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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
第二十章 谷底Ⅷ

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第百四十二話 男根筍は刺身がいちばん美味い

それを最初に見つけたのは、シズクだった。


館から少し離れた竹林の端。


昨日までは何もなかった場所から、妙に太い筍が何本も顔を出していた。


普通なら、それだけで終わる。


問題は。


形だった。


シズクはしゃがみ込んだ。


じっと見る。


さらに少し近づく。


「……これは」


後ろからリーゼが来た。


「どうした」


シズクは無言で指差した。


リーゼも見る。


止まる。


「……何だ、これは」


筍である。


間違いなく植物。


地面から生えている。


外皮もある。


節らしき構造もある。


だが。


形だけが。


どう見ても男性器だった。


根元は太く。


先端は丸く張り。


外皮の重なり方まで、余計なところでそれらしく見える。


リーゼは数秒黙った。


「触るな」


「まだ触っていません」


「棒を使え」


「はい」


シズクは長い棒を取った。


つん。


筍。


反応なし。


もう一度。


つん。


何もない。


シズクは少し考え。


今度は包丁を取り出した。


リーゼが止める。


「待て」


「食べられるか確認します」


「何故、その判断がそこまで早い!」


「筍ですので」


「形を見ろ!」


「形と味は関係ありません」


シズクは迷わなかった。


ざく。


切る。


低く籠もった声が響いた。


「ん゛お゙ぉ゙ぉ゙……っ!」


リーゼが固まった。


シズクの手も一瞬止まる。


筍の断面から。


透明な植物汁がにじむ。


シズクは首を傾げた。


「鳴きましたね」


「鳴いたな」


「男らしい声でした」


「評価するな!」


         ◇


当然。


ティセラが呼ばれた。


スージーも来た。


ノアも来た。


エヴァも来た。


そして。


シズクは既に二本目を切っていた。


「ん゛お゙ぉ゙……っ!」


ざく。


「ぐぅ゙ぅ゙……っ!」


ざく。


リーゼが叫んだ。


「何故、調査班が来る前に解体している!」


シズクが答える。


「一本は試食用です」


「まだ食うな!」


エヴァが断面を見る。


「うまそうじゃねえか」


リーゼが振り向く。


「貴様は黙れ!」


スージーもしゃがみ込む。


「竹の仲間には見えるわね」


ティセラが断面を調べる。


「内部構造もかなり近いです」


「毒は?」


リーゼが聞く。


「まだ確認中です」


「なら誰も食うなよ!」


シズクは包丁を持ったまま待った。


安全確認。


既知毒。


魔力反応。


刺激性。


腐食性。


簡易的な生物反応。


問題なし。


ティセラが言った。


「少量なら試食可能と判断します」


シズクが即座に動いた。


「では」


薄く切る。


しゃっ。


しゃっ。


しゃっ。


リーゼが見た。


「刺身?」


「はい」


「加熱しないのか」


「まず生で」


「何故そこまで迷いがない!」


シズクが一切れ食べた。


しゃく。


止まる。


もう一切れ。


しゃく。


シズクの表情がわずかに明るくなった。


「美味しいです」


エヴァが即座に手を出す。


「俺も」


「待て」


リーゼが止める。


「シズク」


「はい」


「本当に?」


「はい。甘みがあります。えぐみも少なく、食感が非常に良いです」


スージーも少量食べる。


猫耳が立つ。


「……美味しい」


ノアも。


「ほんとだ。生の方が良さそうだね」


エヴァが食べる。


「うめえ!」


リーゼが疑う。


「加熱したらもっと良い可能性は?」


シズクが言った。


「比較します」


         ◇


焼く。


茹でる。


蒸す。


炙る。


漬ける。


そして。


生。


結論。


生が一番だった。


シズクが薄切りを皿へ並べる。


白く瑞々しい。


しゃきっとした歯触り。


わずかな甘み。


青臭さも少ない。


刺身にすると。


妙に完成度が高い。


スージーが言う。


「これ、山葵みたいなのがあったら合いそう」


シズクが頷く。


「塩だけでも美味しいです」


エヴァは何枚も食べている。


「酒にも合うな」


リーゼが額を押さえた。


「何故、あの形で食材として優秀なんだ」


ノアが苦笑する。


「最近そういうの多いね」


ティセラが真面目に記録する。


『若芽段階。生食時の食味が最良』


リーゼが言った。


「もっと普通の書き方はないのか」


「普通です」


「見た目が普通ではない!」


         ◇


問題は。


放置した個体だった。


数日後。


若い筍だったものは、一気に成長していた。


高さ。


太さ。


節。


どれも竹らしい。


だが。


色が違う。


黒い。


真っ黒に近い。


そして表面には。


太い筋が。


縦へ。


横へ。


曲がり。


枝分かれしながら。


異様なほど浮き上がっている。


スージーが止まった。


「……血管?」


リーゼも嫌そうな顔をする。


「見えるな」


ティセラが近づく。


「植物です」


「分かっている!」


「では確認しましょう」


表面を調べる。


一部を薄く削る。


断面を見る。


ティセラがしばらく観察した。


そして。


「道管と師管ですね」


リーゼが止まる。


スージーが聞く。


「表面まで浮き出てるの?」


「はい。内部の維管束が異常に太く、外側から明瞭に確認できる状態です」


リーゼは黒い竹を見る。


縦横無尽。


太い筋。


どう見ても。


