第百三十三話 研究仲間
「見るだけだぞ」
物置へ向かう途中、リーゼは念を押した。
「分かってる」
スージーが答える。
「勝手に位置を変えるな」
「分かってる」
「札を外すな」
「分かってるって」
「教授は試料として持ち出すな」
ティセラが答えた。
「必要なら許可を取ります」
「必要なら、ではない。必ず取れ」
「分かりました」
リーゼは二人を交互に見た。
スージーの猫耳は、さっきからずっと立っている。
ティセラはいつもの落ち着いた表情だが、歩く速度が少しだけ速い。
嫌な予感しかしなかった。
館の外へ出て、少し歩く。
物置と呼んではいるが、実際には一棟だけではない。
谷底へ長く流れ着いてきた物を、とりあえず雨風から守るための大きな屋根付きの保管場所。
金属類を集めた場所。
木材。
布。
陶器。
壊れた器具。
用途の分からないもの。
危険かもしれないため隔離したもの。
さらに最近では、リーゼが来てから回収地点や状態を記録するようになった品については、札を付けて分けて置いてある。
スージーは建物を見た。
「これ全部?」
リーゼが答える。
「全部ではない」
猫耳がさらに立った。
「まだあるの?」
「大型の木材や金属は別だ。館の修理や工作へ既に使ったものもかなりある」
「どれくらい前から?」
エヴァが後ろから言った。
「俺が来る前から聖者が拾ってたぞ」
スージーがノアを見る。
「何年前?」
ノアは少し考えた。
「正確には覚えてないなあ」
猫耳が少し下がる。
「記録は?」
「最初の頃はないよ」
さらに下がる。
エヴァが言う。
「使えるもん拾って使ってただけだからな」
スージーが完全に止まった。
リーゼは、その反応を見て何となく察した。
「言っておくが、小官が来る以前は生活物資だったんだ。考古資料として集めていたわけではない」
「分かってる」
「分かっている顔ではないぞ」
スージーは両手で頭を抱えた。
「分かってるけど、何年も前の漂着物が、どこで、どういう状態で、何と一緒に拾われたか全部不明って、考古学者には結構つらいのよ!」
エヴァが首を傾げる。
「拾った場所なら滝壺だぞ」
「滝壺のどこ!」
「その辺」
「その辺!」
「流れ着いてたから拾った」
「一緒に何があった?」
「他の漂着物」
「だから何が!」
エヴァは少し考えた。
「板とか」
スージーが天を仰いだ。
リーゼが肩を叩く。
「諦めろ」
「大尉」
「何だ」
「あなたが来てから記録したって言ったわよね」
「ああ」
「どこまで?」
「採取日、場所、周囲にあった主要な物、発見時の状態、回収者。使った物については用途も追記している」
スージーがリーゼの両手を握った。
「大尉」
リーゼが固まる。
「な、何だ」
「昨日ドイス残党疑ってごめんなさい」
「評価基準がそこなのか!」
「最高の仕事してる」
「軍人として当然の記録だ!」
「好き」
「言い方!」
ルヴァナが後ろで笑った。
ネイラも口元を押さえている。
ティセラが言った。
「私も大尉の記録には助けられています」
リーゼが少し胸を張る。
「そうだろう」
ティセラは続けた。
「採取地点が分かると、植物や生物試料の分布推定ができますので」
スージーがすぐ食いついた。
「分布記録もあるの?」
「あります」
「あとで見せて」
「もちろんです」
リーゼの表情が曇った。
「そこで結びつくな」
保管場所の扉を開ける。
スージーは中へ入った。
そして。
動かなくなった。
木製の棚。
箱。
籠。
壁へ立てかけられた板。
割れた陶器。
金属製の容器。
歯車。
錆びた工具。
用途不明の器具。
装飾品。
貨幣らしい円盤。
何かの文字が刻まれた板。
壊れた武器。
鎖。
留め具。
革。
布。
靴。
瓶。
破損した機械部品。
大きさも材質も、製造方法もまるで違う。
同じ文明の物を集めた倉庫には見えない。
