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家族からお荷物扱いされた結果、私を嫌う魔術師との結婚を命じられました  作者: 新 星緒(コミカライズ3作品連載中)


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1・4 共闘するしかないようです

 向かいで私をにらみつけているライナルト。

『オレと結婚したいか?』ですって? そんなもの――


「したくない。いくら魔法のためとはいっても、私にだって譲れないことはあるの」

「オレもだ」


 ライナルトは無表情でうなずく。


「とにかく今回ばかりは、お前にエールを送る。絶対に相手を見つけろよ。オレの足を引っ張るな」

「その言葉、そのまま返すわ。お互い、それぞれの幸せのためにがんばりましょう」


 そうしてライナルトと私は、出会ってから十年の中で、初めて約束を交わした。

 お互いにけっして干渉も邪魔もしない、という約束を。



 支度を終えて、テオフィル殿下に放り込まれた部屋に戻る。そこにはすでに用意の整ったライナルトが、長椅子にふんぞり返っていた。

 銀糸の刺繍が入った濃紺の上下に淡いライムイエローのベストを合わせている。落ち着いた色合いが精悍なライナルトの容姿によく似合っている。


「……さすがテオフィル殿下。ファッションのことはよくわからないけれど、あなたが十割増しでかっこよく見えるわ」

 ライナルトがギュッと眉を寄せる。どうしてなのか、気に障ったらしい。

「……そうだな。フリーデも行き遅れ令嬢には見えないぞ。さすが殿下」

「そう? よかった」


 監視システムの鏡を見る。そこには令嬢の姿をしている私が映っていた。


 柔らかなカナリア色のドレスはスカートのボリュームとフリルは抑えめ、一方で胸元は大きく開き大人っぽいデザインになっている。

 普段露出はしないから恥ずかしいけれど、着替えを担当した侍女さんには、「あなたのご年齢なら通常仕様です」と言われてしまった。


 髪は上品にアレンジした夜会巻きで、お化粧は控えめのナチュラル。普段はお化粧なんてしないから、地味なものでよかった。

 侍女さんたちも、私はピンクブロンドの髪に童顔小柄ときているから、派手なお化粧は似合わないと言っていた。

 そして首にはブルーサファイアを贅沢に使った豪華なネックレス。


 鏡に映る私は、自分とは思えないほど可愛い。うまく化けている。

 これなら行き遅れの私でも、案外早く結婚相手がみつかるのではなんて期待してしまう。 


 そこでふと思い出し、視線をライナルトに転じる。

「ところでアレ(・・)は届いた?」

 とたんにライナルトがため息をついた。

「ああ。うちのもお前のも。だが、ダメだった」

 ライナルトは傍らにあった書類をテーブルに投げる。

 念のためにそれらを手に取り、あらためる。


 ライナルトと私の親が作った縁談リストだ。家に連絡して届けてもらったのだけれど。

 確かに彼の言うとおりだった。

 私もため息をついて、書類をテーブルに戻す。


「仕方ない」と不満丸出しの顔で立ち上がるライナルト。「共闘、だな」

 なによその顔、と言ってやりたいのをぐっとこらえる。きっと私だって同じ顔だから。

「ええ。不本意だけど」

 そう言うにとどめ、置いたばかりのリストを見た。


 これにしろ参加者リストにしろ、書かれているのは名前などの基本情報だけ。

 職場に引きこもりワーカーホリックの私たちには、これでは婚活相手を探し当てられない。

 だって縁談予定相手の顔なんて知らないから!


 だけど。私たち王宮魔術師は仕事で貴族と顔を合わせる機会が多少ある。その際に魔術師と相手方の性別を揃えたりする。

 同性同士だと稀にトラブルに発展することがあるからだ。――男女ともにセクハラとか。ナンパとか。女性蔑視の男性貴族にチェンジを要求されることもある。


 だから私もライナルトも異性の貴族の顔はわからなくとも、同性の顔なら少しわかる。

 ということで、共闘せざるを得なくなってしまった。

 初めて交わした約束は、驚くほど短い命だった……


「行くぞ」とライナルトが扉に向かう。

 が、すぐに足を止めて振り向いた。なぜか傲慢な男とは思えない気弱な表情になっている。

「――こういうケースでもエスコートをしたほうがいいのか?」

「え⁉ そ、それは――わからないっ」

 エスコートが必要な場所に出たことなんてない――あ、デビュタントがあったけど、それ以外はないもの。


 ライナルトが盛大に舌打ちをする。

「チッ、使えないヤツだな」

「あなたもね! ――ああ、でもしないほうがよくない? パートナーだと勘違いされてしまう気がするわ」

「なるほどな。それは困る」


 ではあらためて出陣!ということで、二人そろって部屋を出る。

 ここから夜会会場である大広間までは、そう遠くない。王宮は広大で何棟もあるけれど、テオフィル殿下は同じ棟の部屋を用意してくれていた。

 彼の気遣いに救われる。


 久しぶりに履いたピンヒールの靴は歩きづらい。最高級品らしく靴底はクッション性がよく、サイズも魔法で調整したから足への負担は少ないのだけど、いかんせん、ヒール自体がダメだ。フラフラしてしまう。


