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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第二十章 谷底Ⅷ

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【一般公開版】第百四十九話 純潔なのは、僕じゃなくて乗る方だよ

夕方。


谷底が赤く染まり、大瀑布の飛沫が橙色に輝いていた。リーゼはバルコニーで記録を整理し、珍しい静けさを味わっていた。


「……こういうのでいいんだ」

「最近、普通に飢えてるわね」

隣のスージーが笑う。


そのとき、どん、と地面が揺れた。


草原の向こうに、四メートル級の巨大な影が二つある。一頭は黒い軍馬、黒。もう一頭は、一本角を持つ真っ白なユニコーンだった。


二頭は地面へ引いた線を挟み、向かい合っている。


「何をしている?」

「競走じゃない?」


合図もなく、二頭が走り出した。黒い巨体と白い巨体が草原を駆けるたび、地面が揺れ、館の窓が鳴る。


黒が鳴いた。

「ぶひひひーん!」

続いて。

「ヴォオオオッ!」


リーゼが叫ぶ。

「やはり後半が分からん!」


ユニコーンも負けじと声を上げる。

「僕ぅぅぅっ! 負けないからねぇぇぇ!」


館の皆が次々と外へ出てきた。ルヴァナは大笑いし、ネイラは振動の周期を数える。エヴァは腕を組んで満足そうにうなずいた。


「黒は元気そうだな」

「元の主人として止めろ!」

「馬が走ってるだけだぞ」

「四メートル級二頭が館の横で全力疾走しているんだ!」


黒とユニコーンは草原を往復し、今度は障害物競走を始めた。倒木を越え、大岩を回り、水路を飛び越える。夕焼けを背負った姿だけなら、神話の一場面のように美しい。


そこでスージーが首を傾げた。


「ユニコーンって、純潔な乙女しか背中に乗せないんじゃなかった?」

皆が白い巨体を見る。


リーゼは遠くへ叫んだ。

「おい、ユニコーン! 貴様、純潔はどうした!」


白い耳がぴくりと動く。


「それ、僕が純潔じゃなきゃいけないって話じゃないよね!?」

「……何?」

「背中に乗る方の話でしょぉぉぉっ!」


スージーが吹き出し、ルヴァナも笑った。


「確かに!」

「いや、しかしユニコーンといえば清らかな――」

「僕だって泥遊びもするし、木の実酒だって飲むよ!」

「堂々と言うな!」

「清らかな乙女を乗せる伝承と、僕の日常は別の話!」


ティセラが真面目にうなずく。

「論理的には正しいですね」

ノアも続けた。

「伝承上の条件は騎手側に掛かっていると考えるのが自然だね」


「ほらぁぁぁ!」


リーゼは言葉に詰まった。


「ユニコーンの勝ち」

ルヴァナが宣言する。

「何の勝負だ!」


すると黒が横から駆け抜け、先にゴール線を踏んだ。


「ぶひひひーん! ガオオオオッ!」

「黒も勝ったって!」

「それだけは絶対に分からん!」


二頭は再戦を始めた。どん、どん、と館が揺れる。


リーゼは美しい夕焼けを見ながら、深くため息をついた。


「……普通を願う時は、規模まで指定しなければ駄目だったらしい」


スージーは、しばらく笑っていた。

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