スージーは数歩だけ進んだ。
右を見る。
左を見る。
猫耳が忙しく動く。
「……これ」
リーゼが答える。
「何だ」
「全部、上から?」
「正確には上から来たか、水系を流れて来たかは分からん。少なくとも我々が製造した物ではない」
「全部?」
「こちらで加工した物は別にしてある」
スージーが棚へ近づく。
手を伸ばす。
止める。
リーゼを見る。
「触っていい?」
リーゼが感動した。
「聞いた!」
「もうそれいいから」
「いや、本当にありがたいんだ!」
クロエが後ろから言う。
「大尉は最近、私を見るとまず触るなと言う」
「理由を考えろ!」
スージーは札の付いた陶片を指差した。
「これ」
リーゼが記録板を見る。
「滝壺北寄りの砂浜。少し前に回収。壊れた木箱と一緒に流れ着いていた」
「木箱は?」
「解体して板材として使った」
スージーの表情が固まった。
「使った?」
「使える木だったからな」
「その箱に文字は?」
リーゼも止まった。
記録を見る。
「……文字らしきものあり、とだけ書いてある」
「写した?」
「ない」
スージーが静かに壁へ手をついた。
「大丈夫か?」
「考古学者として今、ものすごくつらい」
ノアが申し訳なさそうに言う。
「資源が足りない場所だから、使えるものは使っちゃうんだ」
スージーは大きく息を吸った。
「分かってる。分かってるのよ。生活が優先。箱は箱で、板は板。保存する理由がなかった。それは分かる」
エヴァが言う。
「じゃあ問題ねえな」
「感情が追いつかない!」
ルヴァナが笑った。
スージーは気を取り直し、陶片を手に取った。
表面。
断面。
内側。
指で厚みを確認する。
「轆轤を使ってる。焼成もかなり安定してる。釉薬あり。日用品だった可能性が高いわね」
シズクが首を傾げる。
「それだけで分かるのですか?」
「ある程度はね。形が全部残ってないから用途までは難しいけど」
ティセラが横から覗く。
「材質は一般的な焼き物に見えます」
「この粒子なら、かなり細かく精製してる。粗雑な野焼きじゃない」
リーゼが聞く。
「年代は?」
「無理」
即答だった。
「無理なのか?」
「基準になる出土層も同時資料もない。私の知る文化圏の様式とも一致しない。古そうに見えても、単に粗い技術で最近作った可能性もあるし、逆もある」
ティセラが頷いた。
「断定しないのですね」
スージーがティセラを見る。
「当然でしょう?」
ティセラの目が少し嬉しそうになる。
「やはり話が合います」
リーゼが言った。
「合うな」
二人がリーゼを見る。
「何?」
「いや。嫌な意味で確信しただけだ」
次は金属類。
スージーは古い留め具を取り上げた。
「鉄。鍛造。これはそんなに珍しくない」
次。
細かな歯の付いた歯車。
「こっちは精度高いわね」
クロエが言う。
「低い」
スージーがクロエを見る。
「あなた基準は禁止」
リーゼが即座に頷いた。
「そうだ!」
「これなら私のところでも作れる。でも手仕事だけじゃ面倒ね。機械加工した可能性が高い」
リーゼが歯を見る。
「小官のところでも同じ判断だ」
スージーとリーゼが顔を見合わせる。
「やっぱりこの辺は近いわね」
「ああ」
二人が納得している横で、クロエが言った。
「精度を測るか?」
「測れるの?」
「工作室に器具がある」
スージーが振り返る。
「後で」
リーゼが言った。
「行く気だな」
「比較資料になるでしょ」
「そうだが!」
棚の奥には、小さな貨幣らしきものもあった。
スージーが目を輝かせる。
「これは?」
「貨幣らしい。小官の国の物ではない」
「エヴァ?」
「知らん」
「シズク?」
「見たことがありません」
ティセラも首を振る。
クロエとアスラも知らない。
スージーは慎重に持ち上げた。
円形。
片面に人物らしき横顔。
反対側には建物か紋章のような図柄。
