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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第二十章 谷底Ⅷ

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第百四十六話 谷底収穫祭

収穫祭をやろう。


そう言い出したのはノアだった。


理由は単純である。


最近、採れるものが増えた。


米。


栗。


魚。


卵。


筍。


陸生アワビ。


どれも食材としては非常に優秀で、保存や加工の方法も少しずつ分かってきた。


畑も。


川も。


鶏の木も。


黒竹の林も。


以前より安定して食料を出してくれる。


なら。


一度くらい。


採れたものを惜しまず使って、全員で腹いっぱい食べてもいい。


そこまでは。


実にまともな話だった。


リーゼも賛成した。


「たまにはいいだろう。備蓄量にも余裕がある」


シズクも嬉しそうに頷く。


「では、少し豪華にしましょう」


エヴァが笑う。


「肉も出せ」


「もちろんです」


ルヴァナが手を挙げる。


「栗ご飯!」


ネイラも続けた。


「温泉卵も食べたい」


スージーが言う。


「熟れた女魚の刺身」


ティセラが眼鏡を直した。


「陸生アワビも、食用資源として再評価するには良い機会ですね」


リーゼは一瞬だけ止まった。


そして。


全員の顔を見た。


嫌な予感。


非常に嫌な予感。


「待て」


誰も止まらなかった。


         ◇


朝から。


調理場は大忙しになった。


まず。


米。


シズクが穀物畑から白いニンジン状の作物を運んでくる。


ルヴァナが一本持つ。


「これ、もう見慣れた」


リーゼが言う。


「小官もだ」


「最初はあんなに叫んでたのに」


「言うな」


葉の根元を引く。


ポン。


さらさらさらさら。


白米。


もう一本。


ポン。


さらさらさら。


また米。


ネイラが受け容器を持ちながら言う。


「普通に便利だよね」


リーゼが遠い目をした。


「見た目以外はな」


そして。


今日使う栗。


陰毛栗。


黒く。


細く。


縮れた植物繊維が。


もじゃもじゃと毬を覆っている。


ルヴァナが籠いっぱいに持ってきた。


「陰毛栗どっさりー」


リーゼが即座に振り向く。


「大声で言うな!」


スージーが一つ手に取る。


「でも本当に収穫楽なのよね」


柔らかい。


棘が刺さらない。


手袋もいらない。


中身は大粒。


甘い。


香りも強い。


リーゼが言う。


「何故、見た目だけ犠牲にして全部を得ているんだ」


ティセラが答えた。


「生存戦略――」


「今日は言うな!」


栗を剥く。


米と合わせる。


塩。


水。


炊く。


しばらくして。


蓋の隙間から。


甘い香り。


ルヴァナがうろうろし始める。


「まだ?」


シズクが答える。


「まだです」


「もういい匂いする」


「まだです」


エヴァまで来る。


「まだか?」


「エヴァもですか」


「腹減った」


シズクが笑った。


「お昼ではなく、今日は夕食が本番ですよ」


「先が長いな」


         ◇


次。


木に出来る温泉卵。


普通の鶏の木ではない。


例の。


全身粘液まみれ。


周辺へ硫黄臭とも、チーズ臭とも、何とも言いがたい生々しい臭気を漂わせ。


ほぼ絶えず。


「んお゙ぉ゙……っ! ぐぅ゙ぶぅ゙……っ!」


と鳴く木。


今日も元気だった。


リーゼは風上に立っている。


「必要な分だけ回収したら、すぐ離れるぞ」


ルヴァナが聞く。


「取らないの?」


「取るな」


「でも早く欲しい」


「自然に落ちるまで待て。その方が美味い」


スージーが笑う。


「大尉、完全に学習してる」


「味にむらが出るからだ!」


枝。


震える。


「んお゙ぉ゙……っ」


「来るよ」


ルヴァナが言う。


さらに。


ぶるぶる。


「ぐぅ゙ぶぅ゙……っ!」


そして。


「ぃ゙ぐぅ゙っー!」


ぽとん。


ぽとん。


ぽとぽと。


卵状果実が落ちる。


割れない。


ネイラが拾う。


「まだ温かい」


スージーも一つ。


「産みたて」


リーゼが叫ぶ。


「自然落果直後!」


ルヴァナが笑う。


「大尉、それもう誰も使ってないよ」


「使え!」


今日の卵。


状態良好。


温度。


良好。


中身。


出汁入り。


半熟。


完成済み。


リーゼは悔しそうに言った。


「本当に、料理の手間がないんだよな」


シズクが頷く。


「殻を割るだけです」


「そこまで優秀にするな……」


         ◇


川。


次は魚だった。


若い男魚。


繁殖可能になる、その直前。


食味が最も良い。


母魚の管理下から外れた個体だけを少数採る。


シズクが処理する。


塩。


振る。


焼き台へ。


じゅう。


「んっ……!」


リーゼが目を閉じた。


じゅう。


「ぁ……んっ……!」


裏返す。


