表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
断章Ⅷ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

177/193

第百七十七話 収穫祭、もう一度

三人が谷底へ来てから。


数日。


館での生活にも、少しずつ慣れてきた。


布団。


朝風呂。


共同食事用のバルコニー。


木になる卵。


にんじんから出てくる米。


海と呼びたくなる滝壺。


巨大な鳥。


巨大な魚。


理解したわけではない。


ただ。


そういうものだと受け入れ始めただけだった。


そんな朝。


ノアが言った。


「収穫祭をやろうか」


レティが聞き返す。


「収穫祭?」


「うん」


ノアはいつものように、同じ屋根付きバルコニーの同じ食卓で、風向きを見ながら皆から少し距離を取って座っている。


「前にも一度やったんだけど、新しく三人も来たし」


シズクが嬉しそうに頷いた。


「いいですね」


ルヴァナがすぐ手を挙げる。


「やる!」


ネイラも。


「賛成」


エヴァが言う。


「肉も多めな」


「はい」


アデラが聞いた。


「要するに、今日は美味いものを腹いっぱい食える?」


「そういう日です」


シズクが答えた。


アデラは即座に頷いた。


「賛成」


レティも。


「拙者も異議なしでござる」


麗華も。


「こちらのお食事でしたら、期待できますわね」


三人とも。


谷底の食材には。


まだ警戒している。


だが。


料理には。


もうかなりの信頼を置いていた。


リーゼだけが。


少し遠い目をした。


「……そうだな」


スージーの猫耳が動く。


「大尉、何その顔」


「三人には、先に忠告しておく」


アデラが嫌そうに見る。


「何だ」


「調理中に、おかしな声がしても作業を止めるな」


三人。


黙る。


レティが聞いた。


「食材から?」


「そうだ」


麗華も。


「何故?」


リーゼは。


一拍。


「食材だからだ」


アデラが言った。


「全然説明になってねえぞ」


         ◇


朝から。


共同調理場は忙しくなった。


今日は。


レティ。


アデラ。


麗華。


三人も最初から手伝う。


シズクが役割を振った。


「レティはこちらをお願いします」


「承知」


「アデラは焼き物を」


「任せろ」


「麗華は盛り付けと配膳をお願いできますか?」


麗華は。


少しだけ止まった。


自分で料理を皿へ盛る。


自分で運ぶ。


王妃候補だった頃なら。


ほとんど経験のないことだった。


だが。


今は。


「分かりましたわ」


普通に頷いた。


誰も。


鷹司家の令嬢だからと座らせない。


誰も。


アデラが騎士だからと剣だけ持たせない。


誰も。


レティが龍神だからと特別扱いしない。


皆。


できることをする。


三人も。


同じだった。


最初。


米。


もう。


これは平気だった。


にんじん状の根を抜く。


葉の根元を引く。


ポン。


逆さにする。


さらさらさらさら。


白い米。


レティが言う。


「これはもう便利な食材としか思えぬ」


アデラも。


ポン。


さらさらさら。


「水田も脱穀もいらねえしな」


麗華は受け容器を持ちながら言う。


「未開封なら、そのまま保存容器にもなるのでしょう?」


リーゼが頷く。


「そうだ」


麗華は根を見る。


「でしたら、外見がにんじんであることなど大した問題ではありませんわ」


リーゼが黙った。


スージーが笑う。


「大尉、三人とも順応早いね」


「まだだ」


「何が?」


「まだ本番ではない」


三人が。


一斉にリーゼを見る。


         ◇


次。


栗。


黒い。


細い。


縮れた植物繊維が。


毬全体を覆っている。


ルヴァナが籠いっぱいに運んできた。


「陰毛栗ー」


リーゼが即座に振り向く。


「大声で言うな!」


アデラが籠を見る。


「……その名前、本当に使ってんのか」


「通称だ!」


レティが一つ持つ。


「棘は?」


「柔らかいです」


シズクが答える。


触る。


痛くない。


割る。


大粒。


麗華が言った。


「普通の栗より扱いやすいですわね」


「甘みも強いですよ」


「見た目以外、優秀では?」


リーゼが天を仰いだ。


「そうなんだ……」


米。


栗。


塩。


