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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第二十章 谷底Ⅷ

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第百四十七話 腐っているのではなく、熟成していた

最初に異変を見つけたのは、スージーだった。


男根筍の竹林。


若いうちは刺身にすると妙に美味く、放っておけば黒く育ち、表面へ縦横無尽に太い道管と師管を浮き上がらせる。


見た目だけなら、どう考えても血管の浮いた巨大な男性器。


だが、材としては軽く、丈夫で、加工しやすい。


最近ではもう、リーゼも黒竹そのものには驚かなくなっていた。


問題は。


その日見つけた二本だった。


「……大尉」


「何だ」


「ちょっと来て」


リーゼは嫌そうな顔をした。


最近。


スージーの「ちょっと来て」で、まともなものが見つかったためしがない。


それでも行く。


竹林の奥。


スージーが一本の黒竹を指差した。


いや。


一本ではなかった。


二本。


互いに近い場所から伸びた成熟した男根筍が、途中から絡み合っていた。


一本が曲がる。


もう一本へ巻き付く。


巻き付かれた方も曲がる。


そのまま。


互いの表面を押しつけながら。


螺旋状に。


ぐるぐる。


絡み合っている。


リーゼは止まった。


「……何故だ」


スージーが言う。


「私もそれを聞きたい」


表面には、例の太い道管と師管。


黒い外皮の上へ、血管のように盛り上がっている。


二本が接触している部分では、その筋同士まで絡み合っているように見えた。


しかも。


接触面。


湿っている。


白っぽい液体。


わずかに粘る。


リーゼが即座に言った。


「よし、離そう」


「待って」


後ろからティセラ。


リーゼが振り向く。


「教授、いつからいた」


「スージーに呼ばれました」


「何故、小官より先に教授を呼ぶ!」


スージーが答える。


「珍しいものだったから」


「小官は安全管理担当か!」


「そうじゃない?」


リーゼは否定できなかった。


         ◇


まず。


触らない。


棒。


シズクが長い棒を持ってきた。


絡み合った黒竹の間へ。


つん。


何もない。


もう少し。


つん。


竹がわずかに揺れる。


その瞬間。


低く。


「ん゛お゙ぉ゙……」


リーゼが目を閉じた。


「知っていた」


もう一本も揺れる。


「ぐぅ゙ぅ゙……っ」


スージーが言う。


「二本で声違う」


ティセラが記録する。


「内部空洞の大きさに差がありますね」


「そこを研究しなくていい!」


しかし。


問題はそこではなかった。


絡み合った竹の根元。


少し陰になったところに。


何かいる。


一つ。


二つ。


三つ。


さらに。


その奥。


スージーの猫耳が立った。


「アワビ」


陸生アワビだった。


以前見つけた。


成熟した男根筍の黒竹へ吸着し、表面の分泌物を舐めるようにして暮らす、妙な陸生生物。


だが。


今日のものは。


少し違った。


大きい。


明らかに。


肉厚。


色も濃い。


そして。


ほとんど動かない。


黒竹二本が絡んだ隙間へ、身体を押し込むように張り付いている。


リーゼが嫌そうな顔をした。


「……死んでいないだろうな」


ティセラが長い棒で軽く触れる。


ぎゅっ。


陸生アワビがさらに吸着する。


「生きています」


「では何故こんなに動かない」


「分かりません」


スージーが鼻を近づけようとする。


リーゼが襟を掴んだ。


「嗅ぐな」


「まだ嗅いでない」


「最近、白濁液には碌な臭いがない!」


それは経験だった。


白濁石油。


イカ臭い。


黒竹内部の白濁液。


イカ臭い。


今回。


二本の黒竹が接触している場所にも。


白い液。


リーゼは風上へ移動した。


「教授、まず臭気だ」


「はい」


ティセラも直接鼻を近づけない。


布。


棒。


少量採取。


十分離す。


風。


少しだけ。


「……」


教授が止まる。


リーゼが警戒する。


「イカか」


「少し」


「やはり!」


「ですが」


ティセラがもう一度慎重に確認する。


「発酵臭があります」


スージーが言う。


「発酵?」


「はい。酸味があります。それに、少し甘い」


リーゼが嫌な顔をした。


「腐っているのではないだろうな」


         ◇


それが。


最初の仮説だった。


腐敗。


二本の黒竹。


高湿度。


白濁した植物汁。


そこへ陸生アワビが密集。


しかも個体は動きが鈍く。


色も濃い。


「腐ってる?」


ルヴァナが後から来て、開口一番そう言った。


リーゼが言う。


「小官もそう思っている」


