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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第二十三章 普通Ⅰ

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第百六十六話 レベルとは何だ、鍛錬しないのか

説明は、夕食を取りながらすることになった。


館から外へ張り出した、屋根付きの広いバルコニー。


三方には壁がなく、谷底の風がそのまま抜けていく。


大きな卓をいくつか組み合わせた食卓には、それぞれの体格に合わせた椅子や足台が置かれている。


聖者も同じバルコニーにいた。


いつものように皆との間には安全のための距離を取り、風向を見て卓の端へ座っている。


別の場所ではない。


同じ食卓の一部だった。


新しく来た三人も席についている。


龍角の巫女侍、レティ。


女騎士、アデラ。


舞踏会のドレス姿のままの麗華。


三人とも今日ここへ来たばかりだった。


シズクが料理を取り分けながら言った。


「まずは、お互いのことを少しずつ知った方がよいと思います」


「賛成だ」


アデラが答える。


麗華も頷いた。


「わたくしも、分からない言葉が多すぎますもの」


レティが首を傾げた。


「何から話せばよいのでござる?」


アデラが即答した。


「お前の世界だ」


「拙者?」


「ああ」


アデラは指を折った。


「冒険者ギルド」


一本。


「モンスター」


二本。


「レベル」


三本。


「朝から聞いてるが、どれも分からん」


麗華も頷いた。


「わたくしもですわ」


レティは少し驚いた。


「冒険者ギルドすらないのでござるか?」


「ない」


「ございませんわ」


リーゼも言う。


「小官の世界にもない」


スージーが猫耳を揺らす。


「私のところにもないわね」


レティは周囲を見る。


「……普通にあるものだと思っておった」


リーゼがすぐ反応した。


「その普通を使うのはやめろ」


「何故でござる!」


「昨日から小官の普通が壊され続けているからだ!」


スージーが苦笑した。


「昨日どころじゃないでしょう」


「細かいことを言うな!」


レティは気を取り直した。


「冒険者ギルドとは、冒険者を管理する組織でござる」


アデラが聞く。


「冒険者とは何だ」


「冒険者でござる」


「説明になってない」


「依頼を受けて働くのでござる。護衛、採取、討伐、ダンジョン攻略、探索、荷運びなど色々」


アデラが眉を寄せる。


「護衛なら騎士か傭兵だろ」


「傭兵もおる」


「なら冒険者は?」


「冒険者でござる」


アデラが額を押さえた。


「また戻ったぞ」


麗華が助け舟を出した。


「仕事を仲介する組合、と考えればよろしいのではなくて?」


「それなら分かる」


レティが頷いた。


「だいたい、そのようなものでござる」


ティセラが興味を示す。


「各地に支部がありますか?」


「ある」


「依頼の仲介、身分確認、討伐記録、素材売買なども?」


「するところが多いでござる」


ティセラの目が少し輝いた。


「かなり重要な社会基盤ですね」


リーゼが横から見る。


「教授」


「まだ何もしていません」


「頭の中で研究を始めただろう」


「考察です」


「同じだ!」


アデラが次の質問をした。


「で、レベルって何だ」


レティは少し考えた。


「強さの段階、と言えばよいのでござろうか」


「強さを数字にするのか?」


「そうでござる」


「誰が決める」


「冒険者ギルドで確認する」


アデラが止まった。


「……ギルドで?」


「うむ」


「自分では分からないのか」


「正確には分からぬ」


レティは首を横に振る。


「前に確認した時のレベルは分かる。しかし、その後に経験を積んでおれば、今がどうなっているかはギルドで確認せねば分からぬ」


麗華が眉を寄せる。


「数字が目の前に浮かぶわけではありませんのね」


「浮かばぬ」


「自分で確認する方法も?」


「拙者は知らぬ。普通はギルドへ行く」


アデラがますます分からない顔になる。


「待て」


「何でござる?」


「強くなったかどうかくらい、自分で分かるだろ」


「剣が上手くなった、力がついた、動きが良くなった、というのは分かる」


「ならそれでいいだろ」


「それとは別にレベルがあるのでござる」


「何で?」


「あるものはある」


アデラは卓へ両手を置いた。


「鍛錬しないのか?」


「する!」


レティも声を大きくした。


「毎日するでござる!」


「なら鍛錬して強くなるんだろ?」


「強くなる!」


「じゃあレベル要らないだろ!」


「要るのでござる!」


「何でだ!」


「レベルがあるからだ!」


「一周したぞ!」


麗華が静かに茶へ手を伸ばした。


「わたくしもアデラの側ですわ」


「麗華殿まで!」


