初はそうだった」
スージーが聞く。
「今は?」
「絹は絹だ」
「適応したね」
「材料の品質は非常にいいんだ!」
巨大な成虫は。
空の彼方へ。
消えていった。
◇
次。
羊毛。
移動した草地。
まだ防護衣は脱いでいる。
こちらは。
危険度がずっと低い。
遠く。
「メー」
三人が。
同時に。
少し安心した。
アデラが言う。
「今度こそ羊だろ」
リーゼが。
昔の自分を見るような顔をした。
「そう思うだろう?」
アデラが止まる。
「……違うのか」
「見ろ」
草地。
低い木。
柔らかな茎。
その先。
白い羊。
四本脚。
頭。
耳。
毛。
「メー」
ただし。
腹の下から。
太い茎。
地面へ。
つながっている。
羊が。
草を食べようとする。
茎。
ぐにーっ。
届く範囲。
もしゃ。
もしゃ。
三人。
黙る。
レティが言った。
「植物?」
ティセラが答える。
「プランタ・タルタリカ・バロメッツです」
レティが教授を見る。
「知っている?」
「私の世界にもあります」
三人が。
今度は。
ティセラを見る。
アデラ。
「普通に?」
「寒冷地では一般的です」
麗華が言う。
「教授の世界も、大概ですわね」
ティセラは。
少し考えた。
「そうでしょうか」
リーゼが叫ぶ。
「教授は自覚しろ!」
ティセラは。
若い株を指した。
羊になる前。
茎の先。
大きな瓢箪状の実。
「若いうちに収穫すると、内部に可食部があります」
アデラが嫌そうに聞く。
「味は?」
ティセラが答える。
「子羊肉に近いです」
レティ。
「植物なのに?」
「はい」
麗華。
「成熟すると?」
「羊の形になります」
「肉は?」
「蟹に近いです」
三人。
止まった。
アデラが聞く。
「待て」
「はい」
「植物」
「はい」
「羊」
「はい」
「蟹」
「はい」
アデラは。
しばらく。
考えた。
「……昨日までに比べたら、普通か」
リーゼが。
勢いよく。
アデラを見る。
「貴様!」
「何だよ」
「もうそこまで来たか!」
レティも羊を見ている。
「鳴き声は普通」
麗華も。
「臭いも普通」
レティ。
「汁も飛ばさない」
麗華。
「『いたい』とも『ゆるして』とも言いませんわ」
三人。
少し考える。
「普通寄りでござる」
「普通だな」
「普通ですわね」
リーゼが。
頭を抱えた。
スージーが笑う。
「大尉、仲間が増えたじゃない」
「増えてほしい方向と違う!」
◇
今日の目的は。
羊毛。
成熟したバロメッツから。
伸びた毛を。
刈る。
シズクが見本を見せる。
普通の羊毛。
柔らかい。
暖かい。
しかも。
蹄のように見える部分まで。
毛。
アデラが触る。
「本当に全部毛だな」
ティセラが答える。
「地面を歩く必要がありませんから」
「なるほど」
レティも。
「無駄が少ない」
麗華が。
採った羊毛を籠へ入れる。
「服の材料としては、本当に優秀ですわね」
リーゼが。
満足そうに頷いた。
「そうなんだ」
「大尉が作ったわけではありませんわよ?」
「分かっている!」
羊毛。
大量。
少しずつ。
籠が埋まる。
「メー」
麗華が。
羊の頭を見た。
「可愛いですわね」
「メー」
レティも。
「これは、かなり好きでござる」
アデラも。
「食う話さえ聞かなきゃな」
ティセラが言う。
「鍋にすると美味しいですよ」
アデラ。
「今言うな」
◇
最後。
綿。
シズクが言った。
「次が綿雲虫です」
三人が。
止まる。
アデラ。
「虫?」
「はい」
レティ。
「綿なのに?」
「虫のお尻にできます」
麗華。
「…………」
リーゼが。
懐かしいものを見る顔で。
「安心しろ」
三人が見る。
「一メートルくらいしかない」
アデラが聞いた。
「一メートル?」
「小さいだろ」