ネイラが陸生アワビを見る。


「でも臭いは強いけど、腐敗した肉の臭いとは違う気がする」


ティセラも頷く。


「組織崩壊も見られません」


一匹だけ。


慎重に採取する。


竹から剥がす。


かなり強い。


ぺり。


「ん゙ぉ……」


リーゼが止まった。


「今、アワビまで鳴いたか」


ティセラが答える。


「圧迫された空気が――」


「もういい。仕組みは分かっている」


採取個体を調べる。


腐敗。


なし。


壊死。


なし。


寄生虫。


問題なし。


むしろ。


通常個体より。


身が厚い。


水分は少し減っている。


内部の旨味成分。


高い。


脂質に近い成分も変化している。


ティセラが数値を見る。


「……これは」


リーゼが言った。


「何だ」


「腐ってはいません」


「では何だ」


ティセラが少し考えた。


「熟成しています」


沈黙。


スージーが言う。


「アワビが?」


「はい」


「竹に吸い付いたまま?」


「はい」


リーゼが絡み合う二本の黒竹を見る。


さらに。


その間に挟まる。


陸生アワビ。


「何故だ」


ティセラが説明する。


「二本の成熟竹が接触し続けることで、互いの表面が擦れています。そこから通常より多量の植物汁が出ています」


スージーが続ける。


「それをアワビが食べる?」


「おそらく」


「でも、普通の黒竹にいるアワビより動かない」


「この隙間は湿度と温度がかなり安定しています」


ネイラが周囲を見る。


「二本が絡んで、日陰もできてる」


ティセラが頷く。


「さらに植物汁そのものが、表面で軽く発酵しています」


リーゼが額を押さえた。


「待て」


嫌な予感がする。


「つまり」


教授。


「はい」


「男根筍が二本絡む」


「はい」


「擦れて白濁した植物汁を出す」


「はい」


「その間へ陸生アワビが入る」


「はい」


「白濁液を食べながら」


「はい」


「そこで熟成する?」


「その可能性が非常に高いです」


リーゼは天を仰いだ。


「何だ、この生態系は!」


         ◇


当然。


食味試験になった。


リーゼは反対した。


「腐っている可能性を疑ったものを、同じ日に食うな!」


ティセラが答える。


「腐敗していないことは確認しました」


「だからといって!」


エヴァが言った。


「熟成してるんだろ?」


「貴様は黙れ!」


シズクが七輪を用意していた。


リーゼが振り向く。


「シズク!」


「はい」


「何故もう炭を熾している!」


「以前、陸生アワビは七輪焼きが一番美味しかったので」


正しい。


非常に。


正しい。


だから。


腹立たしい。


         ◇


普通の陸生アワビ。


比較用。


七輪。


じゅう。


「んお゙ぉ゙……っ」


身が縮む。


「お゙ほぉ゙っ!」


ぴゅっ。


ルヴァナが避ける。


「今日も潮吹くね」


「実況するな!」


次。


熟成個体。


網へ。


じゅう。


最初。


何もない。


さらに。


じゅう。


身がゆっくり縮む。


「ん゙……ぉ゙……」


低い。


スージーの猫耳が動く。


「声も低い」


ティセラが言う。


「組織密度が変化しているからかもしれません」


さらに焼く。


じゅう。


「んお゙ぉ゙ぉ゙……っ!」


そして。


ぷく。


液体が溜まる。


リーゼたちは。


一斉に下がった。


ルヴァナも。


今度は学習している。


「お゙ほぉ゙ぉ゙っ!」


ぴゅっ。


少量。


普通の個体より少ない。


ティセラが言った。


「水分量も減っていますね」


香り。


来る。


エヴァが鼻を動かした。


「これ」


ノアも。


「かなりいい匂いだね」


普通の陸生アワビより。


濃い。


炭火。


焦げる表面。


貝類のような香り。


その奥。


少し。


発酵した甘い匂い。


シズクが焼き上がった個体を切る。


断面。


肉厚。


艶。


普通のものより、色が少し濃い。


エヴァが食べる。


止まる。


リーゼが警戒する。


「どうだ」


エヴァはもう一切れ取った。


「うまい」


「普通のと比べて」


「こっち」


即答。


スージーも食べる。


猫耳が立つ。


「……濃い」


ノアも。


「旨味が全然違う」


ネイラも。


「噛んだ後に甘みが残る」


ルヴァナも。


「これ、めっちゃうまい!」


リーゼは。


嫌だった。


非常に嫌だった。


だが。


食べる。


一口。


噛む。


弾力。


普通の陸生アワビより柔らかい。


しかし。


食感は残っている。


旨味。


強い。


さらに。


後から。


甘み。


発酵由来なのか。


少し熟成肉にも似た。


濃い香り。


リーゼは黙った。


スージーが見る。


「大尉」


「何だ」


「美味しい?」


