1・2 断固拒否します!
ライナルトと結婚⁉
テオフィル殿下はそう言った気がするけれど、利き間違いとしか思えない。
意味がわからなさすぎる!
「それから」とテオフィル殿下が続けた。「命令に従わなかった場合、クビ」
「「はぁっ⁉」」
「ちなみに王立魔法院での雇用も認めないので、君たちは国家公認魔術師の資格を失う」
「「どうして!!」」
思わず局長のデスクにバンと両手をつく。隣で同時にライナルトも同じことをしていたけれど、それどころじゃない。
クビもありえないし、転職もダメってどういうこと⁉ 魔法局は王宮所属だけど王立魔法院は国立。管轄が違うというのに!
「横暴すぎます!」
「いったいなんのために!」
「意地悪して楽しいですか?」
「嫌がらせか!」
「意地悪なんてしていないし、こうなったのは君たち自身のせいだ」テオフィル殿下が深い深いため息をつく。「君たち、何歳になった?」
「「えっと、二十六?」」
「なんで疑問形なんだ」
テオフィル殿下が再びため息をつく。
「ていうか年齢になんの関係があるんだ!」
「そうよそうよ!」
「我が国の貴族男女の平均結婚年齢は?」
半眼を私たちに向ける殿下。
「……に、二十四くらいですか?」
「……二十五?」
「はあっ。女性十九、男性二十一だよ」
うん、まあ、そんな気はしていた。
テオフィル殿下も、まさしく二十一歳のときに二歳年下の公爵令嬢と結婚をしている。
そんな殿下は、四歳の双子王子と二歳の姫の三人の子持ち。
きっと、独り身の私やライナルトの気持ちはわからないのよ!
「だというのに」と、理不尽殿下は眉間にしわを寄せた。「君たちは揃いも揃って、ワーカーホリック。結婚どころか婚約すらもしない。恋人もいなければ社交場にもろくに出ないし、ないない尽くしだ」
「確かにそうですけど」
「それがどうしてオレと彼女の結婚なんて話になるんだよ」
不機嫌丸出しのライナルトの言葉に、大きくうなずく。
けれどテオフィル殿下は、びしりと指をライナルトにつきつけた。
「ライナルト。侯爵家の跡取りである君は結婚して子を設ける責務がある」
うっ、とうなるライナルト。
殿下は次に指を私に向けた。
「フリーデ。伯爵令嬢たる君は、家と当主に有益な婚姻を結ぶ責務がある」
そ、それは。確かに両親や兄には昔から言われている。そんなお小言なんかが鬱陶しくて、ここしばらくは魔法局に寝泊りしているけれど……
「君たちが貴族の子女としての責務を放棄しているせいで、両家がどれほど魔法局に立腹しているかわかってる? しかもフリーデはすっかり魔法局の主だよね?」
まずい。それを言われると反論できない。
その隙にテオフィル殿下は眉間のしわをますます深くした。
「いいかい? シェーケル魔法局長が長期休養をとることになったのは、両家の抗議によるストレスで胃に穴が開いたせいなんだよ?」
「「本当ですか⁉」」
顔から血の気が引く。
シェーケル局長は四十代半ばの紳士で、入局したときからお世話になっている。今月から個人的な事情で半年ほど休職すると聞いていたけれど、まさかその原因が自分だっただなんて。
「ぼくが嘘を言うメリットなんてないよ?」
テオフィル殿下は怒ったように目を細めた。
「君たちは優秀だ。魔法局になくてはならない人材だと思っている。もちろん同級生というよしみを抜きにしてだよ。でもね、シェーケル局長もそうなんだ」
殿下の言葉には大きくうなずく。
「局長のいない魔法局なんて、部署として成り立たないと思います」
「ああ、フリーデの言うとおり、確実に崩壊する」
ライナルトも重々しい声で同意した。珍しく――というより、初めて彼と意見が合ってしまった。
「だろ? しかも、だ」テオフィル殿下は、ますます表情を険しくする。「スペックの高い君たちが結婚しないことで、近頃魔法局は『婚約すらできないほど激務』だとか『有能な若手を使い潰す地獄』だとか言われているんだよ?」
「「ええぇっ⁉ こんな楽しい職場なのに、どうしてそんな嘘が⁉」」
「君たちが結婚しないで仕事ばかりしているからだねえ」
テオフィル殿下が目をすがめる。
あ、これは本気で腹を立てている。ごまかせる雰囲気ではない。
観念して、素直に「すみません」と、頭を下げる。
殿下にもシェーケル局長にも、迷惑をかけるのは本意じゃない。だけど――
「理由はわかりましたけど、ライナルトとの婚約はイヤです」
「オレだってフリーデなんかと夫婦になりたくない」
ライナルトをにらみつければ、向こうも私をねめつける。
「――まあね。ふたりともそう言うとは思っていたよ」
「「じゃあ!」」
「もちろん、救済策は用意してある。ぼくは優しいからね」
テオフィル殿下が今日初めての笑顔を見せた。
「一ヵ月以内にそれぞれが婚約し、半年以内に結婚するのならそれでいい」
ライナルトではなく、別の相手を探す? 一ヵ月以内に?
この男と結婚しなくて済むのは助かるけれど、それは現実的には難しい。
「三ヶ月」
ライナルトがすかさず声をあげる。
「婚約の期限を三ヶ月後にしてくれ」
「だけどね、結婚まで半年の期限は絶対に譲れない」と、テオフィル殿下。「シェーケル局長の復帰までに君たちの問題を解決したいからね」
「構わない」
「貴族として、婚約から結婚までが半年を切るのは訳アリと嘲笑されるよ?」
「それがどうした。オレは侯爵家の嫡男だから一ヵ月でも余裕で相手をみつけられるが、こいつは――」
ライナルトが親指で私を示した。
「――とうのたった行き遅れだぞ。簡単に相手が見つかるはずがない」
「腹が立つものいいだけど、事実だから怒らないであげるわ」
私を横目で見たライナルトが、フンッと鼻を鳴らす。
「殿下。私からもそれでお願いしたいです。絶対にライナルトなんかと結婚したくありません。必ず相手を見つけますから、三ヶ月の猶予をください!」
「――わかった。いいよ、そうしよう。じゃ、ふたりともがんばって」
にこりと微笑むテオフィル殿下。
「友人として、心の底から応援しているよ」