「剣術なら鍛錬、学問なら勉強、舞踏なら練習。上達とはそういうものではなくて?」


「それもするのでござる!」


リーゼが大きく頷く。


「いいぞ」


スージーが横を見る。


「何が?」


「まともな反応が二人いる」


「また始まった」


レティが少しむくれた。


その時。


エヴァが肉を食べながら聞いた。


「で」


レティが見る。


「何でござる?」


「レベル上がったらデカくなるだろ?」


「ならぬ」


エヴァが止まった。


「何で?」


「何でと言われても、ならぬ」


「強くなったらデカくなるだろ?」


「ならぬ!」


「普通なるだろ」


リーゼが即座に卓を叩いた。


「普通ではない!」


エヴァが指を折る。


「俺はでかい」


「知っている!」


「聖者もでかい」


少し離れた席から、ノアが顔を上げる。


「僕を基準にしないでよ」


「黒もでかい」


「馬まで混ぜるな!」


エヴァは納得していない。


「でも強いぞ」


レティが両手を広げた。


「レベルが上がっても、身長が倍になったりはせぬ!」


「じゃあ何が増えるんだ」


「能力が上がるのでござる!」


「身体はそのまま?」


「そのまま!」


エヴァは本気で不思議そうだった。


「効率悪くないか?」


「何の効率でござる!」


アデラがレティへ言う。


「そこは俺でもレティの方が分かる」


リーゼの目が少し潤んだ。


スージーがすぐ見る。


「大尉」


「泣いていない」


「まだ何も言ってないわよ」


「先に言っておく」


麗華が呆れたようにリーゼを見る。


レティは話を戻した。


「ともかく、冒険者は仕事をして経験を積む。モンスターを倒すこともある。そしてギルドで確認し、条件を満たしていればレベルが上がる」


ルヴァナが口元を押さえた。


「やっぱゲーム世界じゃん」


レティが首を傾げた。


「げーむ?」


ルヴァナが止まった。


「あ」


ネイラが隣を見る。


「レティ、ゲーム自体を知らないんじゃない?」


「げーむとは何でござる?」


レティが聞いた。


アデラも首を傾げる。


「俺も知らん」


麗華も続く。


「わたくしも存じませんわ」


ルヴァナが三人を見る。


「マジか」


少し離れた席からノアが言った。


「遊びの一種だよ」


レティが聖者を見る。


距離があるので、声だけが食卓を越えて届く。


「遊び?」


「僕の前世では、物語の中の人物を動かして冒険したり、敵と戦ったりする遊びがあったんだ」


クロエが補足する。


「私たちの世界にもある」


アスラも頷いた。


「レベル、職業、装備、ダンジョン。そういう仕組みを持つものも多い」


ルヴァナがレティを指す。


「だからレティの話、ゲーム世界そのままなんだって」


レティの眉が寄る。


「拙者の世界は現実でござる」


「レティからしたら、そりゃそうなんだけどさ」


「遊びの中に、何故わざわざ冒険者ギルドを作るのでござる?」


ノアが少し笑った。


「それをこっちが聞きたいくらいだよ」


レティはますます不思議そうだった。


「変な世界でござるな」


ルヴァナが吹き出した。


「レティに言われた!」


「何故笑うのでござる!」


アデラはまだレベルの方が気になっていた。


「俺はそのゲームというものより、ギルドに行かないと自分のレベルが分からない方が変だと思う」


「普通でござる!」


「鍛錬しろ!」


「しておる!」


「なら自分の腕を信じろ!」


「それとレベルは別でござる!」


麗華が茶を飲みながら言った。


「この二人、しばらく終わりませんわね」


シズクが小さく頷いた。


「少し置いておきましょうか」


「そうしましょう」


しばらくして。


ティセラが別の言葉を拾った。


「先ほど、モンスターを倒すとおっしゃいましたね」


レティが頷く。


「うむ」


「具体的には?」


「色々でござる。スライム、狼型、蜥蜴型、骸骨、ゴブリンなど」


ティセラの手が止まった。


「ゴブリン?」


「うむ」


「ゴブリンを魔物に含めるのですか?」


「含めるも何も、ゴブリンはモンスターでござる」


今度はティセラが困った顔をした。


「私の世界では違います」


レティが驚く。


「違う?」


「ゴブリンは知的種族です。町で商売もしますし、普通に社会の一員として暮らしています」


レティが固まった。


「……ゴブリンが?」


「はい」


「商人?」


「います」


「町に?」


「います」


「人間と?」


「一緒に暮らしています」


レティが言葉を失った。


ティセラは続ける。


「オークも、オーガも同様です」


「オークとオーガは拙者の世界にはおらぬが……」


レティは混乱していた。


「ゴブリンが隣人?」


「ええ」


クロエも口を挟んだ。


「私たちの世界でも、それ自体は珍しくない」


アスラが頷く。


「ゴブリンを見て、即座にモンスター扱いすることはないな」


ネイラも言う。


「社会を作って暮らしてる人たちですからね」


