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領主の長男ですが、禁忌のスキルネクロマンシーを授かって処刑されかけました。蘇らせた愛するメイドや仲間達と共に、滅びかけの辺境の村から国を興す。  作者: ドラドラ
第八章 想いを背負う者たち

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第63話 領主として、ひとりの男として

 黒い光が消え、視界がゆっくりと地上へ戻っていった。

 魂共鳴ソウルリンクがほどけていく感覚は、まるで深い水底から浮上する時のように重く、静かで、そして――寂しい。


 リヴの奥にあった温度が、魔力の流れとともに遠ざかっていく。

 戦いの熱が抜けていくにつれ、胸の奥が妙に冷えた。


 地面に膝をつく。鼓動が乱れ、喉の奥で息が震える。

 体はまだ戦いの余韻に支配されている。


「……クロム様」


 振り返ったリヴの腕には、ぐったりとしたサリアが抱きかかえられていた。

 その呼吸は微かで、胸元が細かく上下しているだけだ。


 額には汗と土がつき、頬には――乾ききらない涙の跡。


 心臓が締め付けられた。


 なぜ泣いたのか。

 何を思って、ここまで来たのか。


 そのすべてが胸に刺さる。


「……サリアを、こっちに」


 自分でも驚くほど、かすれた声だった。

 リヴは静かにうなずき、サリアをそっと俺の腕へ預ける。


 軽い。

 気絶して力の抜けた体は、こんなにも細いのかと思うほど軽かった。

 細い身体が俺の胸に触れた瞬間、忘れたはずの日々が、重く沈んだ泥のように押し寄せてきた。


 その瞬間、忘れていたはずの記憶が泥のように溢れ出す。


 ――初めて顔を合わせた日。

 ぎこちない挨拶。形式ばった言葉以外、何も話せなかった。


 ――婚約者として並んで歩いた日。

 互いに距離の詰め方が分からず、必要最低限の言葉しか交わせなかった。


 ――式典の時。

 周囲の目ばかりが重くのしかかり、俺はただ横に立つだけだった。

 彼女は常に凛としていて、強く見えた。

 近づけば壊れてしまうような、遠い存在だった。


 ――それでも。


 俺が処刑されかけたあの日だけは、彼女は最後まで目を逸らさなかった。


 その意味を、俺は見逃していた。


「クロム様……サリアは、あなたをずっと――」


「わかってる」


 リヴの言葉を、短く、だが噛みしめるように遮った。

 魂共鳴ソウルリンクで共有した想いは、俺の胸にも深く食い込んでいる。


 サリア。お前はずっと、こんなにも――


 拳が震える。

 遅すぎる。


 どれだけすれ違えば、気づくことができたのだろう。


 だが今は、立ち止まっている暇はない。


 俺はサリアを抱えたまま立ち上がり、周囲に残った彼女の部下たちへ視線を送った。


 槍を構えてこちらを睨む女騎士たち。

 主を奪われた怒りと、不安と、敗北の痛み。

 それでも彼女らの瞳は、サリアを案じて揺れている。


「殺してはいない。死なせる気もない。……俺が悪いように扱うことは絶対にしない。約束する」


 敵としてではなく、同じ一人の人間として告げた言葉だった。

 沈黙が落ちる。

 やがて、サリアの侍女だった女性が槍を地面に突き立て、深く頭を下げた。


「……感謝いたします、クロム殿。サリア様を……どうか……」


「預かるだけだ。……今は退け」


 その一言で、緊張が解けたように彼女らは武器を下ろし、静かに撤退していく。


 戦場に残されたのは、風と砂、そして俺たちだけだった。


 馬に乗り、サリアを抱いたままアストレイへ向かう。

 腕の中の体温が、妙に心をかき乱した。

 リヴが並走し、時折心配そうにこちらを覗く。


「クロム様……」


「言わなくてもいい。俺も……感じていた」


 サリアの想いも、リヴの想いも、繋がりの中で全て触れてしまった。


 もう逃げられないし、逃げるつもりもない。


「……俺は、何も分かっていなかった。あいつが、どれほど……俺を……」


 言葉が途切れ、呼吸が揺れた。

 自分でも驚くほど弱い声だった。

 リヴがそっと優しく微笑む。


「大丈夫です。あなたに届いた。それだけで、あの人はきっと報われます」


 その言葉が、胸にしみた。


 ◇   ◆   ◇


 アストレイへ戻ると、皆が息を飲んだ表情を向けてきた。


「ク、クロムさん、お怪我は……!?  そ、そのお方は……!」


 真っ先に駆け寄ってきたのはフリシアだった。

 その後ろからハードン、そしてネクレアたちも押し寄せてくる。


「大丈夫だ。俺のことより、サリアを頼む」


