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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
断章Ⅷ

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第百七十九話 服は芋虫と羊の木と虫の尻から作る

別の日。


朝食の後。


シズクは、レティ、アデラ、麗華の三人を並べていた。


手には採寸用の紐。


その横には帳面。


リーゼも一緒にいる。


「今日は服を作る準備をします」


麗華が少し嬉しそうに聞いた。


「新しい服を?」


「はい。今は館にあったものを使っていただいていますけれど、三人それぞれの着替えを増やした方がよいですから」


レティが自分の巫女装束を見る。


元の世界から着てきたもの。


洗濯はしている。


だが。


当然。


一着しかない。


「ありがたいでござる」


アデラも頷く。


「俺も今の借り物だけじゃ足りねえと思ってた」


麗華は少し考えた。


「できましたら、普段着はもう少し一人で着られるものがよろしいですわ」


シズクが頷く。


「その方がよいと思います」


あの舞踏会用のドレス。


一人で着ることすら難しい。


谷底の日常生活には。


どう考えても向いていない。


「麗華は、普段はこちらで着やすいものを作って、元の服は必要な時に着る方がよいですね」


「お願いしますわ」


アデラが言った。


「俺は丈夫なら何でもいい」


「動きやすい方が?」


「ああ。袖も邪魔にならない方がいいな」


レティも。


「拙者は、できれば今の装束に近いものがありがたい」


「分かりました」


シズクは。


三人を見る。


肩。


胸。


腰。


腕。


脚。


おおよその体格。


リーゼも横で見ていた。


そして。


何故か。


少し嬉しそうになった。


スージーが気づく。


「大尉」


「何だ」


「また普通の体格だって喜んでる?」


「違う!」


一拍。


「布の必要量を見ていただけだ!」


「エヴァと比べて?」


リーゼは黙った。


少し離れたところで。


エヴァが聞いていた。


「俺の話か?」


リーゼが即答する。


「貴様は一着で他人二人分くらい布を使うんだ!」


「でかいからな」


「知っている!」


シズクが帳面を閉じる。


「三人とも、館にある布だけでも何着かは作れます」


アデラが聞く。


「じゃあ今日は?」


シズクが答えた。


「材料を増やしに行きます」


レティが聞いた。


「布の?」


「はい」


麗華も少し興味を示した。


「綿や羊毛ですの?」


リーゼが。


少しだけ。


嫌そうな顔をした。


三人が。


それを見逃さなかった。


アデラが言う。


「何だ」


「何でもない」


「大尉、その顔をすると絶対何かあるでござる」


レティまで言った。


麗華も頷く。


「昨日までで、わたくしたちも学習しておりますわ」


リーゼは。


少し考えた。


そして。


「先に言っておく」


三人を見る。


「絹」


レティが頷く。


「分かる」


「羊毛」


アデラも。


「分かる」


「綿」


麗華も。


「分かりますわ」


リーゼは。


深く息を吸った。


「以上だ」


三人が。


一瞬。


安心した。


スージーが横から言う。


「材料名だけならね」


三人の顔が。


一斉に曇った。


         ◇


最初に取りに行くのは。


絹だった。


参加者は。


シズク。


リーゼ。


スージー。


ティセラ。


レティ。


アデラ。


麗華。


そして。


ノアとエヴァ。


危険度が高い場所なので。


二人も同行する。


出発前。


防護衣。


顔を覆う布。


手袋。


首元まで覆う服。


大きな布。


刃物。


縄。


装備が並んでいる。


アデラが言った。


「服の材料取りに行く装備じゃねえな」


リーゼが答える。


「小官も初回はそう思った」


レティが防護衣を見る。


「毒?」


ノアが説明する。


「成虫の鱗粉が残ってる可能性があるんだ。吸わない方がいいし、肌にもつけない方がいい」


麗華が聞く。


「成虫?」


「絹を作る生き物の」


一拍。


「成虫です」


麗華は。


まだ普通の蚕を想像している。


「蚕のようなものですの?」


リーゼが答えた。


「その認識は、現地まで大切にしておけ」


「何ですの、その言い方」


全員。


装備を整える。


リーゼは。


三人の首元。


袖。


足首。


顔周り。


一つずつ確認する。


「皮膚を出すな。暑くても脱ぐな。現地で何か異常を感じたら、すぐ言え」


アデラが笑う。


「こういう時は、本当に軍人なんだな」


リーゼが睨む。


「小官は常に軍人だ!」


スージーが。


小さく笑った。


         ◇


森へ近づいたところで。


音。


ばき。


めき。


むしゃ。


ばきばき。


三人が止まる。


アデラが聞いた。


「何か木を倒してる?」


エヴァが答える。


「食ってる」


「何が」


「芋虫」


沈黙。


レティが聞く。


「何を?」


「木」


沈黙。


麗華が言った。


「木を食べる芋虫?」


「そうだ」


エヴァは普通だった。


リーゼが指を立てる。


「大声を出すなよ」


「何故?」


「見れば分かる」


アデラが嫌そうに言った。


「その言葉、本当に嫌いになってきた」


森の中。


白っぽい。


巨大なもの。


ゆっくり。


這っている。


頭。


持ち上がる。


木。


幹へ。


噛みつく。


ばきっ。


めきめき。


むしゃむしゃ。


三人。


止まった。


レティが。


非常に小さな声で言った。


「……モンスターでは?」


「生物分類については後で教授に聞け」


リーゼも小声。


アデラは。


芋虫を見る。


人間など。


簡単に飲み込めそうな口。


太い胴。


木そのものを食べる。


「これの」


一拍。


「糸?」


シズクが頷いた。


「はい」


麗華が。


自分の着ている借り物の服を見る。


「まさか」


シズクも見る。


「滑らかな布には、この糸を使っているものがあります」


麗華が。


服。


芋虫。


服。


もう一度。


芋虫。


「……知りたくありませんでしたわ」


レティも。


自分の肌着の一部を触る。


「これも?」


「可能性はあります」


「拙者も聞かなければよかった」


アデラは笑いを堪えている。


「お前ら、今さらだろ」


その時。


少し先。


巨大芋虫が二匹。


一本の木を挟んでいる。


身体。


引く。


どおんっ!


ぶつかった。


レティ。


「…………」


また。


引く。


どおんっ!


アデラ。


「…………」


もう一度。


どおんっ!