「んっ……あぁ……っ!」


スージーの猫耳が動く。


「今日もいい声」


リーゼが叫ぶ。


「評価するな!」


エヴァが笑う。


「焼き上がりの目安になるじゃねえか」


「そんな目安はいらん!」


ティセラは真面目だった。


「発声音程と内部温度に相関があるなら――」


「教授、祭りの日まで研究するな!」


しかし。


焼き上がると。


完全に普通の焼き魚。


皮。


ぱりっ。


身。


ふっくら。


脂。


軽い。


塩。


それだけ。


味。


非常に良い。


ルヴァナが一匹を見つめる。


「これ、絶対いっぱい食べる」


リーゼが言う。


「夕食まで待て」


「つらい」


         ◇


そして。


熟れた女魚。


育児を終え。


身が完成した大型雌。


今日は保存していた良質な個体を使う。


シズクが包丁を入れる。


すっ。


柔らかい。


だが。


崩れない。


薄く。


刺身。


皿へ。


艶。


ねっとり。


スージーが横から見ている。


「これだけは、切ってる時点でもう違うのよね」


シズクが頷く。


「はい」


ティセラが言う。


「旨味成分も、他の成長段階とは比較になりません」


リーゼが聞く。


「今日は分析しないんだな」


「既にしていますので」


「そうだった」


エヴァが一切れ取ろうとする。


シズクが箸を止める。


「夕食まで待ってください」


「味見」


「先ほどしました」


「俺はしてない」


「エヴァ」


シズクが見る。


エヴァが引く。


「分かった」


リーゼが少し驚いた。


「貴様、シズクには弱いな」


「飯作ってる奴には逆らわねえ」


「そこは賢い」


         ◇


男根筍。


若いもの。


まだ黒竹になる前。


シズクが一本置く。


包丁。


ざく。


「ん゛お゙……っ!」


ざく。


「ぐぅ゙……っ!」


ざくざく。


「お゙ほぉ゙……っ!」


シズクは。


全く気にしない。


薄く。


均一。


刺身。


ルヴァナが見ている。


「シズクさん、ためらいないよね」


「筍ですので」


「形は?」


「筍です」


「声は?」


「筍です」


「強い」


リーゼが深く頷いた。


「シズクは強い」


若男根筍。


生。


しゃきしゃき。


甘い。


瑞々しい。


これも。


刺身が一番。


         ◇


最後。


七輪。


炭。


陸生アワビ。


男根筍の成熟黒竹へ吸い付く、あの陸生生物。


シズクが網へ載せる。


じゅう。


「ん゙……っ」


リーゼが言う。


「始まった」


じゅう。


「んお゙ぉ゙……っ!」


ルヴァナが笑う。


「今日も元気」


「焼かれているんだぞ!」


身が縮む。


内部の液体が膨らむ。


ティセラが一歩下がる。


リーゼも下がる。


スージーも。


ノアも。


ルヴァナだけその場にいる。


「何でみんな下がるの?」


次の瞬間。


「お゙ほぉ゙っ!」


ぴゅっ。


ルヴァナが避ける。


「危なっ!」


リーゼが叫ぶ。


「だから下がったんだ!」


七輪。


香り。


非常に良い。


炭。


陸生アワビ。


じゅう。


「んお゙ぉ゙……っ」


じゅう。


「お゙ほぉ゙っ!」


どう考えても音だけは最悪だった。


だが。


焼き上がる。


切る。


弾力。


濃い旨味。


少し甘い。


七輪焼き。


最良。


         ◇


夕方。


館の前。


いつもより大きな長机が出された。


ノアが追加の机を運ぶ。


エヴァも運ぶ。


ルヴァナも。


「師匠、こっち!」


「おう」


並べる。


椅子。


皿。


椀。


箸。


匙。


飲み物。


そして。


料理。


一つずつ。


食卓へ。


最初。


栗ご飯。


ニンジンから出た米。


陰毛栗。


炊きたて。


蓋を開ける。


湯気。


甘い香り。


栗。


大粒。


米。


ふっくら。


ルヴァナが声を上げる。


「おおー!」


ネイラも笑う。


「すごくいい匂い」


次。


木に出来る温泉卵。


殻ごと。


籠いっぱい。


割れば。


半熟。


出汁入り。


温かい。


次。


若い男魚の塩焼き。


ずらり。


焼き上がった後なので。


もう喘がない。


リーゼが少し安心する。


次。


熟れた女魚。


大皿。


刺身。


艶。


薄切り。


たっぷり。


スージーの猫耳が立つ。


「これ一番楽しみ」


次。


若男根筍。


刺身。


白い。


瑞々しい。


しゃきしゃき。


そして。


七輪。


まだ炭が赤い。


陸生アワビ。


焼きたて。


エヴァが言う。


「豪華だな」


シズクも食卓を見る。


少し満足そうだった。


「今日は収穫祭ですから」


ノアが皆を見る。


「じゃあ、食べようか」


誰も反対しなかった。


         ◇


最初。


栗ご飯。


エヴァ。


大盛り。


ルヴァナ。


大盛り。


ネイラも。


スージーも。


リーゼも。


一口。


ほく。