「大尉」
スージーが言う。
「普通の人間は、一メートルの虫を小さいとは言わない」
リーゼは真顔だった。
「巨大芋虫を見た後だぞ」
三人。
思い出す。
木を食う。
巨大芋虫。
そして。
空を飛んだ。
成虫。
アデラ。
「……小さいな」
レティ。
「小さいでござる」
麗華。
「小さいですわね」
スージーの猫耳が。
ぺたん。
と寝た。
「もう駄目ね、この三人」
リーゼが叫ぶ。
「小官のせいではない!」
◇
湿った草地。
近づく。
「ジュオー……」
三人が止まる。
「ジュオー……」
「ジュオオオー……」
麗華が聞く。
「これも鳴くの?」
ティセラが答える。
「吸汁音です」
「何を吸っておりますの?」
「地面を」
麗華が。
何も言わなくなった。
草を抜ける。
そこ。
地面。
巨大な虫。
一メートル。
丸い胴。
短い脚。
硬そうな外殻。
長い口吻。
その口吻。
地面へ。
深く。
刺さっている。
「ジュオー……」
吸う。
胴。
膨らむ。
縮む。
さらに。
腹の下。
緑色の茎。
地面へ。
接続。
レティが。
虫。
地面。
茎。
見る。
「これは」
「植物のような部分もあります」
ティセラが答える。
アデラが。
遠い目をした。
「また分類が壊れてるな」
リーゼが。
勢いよく頷く。
「そうなんだ!」
そして。
尻。
大きい。
真っ白。
ふわふわ。
丸い。
巨大な。
綿花。
麗華が。
完全に止まった。
「……あれを?」
シズクが答える。
「摘みます」
「お尻から?」
「はい」
「綿を?」
「はい」
麗華は。
少し考えた。
「服というものは」
一拍。
「完成品だけ見ていた方が幸せなのでは?」
リーゼが深く頷いた。
「非常に正しい」
アデラは。
綿雲虫の横へ行く。
長い棒。
つん。
反応なし。
「動かない」
「成熟すると、ほぼその場から動きません」
ティセラが答える。
レティも。
別の個体。
見る。
「噛まない?」
「確認されていません」
「毒?」
「今のところ問題なし」
「臭い?」
「ほぼありません」
レティが。
少し安心した。
「なら、かなり安全」
麗華も。
「オホ声もしない」
アデラ。
「汁も飛ばさない」
リーゼ。
「優良資源だ!」
三人が。
リーゼを見る。
アデラが言った。
「一メートルの虫が地面から生えて、大地に口を刺して、尻に綿花つけてるぞ」
「だから何だ!」
「いや」
「襲わない! 臭くない! 変な汁を飛ばさない! 服になる!」
リーゼは。
胸を張った。
「優良だ!」
麗華が。
少し考えた。
「……第五を見た後では、否定しづらいですわ」
スージーが頭を抱えた。
◇
採取。
尻の綿。
ふわ。
柔らかい。
シズクが。
指でほぐす。
「繊維が長くて、とても扱いやすいです」
麗華も。
手袋越しに触る。
「これは本当に上質ですわね」
レティも。
綿を籠へ。
「軽い」
アデラも。
「布団にも使えそうだな」
「はい」
シズクが頷く。
「衣類だけでなく、寝具にも使えます」
三人。
採る。
綿雲虫。
動かない。
「ジュオー……」
綿。
採る。
「ジュオー……」
また。
採る。
しばらくすると。
三人も。
もう。
ほとんど気にしなくなった。
麗華が。
綿を袋へ入れる。
「次をお願いしますわ」
アデラが。
大きな塊を摘む。
「これ、かなり取れるぞ」
レティも。
「拙者の服なら、何着分になる?」
シズクが笑う。
「十分ありますよ」
リーゼが。
三人を見る。
「慣れたな」
アデラが答えた。
「動かねえからな」
レティも。
「安全」
麗華も。
「触っているのは綿ですもの」
リーゼが。
少しだけ。
感動する。
「そうだ」
スージーが。
隣で言う。
「大尉まで完全に慣れてるけどね」