水。


炊く。


しばらくして。


甘い香りが広がる。


アデラが鍋を見る。


「もう美味そうだな」


「夕食まで待ってください」


「まだ朝なのがつらい」


少し離れたところから。


エヴァが言った。


「分かる」


アデラが見る。


「お前も待たされてる?」


「さっき肉の味見を止められた」


「仲間だな」


「飯作ってる奴には逆らわねえ方がいい」


「それも分かる」


シズクが。


二人を見る。


二人とも。


目を逸らした。


         ◇


次。


魚。


アデラが塩を振る。


焼き台へ。


じゅう。


「んっ……!」


アデラの手が。


止まった。


レティも。


麗華も。


振り向いた。


じゅう。


「ぁ……んっ……!」


アデラが魚を見る。


皆を見る。


また魚を見る。


「……なあ」


リーゼが答える。


「焼け」


「鳴いてるぞ」


「焼け」


「何で平気なんだ!」


周囲。


シズクは別の料理。


ネイラは皿。


ルヴァナは食材運び。


クロエは炭。


アスラは包丁。


スージーは盛り付け。


ティセラだけは声の変化を記録しようとしている。


リーゼがティセラを指差す。


「教授、今日はそれを置け!」


「調理過程における発声音程と内部温度の――」


「収穫祭だ!」


アデラが叫ぶ。


「教授以外、何で本当に普通なんだ!」


スージーが答える。


「慣れ」


「それだけ!?」


じゅう。


「んっ……あぁ……っ!」


アデラが。


魚を裏返す。


「ぁあ……っ!」


アデラの顔が引きつった。


「戦場で聞いた声より、こっちの方が気まずい」


レティが頷く。


「同感でござる」


麗華も。


「料理中に聞きたい声ではありませんわね」


焼き上がる。


静かになる。


シズクが。


味見用に少し取り分ける。


アデラが食べる。


皮。


ぱり。


身。


ふっくら。


脂。


香り。


塩だけなのに。


美味い。


アデラが。


黙った。


もう一口。


「……今まで食った焼き魚で、一番美味いかもしれん」


リーゼが頷く。


「そうなんだ」


「腹立つな」


「分かる」


         ◇


次。


若い男根筍。


シズクが。


まな板へ置く。


三人は。


既に名前を知っている。


だが。


実際に調理するところを間近で見るのは。


また別だった。


包丁。


ざく。


「ん゛お゙……っ!」


三人。


無言。


ざく。


「ぐぅ゙……っ!」


ざくざく。


「お゙ほぉ゙……っ!」


麗華が。


シズクを見る。


「シズク」


「はい」


「何故、何も感じていない顔をしておりますの?」


「筍ですので」


「声が聞こえていますわ」


「筍です」


「形も」


「筍です」


「名前も」


「筍です」


麗華は。


しばらく。


シズクを見る。


「……強いですわね」


リーゼが深く頷いた。


「シズクは強い」


切り終わったもの。


薄い。


白い。


瑞々しい。


レティが一切れ食べる。


しゃく。


止まる。


「……美味い」


アデラも。


「何だこれ」


麗華も。


しゃく。


甘い。


瑞々しい。


歯応え。


非常に良い。


麗華は。


もう一切れ取った。


「どうして、これほど美味しいものに、あの声をつける必要がありますの?」


リーゼが答えた。


「それを小官に聞くな」


         ◇


次。


陸生アワビ。


七輪。


炭。


網。


普通の個体を載せる。


じゅう。


「ん゙……っ」


三人が見る。


じゅう。


「んお゙ぉ゙……っ!」


レティが言った。


「これも鳴くのでござるか」


「鳴く」


リーゼが答える。


「そして少し下がれ」


麗華が聞く。


「何故?」


周囲の皆が。


一歩。


下がる。


三人も。


つられて下がった。


ぷく。


内部に汁が溜まる。


「お゙ほぉ゙っ!」


ぴゅっ。


飛んだ。


三人。


沈黙。


アデラが言った。


「……何だ今の」


「汁だ」


「見れば分かる!」


麗華も。


「焼かれながら声を出して、汁まで飛ばしますの?」


「そうだ」


「皆様、何故平気なの?」


スージーが言う。


「だから慣れ」


麗華は。


周囲を見た。


誰も。


大して驚いていない。


それが。


一番怖かった。


焼き上がる。


切る。