「……うまい」


「熟成した方?」


「……うまい」


「どっち?」


リーゼが机代わりの板を叩いた。


「熟成した方だ!」


         ◇


調査を続ける。


どうやら。


条件がある。


黒竹が一本だけ。


そこへ陸生アワビ。


普通。


美味い。


二本の成熟黒竹が近接。


絡み始める。


接触部から植物汁が増える。


そこへ陸生アワビ。


少しずつ。


身が厚くなる。


移動量が減る。


数日。


さらに。


水分が適度に抜ける。


旨味が増える。


発酵した植物汁由来と思われる成分も取り込む。


結果。


熟成。


スージーが言う。


「天然の熟成庫みたいになってる?」


ティセラが頷く。


「かなり近いと思います」


リーゼが黒竹を見る。


「これが?」


「はい」


二本。


黒い男根筍。


縦横無尽に道管と師管を浮かせ。


互いに絡み。


接触面を湿らせ。


その隙間。


陸生アワビ。


熟成。


リーゼは頭を抱えた。


「見た目だけなら絶対に食料生産設備ではない!」


ノアが苦笑する。


「自然のものだからね」


「自然の方が問題だ!」


         ◇


さらに。


問題が一つ。


熟成させすぎると。


本当に腐る。


ティセラが別の個体を調べていた。


「こちらは駄目です」


リーゼが言う。


「何日だ」


「推定では、適熟状態をかなり越えています」


見た目。


少し崩れる。


臭い。


明確な腐敗臭。


リーゼが安心した。


「よし」


全員が見る。


「何だ」


スージーが聞く。


「なんで安心してるの?」


「腐ったら普通に腐ると分かった!」


「そこ?」


「そこだ!」


これで。


一応。


食材としての管理方法が決まった。


男根筍の黒竹二本が絡んだ場所。


そこへ陸生アワビが定着したら。


日付を記録。


状態確認。


適熟前。


まだ普通。


適熟。


非常に美味。


放置しすぎ。


腐る。


リーゼは強調した。


「腐る前に取れ!」


ティセラが頷く。


「熟成期間の標準化が必要ですね」


「必要だ!」


スージーが笑う。


「大尉、もう熟成させる前提になってる」


リーゼが止まった。


「……」


黒竹。


見る。


陸生アワビ。


見る。


昨日食べた。


熟成個体。


思い出す。


「……食料を無駄にする方が悪い」


エヴァが笑った。


「素直じゃねえな」


「うるさい!」


         ◇


最終記録。


成熟した男根筍の黒竹。


複数個体が近接すると、成長方向が変化し、互いに絡み合う場合あり。


接触部。


摩擦および圧迫により、白濁した植物汁の分泌量増加。


液体。


軽度の発酵。


その周囲。


陸生アワビ様生物が集積する場合あり。


陸生アワビは、安定した湿度と温度、植物汁を利用して長期間留まる。


一定期間。


身の水分量が低下。


旨味成分増加。


肉厚化。


食味向上。


状態。


腐敗ではなく。


熟成。


最適調理。


七輪焼き。


適熟を超えて放置した場合。


普通に腐る。


リーゼは最後の一行を指差した。


「ここは大きく書け」


ティセラが聞く。


「腐敗します、を?」


「そうだ!」


「では」


教授が大きく書く。


『熟成と腐敗は別。放置しすぎないこと』


リーゼは満足した。


「よし」


スージーがその上を見る。


さらに。


ティセラの記録。


『通称候補:男根筍絡み熟成陸生アワビ』


リーゼが叫んだ。


「もっと何とかならんのか、その名前は!」


ルヴァナが横から言う。


「熟れアワビでよくない?」


沈黙。


全員。


考える。


リーゼが即答した。


「それも嫌だ!」


         ◇


夕方。


黒竹林。


二本の成熟した男根筍が。


今日も。


互いに絡んでいる。


風。


ぎし。


「ん゛お゙ぉ゙……」


もう一本。


「ぐぅ゙ぅ゙……っ」


その隙間。


陸生アワビ。


ぴったり。


動かない。


スージーが記録札を立てた。


『熟成中。あと三日予定』


リーゼは札を見る。


黒竹を見る。


アワビを見る。


「……本当に腐ってないんだよな」


ティセラが答える。


「今は熟成です」


「三日後は?」


「食べ頃でしょう」


「五日後」


「まだ大丈夫かと」


「十日後」


「おそらく腐ります」


リーゼが深く頷いた。


「よし。三日後に食う」


スージーが笑った。


「楽しみにしてるじゃない」


リーゼは。


少しだけ間を置いた。


「……食料管理だ」


黒竹の間から。


陸生アワビが。


「ん゙……」


と。


小さく鳴いた。


リーゼは即座に言った。


「貴様は黙って熟成していろ!」

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