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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第三章 世界壁Ⅰ

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第十七話 命を繋ぐためなら、目を逸らしません【一般公開版】

「こうなったら、原液だな」


シズクが顔を上げた。


「原液?」


エヴァはノアを見る。


ノアは困ったように眉を寄せた。


その顔だけで、シズクにも、嫌な予感がした。


「……まさか」


「ああ」


エヴァはあっさり頷いた。


「聖者から直接取る」


「直接」


「直接だ」


「二度言わなくて結構です!」


エヴァは笑った。


だが、すぐに表情を改めた。


「シズク。お前は外に出ろ」


「なぜですか」


「今から俺が聖者の相手をして、治療に使えるだけ採る」


あまりにも平然と言われ、シズクはしばらく返事ができなかった。


「……ここで?」


「ここで」


「この方の隣で?」


「時間がない」


それは分かる。分かるのだが。


「お前がいると、もっと面倒になる」


「私が?」


エヴァが鼻を鳴らした。


「聖者の匂いだけでも厄介なのに、濃いのが出た後はもっとひどい。お前、自分を抑えられなくなるぞ」


シズクは女を見る。


青ざめた顔。浅い呼吸。


それからエヴァを見る。


「では、この方をここへ置いたまま、私だけ外で待てと?」


「そう言ってる」


「嫌です」


即答だった。


今度はエヴァが瞬いた。


「お前な」


「倒れている方を放っておいて、二人だけに任せて外へ出られるわけがないでしょう」


呆れたように言うと。


エヴァは数秒黙ってから吹き出した。


「そりゃそうだ」


「笑わないでください!」


「いや。お前、十二日前とは随分変わったな」


エヴァは少し考えた。そして。


「じゃあ残れ」


「はい」


「ただし一つ約束しろ」


「何ですか」


「無理に聖者の相手をするな」


シズクが固まった。


「しません!」


「今はそう言える」


エヴァは真面目だった。


「でも、聖者の影響が強くなれば身体は勝手に反応する。そうなったら、自分でどうにかしろ」


「自分で?」


意味が分かって、シズクの顔が一気に赤くなる。


「な、何を言っているのですか!」


「俺たちを見ながら、自分で落ち着かせろってことだ」


「落ち着くどころか逆ではありませんか!」


「聖者に抱かれるよりましだろ」


エヴァは肩をすくめる。


「したくもないのに流されて、そのまま聖者とする必要はない。自分の身体は自分で始末しろ」


そこだけは、冗談ではなかった。


シズクも黙る。


エヴァは、そういうことに関してだけは妙に厳しい。自分が望んでいるのか。身体が勝手に反応しているだけなのか。そこを混同するなと、何度も言われていた。


「……分かりました」


シズクが答える。


「私は残ります。でも、聖者とはしません」


「それでいい」


そこから一拍。


エヴァの口元がまた悪戯っぽく歪んだ。


「まあ、聖者の影響をまともに受けたら、指先で済むかは知らんがな」


「エヴァ」


「身体の方が勝手に準備するらしいぞ」


「エヴァ」


「下手すると、お前の初めての相手は男じゃなくて――」


「エヴァ!」


「冗談だって」


「今のは絶対に半分くらい本気でした!」


ノアが額を押さえた。


「二人とも」


その声で、空気が戻る。


長椅子の女。弱い呼吸。時間はない。


ノアはシズクを見る。


「本当に残るんだね」


シズクは頷いた。


「はい」


「途中で嫌になったら、すぐ外へ出ていい」


「分かっています」


「無理もしない」


「はい」


ノアは最後まで確認した。


それから。


救命のための準備が始まった。シズクは最初、女の手を握っていた。見ないつもりだった。見なくてもいいと思った。


だが、館の中に籠もる熱気は、少しずつ、確実に、シズクの呼吸まで変えていった。


床のきしむ音が、規則的に、重く響いた。


原液を壺に集め終えた。壺を手に、エヴァは立ち上がった。そのまま、長椅子に横たわっている女のもとへ歩く。


エヴァは壺の中の原液を指ですくい、女の額の傷に塗り込めた。血が止まり、裂けた皮膚がゆっくりと閉じていく。


顔の傷へ、折れた腕へ、服を裂いて露わになった脇腹の深い裂傷へと、丁寧に塗り広げていく。


傷の端から端まで、丁寧に塗り広げる。女の呼吸が、少しずつ落ち着いていく。


シズクは、その様子を呆然と見ていた。

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