麗華。


「……何をしておりますの?」


エヴァが答えた。


「木の取り合い」


「芋虫が?」


「そうだ」


リーゼが小声で叫ぶ。


「小官の知っている蚕は、木の取り合いで正面衝突などしない!」


レティが。


少し考えて。


「リーゼ殿の世界の蚕は、普通でござるな」


リーゼの目が輝く。


「そうだろう!」


スージーが。


リーゼの腕を引いた。


「大尉、声」


「分かっている!」


         ◇


目的は。


芋虫ではない。


成虫が抜けた後の。


空の繭。


巨大な白い塊。


木と岩の間へ。


固定されている。


ノアが。


群れの外縁にある一つを指した。


「今日はあれだけ」


アデラが聞く。


「一つで足りる?」


シズクが答える。


「かなり取れます」


近づく。


麗華が。


繭を見上げる。


「……大きいですわね」


人間が。


中へ何人も入りそうな大きさ。


レティが触れずに観察する。


「これだけ大きければ、糸も大量でござるな」


リーゼが言う。


「だから有用なんだ」


アデラが。


巨大芋虫の方を見る。


「危険と量が釣り合ってるのか?」


「館でこれだけ人数が増えると、釣り合う」


シズクが答えた。


ノアが。


必要な箇所だけ。


静かに切る。


エヴァ。


支える。


アデラも加わる。


「重いな」


「繭だから軽い方だぞ」


「これで?」


レティも。


反対側。


麗華は。


大布を広げる役。


リーゼが指示する。


「取れたらすぐ包め。外側に残っている鱗粉を持ち帰るな」


最後の繊維。


切れる。


巨大な繭。


外れる。


全員で支える。


包む。


縛る。


一つ。


それだけ。


ノアが言った。


「帰ろう」


ティセラが。


奥にある別の繭を見る。


リーゼが。


即座に。


「教授」


「まだ何も」


「帰るぞ」


「……はい」


スージーが笑う。


「大尉、教授の扱いに慣れたわね」


「危険区域で研究者を放置するな。これは基本だ!」


         ◇


森をかなり離れたところで。


遠く。


ばさっ。


空気が。


押された。


三人が振り返る。


森の向こう。


巨大な翅。


ゆっくり。


上がってくる。


長い触角。


太い胴。


巨大芋虫が。


変態した。


成虫。


ばさっ。


木々の梢が。


揺れる。


レティが。


空を見る。


「…………」


アデラも。


「…………」


麗華も。


「…………」


リーゼが言った。


「何か言え」


アデラが答えた。


「でかい」


レティも。


「洒落にならぬ」


麗華は。


遠ざかる成虫を見る。


「わたくし」


一拍。


「今後、絹の服を見るたびにあれを思い出しそうですわ」


リーゼが深く頷く。


「小官も最初はそうだった」


スージーが聞く。


「今は?」


「絹は絹だ」


「適応したね」


「材料の品質は非常にいいんだ!」


巨大な成虫は。


空の彼方へ。


消えていった。


         ◇


次。


羊毛。


移動した草地。


まだ防護衣は脱いでいる。


こちらは。


危険度がずっと低い。


遠く。


「メー」


三人が。


同時に。


少し安心した。


アデラが言う。


「今度こそ羊だろ」


リーゼが。


昔の自分を見るような顔をした。


「そう思うだろう?」


アデラが止まる。


「……違うのか」


「見ろ」


草地。


低い木。


柔らかな茎。


その先。


白い羊。


四本脚。


頭。


耳。


毛。


「メー」


ただし。


腹の下から。


太い茎。


地面へ。


つながっている。


羊が。


草を食べようとする。


茎。


ぐにーっ。


届く範囲。


もしゃ。


もしゃ。


三人。


黙る。


レティが言った。


「植物?」


ティセラが答える。


「プランタ・タルタリカ・バロメッツです」


