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大瀑布の底のハーレム【一般公開版】 (R18版 日間76位ありがとうございます)  作者: 黒瀬 量衡
断章Ⅳ

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第百六話 朝顔

夕食後のバルコニーで、クロエとアスラが娘たちの学生時代について話していた。


最初のうち、リーゼは聞き流していた。クロエとアスラが昔の忍務や拷問訓練の話をすることなど、今では珍しくもない。


問題は、それが娘たちの教育方針の話へ移ったことである。


「私は今でも、肉触手はまとめた方がいいと思っている」


アスラが腕を組んだ。


クロエは即座に否定した。


「雑だ。個別の方がいい」


「何が雑だ」


「何本もまとめて動かしたら、結局は一本の太い拘束具と変わらん。一本ずつ別に動かしてこそ、相手の判断を散らせる」


「実戦でそんなちまちましたことをしてどうする。まとめて押さえ込めば早い」


「だから貴様は訓練と実戦を混同する」


「実戦で使えない訓練に何の意味がある!」


ネイラが静かに茶を飲んだ。


ルヴァナは果物を食べながら、姉へ小声で言う。


「また始まった」


「いつものことです」


リーゼは我慢できずに振り返った。


「待て。何について教育方針を争っている?」


アスラが平然と答える。


「肉触手だ」


「聞こえていた! だから聞いているんだ!」


クロエが説明する。


「アスラは束ねる派。私は個別制御派だ」


「派閥を作るな!」


アスラは納得していない。


「一本ずつなんて面倒だろう」


「面倒だから訓練になる」


「だったら感度十万倍をかけてまとめてやればいい」


リーゼが机を叩いた。


「数字まで盛るな!」


ネイラが首を傾げる。


「十万倍は別課程ですよ」


「課程を分けているのか!?」


「はい」


「はい、ではない!」


クロエとアスラは、リーゼの叫びなど気にしていなかった。


話題はすでに次へ移っている。


「卵なら、ウズラ程度から始めるべきだ」


クロエが言った。


アスラが鼻で笑う。


「小さすぎる。ダチョウくらいでいい」


リーゼの動きが止まった。


「……何の卵だ」


二人ともリーゼを見た。


「訓練用だが?」


クロエの返答は平然としていた。


「いや、それは分かった。分かりたくはなかったが分かった。小官が聞いているのは、なぜウズラとダチョウという両極端しかないのかだ!」


クロエは指を一本立てる。


「ウズラは数を増やせる。小さいからこそ、複数を正確に管理する訓練になる」


「なるほど」


リーゼは思わず頷いた。


そして自分で気づいた。


「いや、なるほどではない!」


アスラが笑う。


「だから面倒なんだ。最初からダチョウでいい。大きい方が分かりやすい」


「何が分かりやすいんだ!」


「大きさが」


「それは見れば分かる!」


アスラはネイラを見る。


「ネイラ、お前はダチョウ派だったよな?」


「私は段階式を推奨しています」


「裏切ったな」


「教育論で親子の裏切りを語らないでください」


クロエが満足そうに頷いた。


「さすがネイラだ。合理的だ」


ルヴァナがむっとする。


「また姉ちゃんばっか褒めてる」


「お前はウズラを面倒がって、一気に数を増やして失敗しただろう」


「それ今言う!?」


アスラが笑い出した。


「ルヴァナは数を数えなくなるんだよな」


「だって途中から全部同じに見えるんだもん!」


リーゼは両手で顔を覆った。


「小官は何の家族団欒を聞かされているんだ……」


ところが、さらに悪い話題が残っていた。


クロエが言った。


「卵といえば、ゆで卵の教育法についてもアスラとは意見が合わなかったな」


リーゼは顔を上げなかった。


「聞きたくない」


アスラが続ける。


「私は出す方から教えるべきだと思う」


「私は入れる方からだ」


リーゼの顔がゆっくり上がった。


「…………」


クロエ。


「入れる」


アスラ。


「出す」


クロエ。


「入れる方を先に覚えれば、構造が理解できる」


アスラ。


「逆だ。まず出せなければ実戦で困る」


「入れ方を知らずに出し方だけ覚えてどうする」


「出せれば生き残れる」


「理屈が雑だ」


「貴様が細かすぎる」


リーゼが両手を上げた。


「待て待て待て!」


二人が見る。


「何だ、大尉」


「主語と目的語を言うな!」


クロエが眉を寄せる。


「まだ何も言っていないが」


「だからそのままでいろ!」


アスラが楽しそうに笑う。


「大尉、気になるのか?」


「ならん!」


「入れる方か?」


「聞くな!」


クロエ。


「出す方?」


「二択にするな!」


ルヴァナが笑い始めた。


