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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第二十三章 普通Ⅰ

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第百六十七話 軍馬は四メートルもないし、人も食べないでござる!

レティの世界について一通り聞き終わった。


冒険者ギルド。


モンスター。


レベル。


ギルドへ行かなければ正確には分からない、自分自身の強さを表す数字。


レティ本人にはゲームという概念すらないのに、聖者や忍者たちから見ると妙にゲームじみている世界。


さらに。


レティの世界ではモンスター扱いされるゴブリンが、ティセラや忍者たちの世界では普通の隣人だった。


逆に忍者たちがモンスターと聞いて思い浮かべるのは、卵を植え付けたり、苗床にしたり、触手を伸ばしてきたりする妙な生き物。


レティは途中から頭を抱えていた。


「拙者の世界の方が普通でござる……」


リーゼが言った。


「比較対象を選べ」


「何故でござる!」


「忍者世界と比較すれば大抵の世界は普通寄りになる!」


クロエが反応した。


「失礼だな」


アスラも腕を組む。


「私たちの世界にも普通の動物はいる」


リーゼは黙った。


「……本当に?」


「いる」


「本当だな?」


「何故二回聞く」


同じ屋根付きバルコニー。


同じ食卓。


聖者も少し離れた位置に座っている。


風向に合わせて距離は取っているが、同じ卓の一部だった。


シズクが食後の茶を配り終える。


「では、次はアデラさんでしょうか」


アデラが自分を指した。


「俺?」


「はい」


麗華も頷いた。


「わたくしも気になりますわ」


レティも身を乗り出す。


「拙者もでござる。スキルだけがあるというのが、どうにも分からぬ」


アデラは眉を寄せた。


「俺はお前のレベルの方が分からん」


「何故またそこへ戻るのでござる!」


「鍛錬したら自分が強くなったか分かるだろ」


「レベルとは別でござる!」


「だからそれが分からん!」


リーゼが卓を軽く叩いた。


「そこは後だ!」


二人が止まる。


リーゼはアデラを見た。


期待していた。


かなり期待していた。


「アデラ」


「何だ」


「最初から頼む」


「何をだ」


「貴様の世界をだ」


「普通の世界だぞ」


リーゼの目が輝いた。


スージーが横を見る。


「大尉」


「今、普通と言ったな」


「言ったけど」


「自分から普通と言った!」


「何で喜んでるんだよ!」


アデラは少し考えた。


「何から話せばいい」


エヴァが肉を摘まみながら言った。


「国」


「ある」


「王」


「いる」


「領主」


「いる」


「貴族」


「いる」


「騎士」


アデラが自分を指した。


「俺だ」


エヴァが頷く。


「戦争」


「ある」


「何で戦う」


「理由はいくらでもある」


アデラは指を折る。


「領地の境界。継承。税。水。道。森。鉱山。商いの権利。婚姻。昔の約束。王位争い」


エヴァが頷いた。


「普通だな」


リーゼも頷いた。


「普通だ」


アデラが二人を見る。


「お前らの普通、戦争から始まるのか」


麗華が静かに言った。


「そこは少々嫌な共通点ですわね」


アデラは茶を一口飲んだ。


「俺の国だけが特別に戦争ばかりしてるわけじゃない。ずっと戦ってるわけでもない」


「平時もある?」


スージーが聞いた。


「当然だ」


「普段の騎士は?」


「領地の警備。訓練。巡回。護衛。徴税の付き添い。揉め事の処理。領主から命令があれば使者にもなる」


リーゼが何度も頷く。


「いい」


アデラが嫌そうな顔をする。


「何が」


「普通の騎士だ」


「騎士は普通の騎士だろ」


「その言葉だけで安心する」


スージーが苦笑した。


「もう大尉には好きにさせてあげましょう」


「何だ、その扱いは」


ティセラが尋ねた。


「戦争では、どのような兵が中心になるのです?」


「領主による」


アデラは答える。


「騎士。従士。歩兵。弓兵。徴集兵。金があれば傭兵も雇う」


「攻城戦も?」


「ある」


「城壁を魔法で破壊したりは?」


「しない」


「飛行戦力は?」


「ない」


「魔術通信は?」


「ない」


ティセラが少し考えた。


「伝令?」


「馬か徒歩」


リーゼの表情がますます明るくなる。


「そうだ」


