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領主の長男ですが、禁忌のスキルネクロマンシーを授かって処刑されかけました。蘇らせた愛するメイドや仲間達と共に、滅びかけの辺境の村から国を興す。  作者: ドラドラ
第八章 想いを背負う者たち

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第58話 共鳴の先にある誓い

 轟音が大地を揺らしていた。

 クロム様と魂共鳴ソウルリンクして張る結界に、無数の魔法弾が叩きつけられ続けている。

 炸裂するたび、空気が震え、光が結界の膜に火花のような裂け跡を残す。

 しかしその痕跡は数瞬で消え、結界は再び静謐な輝きを取り戻した。


 割れない、揺れない、沈まない。


 理由はただ一つ――クロム殿の魔力と私の魔力が、魂の奥でひとつに結ばれているからだ。


 魂共鳴ソウルリンクという術を初めて聞いた日、私は想像していた。

 もっと複雑で難しい儀式のようなものかもしれない、と。


 しかし実際は違った。

 もっと……原初的だった。


 脈打つ鼓動が重なり合い、体内を巡る魔力が自然と同じ拍動を刻む。

 私という存在の輪郭が曖昧になり、クロム殿の魔力の温度が胸の奥に広がる。

 その瞬間、結界は厚みを増し、通常の数倍の強度へと膨れ上がる。


 ネクロスとなった私でも到底到達できない領域に――


 しかしその強大さの代償として、クロム殿の魔力は常時消費される。

 私の魔力も流れ続けてはいるが、それでも主導しているのはクロム殿だ。

 胸の奥で、微かにざらつく魔力の揺れが走った。

 魂共鳴ソウルリンクを開始してから、すでに二十分ほど経っているだろう。


 訓練で結界を張った時は、一時間は維持できた。


 けれど――あれは攻撃されていない状態だった。


 今は戦場。

 数百、数千の攻撃が常に叩きつけられている。

 クロム殿の消耗は、思ったより早い。


『……あと三十分。いえ、二十分……持てばいいほうでしょうか』


 思わず考えが漏れる。

 それに応じるように、クロム殿の意識が触れてきた。


『気にするな。まだ大丈夫だ』


 落ち着いた声。

 けれど、無理をしている気配が混ざっている。

 魂共鳴ソウルリンクは、心の揺れが隠せない。


 だから私も取り繕わず言葉を返す。


『……分かっています。ですが、無理はなさらないでください。魂共鳴ソウルリンクは、クロム殿の負担が大きいのですから』


『ヴァリアさんとなら、負担にはならない。むしろ……落ち着く』


 心臓が一度だけ大きく跳ねた。

 年甲斐もなく頬が熱くなる。

 だが、甘さに浸っている余裕などない。


 敵は一万。

 こちらは結界を張って耐えているだけ。

 そして魂共鳴ソウルリンクには時間制限がある。


 焦燥が胸を掻きむしる。


『……どうか、戦況が動いてくれれば――』


 しかし敵の攻撃は弱まらない。

 むしろ苛立ちが増しているのが分かる。

 遠距離攻撃が効かないと悟ったのだろう。

 ヴァルデン軍の列が揺れ、旗印が大きく振られる。


 陣形が変わった。盾兵、重装歩兵、突撃兵――前列に集められ、砂煙を巻き上げてこちらへ迫る。

 地面が震え、砂が空を薄茶色に染める。


『……来ます。結界に肉薄するつもりのようです』


『こちらの狙い通りだな。ここが正念場だ』


 クロム殿の意識が、鋭く研ぎ澄まされる。

 魂の中心に黒く太い杭が打ち込まれるような感覚――


 それは恐怖を押し返す強さだった。


 この方は、私が思っている以上に強い。

 その事実が、胸の奥で誇りに変わる。


 敵の前衛が結界に攻撃を加える。槍が叩きつけられ、剣が弾かれ、魔力が爆ぜる。それらすべてを結界が吸収し、耐えた。


 その瞬間――


 ――轟ッ!!