「大尉、顔真っ赤」


「貴様らが夕食の席で『入れる』『出す』を連呼するからだ!」


ネイラが真面目に言う。


「でも、ゆで卵は重要ですよ」


リーゼが固まった。


「貴様まで入ってくるな」


「熱処理後でも術式反応が残る種類がありますから」


「……ああ、そういう意味もあるのか」


「はい」


リーゼが少し安心したところで、ルヴァナが目を逸らした。


クロエがそれを見逃さなかった。


「ルヴァナは一度、ゆで卵を苗床にした」


「クロエ母さん!」


アスラが吹き出す。


「あったな!」


「忘れてよ!」


リーゼの安心が消えた。


「ゆで卵苗床とは何だ!」


ルヴァナが嫌そうに説明する。


「実習で回収した卵をさ、加熱したら安全になると思って、ゆでたの」


「そこまでは普通だ」


「翌朝、実習室が蔓だらけになってた」


「どこが普通だったんだ!」


ネイラが補足する。


「卵自体が本体ではなく、内部に魔植物の種子が入っていたんです。加熱によって中身が柔らかくなり、逆に発芽に適した苗床になりました」


リーゼはルヴァナを見る。


「貴様、ゆで卵を作ったつもりで温室を作ったのか」


「だから違うって!」


アスラは涙を浮かべて笑っている。


「しかも本人が蔓の真ん中で絡まってた」


「それ言わないで!」


「クロエが帰ってくるまでそのまま」


「言うなー!」


クロエが淡々と言う。


「私は帰宅して最初に、入れたのか出したのか確認した」


リーゼが即座に机を叩いた。


「その表現に戻るな!」


親二人はまだ止まらなかった。


アスラが腕を組む。


「だから出す訓練を先にしろと言ったんだ」


クロエも譲らない。


「そもそも入れる段階の確認を怠ったから起きた事故だ」


「出せれば事故にはならなかった」


「入れなければ事故そのものが起きない」


「それでは訓練にならん」


「だから段階を踏めと言っている」


リーゼは頭を抱えた。


「貴様ら、子育ての教育方針で『入れる派』『出す派』に分かれるな!」


ネイラとルヴァナは顔を見合わせた。


「昔からこうですよ」


「うん。卵の話になると絶対揉める」


「卵の話で毎回揉める家庭って何だ!」


リーゼはとうとう気になっていたことを確認することにした


「貴様らも忍者学園に通っていたと言っていたな」


「はい」


「卒業してるよ」


そこまでは知っている。


問題はそこからだった。


リーゼは腕を組んだ。


「その、なんだ。これは上官としての確認だ。各自の能力、教育歴、人的資産を把握しておくことは、組織運営上きわめて重要であってだな……」


アスラが怪訝そうに見る。


「大尉、どうした」


「うるさーい!」


リーゼが机を叩いた。


「いいか! 貴様らの娘たちが忍者学園に通っていたということは、つまり、その……エロの五巻も知っているということなのか!?」


ネイラとルヴァナが顔を見合わせた。


そして、ほぼ同時に首を傾げる。


「それを学ばないで、何を学ぶのです?」


「そこから疑問に思われるとは思わなかった」


リーゼの口が開いた。


「…………」


クロエが補足する。


「忍者だぞ」


「それはもう聞いた!」


アスラはむしろ娘を褒める機会が来たと思ったらしい。


「ネイラはエロ拷問の成績がずっとトップだったんだぞ」


「アスラ母さん、そこを誇らしげに言わないでください」


「首席は首席だ」


クロエも頷く。


「実際、ネイラは耐性訓練も施術側も優秀だった」


リーゼが頭を抱える。


「その両方を採点するな!」


クロエは次にルヴァナを見る。


「ルヴァナはエロ行為の成績がよかったな。あとはエロ植物か」


ルヴァナが果物を置いた。


「ちょっと待って。ネイラと比較しないでよ」


「比較していない。得意分野が違うと言っている」


「それが比較じゃん!」


アスラが何かを思い出したように手を叩いた。


「あ、でもルヴァナの昼顔は酷かったな」


ルヴァナの顔が固まった。


「アスラ母さん」


「何だ」


「それ言わなくてよくない?」


リーゼだけが別のところへ引っ掛かった。


「昼顔?」


アスラがもう笑い始めていた。


「こいつがまだ学園に通ってた頃な。家のバルコニーで昼寝してたんだよ」


「やめて」


「そこに育ててた昼顔が伸びてきて」


「やめてって!」


「気づいた時には捕まって、三点責め食らってた」


「言ったあああ!」


ルヴァナが両手で顔を覆った。


アスラは腹を抱えて笑っている。


「しかもクロエが帰ってくるまでずっと抜けられなくてな。いやあ、思い出しても笑える」


「恥ずいし! もう忘れてよ!」


リーゼは笑わなかった。


それどころではなかった。


「待て」


「何だ、大尉」


「貴様らの世界の昼顔は襲ってくるのか?」


ネイラが当然のように答えた。


