6・5 捜査と意外な名前
大使館の夜会に潜入した捜査官は四組。それぞれの組がどこを調べるかは決まっている。
ライナルトと私は一番魔法に長けているから、一番の難所を任された。大使館奥にある公邸だ。
認識阻害魔法をかけておけば、私たちの姿は誰にも見えない。けれど立てる音は聞こえてしまう。
なので口をつぐみ、音を立てないよう慎重に廊下を進む。
途中結界やら侵入者を知らせる魔道具やらが幾つかあったけれど、なんなく突破。
そうして公邸の書斎前まで辿り着いた。扉前に見張の私兵がふたり立っている。ライナルトと顔を見合わせる。無言のまま、対応が決まる。このまま待機、だ。
先ほど後方支援に回っているテオフィル殿下から、大使が広間を出たとの連絡があったのだ。
気配を殺して静かにしていると、やがて大使が近侍をふたり伴って現れた。私たちのそばを通り過ぎて書斎に入る。
その際にライナルトがなにかをしたようだった。それがなんだったのかは、すぐにわかった。
通信型イヤーカフから大使の声が聞こえてきたのだ。ライナルトは咄嗟に自分のイヤーカフを大使のどこかにつけたらしい。
会話の内容は人身売買と違法薬物販売について。書斎にすでに入っていた男性と大使が主に会話している――
私は自分のイヤーカフをはずし、ライナルトの耳につけた。
どう考えても私よりも、特別捜査官である彼が聞くべき内容だった。
しばらくすると書斎から大使たちが出てきた。ライナルトは私にイヤーカフを返すと、大使と会っていた男を指差す。そして大使の服に引っ掛けてあったイヤーカフを回収すると、男のあとをついていった。
気を付けて、と心の中だけで声をかけて、私は誰もいなくなった書斎に入った。
魔法解析用の魔道具をポケットから取り出す。魔法が使われているかどうかの有無を確かめる程度にしか使えないのだけど、呪文を唱えなくていいところが便利な品だ。広間からここへ来るまでもこれを使った。
これにより魔法錠がかかっている場所が瞬時にわかる。当該箇所がぼんやりと白く光るのだ。
今は書棚の一角が光っている。その場所の書物をどかすと、隠し棚金庫が現れた。
イヤーカフに触れて後方待機中のテオフィル殿下に声をかける。
「怪しい場所を確認します。監視システムに注視してください」
了解との声を聞きながら、胸元につけたブローチを外す。一見大きめのアメジストが入った普通のブローチだけれど、下に鏡が仕込んである。実はこれ、私がライナルトのアドバイスを元に作った新・監視システムの副産物だ。
魔石に魔力をこめた時間と同じ時間ぶんしか稼働しないというのが欠点の、旧監視システム。
私はずっと、魔力の圧縮や、魔道具へ書き込む術式の変更をしていたのだけれど。その過程で魔石を使わず直接魔力を流し続ける方式のものも、作ってしまった。
私、天才かもしれない……!
ただ、保持する魔力が膨大な魔術師しか使えないという欠点があるけれど。
それはともかくとして、魔法錠を解除して金庫を開ける。中の物を取り出すと、人身売買等に関する帳簿と、数通の手紙だった。
手紙の差出人の名前はテオフィル・ローデンヴァルト。
それは我が国の第二王子にして、魔法局長代理のテオフィル殿下の正式なお名前だった。




