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領主の長男ですが、禁忌のスキルネクロマンシーを授かって処刑されかけました。蘇らせた愛するメイドや仲間達と共に、滅びかけの辺境の村から国を興す。  作者: ドラドラ
第十一章 闇に抗う者たち

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第92話 温もりの先にある戦い

 一晩で、身体は嘘のように軽くなっていた。


 目を開けた瞬間、まず天井の木目が目に入る。見慣れたアルトレアの宿舎の天井だ。


 息を吸う。胸の奥にこびりついていた重苦しさが、ゆっくりと溶けていく。


 ――動ける。


 それだけで、心の奥に溜まっていた焦りが、少しだけ静まった。


「おはよう……ございます」


 すぐ傍から、柔らかな声が返ってくる。


 視線を向けると、ベッドの脇に腰掛けたトローネがいた。

 夜明け前の淡い光を背に受け、穏やかな微笑みを浮かべている。

 両手は胸の前で静かに組まれ、そこから細く、しかし途切れることのない魔力の流れが感じ取れた。


 その魔力は、今もなお、俺の身体へと注がれている。


「……もしかして、一晩中……?」


 自分でも分かるほど、声が低く、かすれていた。


「ええ……一晩中……です」


 迷いも、照れもなく、それが当たり前のことだと言わんばかりの口調だった。


「私には……これくらいしか……できませんから」


 胸の奥が、きゅっと締めつけられた。


 魂共鳴《ソウルリンク》を立て続けに行い、魔力の流れを無理やり引き伸ばし、限界を越えた代償は、決して軽くはなかった。


 作戦会議をした後、今日に備えてすぐに眠りについてしまった。

 その間、彼女は一人、治癒魔法を続けていたのだ。


「……ありがとう、トローネ」


 そう言うと、彼女はゆっくりと立ち上がり、ベッドの縁へと歩み寄ってきた。

 近づくにつれ、やわらかな体温と、ほのかに甘い香りが伝わってくる。


 次の瞬間、温もりが、そっと身体を包んだ。


 広い胸元と、柔らかな腕が、逃げ場を与えないほど自然に回される。

 押しつけるでもなく、だが確かに感じる重みと弾力が、身体の力を抜かせた。


 強くはないが、包み込まれる感覚は深く、拒むという発想そのものが浮かばない。


 柔らかなものに顔をうずめた拍子に、思わず息が漏れる。

 背中を撫でる手は大きく、指先まであたたかかった。


 まるで幼い頃、転んだあとに抱き寄せられた記憶をなぞるような、それでいて、子どもの頃には知らなかった大人の安心感が、そこにはあった。


「行って……らっしゃい」


 その声音は、戦場へ向かう者に向けられる言葉ではなく、家を出る息子へ、静かに背中を押す母親の声だった。


「必ず……帰って……きてください」


 胸の奥に、熱いものが込み上げる。


「ああ。約束する」


 短いが、逃げ場のない言葉で応えた。


 トローネは満足そうにうなずき、最後にそっと額へ手を当てる。魔力の流れが、静かに断たれた。


「もう……大丈夫です。皆さん……外で待って……います」


 その言葉を合図に、俺はベッドから身を起こした。


 ◇   ◆   ◇


 外に出ると、朝の冷たい空気が肌を打った。


 北側の防壁の前には、既に全員が揃っていた。


 サリアは腕を組み、壁にもたれながらこちらを見ている。

 厳しい視線の奥に、迷いはない。


 ガレオンは大剣を背負い、目を閉じて静かに呼吸を整えていた。

 戦いの前、いつもそうする。


 コーハは拳を握りしめ、珍しく無言のまま前を見据えている。

 言葉にしない分、決意は強い。


 ドレイナとツムギは並んで立ち、短く言葉を交わしていた。

 互いに、不安を押し殺すための確認のようにも見える。


 ハードンはいつもの調子で腕を振り回し、笑っている。

 だが、その目は鋭い。


 シュウは一歩引いた位置で全体を見渡し、今後の行く末を頭の中で組み直しているのだろう。


 連絡役として同行するリリラは、少し緊張した面持ちで、俺を見つめていた。


「……よし」


 声を出すと、全員の視線がこちらに集まる。


 その中に、ひときわ大きな影があった。


 巨斧を肩に担い、熊のような体躯をした男。

 北の風を思わせる荒々しさと、領主としての威厳を同時に纏っている。


「久しぶりだな、クロム」


 低く、よく通る声。バルドリア北のカザル領主、マサクリフだ。


「腕利きが来てるとは聞いてたが……まさかあんたとはな」


「悪いか?」


「いいや。むしろ心強い」


 マサクリフは豪快に笑い、俺の肩を叩く。


「ここは任せろ。ついて行きてぇ気持ちは山ほどあるが……」


 そう言って、周囲を見渡す。


「連携が取れたもん同士の方が、戦は上手くいく。そういうもんだろ」


「……助かる」


「礼はいらねぇ。俺たちは、俺たちの役目を果たすだけだ」


 その背中に、迷いはなかった。


 ◇   ◆   ◇


 作戦の最終確認。


 マサクリフ率いるバルドリアの部隊が、樹海入口で大規模な陽動を行う。

 アンデッドを引き寄せ、注意をそちらへ集中させる。


 その隙に、俺たちは樹海奥――敵の城へと突入する。


「問題は、場所だな」


 マサクリフが言う。


「噂は聞いてるが、誰も見たことがねぇ」


 俺は胸に手を当てた。


 そこに、微かだが確かな感覚がある。


「……分かる」


「何?」


「リヴとの繋がりが、まだ残ってる」


 細い糸のような感覚だが、まだ繋がっている。


「生きてる。今も……そこにいる」


 空気が、張り詰めた。


「なら迷う理由はないわね」


 サリアが言う。


「取り戻しに行こう」


 ガレオンがうなずく。


「派手に暴れようぜ」


 ハードンが笑う。


「必ず戻る」


 シュウの言葉は短い。


「何かあっても泥ネバコンボで足止めしてやります」


「勝手にコンビにするんじゃないわよ」


 見送りに来ていたネバルドにドロシーが反論する。


「リリリ。何かあっても私たちはずっと一緒だよ」


「リリラ。リリルと一緒に待ってるよ」


 リリラとリリリが強く抱き合う。アストレイで待機してもらっているリリルも傍にいる様に感じる。


 フリシアは両手を祈るように握りしめる。


「皆さんで……帰ってきてください」


 全員が、それぞれの覚悟を胸に刻む。


 俺は腰に差した黒い刀に手を置いた。


 喰闇《くらやみ》。闇を喰らい、道を切り開くための力。


「作戦開始だ」


 その言葉と共に、全員が動き出す。


 ――ネクロスとの決戦。


 ネクロマンサーとしての因縁を、ここで終わらせるために。

 第十一章はここで完結です。


 第十一章ではついに攻め込んできたネクロス、そしてさらわれたリヴ。

 ネクロスとの決着をつける決意をします。


 これから始まるネクロスとの長い戦いの結末、どのようになるのか楽しみにして頂けたら幸いです。


※作者からのお願い


投稿のモチベーションとなりますので、この小説を読んで「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、↓の☆☆☆☆☆から評価頂き作品への応援をよろしくお願い致します!


お手数だと思いますが、ブックマークや感想もいただけると本当に嬉しいです。


ご協力頂けたら本当にありがたい限りです。

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