周囲に文字。
「読めない」
リーゼが少し意外そうに言う。
「貴様でも?」
「考古学者は世界中の文字を全部読めるわけじゃないわよ」
「それもそうか」
「ただ、文字体系は記録できる。似た物が他にもあれば、同一文化圏かもしれない」
ネイラが棚から札付きの小箱を持ってきた。
「似た円盤がこちらにもあります」
「見せて」
三枚。
五枚。
七枚。
似ている。
だが全部同じではない。
図柄。
文字。
大きさ。
金属。
スージーは机へ並べた。
リーゼがすぐ言う。
「位置を記録してから並べろ」
「もちろん」
「……本当に通じるな」
リーゼが小さく呟いた。
スージーは聞こえていたらしい。
「嬉しい?」
「かなり」
「私も」
そして二人とも少し笑った。
その横で、ティセラは別の箱を開けようとしていた。
リーゼが振り向く。
「教授!」
ティセラの手が止まる。
「何でしょう」
「何をしている」
「この容器に魔力反応があります」
「開けるな!」
「まだ開けていません」
「開けようとしていただろう!」
「調査は必要です」
スージーがすぐ近づく。
「魔力反応?」
リーゼがスージーの肩を掴んだ。
「行くな!」
「ちょっと見るだけ!」
「その台詞を今日何度聞いた!」
ティセラは箱から手を離した。
「大尉の許可を得てからにします」
リーゼは少し安心する。
スージーが言った。
「じゃあ許可して」
「しない!」
「何で!」
「保管場所の中で未知の魔術品を開封するな!」
スージーは止まった。
「……それは正しい」
「そうだろう!」
「外に試験場所作ればいい?」
リーゼの顔が引きつる。
ティセラが頷く。
「第五では性質が違いますから、通常の隔離試験場所が適切でしょう」
「もう相談を始めるな!」
今度は文字資料だった。
木片。
薄い金属板。
陶器の底。
小さな石板。
何かの容器に付いていた銘板。
スージーは一枚ずつ見ていく。
読めるものはない。
しかし、同じ文字に見えるものを分けていくことはできる。
「これとこれは近い」
リーゼが札を見る。
「発見場所は違うぞ」
「どれくらい?」
「滝壺東側と、支流の河原」
スージーの手が止まる。
「距離は?」
リーゼが地図を持ってくる。
二人で確認する。
「かなりある」
「同じ水系を回って別々に流れ着いた可能性もある」
「同じ文化の物ならね」
「まだ同じと決まったわけではない」
スージーが笑う。
「大尉、分かってるじゃない」
「教授と暮らしていれば嫌でも身につく!」
ティセラが言った。
「良い傾向です」
「貴様が言うな!」
スージーは机の片側へ、似た文字資料をまとめた。
ただし元の位置が分かるよう、札は動かさない。
さらに紙へ写す。
文字の形。
大きさ。
刻み方。
材質。
リーゼがその様子を見る。
「全部写すのか?」
「できるだけね」
「時間がかかるぞ」
「何年も追える資料がここにあるなら、一日二日なんて誤差よ」
リーゼは少し呆れた。
だが。
その感覚自体は嫌いではなかった。
軍人と考古学者。
目的は違う。
それでも、記録を残すこと。
分からないものを勝手に決めつけないこと。
後から検証できる形にすること。
その辺りは驚くほど話が合う。
問題は。
ティセラまで同じ机に座っていることだった。
「この文字群と同じ物が、私の試料容器にもあります」
スージーの手が止まる。
「どこ?」
「研究室です」
「何の試料?」
「漂着した植物の種子が入っていた容器です」
「見たい」
「持ってきます」
リーゼが机を叩いた。
「増やすな!」
ティセラが不思議そうに見る。
「比較資料です」
「分かっている! 分かっているから困るんだ!」
物置の奥へ進む。
今度は大型の道具類。
壊れた農具。
柄のない刃。
片輪だけ残った車輪。
金属の管。
板ばねらしきもの。
歯車箱。
リーゼには用途を想像できる物もある。