 サリアを寝台へ運び、治療班が総出で処置を施す。

 診断は、魔力枯渇と全身の疲労による気絶。

 命に関わるものではないと告げられ、全身から力が抜けた。


 夜が深まり、皆が寝静まっても、俺はサリアの傍にいた。


 静かに眠る横顔。

 昼間の激しい戦いが嘘のように安らかで、胸が痛んだ。


「……お前、本当に馬鹿だな」


 その言葉は俺自身への呟きでもあった。


 ◇   ◆   ◇


 夜が白む頃、部屋の扉が勢いよく開いた。


「クロムさん! 報告です!」


 ラピが駆け込んでくる。

 顔色は蒼白だった。


「ヴァルメイア軍が……アストレイ西に布陣! 先頭はヴァルネスト領の旗印です!」


 心臓が跳ねた。


 ついに来た。


 避けられぬ運命が、門前にまで迫っている。


 会議室へ入り、主要メンバーが揃う。

 俺が席につくなり、ハードンが前に出た。


「クロム、今回ばかりは俺たちも行くぞ。ここで見てるなんてできない」


「気持ちは分かる。だが――」


 俺は全員の顔を見渡し、静かに言った。


「この戦いの結末は分からない。……俺が死ぬこともあり得る。いざという時のために、アストレイを頼む」


「馬鹿言うんじゃない!」


 机が鳴り、ハードンの怒声が響く。


「そんな結末、絶対に認めねぇからな!」


 フリシアも涙をこらえながら言葉を続けた。


「クロムさんがいないアストレイなんて……考えられません……」


 その想いが、胸に刺さる。

 だが領主としての責任もある。


「念のためだ。……俺は領主として言ってる」


 沈黙が落ち、やがて皆がうなずいた。

 それでも、誰一人として俺の死を認めてはいなかった。


「もちろん無事に戻ってくるさ。ハードンにはギルドマスターもしてもらわないといけないしな」


「お、おい……! その話はなんだ! 初めて聞いたぞ!」


「そうだっけ? まぁその話も含めて帰ってからにしよう。頼んだぞ」


 言葉を濁して微笑むと、皆に背を向け、扉へ向かった。


 ◇   ◆   ◇


 アストレイの西方、ヴァルネスト軍が整然と並び、槍と盾の壁が地平線まで続いている。


 その中央――父、イグラードが馬上から俺を見下ろしていた。


「……クロム!」


 その声は、燃え盛る炎が地を這うように低く、重く響いた。


「禁忌の汚名を雪ぐ唯一の道だ。大人しく投降しろ。そうすれば、アストレイの民の命だけは助けてやる」


 まるで俺をまだ子どものように扱う声音。


 だが、俺はもう違う。

 前へ進み、真っ直ぐに父を見返す。


「父上。俺はアストレイの領主だ。……この土地を、俺は捨てない」


 父の顔が歪む。


「愚か者が!」


 軍勢がざわつき、その空気を裂くように別の声が横から飛ぶ。


「お前のせいで、俺はサリアと結婚できないんだよ!」


 ジーノだった。

 嫉妬と焦りが混ざった顔で、俺を睨みつける。


「おとなしく死ねよ。お前がいなければ全部うまくいったんだ!」


 俺は目を閉じ、短く息を吐いた。


 もし俺が死ねば、サリアは幸せになるのか。


 ――その答えは、もう知っている。


 ゆっくりと剣に手をかけた。

 その動きに反応し、ネクレアたちが俺の前へ立つ。


「クロム様に手を出すのなら……容赦しません」


「クロム殿の敵は、全て斬る」


 リヴが拳を握り、黒い魔力が滲む。

 シグレが刀を抜く。

 ネクレアたちが魔力を立ち上らせる。


 もう引き返す道はない。


 父が剣を掲げた。


「全軍――構え!」


 その瞬間、風が止まり、戦場の空気が張り詰めた。


 俺は仲間たちを振り返り、静かに言う。


「行くぞ。アストレイを守るために!」


 魔力が渦を巻き、全員の視線が前へ向けられる。


 そして――


「――討てぇッ!!」


 父の怒号が大地を震わせ、ヴァルネスト一族の因縁がついに幕を開けた。

 第八章はここで完結です。


 第八章では始まってしまった故郷ヴァルメイアとの戦争。

 そして久しぶりに登場のサリアにイグラード。

 この戦いの結末の果て、どのようになるのか楽しみにして頂けたら幸いです。


※作者からのお願い


投稿のモチベーションとなりますので、この小説を読んで「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、↓の☆☆☆☆☆から評価頂き作品への応援をよろしくお願い致します!


お手数だと思いますが、ブックマークや感想もいただけると本当に嬉しいです。


ご協力頂けたら本当にありがたい限りです。

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