3・3 デートってどういうことですか!?
場所を近くの部屋に移し、テオフィル殿下が防音魔法に盗聴防止魔法を重ねがけた。
デートだなんて言うから驚いたけれど、この様子を見ると仕事の話みたいだ。
おかしいと思った。ライナルトと私、それぞれが婚活するので構わないと許可をもらっているのだ。今更そんな命令をされるのは納得がいかない。
「まあ、すぐに終わる話だけどね」
テオフィル殿下はそう言って、立ったまま話を始めた。
「フリーデ、デートの経験は?」
「ありません」
かつて婚約者はいた。けれどお互いにまだ子供だったから、お互いの屋敷でお茶をするぐらいの付き合いだった。ふたりで出かけたことは一度もない。
「ライナルトは――」とテオフィル殿下は彼を見て、「もちろんなし、と」
「おい、勝手に決めるな」
「え、だってないでしょ?」
「まあな」
思わずプッと噴き出してしまった。
「モテるくせに、まったく変なヤツだよねえ」
テオフィル殿下が私に笑いかける。
「さて、デート未経験のふたりには申し訳ないけど、大変重要なことなんだ」
殿下の表情が変わる。雑談はここまで、ということなのだろう。自然と背筋が伸びる。
「まず、フリーデ。チョコレートボンボンの件はよくやった」
「え、どうしてご存知なのですか!」
ライナルトを見ると彼は表情を変えずに、「そりゃ局長には話すだろ」と言った。
「たとえライナルトが黙っていたって、筆跡でわかるよ」とテオフィル殿下が苦笑する。「局長代理になって間もないから、局員の字なんて判別はつかないよ? でもライナルトとの付き合いは長いからね」
「あ……」
そうか。ふたりは友人同士だ。魔法学院入学前からの付き合いと聞いたこともある。
別に分析したのが私だと知られても困ることはない。けれど功績をライナルトに譲ったのが私だと知られるのは……なんというかいたたまれない。しかも私たちの学生時代を知る人間に。
「あ、そうだ、フリーデ」にこにこ笑顔のテオフィル殿下。「ネグリジェ姿なんかで異性を部屋に入れては絶対にダメだよ」
「は⁉ え⁉ なんで話してるの⁉」
嘘でしょ⁉
ギッとライナルトをにらみ上げると、彼は慌てたように顔をそむけた。
「いや、口止めされていないし……」
確かにそうだけど……!
「違うんです、殿下!」
テオフィル殿下に向き直る。
「寝ぼけていたんです! わざとじゃありません!」
「うん、だから注意しているんだ。君はそういうところ、迂闊そうだから。魔法局員は倫理観がしっかりしているはずだけど、なにが起きるかはわからない――とライナルトが心配していたから」
「ライナルトが……?」
再びライナルトの顔を見上げる。そんな私をライナルトは横目でにらんだ。
「倫理観が欠如して、女性のあられもない姿を写真に残すアホがうちにはいるんだぞ?」
「本当だわ……」
「ぼく⁉ いや、危ないのはライナルトみたいなタイプだと思うよ。ある日パーンと理性が飛んじゃうの!」
「実害を出しているのはお前だけだが?」
「いやあれだって……。まあ、いいや」
テオフィル殿下はしょぼんと肩を落とした。けれどすぐに立ち直る。
「じゃあ仕切り直して。麻薬の話」
すごい、切り替えが早い……。
「先ほど合同捜査本部で次のとおり決定した。ボンボンショコラの事例を踏まえ、都内の加工食品が売られている屋台、全店の調査を行う。魔法局員の担当は王立公園。期日は明日夕刻。以上」
「それは理解できる。予測していたしな」
ライナルトが顔をしかめて言うと、テオフィル殿下が「そうだろう?」と頷く。
「だがどうしてそれで、オレと彼女で行くことになるんだ」
「ロイドは男性だ」
テオフィル殿下がもうひとりの派遣されている局員の名前を挙げた。
「調査員だとバレない偽装が必要なんだよ? 動物園を壮年の男といかつい男という組み合わせで回るのか? もしうまくカップルだと認識されても、そんな噂が広まったらどうする。ロイドが不倫したことになってしまうよ?」
う……ん。確かにそれはそう。
「ロイドは家族で回ると言ってくれたんだけどね。捜査に一般市民を巻き込みたくないから、断った」
「『ライナルトひとりのみ』も、偽装という観点から不可ということですね?」
「そのとおりだよ、フリーデ。では魔法局員の誰をパートナーに選ぶかといったら、君が一番適任だ。事情を知っているのだからね」
「そういうことでしたら……」
テオフィル殿下がデートだなんて言うから驚いたけれど、仕事だというのならばわかる。
「だったら最初からそう言え」
ライナルトもブスッとした顔で言い返す。
「でも一番重要なところだからね。デートの偽装」
そう言いながら、殿下はそばの長椅子の背に腰を乗せた。
「調査はできる限りの速さ、かつ秘密裏に遂行しなければならない。絶対に敵にバレたらだめなんだ。まさか店主に自白すると死ぬ魔法が――」
「おいっ!!!!」
突如ライナルトが、鼓膜が震えるほどの大声で怒鳴った。
「え、なに、どうした、ライナルト⁉」
殿下は目をまん丸に見開いている。
私も怒声にビクリとした。
けれど、ライナルトの声にかき消される前のテオフィル殿下の言葉は、しっかりと耳に捕らえている。
『まさか店主に自白すると死ぬ魔法が――』
テオフィル殿下はそう言った。