レティが教授を見る。


「知っている?」


「私の世界にもあります」


三人が。


今度は。


ティセラを見る。


アデラ。


「普通に?」


「寒冷地では一般的です」


麗華が言う。


「教授の世界も、大概ですわね」


ティセラは。


少し考えた。


「そうでしょうか」


リーゼが叫ぶ。


「教授は自覚しろ!」


ティセラは。


若い株を指した。


羊になる前。


茎の先。


大きな瓢箪状の実。


「若いうちに収穫すると、内部に可食部があります」


アデラが嫌そうに聞く。


「味は?」


ティセラが答える。


「子羊肉に近いです」


レティ。


「植物なのに?」


「はい」


麗華。


「成熟すると?」


「羊の形になります」


「肉は?」


「蟹に近いです」


三人。


止まった。


アデラが聞く。


「待て」


「はい」


「植物」


「はい」


「羊」


「はい」


「蟹」


「はい」


アデラは。


しばらく。


考えた。


「……昨日までに比べたら、普通か」


リーゼが。


勢いよく。


アデラを見る。


「貴様!」


「何だよ」


「もうそこまで来たか!」


レティも羊を見ている。


「鳴き声は普通」


麗華も。


「臭いも普通」


レティ。


「汁も飛ばさない」


麗華。


「『いたい』とも『ゆるして』とも言いませんわ」


三人。


少し考える。


「普通寄りでござる」


「普通だな」


「普通ですわね」


リーゼが。


頭を抱えた。


スージーが笑う。


「大尉、仲間が増えたじゃない」


「増えてほしい方向と違う!」


         ◇


今日の目的は。


羊毛。


成熟したバロメッツから。


伸びた毛を。


刈る。


シズクが見本を見せる。


普通の羊毛。


柔らかい。


暖かい。


しかも。


蹄のように見える部分まで。


毛。


アデラが触る。


「本当に全部毛だな」


ティセラが答える。


「地面を歩く必要がありませんから」


「なるほど」


レティも。


「無駄が少ない」


麗華が。


採った羊毛を籠へ入れる。


「服の材料としては、本当に優秀ですわね」


リーゼが。


満足そうに頷いた。


「そうなんだ」


「大尉が作ったわけではありませんわよ?」


「分かっている!」


羊毛。


大量。


少しずつ。


籠が埋まる。


「メー」


麗華が。


羊の頭を見た。


「可愛いですわね」


「メー」


レティも。


「これは、かなり好きでござる」


アデラも。


「食う話さえ聞かなきゃな」


ティセラが言う。


「鍋にすると美味しいですよ」


アデラ。


「今言うな」


         ◇


最後。


綿。


シズクが言った。


「次が綿雲虫です」


三人が。


止まる。


アデラ。


「虫?」


「はい」


レティ。


「綿なのに?」


「虫のお尻にできます」


麗華。


「…………」


リーゼが。


懐かしいものを見る顔で。


「安心しろ」


三人が見る。


「一メートルくらいしかない」


アデラが聞いた。


「一メートル?」


「小さいだろ」


「大尉」


スージーが言う。


「普通の人間は、一メートルの虫を小さいとは言わない」


リーゼは真顔だった。


「巨大芋虫を見た後だぞ」


三人。


思い出す。


木を食う。


巨大芋虫。


そして。


空を飛んだ。


成虫。


アデラ。


「……小さいな」


レティ。


「小さいでござる」


麗華。


「小さいですわね」


スージーの猫耳が。


ぺたん。


と寝た。


「もう駄目ね、この三人」


リーゼが叫ぶ。


「小官のせいではない!」


         ◇


湿った草地。


近づく。


「ジュオー……」


三人が止まる。


「ジュオー……」


「ジュオオオー……」


麗華が聞く。


「これも鳴くの?」


ティセラが答える。