食べる。


三人。


また黙る。


アデラ。


「美味い」


レティ。


「美味い」


麗華。


「……非常に美味しいですわ」


リーゼが頷く。


「そこが問題なんだ」


「問題ではないのでは?」


麗華が言う。


「食べ物としては」


リーゼが。


少し考えた。


「……そうなんだ」


         ◇


だが。


今日は。


それより上があった。


シズクが。


別の陸生アワビを持ってきた。


大きい。


肉厚。


色が濃い。


レティが見る。


「同じもの?」


ティセラが答えた。


「熟成個体です」


アデラが眉を寄せる。


「熟成?」


「はい」


麗華が聞く。


「どのように熟成させますの?」


リーゼが。


すぐ口を挟んだ。


「知らなくていい」


ティセラは答えた。


「成熟した男根筍の黒竹が二本絡み合った場所です」


リーゼが目を閉じた。


「教授……」


ティセラは。


止まらない。


「接触面が擦れることで、白濁した植物汁の分泌量が増加します。その一部が軽く発酵し――」


三人。


無言。


「その隙間へ陸生アワビが定着します」


アデラが。


ゆっくり。


「待て」


「はい?」


「黒竹が二本絡む」


「はい」


「擦れる」


「はい」


「白い汁が出る」


「はい」


「その間にアワビが入る?」


「はい」


「そこで熟成?」


「はい」


アデラは。


リーゼを見る。


「何で平気なんだ?」


リーゼが叫んだ。


「平気ではない!」


レティも。


「これは食べ物の説明でござるな?」


「食料生産過程です」


ティセラが答える。


麗華が額を押さえた。


「聞かなければよかったですわ」


熟成個体。


七輪。


じゅう。


「ん゙……ぉ゙……」


普通のものより。


低い。


じゅう。


「んお゙ぉ゙ぉ゙……っ!」


ぷく。


全員。


下がる。


三人も。


もう自然に下がった。


「お゙ほぉ゙ぉ゙っ!」


ぴゅっ。


少量。


アデラが言った。


「俺たち、今ので一緒に下がったな」


レティが頷く。


「学習でござる」


麗華も。


「汁を浴びたくありませんもの」


リーゼが。


少し嬉しそうに頷く。


「よし」


スージーが見る。


「何の成長を喜んでるの」


やがて。


香り。


普通の陸生アワビより。


濃い。


少し甘い。


炭火。


熟成香。


シズクが切る。


三人が。


味見。


アデラ。


止まる。


レティ。


止まる。


麗華。


止まる。


アデラが。


もう一切れ。


「……普通のより美味い」


レティも。


「旨味が濃い」


麗華も。


「柔らかいのに、歯応えが残っておりますわ」


さらに。


後から甘み。


余韻。


麗華が。


熟成個体を見る。


「どうして」


一拍。


「説明を聞けば聞くほど食欲がなくなるのに」


もう一切れ。


「食べれば食べるほど美味しいの?」


リーゼが。


力強く答えた。


「小官もずっとそれで苦しんでいる!」


         ◇


調理は続いた。


そして。


配膳。


三人も。


皆と一緒に運ぶ。


栗ご飯。


温泉卵。


焼き魚。


熟れた女魚の刺身。


男根筍。


普通の陸生アワビ。


熟成した陸生アワビ。


肉。


野菜。


汁物。


料理。


料理。


料理。


屋根付きバルコニーの大きな食卓へ。


次々。


並んでいく。


麗華は大皿。


アデラは焼き魚。


レティは卵。


ネイラ。


ルヴァナ。


クロエ。


アスラ。


スージー。


ティセラ。


シズク。


エヴァ。


ノア。


全員。


働く。


そして。


全員。


同じ場所へ座る。


ノアも。


風向きを見て少し距離は取るが。


同じバルコニー。


同じ食卓。


料理が。


ずらり。


アデラが言った。


「すげえな」


レティも。


「祭りというだけはある」


麗華は。


料理を眺めていた。


王宮の宴席。


夜会。


茶会。


祝いの席。


高価な料理を。


いくつも知っている。


それでも。


「こちらの方が、美味しそうですわ」


リーゼが言う。


「調理過程を忘れればな」


三人が。


一斉にリーゼを見る。


アデラ。


「思い出させるな」


ノアが笑った。


「じゃあ、食べようか」


始まった。


栗ご飯。


甘い。


