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上司に結婚を命じられましたが、その男は私の天敵です  作者: 新 星緒


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エピローグ・1 婚約パーティー

 魔法局のエントランスホールは色とりどりの花や装飾で飾られ、多くの人が集まり、楽しげな雰囲気に包まれていた。

「すごいな。見違えた」

「ほんと、ここがエントランスホールだなんて思えないわ」


 廊下の角からホールをこっそりのぞきながらライナルトと私がそう言うと、エマとヨーゼフ先輩、それからテオフィル殿下がにんまりとした。殿下は先日王太子となったけれど、引き続き局長代理だし、今までどおり気さくなお人柄だ。

 

「誰かさんたちが『婚約祝いは魔法局でやる』なんて可愛いことを言うからさ」と殿下。「ちょっとばかり本気を出したのさ」

「魔法局が家のようなものなんだから、当然だろ」

 胸を反らせて言うライナルト。私もうんうんとうなずく。


 私たちは、思いのほかすんなりと婚約することができた。

 最大の障害はクラッセン侯爵夫妻だと思ったし、実際に少しごねたみたい。

 だけどライナルトが「認めないなら、クラッセン家を出る」と宣言したため、ご夫妻は認めたらしい。


 以前だったら、そんなことをしたら宰相の力を使って魔法局を退職させられただろうけれど、今のクラッセン侯爵にはそんな力はない。

 もう宰相ではないし、陛下の信頼も失っている。さらにはそれを察した貴族たちから、敬遠されている。


 彼らの希望は優秀なライナルトだけ。彼を失うくらいなら、気に入らない嫁ぐらい我慢する、ということみたいだ。


 それから私の両親も、なにも言わなかった。文句をつけたり、最悪ライナルトに支度金を要求たしりするかなと考えていたのだけど、それらもなし。『魔法局員の搾取は陛下への反逆』と決まったことに、相当怯えているみたい。


 そんな訳で私たちの婚約は驚くほどスムーズだったのだけど、それと実家を好きになれるかは別問題で。

 ライナルトも私も、実家で婚約祝いパーティーをやりたいとは思わなかった。

 まあ、そんな事情がなくたって私たちに似合う場所は、魔法局しかないのだけれどね。


 エマとヨーゼフ先輩もエントランスホールを見渡し、

「シェーケル局長も来れればよかったのにね」

「だよなあ」と、ため息をつく。


 シェーケル局長は今日は不参加。そもそもまだ体調が整っていないらしい。謁見式には病身を押して、局員の晴れ姿を見に来たのだそう。

 彼の休職の理由がライナルトと私の家族だというのは、半分だけ事実だったみたい。もう半分は別にあるそうで、局長は私たちに『気にしなくていいよ』と言ってくれた。


 私たちの結婚をすごく喜んでいて、式には絶対に出るとのことだ。

 ちなみに結婚式は、一ヵ月後。


 当初ライナルトは明日にでも結婚したいと主張し、そんな彼をテオフィル殿下の妃であるカトリナ様が一喝した。「最愛の妻に、既製品のウエディングドレスを着させるつもり!?」って。

 

 それでドレスと装飾品及び結婚指輪の製作期間を考慮して、一ヵ月後と決まった。

 それでも貴族としてはだいぶ非常着なスピード婚だけど、周りはみんな「君たちらしいや」と言ってくれている。


「あ。準備が整ったみたいだぞ」

 ヨーゼフ先輩の言葉を聞いたエマが呪文を唱える。すると私たちのいる場所からエントランスホールへ向けての空間に虹色の光があふれ出した。

 ホールから拍手が湧き上がる。

 ライナルトは微笑むと私の腰に手を回した。


「密着しすぎじゃない!?」

「これぐらい構わないだろ。オレたちのお祝いだぞ」

「はいはい、今さらだよ、フリーデ」

「そのとおり。さっさと出て」

 ヨーゼフ先輩とテオフィル殿下に背中を押され、ライナルトと共にホールに入る。


 その途端に花びらが舞い、小さな花火がいくつも上がった。室内なのに!