ルヴァナが頷く。


「普通に隣人」


レティが四人を見る。


ティセラを見る。


「五人も!?」


麗華が聞いた。


「そもそも、ゴブリンとは何ですの?」


アデラも頷く。


「俺もそこからだ」


リーゼが顔を上げる。


「小官はもう知っている」


スージーが横を見る。


「ちょっと得意げね」


「経験値が違う」


レティが反応した。


「経験値?」


リーゼが固まった。


ルヴァナが吹き出した。


「大尉までゲーム世界っぽい言葉使った!」


「比喩だ!」


話はさらに拗れた。


クロエがレティへ聞く。


「では、お前の言うモンスターとは何だ」


「魔物でござる」


「その魔物は何をする」


「人を襲う。村を襲う。ダンジョンに棲む。種類によって色々でござる」


アスラが首を傾げた。


「それだけか?」


「それだけとは?」


ネイラが少し考えた。


「私たちのところでモンスターと呼ばれるものとは、かなり意味が違いそうですね」


レティの眉が寄る。


「そなたらのモンスターとは何でござる?」


クロエが当然のように答えた。


「エロ動物」


アスラ。


「エロ植物」


ネイラ。


「エロ魔物ですね」


沈黙。


レティが瞬きをした。


麗華も止まった。


アデラも止まった。


シズクは静かに茶を飲んだ。


ルヴァナが指を折り始める。


「ほら、ケダモノとか植物や魔物が卵を植え付けに来たり」


アスラが続ける。


「苗床にして繁殖する類もいる」


クロエ。


「触手を使うものもいるな」


レティの顔が引きつった。


「待つでござる」


「何だ」


「何故、そなたらのモンスターは、そういう生態ばかりなのでござる!」


クロエが逆に不思議そうだった。


「モンスターだからだろう」


「説明になっておらぬ!」


アスラが聞いた。


「触手は?」


「何が?」


「触手系のモンスター」


「おらぬ!」


「本当に?」


「植物の蔓ならある!」


ルヴァナが首を横に振る。


「そういう触手じゃなくて」


「そういう触手とは何でござる!」


ネイラが説明する。


「獲物を捕まえて、自分の繁殖に利用する類ですね」


レティが卓を叩いた。


「それを分類名のように普通に説明するな!」


アデラがクロエたちを見る。


「俺は今、レティの世界の方がまともに思えてきたぞ」


麗華も静かに頷いた。


「奇遇ですわね。わたくしもですわ」


レティが二人を指差した。


「ほら!」


ティセラが慎重に口を挟んだ。


「私の世界でも、繁殖生態が特殊な魔物は存在します。ただし、魔物の分類をそれだけで決めることはありません」


リーゼがティセラを見る。


「教授の世界が急に中間地点へ来たな」


「分類には社会形成能力、生態、繁殖、魔力構造、系統、法的身分など複数の要素があります」


アデラが即答した。


「分からん」


麗華も頷く。


「同感ですわ」


ティセラが少し傷ついた。


「まだ説明の途中です」


エヴァがレティへ聞いた。


「じゃあ、お前のところのゴブリンはエロいことしないのか?」


「せぬ!」


「何で?」


「何でと言われても!」


エヴァは本気で分からない顔をする。


「じゃあどうやって増えるんだ?」


「ゴブリン同士で増えるでござる!」


「ゴブリン同士で?」


「当たり前でござろう!」


エヴァが感心した。


「へえ」


「何故、新しい生態を知った顔になるのでござる!」


クロエがまだ考えている。


「人間を襲う」


「襲う」


「だが繁殖対象にはしない」


「しない!」


「……それでモンスター?」


「モンスターでござる!」


アスラも腕を組む。


「文化差が大きいな」


「そちらの文化が大きく間違っておる気がするのでござる!」


ルヴァナが笑った。


「やっぱレティの世界、ゲーム世界だわ」


「だから、げーむというものを拙者は知らぬ!」


「モンスターまでゲームっぽいんだもん」


「モンスターはモンスターでござる!」


アデラがレティへ言った。


「俺はまだレベルの方が納得できない」


「まだそこに戻るのでござるか!」


「鍛錬した方が分かりやすいだろ」


「鍛錬もする!」


麗華が二人を見た。


忍者たちを見る。


ティセラを見る。


それからシズクへ顔を向けた。


「シズク」


「はい」


「この説明、今後もずっとこの調子ですの?」


シズクは少し考えた。


「おそらく」


麗華は静かに茶を飲んだ。


「……先が長そうですわね」


少し離れた同じ食卓の端で。


ノアが苦笑した。


「僕も最初はそう思ったよ」


三人はまだ。


谷底の巨大生物も。


第五も。


鶏の木も。


バロメッツも。


綿雲虫も。


黒も。


その他のものも。


ほとんど知らない。


まだ。


レティの世界を説明しているだけだった。

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