香り。


米。


栗。


三人。


黙る。


「美味い」


アデラ。


「美味いでござる」


レティ。


麗華も。


「……美味しいですわ」


温泉卵。


半熟。


出汁。


焼き魚。


皮。


身。


熟れた女魚。


刺身。


三人とも。


一切れ目で。


止まった。


二切れ目。


スージーの猫耳が立つ。


「それ、すごいでしょ」


アデラが言う。


「これ、本当に魚か?」


「魚よ」


麗華は。


それ以上。


聞かなかった。


男根筍。


しゃき。


普通の陸生アワビ。


香ばしい。


熟成個体。


さらに。


濃い。


三人は。


食べるほど。


口数が減った。


そして。


アデラが言った。


「俺」


一拍。


「今まで食った飯の中で、一番美味いかもしれん」


レティが。


少し考える。


「拙者も」


麗華も。


ゆっくり頷いた。


「わたくしもですわ」


王宮より。


美味しい。


麗華には。


それが。


一番納得できなかった。


「どうして、あれほどおかしなものばかりなのに……」


シズクが笑う。


「美味しいなら、いいのでは?」


麗華が。


シズクを見る。


「あなたのその強さを、少し分けていただきたいですわ」


         ◇


料理が減る。


追加。


焼く。


魚。


じゅう。


「ぁ……んっ!」


三人。


少しだけ顔が引きつる。


だが。


アデラは。


普通に裏返した。


「もう少しだな」


リーゼが振り向く。


「声で判断するな!」


「貴様らが先にやってただろ!」


次。


陸生アワビ。


じゅう。


「んお゙ぉ゙……っ!」


麗華。


一歩下がる。


ぷく。


「来ますわ」


「お゙ほぉ゙っ!」


ぴゅっ。


麗華。


避ける。


そして。


皿を出す。


「次をお願いしますわ」


リーゼが愕然とした。


「適応が早い!」


「浴びたくないだけですわ!」


次。


筍。


ざく。


「ぐぅ゙……っ!」


レティ。


皿を構える。


「こちらへ」


ざく。


「お゙ほぉ゙……っ!」


「次も」


リーゼが言う。


「もう平気なのか?」


レティが真顔で答える。


「平気ではない」


「なら何故!」


「美味いので」


リーゼが。


言葉を失う。


スージーが。


肩を叩いた。


「大尉」


「何だ」


「それ、大尉も通った道よ」


「小官はもっと抵抗した!」


「抵抗期間の長さを誇らないの」


         ◇


食事も。


かなり進んだ頃。


フルーツが出た。


シズクとルヴァナが。


大きな皿を運んでくる。


甘い香り。


鮮やかな果肉。


麗華が見る。


「マンゴー?」


ノアが答える。


「マンゴー様の果物だね」


リーゼの顔が。


露骨に曇った。


三人が。


同時に気づいた。


アデラが聞く。


「何だ、その顔」


「何でもない」


スージーが笑いを堪えている。


「大尉」


「言うな」


レティが皿を見る。


「普通のマンゴーではない?」


リーゼは。


しばらく。


黙った。


そして。


「オホ声マンゴーだ」


三人。


止まった。


麗華が。


静かに言う。


「名前からして嫌ですわ」


「小官もそう思う」


アデラが聞く。


「何がそんなに酷いんだ?」


リーゼは答えなかった。


代わりに。


ルヴァナが。


楽しそうに言った。


「木で見るともっとすごいよ」


「ルヴァナ」


リーゼが睨む。


だが。


もう遅い。


「男型と女型があって」


三人。


無言。


「熟れた女型には黒い縮れた毛みたいなのが生えてて」


麗華の眉が寄る。


「毛?」


「植物繊維」


スージーが補足した。


「見た目はほぼ陰毛状だけど」


「補足するな!」


リーゼが叫ぶ。


ルヴァナは続ける。


「男と女だけじゃなくて、男同士も女同士も絡むし」


アデラが言った。


「待て」


「後ろから絡むのもある」


レティが言った。


「待つでござる」


「オホ声も出す」


麗華が言った。


「もう結構ですわ」


「『いたい』とか『ゆるして』とか言うのもあるよ」


三人。


完全に止まった。


リーゼが。


机へ額をつけた。


「小官もあそこで限界を迎えた」


スージーが笑う。


「斧と松明持ってきたものね」


アデラがリーゼを見る。


「燃やそうとしたのか?」


「消毒しようとした」


