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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第二十三章 普通Ⅰ

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第百七十五話 海ではありません。滝壺です

畑での収穫を終え。


卵の実。


米の入ったにんじん。


小麦の入ったにんじん。


それらを館へ戻した後。


リーゼは、レティ、アデラ、麗華の三人を再び集めた。


スージーとシズクも一緒だった。


「次は滝壺へ行く」


アデラが聞く。


「遠いのか?」


「少し歩く」


レティが頷いた。


「野外でござるな」


麗華だけが、少し不安そうに周囲を見る。


「昨日こちらへ来てから、館の周辺しか歩いておりませんものね」


リーゼは腕を組んだ。


「だからこそだ」


三人を見る。


「館の中だけ分かっていても、この谷底では暮らせん」


スージーが横から言う。


「また上官の顔してる」


「上官だからな」


「三人とも部下じゃないわよ」


「新兵教育だ!」


アデラが即座に言った。


「だから俺は新兵じゃねえ」


レティも。


「拙者も冒険者でござる」


麗華は少し考える。


「わたくしだけは、野外行動という意味では新兵に近いかもしれませんわね」


リーゼの顔が明るくなった。


「そうだろう!」


麗華が一歩引いた。


「何故そこまで喜ばれますの?」


「教え甲斐がある」


「嫌な言い方ですわ」


ともかく。


一行は館を出た。


結界の外へ向かう。


最初のうち。


リーゼは機嫌が良かった。


「いいか」


歩きながら説明する。


「道だけを覚えるな」


麗華が聞く。


「どういう意味ですの?」


「特徴のある木、岩、斜面、水の流れ。複数の目印を持て。道そのものが塞がれても帰れるようにする」


「なるほど」


麗華は周囲を見る。


白い幹の木。


二つに割れた岩。


赤い苔。


地面の傾斜。


一つずつ確認する。


リーゼは満足そうだった。


「そうだ。それでいい」


アデラが横から言った。


「普通の野外行動だな」


リーゼが見る。


「知っているのか」


「騎士だぞ」


「……そうだったな」


「戦場で道だけ覚えてたら死ぬ」


レティも言う。


「拙者も同じでござる。ダンジョンでも森でも、目印は複数持つ」


リーゼの勢いが少し落ちた。


「そうか」


スージーが笑う。


「大尉、二人には教えること少なそうね」


「まだある!」


「張り合わなくていいのよ」


少し進む。


倒木。


岩。


狭い場所。


アデラは迷わず越える。


レティも慣れている。


麗華だけは。


裾を持ち上げ。


足元を見ながら慎重に進んでいた。


アデラが振り返る。


「麗華、大丈夫か?」


「ええ」


「手いるか?」


「結構ですわ」


一歩。


少し滑る。


アデラが腕を掴んだ。


「ほら」


麗華が眉を寄せる。


「……ありがとうございます」


レティが笑う。


「仲間でござるな」


「転ぶよりいいだろ」


「それはそうですわね」


リーゼが三人を見る。


そして。


少し満足そうに頷いた。


スージーが気づく。


「今度は何?」


「連携ができている」


「昨日来た三人に、もう小隊を見るのやめない?」


「良いことではないか!」


道を進むにつれ。


音が大きくなってきた。


最初は。


低い音だった。


遠くで。


ずっと何かが鳴っている。


そんな程度。


だが。


歩くほど。


大きくなる。


地面まで。


微かに震えているように感じる。


麗華が顔を上げた。


「これは?」


シズクが答える。


「滝の音です」


「もう聞こえるのですの?」