スージーにも分かる。
二人で一つずつ確認していく。
「これは荷車の部品じゃない?」
「小官もそう思う」
「でも車輪の径に対して軸が太い」
「荷が重かったのかもしれん」
「あるいは路面が悪い」
「あり得る」
「こっちは?」
「ポンプの一部に見える」
「私も」
「これは?」
「知らない」
「小官も知らん」
二人が同時にクロエを見る。
クロエは部品を見る。
「流体を送るための機構ではない。内部で周期運動させる部品だ」
スージーとリーゼが揃って聞く。
「何に使う?」
「分からん」
二人が少し安心した。
クロエが言う。
「ただし構造は単純だ」
「一言余計だ!」
今度はアスラが、棚の隅に置かれた棒状の器具を手に取った。
「これは魔術具だ」
スージーが振り向く。
「分かるの?」
「術式の痕跡がある」
「何の?」
アスラは少し魔力を流す。
先端に薄い光が浮かんだ。
リーゼが叫ぶ。
「保管庫で作動させるな!」
アスラが止める。
「照明用らしい」
スージーが器具を見る。
「電灯みたいなもの?」
「用途としてはそうだろう」
「でも電気じゃない」
「魔力だ」
スージーが頭を抱えた。
「同じ用途へ別の技術で到達してる」
リーゼが頷く。
「その比較を始めると終わらんぞ」
「分かってるけど面白い」
「教授と同じことを言うな」
ティセラが言った。
「実際、面白いです」
「二人とも黙れ!」
昼を過ぎても。
誰も物置から出なかった。
正確には、シズクとエヴァは途中で帰った。
ノアも作業へ戻った。
ルヴァナは、
「まだやってるの?」
と言って洗濯物を干しに行った。
ネイラはクロエと一緒に、途中から記録整理を手伝っている。
残ったのは。
スージー。
ティセラ。
リーゼ。
クロエ。
アスラ。
ネイラ。
完全に調査班だった。
リーゼは気づいた。
「待て」
誰も反応しない。
「待て!」
スージーが顔を上げる。
「何?」
「小官は、見るだけだと言ったはずだ」
スージーは周囲を見る。
机の上には写し取った文字資料。
材質別に整理された記録。
未分類貨幣の一覧。
陶片の特徴。
用途不明部品の簡単な図。
ティセラが持ってきた比較試料。
クロエが測った金属部品の寸法。
アスラが確認した魔術反応。
ネイラがまとめた札番号。
スージーが言った。
「見てるだけよ」
リーゼは机を指差す。
「どこがだ!」
「動かしてない」
「記録が新しく一冊できている!」
「記録は残した方がいいでしょ?」
「それはそうだが!」
ティセラが言う。
「既存資料の再整理です」
「教授まで!」
「破壊的調査はしていません」
「当たり前だ!」
スージーは新しい紙を広げた。
上部に大きく書く。
『漂着物暫定分類』
リーゼが止まった。
「暫定?」
「断定できないものばっかりだから」
材質。
推定用途。
文字の有無。
製造技術。
採取地点。
採取日。
関連資料。
そして最後に。
確度。
スージーは項目を作った。
リーゼが覗く。
「確定、推定、不明?」
「そう。分からないものを無理に分類しない」
ティセラが頷く。
「良い方式です」
ネイラも言う。
「後から情報が増えても直しやすいですね」
クロエが言った。
「検索用に番号を振るべきだ」
スージーが答える。
「振りましょう」
アスラも言う。
「魔力反応の有無も項目に入れろ」
「入れる」
ティセラ。
「生体由来の可能性も」
「それも」
リーゼが両手で顔を覆った。
「本当に始まった……」
スージーが不思議そうに見る。
「何が?」
「管理体系の新設だ!」
「必要じゃない?」
「必要だ!」
「じゃあいいじゃない」
リーゼは答えられなかった。
必要だった。
猛烈に必要だった。
今まで物置は、生活資源としては十分管理されていた。
木。
金属。
布。
工具。
使える。
使えない。
危険。
不明。
