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家族からお荷物扱いされた結果、私を嫌う魔術師との結婚を命じられました  作者: 新 星緒(コミカライズ3作品連載中)


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19/21

4・1 八年越しで和解しました

 週末の魔法局は、閑散としている。

 王宮にある機関は基本的に週休二日制で、週末を休日としている部署が多い。魔法局もそうだ。ただ、魔法局の場合は当番制の休日出勤がある。


 だから閑散としていても、魔法局員はいるわけで。急ぎ足でエントランスに向かっていた私は、廊下の角を曲がったところで――


「わぷっ!」

「おっと……!」

 誰かの胸に思い切りぶつかった。はずみでよろける。そんな私を衝突した相手が、すかさず支えてくれた。


 慌てて、「ごめんなさい」と謝りながら相手を見上げる。

 そんな私の視界に飛び込んできたのは、眉を寄せて不機嫌そうな顔のライナルトだった。

 どうしてなのか、心臓がバクン! と跳ね上がる。

 彼と顔を合わせるのは数日ぶり。公園へ行った日以来になる。


「――フリーデか」

 そう呟いたライナルトは、フッと笑った。

「入学式の日みたいだな」

「あら、あのときのあなたは私を跳ね飛ばしたわ」

「でも手を差し伸べただろ」

「すぐに暴言を吐かれたけど」


 ライナルトの眉が下がる。すごく情けない表情。

 どうしてこのタイミングでそんな顔になるの?


「――あれは、悪かった」

「え……急にどうしたの?」

 傲慢なライナルトが謝るだなんて。


「調子が悪い? それとも変なものでも食べた? 働きすぎなんじゃないの?」

 もしかしたら高熱が出たなんてことはと心配になり、背伸びをしてライナルトの額に手を当てる。

「なっ、いたって平常だ!」

 声を荒げて身を引くライナルト。

「そうね。熱はないみたい」


 額はひんやりとしていた。


「となると、気の迷い?」

「あのなあ」はぁっとライナルトはため息をついた。「学生の頃はまだしも、いい歳になれば、さすがに失礼だとわかる」

 そんな。ライナルトのくせに?

 これはなにかの罠かしら? このあとすごい反撃がくるとか?


 なんて言葉を返すか考えあぐねていると、居心地悪げにしていたライナルトが、ふと気づいたように私の全身を見た。

「……私服だな」

「そうね、私服よ。これからマリウス様とデートなの」

「……なるほど」


 自分で発した『デート』という言葉に、ライナルトと行ったデートのふりをした調査を思い出してしまう。

 急に鼓動が早くなったような感じがするけれど、きっと気のせいね。そう、気のせい。


「きょ、今日はついに本番だから、がんばってくるわ」

「……ああ、がんばれ」

「ライナルトのほうはどう? 婚活する余裕はあるの?」

「ない。一応候補を三人まで絞ったんだが」

「すごいじゃない」

「執事がな」

「協力的な人がいてよかったわね」

 ライナルトは面倒そうに「そうだな」と答えた。


 その気持ちはわかる。私も正直なところ、デートなんて面倒だもの。

 でも魔法局をクビにならないためには、仕方ない。


「それじゃあ遅れるとまずいから、行くわね」

「……ああ」

「でもその前にひとつだけ」


 これから言う言葉に、ほんの少し緊張する。一生口にしないと思っていた言葉だから。

「私もあのとき、言い返しすぎたわ。つい腹が立ってしまったの。ごめんなさい」

 ライナルトがゆっくりと目を見開く。それから、くしゃりと笑顔になった。


「お互い大人げなかったな」

「そうね」

 自分の顔に笑みが浮かぶのがわかった。

 まさかライナルトと謝罪しあう日がくるなんて。

 なんだかすごく変な気分。


 そんな気持ちになっていると、「あれ、フリーデ」とどこかから声がした。ヨーゼフ先輩だった。

 怪訝そうな顔でこちらにやってくる。

「エントランスにフォイゲ伯爵令息がいたけど――」

 ヨーゼフ先輩の言葉に飛び上がる。


「いけない! 先に待っているつもりだったのに! それじゃ、ライナルト。また!」

「あ――」

 ライナルトの脇を走りぬけようとしたところで、パシリと腕を掴まれた。


「え……と? どうかした?」

 ライナルトを見ると、なぜか鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。

「ライナルト?」

「いや、その――気を付けろよ。徒歩移動はやめておけ」

「わかった。ありがとう」


 腕からライナルトの大きな手がゆっくりと離れる。

「……じゃあ、行ってきます」

 無言でうなずくライナルトを確認すると、私は今度こそ駆けだした。



 エントランスが見えるところまで来ると、すぐにマリウス様が私に気づいて笑顔になった。

「遅れて申し訳ありません!」

 小走りで駆け寄り、頭を下げる。


「僕も今きたところだよ。さあ、行こう」

 マリウス様が手を差し出し、私はその手を取った。ライナルトに比べるとやや小さくて、柔らかい。


「フリーデ嬢。予定どおり観劇とお茶でいいかな?」

「はい。劇を見るのは学生以来なので楽しみです」

「そうなんだ」と、マリウス様は微笑む。「本当に魔法局の仕事に没頭してきたんだね。尊敬するな」


 局員以外の人にそんなことを言われるのは、初めて。

 マリウス様はすごくいい人みたいだ。こんなに好条件の結婚相手なんてきっと、ほかにはいない。


 そう、ほかには――


 一瞬、脳裏によく知っている顔が浮かんだ。けれどそれは、さっき話していたせいだと思う。


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