 しかも魔術師の制服と違ってボリュームのあるスカートは歩きづらい。

 早足で歩くライナルトとの差が、どんどん開いていく。

 でもここで「待って」と声をかけるのは、悔しい。

 いくら履きなれないとはいえ、かつてはマナーの一環でヒールでのダンスも習ったのだ。

 必死に追いつこうとして――


「あっ」


 足がもつれて、派手に転倒してしまった。ズダーン! と大きな音がひとけのない廊下に響き渡る。

「はぁ⁉ なにをやっているんだ!」


 ライナルトが不機嫌に叫ぶ。

 悔しい。


「あなたが歩くのが早いのよ!」

「普通に歩いていたが?」

 顔をしかめながらライナルトが戻ってくる。


 それを廊下に座り込んだまま見ていて気がついた。

 一歩が大きい。

 ライナルトは早足なんかではない。単純に足が長くて私と歩幅が違いすぎるだけだった。


 ますます悔しい。

 せめて颯爽と立ち上がろうとして――


「痛っ!!」

 足首に激痛が走り、再びうずくまってしまった。


「なっ! くじいたのか?」

 目の前に壁のようにそびえるライナルトが、えらく高い所から私を見下ろしている。

 このうどの大木が! 


 でも今の私はライナルトよりもずっと情けない。


「……そうみたい。でもこの程度なら、治せるから」

 はしたないことだけれどライナルトの前で気取っても仕方ないので、スカートのすそを少しだけめくり、痛む足首をあらわにする。

 そこへ触れると、痛みがまた走った。


 だけど捻挫の治療には慣れている。魔法局は近衛騎士団の治療も、業務のひとつなのだ。

 軽い切り傷や捻挫くらいは完治できる。むしろできなければ魔法局員にはなれない。


 呪文を唱えると手の下に小さな魔法陣が現れ、緑色に輝いた。

 それが消えるのと同時に痛みも引く。


「治ったわ」

 そう言って立とうとしたとき、ライナルトが「待て」と制した。

「靴のかかとが細すぎるのがいけないんじゃないか?」


 ライナルトはしゃがむと、ヒールに掌を乗せて呪文を唱えた。黄色く輝く魔法陣が現れ、それが消えるとピンヒールは無骨なスクエアタイプに変わっていた。

「ほら、そっちも出せ」と、ライナルト。

「……」


 私は黙ってもう片方の足を見せる。そちらのヒールも同じように変化させるライナルト。

「これでいいだろ。さっさと行くぞ」

「……ありがとう」


 立ち上がってみると、先ほどまでとは雲泥の差の安定感がある。

 さっさと歩き出したライナルトの背を見る。


 怪我したことで、てっきり嫌味を言われるかと思った。なのにそんなことはなく、むしろ原因の解消をしてくれた。


「気味が悪いんだけど」

 ひっそりと呟く。

 とたんにライナルトが振り向く。私の呟きが聞こえたのかと思ったけれど、「まだ歩けないのか?」と聞く。


「今夜ばかりはお前の知識が必要なんだから、早く来い」

 ああ、そういうことね。婚活に必要だから無駄口は叩かず、手を貸してくれただけ。

 よかった。ライナルトが親切だと調子が狂うもの。


「だからあなたの歩く速さにはついていけないんだってば。コンパスの差を考えてよ」

 ライナルトは瞬きをすると、私をまじまじと見た。それから自分の足を。


「――ああ、チビだから足も短いのか」

「失礼ね。足が短いわけではないわ。あなたが規格外に大きすぎるのよ。歩幅ぐらい相手に合わせられないと、ご令嬢に気に入ってもらえないわよ」

「あーー」


 ライナルトががくりとうなだれる。


「あら。もしかしたらそれでフラれたことでもあるの?」

「うるさい、行くぞ」

「へえぇぇぇ」


 意外なことを聞いた。

 ライナルトはモテているイメージしかなかったけれど、フラれた経験もあったなんて。

 ちょっといい気味と思いながら、彼のあとを追う。


 ――もっとも私もひとのことを言えた義理ではないけれど。

 元婚約者には「可愛げがない!」との理由で婚約破棄された。自分だってプライドだけが高い器の小さい男だったくせに!


 ライナルトに追いつく。彼は先ほどまでに比べると、歩く速さをかなり抑えてくれていた。


 ――案外、素直なんだ。


 婚活がかかっているとはいえ、私の意見を聞くなんて。

 思いもよらないライナルトの一面だった。

 

 ――そういえば、行動を一緒にするのは初めてかも。


 ライナルトと知り合って十余年。彼のことはよく知っているつもりだったけれど、ずっと犬猿の仲で、学業を張り合っていた記憶しかない。

 学院でも魔法局でも必要があれば会話はした。ライバルだから動向が気になったし、視界に入ることも多かった。

 でも、それだけだ。


 私は、私を嫌っているライナルトしか知らない――


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