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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
断章Ⅵ

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【一般公開版】第百三十九話 姉と弟

第五の危険地帯、その一角。


森の中に造られた採取場で、聖者は石床の中央に立っていた。周囲には厳重な結界が張られ、外へ力が漏れないようになっている。


ティセラは記録用紙を手に、いつも通りの冷静な声で説明した。


「本日は魔力の定期採取です。前回から十三時間四十八分。かなり蓄積しているはずです」

「ああ、分かった」

「今回は感情喚起型の負荷試験も同時に行います。私が厳しい姉を演じ、ノアくんには弟役として耐えてもらいます」

「姉と弟?」

「役割が明確な方が、反応を比較しやすいので」


ティセラが手をかざすと、光の帯が聖者の両手首へ巻きついた。そのまま腕を頭上で固定し、足元には揺れる小さな足場が現れる。


「動けば採取効率が落ちます。姿勢を保ってください」

「これは、かなり難しそうだな」

「お姉ちゃんの言うことが聞けないのですか?」

「もう始まってるのか」

「当然です」


声色まで変わった。冷たく厳しい姉の役を、ティセラは驚くほど真面目に演じている。


第一段階は、姿勢保持。


左右から風の魔法が吹きつけ、足場がゆっくり傾く。聖者は巨体を揺らしながらも、つま先で均衡を保った。


「弟のくせに、ずいぶん余裕がありますね」

「お姉ちゃんこそ、もう少し手加減を」

「採取量が足りません。負荷を上げます」


今度は小さな光球が四方から飛んでくる。触れれば痛くはないが、体勢を大きく崩される。聖者は腕を固定されたまま肩と足だけでかわした。


第二段階は、魔力制御。


足場を保ちながら、手を使わずに魔力を一定量ずつ結晶へ送る。多すぎれば結晶が赤くなり、少なすぎれば消える。


「乱れています」

「風のせいだ」

「言い訳です」

「厳しい姉だな」

「そういう設定ですから」


ティセラは淡々としていたが、記録用紙の端には小さく『反応良好』と書き込まれていた。


第三段階は、耐久。


森の各所に置かれた採取器が一斉に起動し、聖者の余剰魔力を少しずつ吸い上げる。採取器へ流れる光が、何本もの川のように石床を走った。


聖者の膝がわずかに曲がる。


「ノア。まだ立てますか」

「立てる」

「無理は禁物です。中止の合図を」

「大丈夫だ。続けてくれ」


役の声ではない、姉としての確認だった。聖者がうなずくと、ティセラは再び冷たい表情を作る。


「では続行。お姉ちゃんに心配をかけた罰として、最後の課題を追加します」

「追加するのか」

「弟は黙って挑戦してください」


最後の課題は、頭上に浮かぶ三つの輪へ同時に魔力を通すことだった。姿勢を保ち、飛来する光球を避け、採取器への流れも乱さず、そのうえ三系統の術式を維持する。


聖者の金色の瞳が細くなる。


一本。二本。三本。


光の輪が順番に輝き、最後には森全体を淡い金色が包んだ。採取器の表示が満量を示す。


「採取完了。拘束を解除します」


光の帯が消えた途端、聖者はその場に座り込んだ。ティセラはすぐに水筒を渡し、脈と魔力の状態を確認する。


「ご協力ありがとうございます。姿勢固定、連続妨害、感情喚起、三系統同時制御。すべて興味深いデータが取れました」

「姉役は必要だったのか?」

「効果はありました」

「次回も?」

「五日後を予定しています。同じ設定でよろしいですか」


聖者はしばらくティセラを見つめ、小さく息を吐いた。


「せめて次は、優しい姉にしてくれ」

「検討します」


ティセラは採取結晶を抱え、いつもの冷静な足取りで森を去っていった。

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