米。


甘い。


栗。


さらに甘い。


香り。


良い。


ルヴァナが言う。


「うまーい!」


エヴァも。


「これはいいな」


リーゼは茶碗を見る。


「陰毛栗なのに」


スージーが笑う。


「言わなきゃ普通の栗ご飯よ」


「言ったのは貴様らだ!」


次。


温泉卵。


割る。


とろ。


黄身。


半熟。


出汁。


ルヴァナが食べる。


「これもおいしい」


ネイラも。


「味付けしなくていいの、本当に便利」


リーゼが言う。


「声と臭いがなければな」


エヴァが答える。


「食卓に来たら関係ねえ」


「それもそうなんだよな……」


若い男魚。


塩焼き。


皮。


ぱり。


身。


ふわ。


ノアが食べる。


「うん」


スージーも。


「塩だけで十分」


リーゼも。


「……うまい」


七輪。


陸生アワビ。


焼きたて。


弾力。


旨味。


香ばしい。


エヴァが食べる。


「酒ほしいな」


ノアが笑う。


「あるよ」


「よし」


リーゼが言う。


「祭りだから今日は許す」


ルヴァナがアワビを噛む。


「これ好き」


「焼いてる時を見なければな」


リーゼが答える。


「何で?」


全員がルヴァナを見る。


「何?」


ネイラが言う。


「さっき飛んできたでしょ」


「あー」


ルヴァナは気にしない。


「でも美味しいし」


リーゼが遠い目をした。


「強い」


若男根筍。


刺身。


しゃく。


甘い。


瑞々しい。


シズクが言う。


「やはり採った日に生で食べるのが一番ですね」


エヴァも。


「うまい」


リーゼも。


一切れ。


「……認める」


そして。


最後。


熟れた女魚。


刺身。


全員。


何となく。


最後に残していた。


エヴァが一切れ。


食べる。


黙る。


スージー。


一切れ。


猫耳。


ぴん。


黙る。


クロエ。


食べる。


少し目を細める。


アスラも。


「……ほう」


ネイラ。


「すごい」


ルヴァナ。


「……何これ」


ノア。


黙って二切れ目。


シズクも。


ティセラも。


リーゼが全員を見る。


「また全員黙るのか」


自分も食べる。


そして。


黙る。


ねっとり。


旨味。


脂。


甘み。


香り。


余韻。


どれかではない。


全部。


それでも説明にならない。


エヴァが言った。


「熟れてる」


スージーも。


「熟れてる」


クロエも。


「熟れている」


アスラも頷く。


ルヴァナが言う。


「なんか、めちゃくちゃ美味しいより、熟れてるって言いたくなる」


リーゼが机を叩いた。


「食味評価としておかしいんだよ!」


ティセラが静かに答えた。


「しかし、最も近い表現です」


リーゼはもう一切れ。


「……否定できん」


         ◇


食卓は。


賑やかだった。


栗ご飯。


おかわり。


温泉卵。


追加。


若い男魚。


次々なくなる。


陸生アワビ。


七輪から焼けた順。


男根筍。


刺身。


どんどん減る。


熟れた女魚。


一番早く消える。


ルヴァナが言う。


「女魚もうない!」


シズクが答える。


「今日はこれで終わりです」


「もっと食べたかった」


エヴァも言う。


「俺も」


スージーも。


「これは分かる」


リーゼまで。


「……小官もだ」


全員が見る。


リーゼが怒る。


「何だ!」


ルヴァナが笑う。


「大尉もめっちゃ楽しんでる」


「収穫祭だからな!」


「いつもより食べてない?」


「祭りだからだ!」


ノアが笑った。


「じゃあ成功だね」


リーゼが食卓を見る。


空になり始めた皿。


茶碗。


籠。


七輪。


まだ少し赤い炭。


皆。


よく食べた。


今日だけは。


食材が。


何に似ているとか。


何の声で鳴くとか。


何を吹くとか。


どんな臭いがするとか。


そこは。


あまり考えないことにした。


味は。


全部。


良かった。


いや。


良すぎた。


リーゼは少し酒を飲み。


言った。


「……結局」


ティセラが見る。


「はい」


「頭のおかしい食材ほど、性能がいい」


「生存戦略でしょうか」


リーゼの眉が跳ねる。


「今日くらい言うな!」


皆が笑った。


その時。


遠く。


ぱん。


「んお゙ぉ゙……」


「ヌボボ」


白濁石油を吐く水槌ポンプ。


さらに。


「ぃ゙ぐぅ゙っー!」


鶏の木から。


温泉卵が一つ落ちる。


竹林。


低く。


「お゙ほぉ゙ぉ゙……」


黒竹。


リーゼは。


聞かなかったことにした。


今日くらい。


いい。


食卓には。


美味いものがある。


仲間がいる。


酒もある。


腹いっぱい食べられる。


谷底の収穫祭は。


どう考えても。


食材の由来だけは最悪だったが。


祭りとしては。


大成功だった。

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