「吸汁音です」


「何を吸っておりますの?」


「地面を」


麗華が。


何も言わなくなった。


草を抜ける。


そこ。


地面。


巨大な虫。


一メートル。


丸い胴。


短い脚。


硬そうな外殻。


長い口吻。


その口吻。


地面へ。


深く。


刺さっている。


「ジュオー……」


吸う。


胴。


膨らむ。


縮む。


さらに。


腹の下。


緑色の茎。


地面へ。


接続。


レティが。


虫。


地面。


茎。


見る。


「これは」


「植物のような部分もあります」


ティセラが答える。


アデラが。


遠い目をした。


「また分類が壊れてるな」


リーゼが。


勢いよく頷く。


「そうなんだ!」


そして。


尻。


大きい。


真っ白。


ふわふわ。


丸い。


巨大な。


綿花。


麗華が。


完全に止まった。


「……あれを?」


シズクが答える。


「摘みます」


「お尻から?」


「はい」


「綿を?」


「はい」


麗華は。


少し考えた。


「服というものは」


一拍。


「完成品だけ見ていた方が幸せなのでは?」


リーゼが深く頷いた。


「非常に正しい」


アデラは。


綿雲虫の横へ行く。


長い棒。


つん。


反応なし。


「動かない」


「成熟すると、ほぼその場から動きません」


ティセラが答える。


レティも。


別の個体。


見る。


「噛まない?」


「確認されていません」


「毒?」


「今のところ問題なし」


「臭い?」


「ほぼありません」


レティが。


少し安心した。


「なら、かなり安全」


麗華も。


「オホ声もしない」


アデラ。


「汁も飛ばさない」


リーゼ。


「優良資源だ!」


三人が。


リーゼを見る。


アデラが言った。


「一メートルの虫が地面から生えて、大地に口を刺して、尻に綿花つけてるぞ」


「だから何だ!」


「いや」


「襲わない! 臭くない! 変な汁を飛ばさない! 服になる!」


リーゼは。


胸を張った。


「優良だ!」


麗華が。


少し考えた。


「……第五を見た後では、否定しづらいですわ」


スージーが頭を抱えた。


         ◇


採取。


尻の綿。


ふわ。


柔らかい。


シズクが。


指でほぐす。


「繊維が長くて、とても扱いやすいです」


麗華も。


手袋越しに触る。


「これは本当に上質ですわね」


レティも。


綿を籠へ。


「軽い」


アデラも。


「布団にも使えそうだな」


「はい」


シズクが頷く。


「衣類だけでなく、寝具にも使えます」


三人。


採る。


綿雲虫。


動かない。


「ジュオー……」


綿。


採る。


「ジュオー……」


また。


採る。


しばらくすると。


三人も。


もう。


ほとんど気にしなくなった。


麗華が。


綿を袋へ入れる。


「次をお願いしますわ」


アデラが。


大きな塊を摘む。


「これ、かなり取れるぞ」


レティも。


「拙者の服なら、何着分になる?」


シズクが笑う。


「十分ありますよ」


リーゼが。


三人を見る。


「慣れたな」


アデラが答えた。


「動かねえからな」


レティも。


「安全」


麗華も。


「触っているのは綿ですもの」


リーゼが。


少しだけ。


感動する。


「そうだ」


スージーが。


隣で言う。


「大尉まで完全に慣れてるけどね」


「小官は先輩だからな!」


その時。


エヴァが。


一匹の綿雲虫を見る。


「そういや」


リーゼが。


嫌な予感。


「言うな」


「これ、中身は食えるぞ」


三人。


止まる。


リーゼが叫ぶ。


「言うなと言っただろ!」


アデラが聞く。


「味は?」


「エビ」


レティ。


「……エビ?」


麗華。


「虫なのに?」


ティセラが答える。