「植物だぞ」


「知っている!」


レティが聞く。


「他には?」


リーゼが顔を上げた。


「聞くのか!?」


「ここまで来ると」


レティは。


少しだけ諦めた顔で。


「全体像を知った方がよい気がする」


リーゼは。


指を立てる。


「白い汁」


一本。


「黄色い汁」


二本。


「透明な汁」


三本。


「そこら中へ飛ぶ」


四本。


「地面へ溜まる」


五本。


「臭い」


六本。


麗華が聞く。


「どの程度?」


リーゼの顔が歪む。


「洗っていない寝具へ、汗と魚介と青黴チーズと湿った植物汁と脂を全部染み込ませたような臭いだ」


麗華が。


黙った。


アデラも。


レティも。


言葉がない。


ティセラが補足する。


「表面菌体には、青黴系の発酵食品として利用できる可能性があります」


リーゼが机を叩いた。


「そこまで有用になるな!」


三人は。


皿のマンゴーを見る。


既に。


食べられる部分だけ。


綺麗に処理されている。


甘い香り。


鮮やかな果肉。


見た目。


非常に美味しそう。


アデラが言った。


「これが?」


「そうだ」


レティ。


「食える?」


「食える」


麗華。


「美味しい?」


リーゼは。


非常に嫌そうに答えた。


「……美味い」


三人。


顔を見合わせた。


アデラが。


一切れ。


取る。


「食う」


レティも。


「ここまで来たら」


麗華は。


最後まで迷った。


だが。


皿を見る。


今日。


あれだけおかしい食材を食べた。


全部。


美味しかった。


「……いただきますわ」


三人。


同時に食べる。


そして。


止まる。


甘い。


濃い。


香り。


強い。


果汁。


豊か。


舌へ残る甘み。


三人とも。


黙る。


アデラが。


もう一切れ。


レティも。


麗華も。


リーゼが聞く。


「どうだ」


麗華が。


本気で。


嫌そうな顔をした。


「……美味しいですわ」


「そうなんだ!」


「非常に」


「そうなんだ!」


「今まで食べたマンゴーの中でも、一番かもしれません」


リーゼが。


頭を抱えた。


「そうなんだよ!」


         ◇


しかも。


今日は。


採ったばかりの個体も。


少しだけ調理用に持ち込まれていた。


食べ終わった皿へ。


追加を出すため。


シズクが。


果実を一つ置く。


見た目から。


既に。


人の腰や腿を思わせる形。


三人が。


引いた。


アデラ。


「現物はもっと酷いな」


レティ。


「これは果物なのか?」


麗華。


「食卓へ持ち込んでよい形ではありませんわ」


シズクは。


普通だった。


果実の向きを変える。


ぶるっ。


三人。


止まる。


もう一度。


ぶるぶる。


アデラが言った。


「痙攣したぞ」


リーゼが答える。


「する」


「何で?」


「知らん!」


包丁。


すっ。


「お゙ほぉ゙ぉ゙……っ!」


三人。


一斉に。


身体を引く。


さらに。


刃を入れる。


「ん゙お゙ぉ゙……っ!」


ぴゅっ。


果汁。


麗華が。


素早く避ける。


「果物まで飛ばしますの!?」


リーゼが叫ぶ。


「だから小官は普通のマンゴーを育てているんだ!」


シズクは。


何事もなく。


切り分ける。


皿。


果肉。


完成。


三人が。


それを見る。


数秒。


アデラが言った。


「……食卓へ来ると普通なんだよな」


レティも。


「不思議でござる」


麗華は。


深くため息をついた。


「皆様が調理中だけ無心になる理由が、分かってきましたわ」


シズクが聞く。


「もう一切れいりますか?」


三人。


少し迷う。


「いる」


「いただく」


「……お願いしますわ」


リーゼが叫んだ。


「食うのか!」


三人が振り返る。


アデラが言う。


「美味いから」


レティも。


「美味いので」


麗華も。


「美味しいですもの」


リーゼが。


椅子へ。


力なく座った。


「小官の仲間が……」


スージーが笑う。


「大尉も食べるでしょ?」


リーゼは。


少し黙った。


オホ声マンゴーを見る。


皿を見る。


一切れ。


食べる。


「……美味い」


「ほら」


「それとこれとは別だ!」


         ◇


そして。


本当に。


最後。