それで生活には困らない。
しかし。
由来。
文化。
技術。
文字。
歴史。
そういう方向から整理する者はいなかった。
スージーが来たことで。
物置に積まれていた「よく分からない物」が。
資料になり始めている。
リーゼは認めざるを得なかった。
「……やるなら、ちゃんとやれ」
スージーの猫耳が立った。
「いいの?」
「中途半端が一番困る」
ティセラが言う。
「では正式に――」
リーゼが指を立てた。
「ただし!」
全員が止まる。
「生活資源として必要な物まで勝手に保存対象へ指定するな。木材や金属は今後も使う。危険物を調査目的で保管場所から出す時は許可を取れ。元の札と採取記録を絶対に失うな。そして何より」
ティセラを見る。
「教授は全部試料にするな」
「全部はしません」
「その返答が怖い!」
スージーが笑った。
「じゃあ私からも一つ」
「何だ」
「これから漂着物を拾ったら、使う前に一度だけ記録させて」
リーゼは考える。
「写真はないぞ」
「図でいい。文字があれば写す。寸法と材質も簡単に。箱なら壊す前に箱として記録する」
エヴァがいなくなった方向を見る。
「聖者とエヴァが面倒がらんか?」
「私がやる」
即答だった。
リーゼは少し笑った。
「ならいい」
スージーも笑う。
「決まりね」
午後。
昼食へ戻ったスージーは、食事を終えるとすぐ物置へ戻ろうとした。
リーゼが止めた。
「休め」
「元気」
「昨日まで倒れていた!」
「でも資料が」
「逃げん!」
「漂着物だから、また流されたり」
「物置から流されるか!」
ティセラが言う。
「午後は私の研究室にある関連試料を確認しても――」
「教授も休め!」
エヴァが肉を食べながら笑った。
「大尉、仕事増えたな」
リーゼは睨む。
「誰のせいだと思っている」
「猫耳の姉ちゃん?」
ルヴァナが答える。
スージーが言う。
「私?」
「半分は貴様だ!」
ティセラが聞く。
「残り半分は?」
リーゼは教授を指差した。
「貴様だ!」
シズクが茶を置きながら言った。
「でも、物置が整理されるのは助かりますね」
ノアも頷く。
「何に使える物か分かれば、残すか使うかも決めやすいしね」
リーゼは黙った。
その通りだった。
また反論できない。
スージーは嬉しそうに猫耳を動かした。
「午後はまず文字資料からやるわ」
ティセラが言う。
「私は魔力反応のある品を照合します」
クロエ。
「金属加工精度も記録する」
アスラ。
「術式痕跡もだ」
ネイラ。
「私、番号振りますね」
リーゼは全員を見た。
「……小官も行く」
ルヴァナが笑った。
「大尉もやるんじゃん」
「監督だ!」
「好きなんでしょ?」
「記録が乱れる方が嫌なんだ!」
食後。
結局、全員が再び物置へ向かった。
その日の夕方には、物置の入口へ新しい板が一枚増えていた。
スージーが書き。
リーゼが確認し。
ネイラが整理した。
『漂着物暫定分類・記録中』
その下には、小さく注意書き。
『使用予定品は保存対象としない』
『移動時は札番号を記録』
『不明品は勝手に作動させない』
リーゼが最後の一文を指差した。
「これは重要だ」
クロエが言う。
「分解も?」
「含む!」
アスラが聞く。
「魔力を流すのも?」
「当然だ!」
ティセラが尋ねる。
「少量でも?」
「量の問題ではない!」
スージーが笑った。
「大尉、苦労してるのね」
リーゼはスージーを見た。
「今日から貴様も苦労させる側だ」
「私はちゃんと聞くわよ」
「教授と一緒になると聞かなくなる!」
「そんなことないって」
その横でティセラが、札の付いた小さな石片を見つけた。
「スージー。こちらに未知文字があります」
猫耳が立った。
「どこ!?」
二人が同時に走る。
リーゼが叫んだ。
「走るな! 物置の中だぞ!」
夕方の谷底へ。
また一つ。
新しい日常の声が響いていた。