 大地を裏返す爆音が、敵陣の背後から響き渡った。


「わが軍の後方から……何だ!?」


 砂塵が舞い上がり、敵軍の後方が大きく揺れる。

 指揮官の怒号が遠くから聞こえるほど乱れている。

 結界越しでも分かった。


『来たな』


 クロム様の声に、微かに安堵が混じる。


 私は視線を北へ向けた。

 砂煙の向こう――影が駆ける。アストレイの主戦力、ネクレアたちの別動隊。


 その先頭で愛刀を振りかざし、敵陣を切り裂いていくのはシグレさんだ。

 バルドリアとの決闘の時に発散できなかった鬱憤を晴らしているように、揺るがぬ剣筋。

 結界越しでも圧が伝わるほどの迫力。


 ネクレアたちは北側から完全に回り込み、ヴァルデン軍の背後を崩し始めた。


 ――ネクロスが占領する北側は、私たちが絶対に攻めてこないと信じていた場所。


 クロム殿はすでに読んでいた。

 ヴァルデンと教会の動きを見越し、先に北側のネクロスの領域を制圧していたのだ。

 そこを拠点に、挟撃の布陣を整えていた。

 敵は、まったく気づいていなかった。


「後方に敵だと!?」


「包囲された!?」


「ありえん、ネクロス側から……!」


 混乱は瞬く間に広がる。

 前進していた歩兵が止まり、後方からの命令が届かない。

 大軍は、一度混乱すると脆い。


『ヴァリアさん、もう少し耐えてくれ。リヴたちが一気に制圧する』


『はい、クロム殿』


 魂を重ね、結界を強める。

 クロム殿の魔力が一瞬だけ膨らみ、それに引かれるように私の魔力も上昇する。

 二つの魔力が同調し、結界の強度がさらに跳ね上がる。


 外ではリヴさんたちが戦っていた。敵を無力化しながらも、不殺を徹底する形で戦力だけを削る。


「命までは取りません。撤退するなら手は出しません!」


 リヴさんの声が高く響く。


 戦意を喪失したヴァルデン兵たちは次々と退き始めた。

 負傷はしても命は奪われていない。

 その違いは、戦意を大きく削ぐ。


 やがて、叫び声が上がった。


「退け! 退けぇっ!!」


 その一声が火種となり、一万の兵が雪崩のように後退し始めた。

 ネクレアたちも追撃しない。

 クロム殿の指示が徹底されている。


 結界の外には、ただ退いていく兵の影と舞い上がる砂だけが残った。


 私は深く息を吐いた。

 魂共鳴ソウルリンクの繋がりが薄れ始める。

 結界を解き、クロム殿へ意識を向けた。


『……クロム殿、お疲れ様でした』


『いや。ヴァリアさんのおかげだ。結界がなければ、こうはいかなかった』


 張り詰めていた糸が、そこでようやく解けた。


 この方の力になれた。

 この方の居場所を守れた。


 その事実だけで胸が熱い。


 そして、小さな声で呟く。


『……今後も、どうか。私を、お傍に』


 魂の境界が、ふっとほどける。


 重なっていた鼓動が、二つに分かれる。


 ◇   ◇   ◇


 魂共鳴ソウルリンクが完全に解け、ヴァリアさんが静かに息を整えるのを見て、俺は前へ歩いた。


 敵影はない。

 ヴァルデン軍は挟撃で戦意を折られ、こちらの不殺を知って撤退した。


 追撃はしない。

 それが俺たちの戦いの在り方だ。


「……ヴァリアさん。本当にありがとう。あなたがいてくれたから、守れた」


「いえ。私は、クロム殿のお力の一端を……支えただけです」


 控えめな声音。


 しかし、誇りがあった。

 西の地平を見渡す。

 その先にはヴァルメイアがあり、そして教会の影がある。


「今回の戦いで、彼らが何を感じ取ってくれたらいいのだが……」


 ヴァリアさんが視線を向ける。


「争いを望まない、ということ……でしょうか」


「ああ。アストレイは敵意を持たない。それを感じてくれれば、無用な戦いは避けられる」


「それでも、また襲ってくるかもしれません」


「それでもいい。何度でも示す。俺たちは争いたくない、と」


 力は奪うためではなく、守るために使う。

 今日の戦いで、それを伝えられたのなら十分だった。


「さぁ、ヴァリアさん。みんなを迎えに行こう」


「はい。クロム殿」


 風が吹き、戦場の砂をさらっていく。

 その向こうには、まだ知らない未来が広がっている。


 アストレイの未来に、少しでも穏やかさが訪れることを願いながら、俺たちは歩き出した。

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