リーゼが立ち上がった。


「締めだ」


アデラが言う。


「まだ果物あるのか?」


「ある」


リーゼは。


小さな籠を。


大事そうに持ってきた。


黄色い。


細長い果物。


そして。


普通のマンゴー。


ノアが笑う。


「リーゼの畑のだね」


「そうだ」


スージーの猫耳も。


少し嬉しそうに立つ。


レティが黄色い方を見る。


「これは?」


「バナナ」


麗華がマンゴーを見る。


「こちらは?」


リーゼは。


胸を張った。


「普通のマンゴーだ」


三人が。


少しだけ止まる。


リーゼは続けた。


「鳴かない」


バナナ。


「痙攣しない」


マンゴー。


「絡み合わない」


「汁を飛ばさない」


「陰毛状植物繊維もない」


「痛いとも言わない」


「許してとも言わない」


「青黴チーズも作らない」


「臭くない」


一拍。


「ただの果物だ!」


三人は。


理解した。


アデラ。


「ああ」


レティ。


「なるほど」


麗華。


「ようやく分かりましたわ」


リーゼが聞く。


「何がだ」


麗華は。


普通のマンゴーを一切れ。


口へ入れる。


甘い。


柔らかい。


静か。


何も起きない。


「大尉が、何故普通のバナナとマンゴーをあれほど大事になさっているのか」


レティも。


バナナ。


一口。


「分かったでござる」


アデラも。


マンゴー。


「最後くらい静かに食いたいんだな」


リーゼは。


しばらく。


三人を見る。


そして。


「そうだ」


素直に認めた。


スージーが笑う。


「大尉にとっては優しい果物だからね」


リーゼが。


バナナを見る。


普通のマンゴーを見る。


「一度」


少し遠い目。


「小官は普通のマンゴーとバナナに救われた」


麗華が。


もう一切れ。


マンゴーを食べる。


何も鳴かない。


何も飛ばない。


何も震えない。


ただ。


甘い。


「……確かに」


一拍。


「優しいですわね」


レティも。


「優しいでござる」


アデラも。


「果物に言う言葉じゃねえと思うけど」


バナナをもう一切れ。


「今なら分かる」


リーゼの目が。


少しだけ潤んだ。


「そうだろう」


スージーが。


笑いながら言う。


「大尉、三人も仲間になってよかったね」


「この瞬間だけはな」


食卓。


ほとんど空になった皿。


七輪。


焼き台。


酒。


皆の声。


今日。


三人は。


皆と一緒に。


料理をした。


盛り付けた。


運んだ。


焼いた。


切った。


そのたび。


変な声がした。


魚を焼けば。


「ぁ……んっ!」


筍を切れば。


「お゙ほぉ゙……っ!」


陸生アワビを焼けば。


「お゙ほぉ゙っ!」


熟成個体まで。


低い声で鳴いた。


オホ声マンゴーに至っては。


生態から。


形から。


臭いから。


声から。


果汁から。


何もかもがおかしかった。


三人は。


ずっと思っていた。


何故。


皆は平気なのか。


完全に。


平気なわけではなかった。


リーゼは。


今でも叫ぶ。


スージーは笑う。


シズクは食材として処理する。


エヴァは美味ければ食う。


ティセラは研究する。


忍者たちは。


普通に受け入れる。


ノアも。


必要なら調べ。


食えるなら食べる。


三人も。


ようやく。


少しだけ分かった。


アデラが言った。


「……美味いからなんだな」


レティが頷く。


「結局、そこへ戻るでござる」


麗華も。


普通のマンゴーをもう一切れ取った。


「これまで生きてきた中で、一番美味しいお食事でしたもの」


シズクが。


嬉しそうに笑う。


「よかったです」


麗華は。


シズクを見る。


「ですが」


「はい?」


「食材そのものには、まだかなり引いておりますわ」


アデラも。


「俺も」


レティも。


「拙者もでござる」


リーゼが。


満足そうに。


深く頷いた。


「それでいい」


スージーが。


隣を見る。


「大尉も、全然平気じゃないものね」


リーゼが。


普通のバナナを食べながら。


力強く答えた。


「当然だ!」


二度目の収穫祭は。


大成功だった。


少なくとも。


味についてだけは。


誰一人。


異論がなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