「はい」


アデラが前を見る。


「でかそうだな」


リーゼが短く答えた。


「でかい」


レティが聞く。


「どのくらい?」


リーゼは少し考えた。


「言っても分からん」


アデラが嫌そうな顔をする。


「また見れば分かる、か?」


「そうだ」


「昨日からそればっかりだな」


さらに進む。


水煙が。


木々の向こうへ見え始める。


空気も。


少し冷たい。


そして。


林を抜けた。


三人の足が。


止まった。


「…………」


滝壺。


そう呼ばれていた。


だが。


麗華には。


最初。


湖にしか見えなかった。


いや。


湖ですらない。


向こう岸が見えない。


水面の先は。


霞。


水煙。


白いものの向こうへ消えている。


左を見ても。


右を見ても。


水。


そして。


正面。


巨大な大瀑布。


上端は。


見えない。


岩壁は遥か上へ続き。


その途中から水が落ちているのか。


もっと上からなのか。


視線を上げても。


終わりが分からない。


白い水が。


空から落ちているように見える。


麗華が。


ようやく声を出した。


「……これが」


「滝壺だ」


リーゼが答える。


麗華は水面を見る。


「湖ではなく?」


「その疑問は小官も通った」


シズクが普通に言う。


「滝壺です」


アデラが遠くを見る。


「向こう岸は?」


「見えません」


「ないのか?」


スージーが答える。


「あるとは思うけど、ここからは霞と水煙で見えないの」


アデラはしばらく黙った。


「これを滝壺って呼ぶのか」


「呼ぶ」


リーゼが言った。


レティは。


ずっと上を見ていた。


「滝の上が見えぬ」


「見えん」


「山より高いのでは?」


「比較できる場所がない」


「拙者の世界にも大瀑布はあるが」


一度。


水面を見る。


もう一度。


上を見る。


「これは、別物でござるな」


リーゼの顔が。


少しだけ緩んだ。


スージーが横から見る。


「嬉しそう」


「正常な反応だ」


「毎回それ言うの?」


麗華は。


水面から目を離せなかった。


風が吹く。


水飛沫が。


遠くからでも薄く届く。


朝とは違う。


冷たい風。


大きな音。


それなのに。


不思議と。


嫌ではない。


「綺麗ですわね」


シズクが笑う。


「はい」


「この谷底」


麗華は水面を見る。


「景色だけなら、本当に素晴らしいですわ」


アデラも頷く。


「戦場もねえしな」


レティも。


「ダンジョンよりは落ち着く」


リーゼが即座に言った。


「水際へ行きすぎるな」


三人が見る。


「何故?」


アデラが聞く。


リーゼは水面を指した。


「生き物がいる」


「魚?」


「魚も」


その言い方で。


三人が少し警戒した。


レティが聞く。


「モンスターも?」


「少なくとも、こちらではモンスターとは呼んでいない」


「嫌な答えでござるな」


しばらく。


何も起きなかった。


大きな水面。


滝。


風。


麗華は。


少しずつ。


肩の力を抜き始めていた。


その時。


レティが言った。


「何か飛んでおる」


全員が見る。


水面近く。


遠いところを。


鳥のようなものが飛んでいた。


ただ。


大きい。


距離があるのに。


形が分かる。


翼。


胴。


脚。


麗華が目を細める。


「鳥?」


シズクが答える。


「鳥のようなものですね」


アデラが言う。


「でかくないか?」


「大きいですね」


「随分普通に言うな」


その下。


水面に。


黒い影が現れた。


レティがすぐ気づく。


「下!」


影が。


鳥を追っている。


水面が。


盛り上がる。


次の瞬間。


ばしゃああああんっ!