「……血管にしか見えん」


ノアが言う。


「構造的には植物の通導組織だね」


「分かっていても嫌なんだ!」


スージーは面白そうに眺めている。


「でも、成長が早いなら竹材として使えるかも」


リーゼが顔を上げる。


「そこだ」


試しに一本。


伐る。


シズクが斧を構える。


リーゼが止める。


「待て」


「何でしょう」


「さっきの声」


「鳴くと思います」


「やはりか」


シズクは普通に振り下ろした。


がん。


竹。


「ん゛お゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙……っ!」


リーゼが目を閉じた。


もう一撃。


がん。


「ぐぅ゙ぅ゙ぅ゙……っ!」


さらに。


がん。


「お゙ほぉ゙ぉ゙ぉ゙……っ!」


倒れる。


ばさばさばさっ。


沈黙。


スージーが言った。


「……低いわね」


ティセラも頷く。


「若芽より成体の方が共鳴腔が大きいのでしょう」


リーゼが振り向いた。


「何故、そこだけ冷静に物理で説明できる!」


         ◇


切り出した竹材は。


驚くほど優秀だった。


軽い。


丈夫。


加工しやすい。


節も揃っている。


割れ方も素直。


乾燥後の歪みも少ない。


ノアが一本持つ。


「建材にも使える」


リーゼも叩いて確かめる。


「柵、棚、足場、管、柄。色々いけるな」


スージーが言う。


「黒いのも悪くないわね」


リーゼが深く頷く。


「見た目だけなら格好いい」


そこまではよかった。


翌日。


乾燥させていた竹材の一本から。


ぽた。


白い液体。


リーゼが止まった。


もう一滴。


ぽた。


そして。


内部から。


「ゴボッ」


白く濁った液体が溢れた。


リーゼは無言。


スージーも無言。


ティセラが近づこうとする。


リーゼが腕を出して止める。


「待て」


風。


臭い。


来る。


リーゼの顔が歪む。


「……イカ臭い」


スージーの猫耳が伏せた。


「また!?」


ノアも顔をしかめる。


「かなり強いね」


白濁している。


粘性がある。


内部から滲む。


そして。


非常に鼻へ来るイカ臭さ。


リーゼが言った。


「よし、焼き払え!」


ティセラが即座に返す。


「待ってください」


「またか!」


「まず成分を調べます」


「何故、この谷底では白濁したイカ臭い液体を毎回調べなければならん!」


「未知物質だからです」


「正論を言うな!」


         ◇


調べてみると。


白濁液は。


竹内部の貯蔵成分と水分。


樹液に近い液体。


さらに複数の有機成分が混ざったものだった。


少なくとも。


危険な毒ではない。


ただし。


臭い。


非常に臭い。


ティセラが記録する。


「成熟個体を伐採後、稀に内部圧の変化によって貯蔵液が排出されるようです」


リーゼが聞く。


「何故白い」


「微細な植物由来成分が分散しているためと思われます」


「何故イカ臭い」


「揮発性有機成分の組成でしょう」


「何故そこまで嫌な方向に揃う!」


スージーが竹材を見る。


「でも、ちゃんと乾燥させれば使えるんでしょ?」


ティセラが頷く。


「排液後、洗浄と十分な乾燥を行えば問題ありません」


リーゼが頭を抱えた。


「また性能だけ優秀だ!」


エヴァが一本担ぐ。


「使えるならいいじゃねえか」


「服に付くんだぞ!」


実際。


最初に切り出した一本は、内部液が突然溢れ。


運んでいたルヴァナの上衣へ。


べったり。


白い跡を残していた。


ルヴァナは服を摘まんでいた。


「これ落ちる?」


シズクが答える。


「すぐ洗えば、おそらく」


ルヴァナが鼻を近づける。


止まる。


「くっさ!」


リーゼが叫ぶ。


「嗅ぐな!」


         ◇


最終的な記録。


男性器に酷似した形状の筍。


若芽は食用可能。


特に生食が良好。


薄切りの刺身が最も高評価。


加熱すると風味と食感がやや落ちる。


成長後。


外皮は黒色化。


維管束が極端に発達し、道管・師管が表面まで血管様に浮き上がる。


見た目は非常に異様。


竹材としては優秀。


軽量。


高強度。


加工性良好。


伐採時。


「ん゛お゙ぉ゙ぉ゙……っ!」


「ぐぅ゙ぅ゙……っ!」


など。


低く籠もった特徴的な発声を伴う。


また。


成熟個体を伐採後。


稀に内部から白濁した植物性液体が流出。


液体は強いイカ臭を有し。


衣服へ付着すると非常に迷惑。


リーゼは最後まで読んだ。


「教授」


「はい」


「結論」


ティセラが答える。


「若芽は食用。成熟後は竹材として有用。伐採後の排液に注意」


リーゼが指差す。


「焼き払う、が抜けている」


「焼き払いません」


「何故だ!」


シズクが横で。


新しい若芽を。


ざくざくと薄切りにしていた。


「ん゛お゙……っ!」


ざく。


「ぐぅ゙……っ!」


ざく。


シズクは気にしない。


皿へ並べる。


塩。


少量。


一切れ食べる。


「やはり生が一番美味しいです」


エヴァも食べる。


「うまい」


スージーも食べる。


「これは残したい」


ノアも頷く。


「竹材も便利だしね」


リーゼは周囲を見る。


誰も焼き払う気がない。


遠く。


成長した黒い竹。


血管のように浮き出た道管と師管。


風が吹く。


ぎし。


その一本から。


「お゙ほぉ゙ぉ゙……」


低い声。


リーゼが両手で顔を覆った。


「何故、食べ物としても資材としても優秀なんだああああっ!」


その足元では。


また新しい男性器型の筍が。


にょき。


と。


地面から顔を出していた。

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