「さすが、魔法局!」とライナルトが楽しそうに笑う。

「そうね」と返事をする私もきっと笑顔だ。


 ひとつうなずいたライナルトがホールを見渡した。

 大勢の魔法局員、それからカトリナ妃殿下、マリウス様やハイデマリー様、ビュッセル公爵夫妻もいる。


「みんな知ってのとおりオレ、ライナルト・クラッセンはフリーデ・キューネルと婚約をした。三ヵ月前、テオフィル局長代理がとんでもない命令をしたのが発端だった。ヤツの掌の上で転がされている感じが、大変腹立たしくはあるのだが――」


 みんなが声をあげて笑った。テオフィル殿下も、カトリナ妃殿下も。

 

「今は最高に幸せだ。オレたちを見守ってくれて、ありがとう」

 拍手が鳴り響き、ヒューヒューと口笛も聞こえてくる。

「ええと。私からもみなさんへ、心からの感謝を送ります。ありがとう」


 ヨーゼフ先輩が「それだけ!?」とツッコんできたけれど、ほかに言うことは思いつかない。みんな私の話を聞くより、用意されたごちそうのほうが楽しみだろうしね。 


「ていうか、ふたりともなんで制服なんだーー? お揃いコーデを楽しみにしていたのに!」

 どこからかそんな声が上がり、ライナルトと私は顔を見合わせた。ふたりとも魔法局員の制服を着ている。


「「だって私たち(オレたち)魔法局員だから」」

 ここは魔法局だしね。

「アハハ。君たちはほんと、お似合いだよ」

 テオフィル殿下笑い、ライナルトと私は声をそろえて「ありがとう!」と答えたのだった。


◇


「やあ、フリーデ嬢。おめでとう」

 エマたち女性局員に囲まれて、ライナルトの好きなところを十個あげるという恥ずかしい試練に挑んでいると、マリウス様が声をかけてきた。


「マリウス様。ご参加くださり、ありがとうございます」

「こちらこそ。参加したいなんてワガママを言ってしまって申し訳ないね。あなたの幸せな姿を確認しておきたかったんだ」


 そういえばマリウス様は、両親が私に用意した結婚のことをとても心配してくれていたっけ。本当にいい人なのだろう。


「その節は大変お世話になりました。おっしゃるとおり、アレは実にろくでもない結婚でした。しなくて正解でした」

 あの子爵は爵位を取り上げられ、今は平民用の重罪専門の牢獄に入っている。思い出したくもない出来事だけど、ライナルトにお姫様抱っこされたところだけ……うん、まあ、嬉しかったな。


「マリウス様がライナルトに相談をと勧めてくれたおかげで彼に助けてもらえたし、マリウス様には感謝のしようもありません」

「……そうだね」

 マリウス様はなぜか苦笑ぎみだ。

 どうしたのだろうと、首をかしげる。


「もう、話してもいいのかな」と、マリウス様。

 なにを?

「クラッセン卿に、あなたの件で問い詰められたと話したでしょう?」

 確か、結婚後も私の魔法局勤務を許容するのかみたいな話だったわね。

「そのときに気づいたんだ。彼はフリーデ嬢を好きなんだ、ってね」

「え……?」

「だいぶ脅されて、ぼくは怖い思いをしたんだよ」

「えええ?」


 なにそれ、そんな話は知らない。

 困惑してエマを見る――と、そこにはいなかった。エマを含めて私の周りにいた女性陣は、スイーツコーナーでキャッキャしている。


「あ、あれ。いつの間に」

「ああ、ほら来た」 

 笑いを含んだマリウス様の声。彼の視線を辿ると、不機嫌な顔をしたライナルトが大股でこちらに来るのが見えた。

 

「ぼくもね、かなり悩んだんだよ? 侯爵家の跡取りで前途有望な魔術師の怒りを買ってまで君と結婚をするかどうかをね」

 マリウス様が小声で囁く。


「楽しそうだな」

 私たちのもとにやって来たライナルトは自然に私の腰を抱くと、恥ずかしくて慌てている私に構わず、鋭い目をマリウス様に向けた。

「この度はご婚約、おめでとうございます」

 ライナルトの不機嫌をものともせずに、笑顔でお祝いをのべるマリウス様。


「せっかくなのでフリーデ嬢に、いかにあなたが嫉妬深いかをお伝えしておこうと思いまして」

「は? オレが嫉妬深い?」

 険しい顔から一転、心底不思議そうに瞬くライナルト。


「え、無自覚なんですか? あれで?」

 マリウス様も驚いた顔になる。

「私も全然気づかなかったけれど……」

「うわっ、そうなのか。似た者同志なのか、極度の鈍感同志なのか。まあ、とにかくお幸せに」


 マリウス様は満面の笑みで祝福をして、去って行った。


 その後ろ姿を見送って。それからライナルトの顔を見上げた。

 距離の近さに心臓がトクトクと鳴っている。それはそうとして。


 ライナルトがいつから私を好きなのか、知らないなと思った。


 



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