巨大な魚のようなものが。


水から飛び出した。


口が開く。


水面近くを飛んでいた鳥へ。


そのまま。


食らいついた。


翼が。


一度。


大きく広がる。


半身が。


魚の口へ消える。


そして。


両方。


水へ落ちた。


どおん。


少し遅れて。


音。


波が。


遠くへ広がる。


三人は。


黙っていた。


シズクが言った。


「今日は綺麗に入りましたね」


レティが。


ゆっくりシズクを見る。


「……よくあるのでござるか?」


「水面近くを飛んでいると、食べられることはあります」


「よくある?」


「はい」


アデラが水面を見る。


「今の魚」


「はい」


「俺より大きかったぞ」


リーゼが言う。


「もっと大きいのもいる」


アデラが黙った。


麗華も聞く。


「鳥も?」


「もっと大きいものがいます」


麗華も黙った。


レティが真顔で言う。


「モンスターでは?」


「魚だ」


リーゼが答えた。


「鳥だ」


「拙者の世界なら討伐依頼が出る大きさでござる」


「ここでは普通に生きている」


レティが腕を組んだ。


「分類が罠でござる」


リーゼの目が輝いた。


「小官もそう思う!」


スージーがため息をつく。


「誰も騙してないから」


アデラは。


もう一度。


巨大な水面を見る。


「ここで泳ぐのは?」


「やめた方がいい」


リーゼが即答する。


「分かった」


「素直だな」


「今の見た後で泳ぐ奴いるのか?」


シズクが少し考えた。


「エヴァなら」


アデラが止まる。


「……あいつならやりそうだな」


麗華も静かに頷いた。


「昨日の朝を思い出すと、否定できませんわ」


レティも。


「聖者殿も?」


「必要があれば入ることはあります」


三人が少し遠い目をした。


リーゼが満足そうだった。


「よし」


スージーが見る。


「何が?」


「三人とも正常だ」


「巨大魚を見た反応で人間性を確認しないの」


少し景色を見た後。


リーゼが岸沿いを指した。


「次は漂着物だ」


麗華が見る。


「漂着物?」


「この滝壺には色々流れ着く」


実際。


少し離れた岸には。


流木。


樽。


壊れた箱。


板。


縄。


濡れた布。


陶器の破片。


金属片。


片方だけの履き物。


何に使うのか分からない道具。


様々なものが。


打ち上げられている。


アデラが近づこうとする。


シズクが止めた。


「そのまま触らないでください」


アデラが止まる。


「何で?」


シズクは。


近くに落ちていた長い枝を拾った。


レティが見る。


「棒?」


「はい」


シズクは。


濡れた箱から少し離れて立つ。


棒を伸ばす。


つん。


反応なし。


もう一度。


押す。


箱が転がる。


裏側から。


黒い虫が。


何匹も這い出した。


麗華が一歩下がった。


「……なるほど」


シズクは頷く。


「裏側に何かいることがあります」


スージーも言う。


「虫だけじゃなくて、卵、植物、毒のあるものが付いてることもあるから」


レティがすぐ頷いた。


「直接触れる前に確認」


アデラも。


「分かりやすい」


麗華も。


「これは覚えておきますわ」


リーゼが満足そうに腕を組んだ。


「そうだ」


スージーが見る。


「大尉」


「何だ」


「今の教えたのシズクよ」


リーゼが止まった。


「……谷底式安全教育の一環だ!」


「急に組織の知識にした」


三人にも。


一本ずつ。


長い棒が渡された。


アデラが濡れた布を突く。


反応なし。


裏返す。


錆びた金具。


「これは使えそうだな」


シズクが見る。


「持ち帰れそうですね」


レティは。


壊れた箱を。


慎重に突く。


「反応なし」


もう一度。


裏。


小さな虫。


「おる」


「離してください」


「承知」


麗華は。


少し離れたところにある。


片方だけの靴を。


棒で押した。


ころり。


何もない。


「……こういうことまで」


「はい」


シズクが言う。


「慣れれば簡単ですよ」


麗華は。


棒を持ったまま。


少し笑った。


王妃候補として。


礼法。


舞踏。


外交。


歴史。


領地経営。


いろいろ学んだ。


だが。


漂着物を棒でつついてから拾う方法など。


当然。


学んでいない。


「不思議ですわね」


「何が?」


「昨日までのわたくしなら」


麗華は。


遠くの滝を見る。


「こんなことを自分でするとは思いもしませんでしたわ」


アデラが答える。


「悪くないだろ」


「ええ」


「何か見つかると結構面白い」


レティも。


別の金属片を確認しながら言う。


「探索依頼のようでござる」


麗華が笑った。


「わたくしだけ、少し遊びの感覚ですわ」


「それでいいだろ」


三人は。


しばらく。


漂着物を探した。


そして。


ある程度集まったところで。


再び。


水面の方から。


ばしゃあああんっ!


大きな音。


三人が一斉に振り向く。


巨大な何かが。


遠くで跳ねた。


アデラが言う。


「今のは?」


リーゼが答える。


「魚」


レティ。


「さっきより大きくないか?」


「魚だ」


麗華。


「本当に?」


「魚だ!」


三人が。


水面を見る。


そして。


ほぼ同時に。


ため息をついた。


「……慣れるしかないか」


アデラ。


「そうでござるな」


レティ。


「考えても仕方ありませんわ」


麗華。


リーゼが。


満足そうに笑った。


スージーが横を見る。


「大尉」


「何だ」


「三人が馴染んできて、ちょっと寂しそうね」


リーゼの顔が止まった。


「そんなことはない!」


「初見の反応を楽しんでたでしょう」


「教育だ!」


「はいはい」


滝壺は。


今日も。


滝壺という名前からは想像できないほど広かった。


向こう岸は見えない。


上端も見えない。


巨大な鳥が飛び。


巨大な魚が泳ぐ。


岸には。


どこから来たのか分からないものが流れ着く。


三人は。


しばらく。


その景色を眺めていた。


麗華が言った。


「……やはり」


レティが見る。


「何でござる?」


「この谷底」


風を受ける。


「景色だけは、本当に素晴らしいですわ」


アデラが笑う。


「飯もな」


レティも頷いた。


「それは重要でござる」


三人の意見は。


そこだけは。


完全に一致していた。

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