「小官は先輩だからな!」
その時。
エヴァが。
一匹の綿雲虫を見る。
「そういや」
リーゼが。
嫌な予感。
「言うな」
「これ、中身は食えるぞ」
三人。
止まる。
リーゼが叫ぶ。
「言うなと言っただろ!」
アデラが聞く。
「味は?」
「エビ」
レティ。
「……エビ?」
麗華。
「虫なのに?」
ティセラが答える。
「バロメッツ近縁種の可能性があります。内部可食部は甲殻類、特に海老に近い食味です」
三人。
綿雲虫を見る。
一メートルの巨大虫。
草から生えている。
地面へ。
口吻。
「ジュオー……」
尻。
綿花。
中。
エビ味。
アデラが。
長く。
黙った。
そして。
「今日は服の材料だけ取ろう」
レティが。
深く。
頷いた。
「賛成」
麗華も。
「全面的に同意いたしますわ」
リーゼが。
珍しく。
三人へ。
優しい目を向けた。
「それがいい」
◇
館へ戻る。
今日の収穫。
巨大な繭。
羊毛。
大量。
綿。
大量。
シズクは。
共同作業場へ。
それぞれを並べた。
三人も。
見る。
繭。
そのまま服になるわけではない。
処理する。
洗う。
糸を取る。
合わせる。
織る。
羊毛。
洗う。
ほぐす。
糸にする。
織る。
綿。
異物を除く。
ほぐす。
糸へ。
布へ。
麗華が言った。
「こうして見ると」
一拍。
「普通ですわね」
アデラも。
「材料の状態まで来ると普通だな」
レティも。
「森で見たものを忘れれば」
リーゼが強く頷いた。
「それが大事だ」
スージーが笑う。
「大尉の生存術になってる」
シズクは。
以前作った。
滑らかな布を。
三人へ渡した。
レティが触る。
「これが、あの繭から?」
「はい」
アデラも。
「軽いな」
麗華は。
指の間で。
布を確かめる。
滑らか。
柔らかい。
肌当たり。
非常に良い。
「これほど良い絹でしたら」
少し。
考える。
「巨大な芋虫のことは、忘れる努力をいたしますわ」
リーゼが言った。
「正しい」
次。
羊毛。
柔らかい。
暖かい。
冬服。
毛布。
寝具。
次。
綿。
軽い。
吸水。
肌着。
日常服。
用途。
多い。
アデラが言う。
「結局」
三種類を見る。
「全部かなりいい材料なんだな」
シズクが頷く。
「はい」
レティも。
「だから使っている」
「はい」
麗華は。
少し笑った。
「この谷底」
一拍。
「食べ物だけではなく、服まで同じなのですね」
リーゼが聞く。
「何がだ?」
麗華は答えた。
「作られるところを見なければ、素晴らしい」
沈黙。
アデラが。
吹き出した。
レティも。
笑う。
スージーも。
猫耳を揺らして笑った。
リーゼだけは。
少し考えた後。
深く。
深く。
頷いた。
「本当にそうなんだ」
シズクが。
採寸帳を開く。
「では、どんな服にするか決めましょう」
三人が。
近くへ集まる。
レティには。
動きやすい。
今までの巫女装束に近いもの。
アデラには。
丈夫で。
動きやすいもの。
麗華には。
一人でも着られる。
簡素だが。
本人の好みに合ったもの。
そして。
三人共通。
着替え。
肌着。
冬物。
寝具。
必要なものは多い。
だが。
材料は。
今日。
十分に集まった。
遠く。
森の彼方。
ばさっ。
巨大な成虫のものらしい。
重い羽音。
別方向。
「メー」
バロメッツ。
さらに。
「ジュオー……」
綿雲虫。
三人。
少しだけ。
止まる。
アデラが言った。
「……聞かなかったことにするか」
レティ。
「そうするでござる」
麗華も。
「賛成ですわ」
シズクは。
普通に帳面へ。
必要な布量を書き込んでいった。
新しい三人の服は。
巨大芋虫の繭と。
羊の生える植物と。
大地を吸う虫の尻から。
作られることになった。