「バロメッツ近縁種の可能性があります。内部可食部は甲殻類、特に海老に近い食味です」


三人。


綿雲虫を見る。


一メートルの巨大虫。


草から生えている。


地面へ。


口吻。


「ジュオー……」


尻。


綿花。


中。


エビ味。


アデラが。


長く。


黙った。


そして。


「今日は服の材料だけ取ろう」


レティが。


深く。


頷いた。


「賛成」


麗華も。


「全面的に同意いたしますわ」


リーゼが。


珍しく。


三人へ。


優しい目を向けた。


「それがいい」


         ◇


館へ戻る。


今日の収穫。


巨大な繭。


羊毛。


大量。


綿。


大量。


シズクは。


共同作業場へ。


それぞれを並べた。


三人も。


見る。


繭。


そのまま服になるわけではない。


処理する。


洗う。


糸を取る。


合わせる。


織る。


羊毛。


洗う。


ほぐす。


糸にする。


織る。


綿。


異物を除く。


ほぐす。


糸へ。


布へ。


麗華が言った。


「こうして見ると」


一拍。


「普通ですわね」


アデラも。


「材料の状態まで来ると普通だな」


レティも。


「森で見たものを忘れれば」


リーゼが強く頷いた。


「それが大事だ」


スージーが笑う。


「大尉の生存術になってる」


シズクは。


以前作った。


滑らかな布を。


三人へ渡した。


レティが触る。


「これが、あの繭から?」


「はい」


アデラも。


「軽いな」


麗華は。


指の間で。


布を確かめる。


滑らか。


柔らかい。


肌当たり。


非常に良い。


「これほど良い絹でしたら」


少し。


考える。


「巨大な芋虫のことは、忘れる努力をいたしますわ」


リーゼが言った。


「正しい」


次。


羊毛。


柔らかい。


暖かい。


冬服。


毛布。


寝具。


次。


綿。


軽い。


吸水。


肌着。


日常服。


用途。


多い。


アデラが言う。


「結局」


三種類を見る。


「全部かなりいい材料なんだな」


シズクが頷く。


「はい」


レティも。


「だから使っている」


「はい」


麗華は。


少し笑った。


「この谷底」


一拍。


「食べ物だけではなく、服まで同じなのですね」


リーゼが聞く。


「何がだ?」


麗華は答えた。


「作られるところを見なければ、素晴らしい」


沈黙。


アデラが。


吹き出した。


レティも。


笑う。


スージーも。


猫耳を揺らして笑った。


リーゼだけは。


少し考えた後。


深く。


深く。


頷いた。


「本当にそうなんだ」


シズクが。


採寸帳を開く。


「では、どんな服にするか決めましょう」


三人が。


近くへ集まる。


レティには。


動きやすい。


今までの巫女装束に近いもの。


アデラには。


丈夫で。


動きやすいもの。


麗華には。


一人でも着られる。


簡素だが。


本人の好みに合ったもの。


そして。


三人共通。


着替え。


肌着。


冬物。


寝具。


必要なものは多い。


だが。


材料は。


今日。


十分に集まった。


遠く。


森の彼方。


ばさっ。


巨大な成虫のものらしい。


重い羽音。


別方向。


「メー」


バロメッツ。


さらに。


「ジュオー……」


綿雲虫。


三人。


少しだけ。


止まる。


アデラが言った。


「……聞かなかったことにするか」


レティ。


「そうするでござる」


麗華も。


「賛成ですわ」


シズクは。


普通に帳面へ。


必要な布量を書き込んでいった。


新しい三人の服は。


巨大芋虫の繭と。


羊の生える植物と。


大地を吸う虫の尻から。


作られることになった。

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