アデラがとうとう聞いた。


「何がそんなに嬉しいんだ」


「戦争の仕組みまで普通だからだ!」


「戦争が普通って言われても嬉しくねえよ!」


エヴァは別のところに興味を持っていた。


「強い奴は?」


「いる」


「どれくらい」


「どれくらいと言われてもな」


「一人で何人倒す」


「強い騎士なら何人か相手にして勝つことはある」


「百人は?」


「無理だ」


「千人」


「もっと無理だ」


「城門を一人で壊す」


「人間にできるわけないだろ」


「馬ごと敵陣を吹き飛ばす」


「何の話だ」


エヴァが少し残念そうな顔をした。


ルヴァナが笑う。


「世紀末覇王はいなさそう」


アデラが見る。


「何だ、それ」


「一人で軍隊と戦えそうなやつ」


「いねえよ」


エヴァが自分を指した。


「俺ならいけるぞ」


「お前は本当に人間なのか?」


「人間だ」


アデラがエヴァの身体を見る。


二メートル近い。


明らかに自分の世界の人間より大きい。


「……俺の世界の人間を基準にした話だからな」


リーゼが力強く頷いた。


「その基準を守れ」


「何でお前に言われるんだ」


レティがアデラへ尋ねた。


「しかし、スキルはあるのでござろう?」


「ああ」


「それで一人で百人を?」


「無理だ」


「スキルなのに?」


「スキルを何だと思ってるんだ」


今度はレティが首を傾げる。


「特殊な技能でござろう?」


「そうだけど」


アデラは腰の剣へ軽く触れた。


「俺が使えるのは剣技だ」


「例えば?」


「踏み込みが速くなる。崩れた姿勢からでも斬撃を繋げやすくなる。受けから反撃へ移る技もある」


リーゼが聞いた。


「発動すれば、身体が勝手に動く?」


「完全に勝手じゃない」


「では?」


「俺が技を使おうとする。そうすると、普段より正確に身体が動く」


「失敗は?」


「する時はする」


「疲労は?」


「する」


「怪我をしていても?」


「動けなきゃ使えない」


リーゼが頷いた。


「……かなり普通に近い」


アデラが怒った。


「さっきから何なんだ、その評価!」


レティは逆に納得できない。


「レベルがないのにスキルだけ覚えるのでござるか?」


「ない」


「ギルドで確認も?」


「しない」


「誰が習得を判定するのでござる?」


「誰も」


「では、どうやって覚えたと分かる?」


「使えるようになるからだ」


「何故?」


「知らん」


レティが固まった。


「知らぬのか」


「誰も知らないと思う」


アデラは当然のように言った。


「昔からそういうものがある」


レティが少し考えた。


「……そなたの世界も十分おかしいのでは?」


リーゼが即座に言った。


「スキル一個だ!」


「一個ではないでござろう!?」


「種類は複数あっても、世界のおかしい仕組みとして一系統だ!」


「何故必死なのでござる!」


スージーがリーゼの肩を軽く叩いた。


「大尉、アデラの世界を守ろうとしなくていいのよ」


「普通を守っているんだ」


「本人より必死じゃない」


アデラが言った。


「俺は別に普通じゃなくても困らん」


リーゼが衝撃を受けた。


「何故だ!」


「俺に聞くな!」


ノアが少し離れたところから笑っていた。


「リーゼ、かなりアデラの世界を気に入ったみたいだね」


「聖者」


「うん?」


「スキル以外、何もないんだぞ」


「何もないって言い方は失礼じゃない?」


「そういう意味ではない!」


麗華がアデラへ尋ねた。


「女性の騎士は珍しいの?」


「珍しくはある」


「禁止されてはいない?」


「領主によるが、俺のところではな」


「あなたは貴族?」


「騎士家の出だ」


「なるほど」


麗華には、その辺りが一番理解しやすかったらしい。


「わたくしの国にも騎士はおりますわ」


「女も?」


「おりますけれど、多くはありません」


「そこは似てるな」


麗華が少し頷く。


初めて。


新しく来た三人の世界同士にも、分かりやすい共通点があった。


エヴァが話を戻した。


「軍馬は?」


アデラが見る。


「いる」


エヴァが少し身を乗り出した。


「どれくらいでかい」


「普通の馬だ」


「だから、どれくらい」


「俺が乗れるくらいだ」


「四メートル?」


「あるわけねえだろ!」


即答だった。


リーゼが満面の笑みになる。


「そうだ!」


アデラがリーゼを見る。


「何でお前が答え合わせしてるんだ!」


エヴァはさらに聞く。


「三メートル」


「ない」