「昼顔ですから」


「その説明で納得できると思うな!」


ネイラは少し考えてから、丁寧に説明し直した。


「昼顔は、昼下がりの情事を好む性質があります。日が高くなってから活性化して、近くにいる成人を見つけると絡んできます」


「植物だよな!?」


「はい」


「何で情事を好むんだ!」


「昼顔ですから」


「戻った!」


ルヴァナはまだアスラの肩へ顔を押しつけている。


「もうやだ……姉ちゃんまで説明しないでよ……」


「事実を説明しただけです」


「そういうとこだよ!」


リーゼは頭の中で、昼顔という植物についての自分の知識を一度捨てた。


そして。


嫌な予感がした。


「おい」


「はい?」


リーゼの嫌な予感は止まらない。


「まさかとは思うが……夕顔までそういうものではないだろうな」


ネイラの表情が少し変わった。


クロエも黙る。


アスラが目を逸らした。


リーゼの顔が引きつる。


「おい、何だ、その反応は」


ネイラが控えめに言う。


「夕顔は……まあ、夕方ですので」


「やっぱり時間帯で分けているのか!」


クロエが腕を組む。


「夕顔までなら、まあ、仕方ない」


「何が仕方ないんだ!」


「野生にもいる」


「駆除しろ!」


「有用植物でもある」


「何に使うんだ!」


クロエが口を開きかけた。


リーゼはすぐ止めた。


「いや、やっぱり言わなくていい!」


「そうか」


「その顔で普通に答えようとするな!」


そしてリーゼは、最後の名前を口にしてしまった。


「では朝顔は――」


空気が止まった。


ネイラが目を逸らす。


ルヴァナはアスラへしがみつく。


アスラまで少し顔を赤くする。


そしてクロエは、珍しく露骨に視線を逸らした。


「大尉」


「何だ」


「その……朝顔は、娘たちの前では勘弁してもらえないだろうか」


リーゼが目を丸くする。


「え?」


「夕顔までなら、まだ教育上仕方ない。しかし朝顔は刺激が強すぎる」


ルヴァナがアスラの肩へ顔を埋める。


「アスラ母さん! 大尉が朝顔とか言った!」


「よしよし。聞かなかったことにしろ」


「何で慰められてるんだ!?」


ネイラまで微妙に視線を逸らしている。


「リーゼさん」


「な、何だ」


「さすがに朝顔を食卓で口にするのは、少し……」


リーゼは親子四人を順番に見た。


肉触手を束ねるか個別にするかで喧嘩した。


感度十万倍を誤差扱いした。


卵はウズラかダチョウかで教育論を戦わせた。


ゆで卵は入れるか出すかで派閥が分かれた。


娘がゆで卵を苗床にした話で大笑いした。


その一家が。


朝顔だけで赤くなっている。


リーゼは震える指で四人を指した。


「貴様らの羞恥心はどこにあるんだ!」


クロエが真顔で答える。


「普通にある」


「普通ではない! 朝が」


「大尉!」


クロエが珍しく大きな声を出した。


リーゼがびくりとする。


「何だ!」


「それ以上はいけない」


「何でだ!」


「娘がいる」


「成人した娘だろ!」


「それでも娘だ!」


アスラまで力強く頷く。


「そこはクロエに同意する」


「貴様ら、普段あれだけエロ拷問の話をしているのに!?」


「それとこれとは別だ」


ネイラは真面目な顔で言った。


「文化の違いですね」


「便利な言葉で片づけるな!」


クロエがようやくリーゼを見る。


「大尉」


「今度は何だ」


「知らない方が幸せなこともある」


リーゼは絶句した。


サイバー忍者。


魔術忍者。


殺し合い。


蘇生。


成人忍者へのエロ拷問教育。


昼下がりに人を襲う昼顔。


そして。


その家族全員が話題にするだけで気まずくなる朝顔。


リーゼは両手で頭を抱えた。


「貴様らの世界、忍者学園で何を教えているんだ……」


ネイラが即答する。


「忍者に必要なことを一通りです」


ルヴァナも頷く。


「戦闘、潜入、偽装、拷問耐性、エロ拷問、植物対策とか」


「後半だけ別の学校にしろ!」


アスラが笑う。


「大尉も少し学んでみるか?」


「断る!」


クロエが淡々と続ける。


「基礎だけなら教えられる」


「教えるな!」


ネイラまで。


「初等課程からなら資料がありますよ」


「持っているのか!」


クロエが少し考える。


「ところで大尉」


「何だ」


「ウズラとダチョウなら、どちらから始めるべきだと思う?」


リーゼは両手を振り上げた。


「小官を教育方針の採決に巻き込むなあああっ!」


アスラが横から付け足した。


「肉触手はまとめる方だよな?」


「聞くな!」


クロエ。


「ゆで卵は入れる方だ」


アスラ。


「出す方だ!」


「うがあああっ!」

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