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家族からお荷物扱いされた結果、私を嫌う魔術師との結婚を命じられました  作者: 新 星緒(コミカライズ3作品連載中)


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2・4 嫌いだけど、協力くらいはね

 寝床におかしいところはないとないと思うんだけど。

 あえて言うなら今日に限っては、長椅子の後ろにいくつもの箱が重なっている。そのうちのひとつは開いていて、中身が見える。今日買ったばかりの可愛い洋服が。


「まさか」とライナルトは眉を寄せた。「入浴後に制服を着ているのは、ほかに着るものがないからとは言わないよな?」

「正解」

「嘘だろ……」

 天を仰ぐライナルト。


 なんて大仰な。別にいいじゃない、それくらい。

 魔法局内は基本的に制服着用が義務付けられている。屋敷に帰らない、外出もしない私には制服以外の服なんて必要ないのだ。


「でも今日、エマが夜着をくれたから、今夜からは着るものがあるのよ」

 ライナルトが半眼で私をにらむ。

「……よく制服で寝て、しわにならなかったな」

「寝るときは脱ぐもの」

「それじゃあ……」


 眉を寄せるライナルト。

 あ、今のはいらない一言だったかもしれない。


「気にしないで。それよりも本題に入りましょ」

 無理やり話を変えると、ライナルトもそのほうがよかったみたいで、なんとも言えない表情で「そうだな」とうなずいた。


 そこで作業台に乗っていた紙袋を差し出す。

「今日、街であなたに会ったでしょ。その近くの屋台で買ったチョコレートボンボン」


 中からひとつ取り出し、銀の包み紙を開く。手のひらにコロンと転がり落ちる、丸いチョコ。

 ライナルトを見ると、もう顔つきが変わっている。真剣な目付きだ。


「このボンボン。麻薬入りだったの」


 これを買ったのは偶然だった。

 久しぶりに街へ出たので気分が舞い上がっていたこと、常備しているお菓子が切れていたこと、たくさんの客が口々に「ここのボンボンは別格!」と褒めていたこと。

 そんな理由が重なって、生まれて初めて屋台の食べ物を買った。


 そして、魔法局へ帰ってすぐに、ひとつ食べた。

 包み紙を開いてボンボンを口に入れて。すぐに味に違和感を抱いて、吐き出した。

 かすかに、通常のボンボンでは感じられない味がしたのだ。


「それでボンボンを分析したの。分析した五粒中五粒、すべてに禁止されている向精神性の薬草が検出されたわ」

 机上に置いてある分析結果のレポートを、ライナルトの前にすべらせる。


「捜査本部が追っている人身売買の組織、近頃流行している麻薬の元締めと同じと考えられているのでしょう?」


 ライナルトがレポートを手に取り、食い入るように読んでいる。


「ボンボンもレポートもすべてあなたに託すわ。だから来てもらったの」

 ページをめくるライナルトの手が止まる。それからゆっくりと私を見た。


「どうしてだ? これは功績になるぞ」

 うん、訊かれると思った。私も自分に訊きたい。


「わからない。そうするのがいいかなと思ったの。私は捜査本部付きじゃないし、……あなた、大変そうだし」


 合同捜査本部なんてものは、滅多に立ち上がらない。それだけの重大事件なんてそうそう起こらないからだ。

 私も参加したことはなく、話を聞いているだけだけど、なかなかに大変な仕事だ。


 基本的に本部のメインは国に所属する騎士団、魔法騎士団、魔法院の三団体。これに王宮所属の魔法局と近衛隊から二、三人が派遣される。


 これだけの組織が集まるのだから、それぞれの立場とか力関係とか思惑が入り混じる。

 魔法局はいくら魔法に優れても、多勢に無勢。だから侮られないために、必ずベテラン局員と、見栄えが立派な(・・・・・・・)局員を遣わすのだという。


 仕方ないこととはいえ、そんな理由で選出されるのは、ライナルトも忸怩たるものがあるだろう。


 しかも今回相方になったベテラン局員には、妻子がいる。ライナルトは、彼の生活になるべく支障が出ないよう、ベテランの分まで仕事を負担しているらしい。

 今日の買い物から帰ったあとに偶然会ったテオフィル殿下から、一連の事情を教えてもらった。


「お前がそんな理由でオレに功績を譲るか?」

 疑うようなまなざしのライナルト。

「私もそう思う。なんでかしらね」


 ふと、頭にひとつの光景が浮かび上がる。

「――ピンヒールをスクエアタイプに変えてくれたからかも」

「ピ……? なんだそれは」

「靴のかかとの名前。夜会の前に私が転んだとき」


 嘲笑われると思ったのに、かけられたのは「靴が悪い」という意外な言葉だった。私の家族だったら、伯爵家の娘が無様な姿をさらすなと叱るところだ。

 そのあともライナルトは歩幅を合わせてくれた。


「あんなことでか?」

 答える代わりに、肩をすくめる。

 自分だってうまく説明できないのだから、仕方ない。


「――あんなバランスの悪いものを履いて、女は大変だと思っただけだったんだが」

「心の底から同意するわ」


 フッとライナルトが笑った。バカにしたようなものではなかった。


「ならば、ありがたく託されよう」

「頼んだわ」


「遅い時間に悪かった」と言いながら、レポートとボンボンを持ったライナルトが扉に向かう。

「今日中に渡したかったから、構わないわ」

「明日なにかあるのか?」

「マリウス様とデート」


 だから、言伝に「何時でもいいから」と付け加えた。だけど。


「でも延期になっちゃたわ。マリウス様は熱を出してしまったみたい」

「……へえ」


 明日で婚約を決めてしまいたかったのに。

「残念」

 ま、明日の予定がなくなったのだから、存分に魔術書を読むことができる。

 デートよりこちらのほうがずっと楽しい。


 ボンボンを抱えて難しい顔をしているライナルトを見送ると、魔法錠を厳重にかけた。

 ふと、彼を出迎えたときのことを思い出す。


 ライナルトは、これでもかというほど赤面していた。

「自分はモテるだとか豪語しているわりには、純情なのね。普段は態度が悪いくせに」

 そのギャップに思わず笑みがこぼれた。


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