第十七話 明治二十二年憲法改正(前篇)
史実でポツダム宣言を受諾した1945年8月15日に、軍艦ミズーリ艦上で降伏文書に調印することになりました。
そしてマッカーサーはポツダム宣言を無視してとんでもないことを始めます。
1945年8月15日、東京湾、戦艦ミズーリ。
東京湾の空は重く曇っていた。
停泊する艦艇の群れの上を、海から吹く風が低く流れていく。その中心に巨大な艦影があった。
戦艦ミズーリ。
その甲板上で降伏文書調印式は終わった。
かつて大東亜戦争と呼ばれた戦争は、形式上ここに終結したのである。
重光葵外務大臣は義足の脚を引きずりながらタラップへ向かっていた。背後では各国将校たちの話し声が響いている。
しかし、その場の誰もが知らなかった。
戦争は終わったが、新たな衝突は今始まろうとしていたことを。
同日午後、終戦連絡事務局横浜事務局。
鈴木九萬事務局長は、急ぎ足で廊下を進んでいた。先ほど連合国側から出頭命令が届いたのである。
横浜税関
案内された部屋の中には、数名の米軍将校が立っていた。そして中央には、険しい表情を浮かべる一人の軍人。
マーシャル副参謀長だった。
「お座りください。」
通訳を通じて淡々と言う。
鈴木は着席した。
机上には数枚の文書。
マーシャル副参謀長は迷いなく紙を差し出した。
「連合国軍最高司令官マッカーサー元帥の命令です。明日1000に公布されます。」
鈴木は文書を手に取った。
一枚目――布告第一号
その文章を読んだ瞬間、鈴木の表情が凍りついた。
『立法・行政・司法の三権は、マッカーサー元帥の管理下に置かれる』
「……何だ、これは。」
二枚目――布告第二号
『司法権はGHQに属する』
三枚目――布告第三号
『日本円を廃し、B円を法定通貨とする』
鈴木は言葉を失った。
これは占領政策ではない。
国家の解体だった。
それはポツダム宣言の内容から明らかに逸脱していた。
「……これは、決定事項ですか。」
鈴木は恐る恐る尋ねる。
「本日発表されます。」
マーシャル副参謀長は感情を見せなかった。
鈴木はすぐ立ち上がった。
「この件は至急、政府へ報告します。」
同日、東京永田町、首相官邸。
報告を受けた内閣総理大臣
東久邇宮稔彦王殿下は机上の文書を静かに見つめられた。
部屋の空気は凍りついていた。
重光葵外務大臣
吉田茂。
そして閣僚たちが並ぶ。
誰も口を開かなかった。
やがて重光外務大臣が静かに言う。
「……この通告は、ポツダム宣言第十二項に違反しております。」
内閣総理大臣
東久邇宮稔彦王は視線を上げられた。
「違反か。」
「明白です。」
重光外務大臣の声は低かった。
「『日本国民の意思によって平和的政府を樹立する』とある。これでは統治権そのものの剥奪です。」
沈黙。
数秒後、内閣総理大臣
東久邇宮稔彦王は決断した。
「岡崎君を送ろう。」
全員が顔を上げる。
「直ちに横浜へ向かってもらう。」
同日深夜、横浜税関
岡崎勝男終戦連絡中央事務局長官は、眠気など忘れていた。
目の前にはマーシャル副参謀長。
時刻はすでに日付を跨いでいる。
「率直に申し上げます。」
岡崎は言った。
「この布告は受け入れられません。」
マーシャル副参謀長は眉一つ動かさない。
「理由は?」
「これは降伏条件に含まれていない。」
岡崎は机上の文書を叩いた。
「日本政府は降伏文書を受諾しました。しかし国家解体までは受諾していない。」
しばし沈黙。
時計の秒針だけが響く。
マーシャル副参謀長は腕を組んだ。
やがて低く言った。
「……元帥に伝えましょう。」
岡崎はさらに続けた。
「少なくとも発表延期を求めます。」
再び沈黙。
数分が経ち、マーシャル副参謀長は立ち上がった。
「延期する。」
岡崎は初めて息を吐いた。
しかし戦いは終わっていなかった。
決着は明朝に持ち越されたのである。
1945年8月16日1030、横浜税関
重光葵外務大臣は静かに部屋へ入った。
奥にはマッカーサーがいた。
長身の身体を椅子にもたせかけ、パイプを手にしている。
互いに着席する。
短い沈黙。
先に口を開いたのは重光外務大臣だった。
「元帥閣下。」
静かな声だった。
「私は確認したい。」
マッカーサーは視線だけ向けた。
「何をだ?」
「貴官はポツダム宣言を破棄するおつもりか。」
空気が止まった。
マッカーサーの目が細くなる。
重光外務大臣は続けた。
「我々はポツダム宣言を受諾したのであって、無条件に国家消滅を受諾したのではない。」
沈黙。
「もしこの布告が発効されれば、日本政府は国民に説明できません。」
「それで?」
「陸軍の強硬であった者がポツダム宣言受諾に伴う一時的な占領ではなく、侵略と制服を目的とする恒久的な支配であると。」
長い沈黙だった。
窓の外ではプロペラ機の音が響いている。
やがてマッカーサーは立ち上がった。
窓際へ歩く。
そして背を向けたまま言った。
「……貴様がそこまで言うなら、布告を撤回しよう。」
重光はわずかに目を細めた。
「三布告は白紙に戻す。」
振り返ったマッカーサーの顔には、先ほどまでの強硬さは消えていた。
「我々は日本を破壊するために来たのではない。」
重光は静かに立ち上がった。
「感謝いたします。」
日本の存廃を決定付ける会談が終わった。
時計は1140を指していた。
こうして三布告は歴史の表面から消え去った。
だが、この一件は日本政府に一つの事実を突きつけた。
戦争は終わった。しかし国家の運命を巡る戦いは、まだ始まったばかりであった。
そして発足が予定されて極東委員会に参加する或る不心得者とコミー共による日本を破壊する目的で行われた強硬な要求が、さらなる波乱を巻き起こすことになる。
マッカーサーによる滅茶苦茶な行動を、
東久邇宮成彦王内閣は何とか阻止しました。
なおこの一件、なんと史実準拠(白目)。




