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家族からお荷物扱いされた結果、私を嫌う魔術師との結婚を命じられました  作者: 新 星緒(コミカライズ3作品連載中)


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3・5 デート作戦決行!

 柔らかな日差しが降りそそぐ王宮の敷地の一角。魔法局に近いそこに、豪勢な馬車が止まった。

 そういえば学生のときに見かけたクラッセン家の馬車も、華美だったと思い出す。


 なぜか息苦しさを感じながら、身なりは大丈夫かなと心配になった。

 馬車から飛び降りた従僕が扉を開ける。


 中からゆったりと降りてくるライナルト。街歩き用のシンプルな服装で、シルバーグレイの上着に濃紺のズボンという組み合わせが、彼の精悍な顔立ちをよく引き立てている。


「おはよう。お迎えをありがとう」

 クラッセン家の使用人たちがいる手前、きちんとお礼を伝える。

「ああ。おはよう」


 そう言ったライナルトは、私の服装をじろじろと見た。


「なにか変? エマの見立てだから間違いないと思うのだけど」

「変じゃないよ」

 すかさず答えたのは、私と一緒にライナルトを待っていたテオフィル殿下だ。


「まったく、この朴念仁が。婚活中なんだから、レディの服装をスマートに褒めることぐらいしてほしいね」

「好きで婚活している訳じゃないが?」

 むすりとして答えるライナルト。


「とにかくデートだからね。デート! フリーデもライナルトもわかっているよね?」

 テオフィル殿下の念押しに、ライナルトも私もしぶしぶはいと答えた。


「――まあ、そんなに緊張しないでさ。今日は本番のための練習だと思えばいいんじゃないのかな?」

 緊張なんてしていないけど、テオフィル殿下の言葉には一理ある。近々マリウス様とのデートをするのだから。

 任務兼婚活練習と思えば、相手がライナルトでも『デート』を乗り切れるかもしれない。


 ◇


 王立公園は都の郊外の丘陵地にある。元々は王族専用の狩場だったのだけど、数代前の国王が狩りが嫌いで、狩猟大会を開かなくて済むように公園に変えたのだという。


 敷地は整備されて、森林部、水辺部、丘陵部、動物園部に分かれている。森林部では遊歩道での散歩、水辺部ではボート遊び、丘陵部ではピクニックと、どの場所も楽しく過ごせる。


 都に住む人間なら貴族も平民も、一度は訪れる場所――なんだけど、私は今回が初訪問。

 そしてライナルトも同様らしい。重大な任務を抱え、初めて同士で大丈夫なのかな。


 不安というほどのものはないけれど、なんとなく、気持ちが落ち着かない。


 馬車から降り立ったライナルトと私は目の前に広がる丘陵を見て、どちらからともなく顔を見合わせた。


「……行くか」

「……そうね」

「じゃあ」


 ライナルトが私の手を握る。

 テオフィル殿下に指示されたことだ。『デートらしく見せるには手つなぎは必須だからね⁉』と言って。


 まあ、練習なのだから、これもいいかもしれない。私は誰かと手を繋いで歩いたことなんてない。

 絶対婚約に進みたいマリウス様のときに失敗しないための下準備だと思えば、相手がライナルトでも我慢できる。


 ライナルトの手は温かく、少ししっとりしていて、とても大きい。私の手をすっぽりと包んでしまう。

 背が高いから、手のサイズも規格外なのかもしれない。


 少し歩くと、最初の屋台が現れた。でもここのお店の品は飲み物。スムーズに持ち帰るために、帰り際に寄る予定だ。


 店の前を通り過ぎ、次の屋台を目指しててくてくと歩く。

 今日は平日だから、人は多くない。けれど様々な階層・年齢の人が思い思いに公園を楽しんでいる。

 中には腕を組んで歩いている恋人同士も。顔を寄せ合い、囁き合っては楽しそうに笑っている。


「「あ……!」」

 ライナルトと私は顔を見合わせた。

「「会話!」」

 デートなんだから、無言で歩き回るのはダメよね。

 話すことなんてなにもないから、ついつい黙ってしまっていた。


「ああ、ええと……」顔をしかめるライナルト。「そうだ、婚活はどうだ?」

「昨日の今日で進展なんてないわ」

「う……、昨日もこの話題だったな」

「あっ、きのうの令嬢はその後どう?」

「会ってないからわからない」

「そうね。あなた、逃げていたものね……」


 あっという間に会話が終わってしまった。またも無言になって歩く。足裏に、踏みしめる柔らかな草の感触を感じながら。


「あっ、そうだわ」

 いけない、大切なことを忘れていた。

「アロマオイル、ありがとう。おかげで昨日はよく眠れたの」

「そうか、よかった」


 そして訪れる沈黙。

 しばらくしてから、ライナルトがため息をついた。


「いや、無理だな。世の中のデートはなにを話しているんだ?」

「私も知りたい」

「婚活でデートをするなんて、無理じゃないか?」

「右に同じ。――でもがんばらないと。クビはイヤだもの」


 はぁぁぁっと特大のため息がこぼれ落ちる。


「今、新しい魔法を構築中なの。完成したら魔法局に絶対に役立つのよ。――ううん、魔法局のために開発しているといってもいいくらい。完成前にクビになったら無念すぎるわ」

「なんだよ、どんな魔法なのか気になるじゃないか」


 ライナルトが困ったように笑う。

 開発中の魔法について、口外しない魔術師は多い。横取り防止のためだ。

 魔法が優れていれば功績になるし、そうでなくても開発者として名前が残る。

 そんな名誉を望んでいなくても、単純に周囲を驚かせたいから黙っているというケースも多い。

 かくいう私もそうだ。


 ――でも、絶対に秘密にしたいわけじゃない。


「監視システム系なんだけどね――」

 私を見てライナルトがわずかに目をみはった。それから「コスパ最悪の監視システム!」と言う。


「そう、あれってほんっとうぅぅぅに不便でしょ? それで――」

 私はライナルトに説明を始めた。


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