「二メートル半」


「ない」


「じゃあ小さくないか?」


「お前の馬がおかしいんだよ!」


リーゼが卓を叩いた。


「その通りだ!」


「だから何でお前が喜ぶ!」


エヴァは納得していない。


「軍馬だろ?」


「軍馬だ」


「戦うんだろ?」


「戦場には出る」


「敵兵を食う?」


「食わねえよ!」


アデラの声がバルコニーに響いた。


全員が少し静かになる。


エヴァが本気で驚いていた。


「食わない?」


「馬だぞ!」


「軍馬だろ?」


「軍馬でも馬だ!」


「じゃあ何食うんだ」


アデラは一瞬。


何を聞かれているのか分からない顔をした。


「草」


エヴァが止まった。


「草?」


「干し草。穀物も食わせる。そういう話か?」


「肉は?」


「食わせねえ」


「人は?」


「もっと食わせねえ!」


リーゼが両手を握りしめた。


「そうだ……!」


スージーが横を見る。


「大尉?」


リーゼは感動していた。


「馬は草食なんだ……!」


「そこに感動するな!」


アデラが怒鳴る。


「常識だろ!」


「そうだ!」


「何で泣きそうなんだ!」


「正常な軍馬だ……!」


スージーが苦笑する。


「大尉、また始まったわよ」


リーゼはアデラを見る。


「敵兵を食わない」


「食わない」


「四メートルない」


「ない」


「妙な声で吠えない」


「馬の声で鳴く」


リーゼの目が潤んだ。


「完璧だ」


アデラが引いた。


「怖いぞ、お前」


エヴァはまだ納得できていなかった。


「でも、敵兵食った方が補給楽じゃないか?」


「人を食わせるな!」


「戦場にいるぞ」


「だから食わせねえんだよ!」


「もったいなくない?」


「何がもったいないんだ!」


リーゼがエヴァを指差した。


「貴様は黙れ!」


「何でだよ」


「今、小官がアデラの世界の正常性を堪能している!」


「意味分かんねえ」


「貴様の世界を普通にしたような世界なんだ!」


一瞬。


静かになった。


エヴァがアデラを見る。


王。


領主。


騎士。


兵士。


領土争い。


剣。


馬。


戦争。


城。


確かに。


似ている。


ただし。


怪物じみた巨体の戦士はいない。


巨大な軍馬もいない。


人を食う軍馬もいない。


魔物もいない。


オーガもいない。


戦争をするのは。


人間だけ。


エヴァが頷いた。


「本当だな」


アデラが眉を寄せる。


「何が」


「俺の世界を普通にした感じだ」


「お前の世界はどれだけおかしいんだ」


リーゼが即答した。


「かなり」


「大尉」


スージーが笑っている。


「そこ即答するのね」


エヴァは気にしない。


「でも戦争は同じだな」


アデラも少しだけ表情を変えた。


「ああ」


「土地を取り合う」


「ある」


「王が死んだら後継ぎで揉める」


「ある」


「隣の領主が弱ったら攻める」


「……ある」


「強い奴が欲しいものを取る」


アデラは少し考えてから答えた。


「そこまで単純じゃない」


「そうか?」


「同盟もある。婚姻もある。約束もある。法律もある。王の裁定もある」


「守らない奴は?」


「戦争になる」


エヴァが笑った。


「やっぱ同じじゃねえか」


アデラも少しだけ笑った。


「乱暴にまとめればな」


リーゼは二人を見た。


「嫌なところで意気投合するな」


麗華が静かに茶を飲む。


「領土争いに関しては、わたくしの世界にも似た話はありますわ」


全員の視線が麗華へ向いた。


麗華が止まった。


「……何ですの?」


ルヴァナが笑う。


「次、レイカじゃん」


麗華の眉が動く。


「わたくし?」


レティが頷く。


「順番でござるな」


アデラも頷く。


「俺も聞きたい」


エヴァが言った。


「第一王子を妹に寝取られて、ギロチンだったな」


麗華の目が吊り上がった。


「そのまとめ方をやめてくださる!?」


アデラが笑った。


「でも大体そうだろ」


「大体そうだから余計に腹が立ちますの!」


スージーの猫耳が楽しそうに揺れた。


リーゼだけは。


まだアデラを見ていた。


「……軍馬は草食」


アデラが振り返る。


「まだ噛み締めてたのか!」


リーゼは深く頷いた。


「素晴らしい」


「普通だ!」


「そうだ」


リーゼは嬉しそうに笑った。


「それが素晴らしいんだ」

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