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領主の長男ですが、禁忌のスキルネクロマンシーを授かって処刑されかけました。蘇らせた愛するメイドや仲間達と共に、滅びかけの辺境の村から国を興す。  作者: ドラドラ
第八章 想いを背負う者たち

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第57話 侵攻の刻、魂が重なる

 乾いた風が頬を撫でた。

 西から吹き抜ける風は、普段なら砂の匂いを運んでくるだけだが、今日のそれは違っていた。

 鉄の苦みと微かな焦げ――戦場の予兆を含んだざらついた匂いが、肺の奥へと渦を巻いて沈んでいく。


 西門の見張り台から狼煙が上がったのは、ほんの数分前だ。


 ――ヴァルデン軍、再び侵攻。


 その報せを聞いた瞬間、胸の奥がわずかに熱を帯びた。


 ついに来たか――覚悟していた日が。


「リヴ、全員に伝えてくれ。予定していた迎撃案を実行する。細かな指揮と判断は現場に任せる」


「了解です。クロム様、お気をつけて」


 リヴが短く息を整え、すぐさま仲間へ指示を飛ばしながら駆けていく。

 俺はその背を見届けると、ヴァリアさんへ視線を向けた。


「ヴァリアさん、お願いします。護衛もついてきてくれ」


「はい、クロム殿」


 俺とヴァリアさん、そして護衛部隊が一斉に西側へ駆け出した。


 ◇   ◆   ◇


 ほどなくして視界に飛び込んできたのは――地平を覆い尽くす、黒い波のような敵影だった。

 押し寄せるという言葉では足りない。


 大地そのものが揺れ、うねり、迫ってくるようだった。


「……ついに来たか」


 息と一緒に熱いものが漏れた。

 胸の奥が静かに熱を帯びる。

 この日が来ることは覚悟していた。


 だからこそ、備えてきた。

 自分の力と、仲間たちの力を。


「ヴァリアさん。いざという時は――手筈通りに頼む」


「はい。クロム殿のお力のままに」


 彼女は微笑まない。

 ただ静かに頷く。

 その瞳の奥には恐れよりも決意だけが灯っていた。


 俺は前線へ目を戻す。

 アストレイ西の平野――その中央付近に、異様な密度の兵士がひしめいている。

 黒い塊が脈打つように、たゆたゆと揺れていた。


「……思ったより、ずいぶん多いな」


 ぽつりとつぶやくと、横でヴァリアさんが眉をひそめた。


「はい。ヴァルデン領だけではありませんね。旗印が混在しています。……他領の兵も混じっているようです」


「やはりか」


 遠目にも分かった。

 ヴァルデン領の紋章だけでなく、ヴァルメイア各領の紋章が散在している。


 一万……いや、それ以上か。


 対するこちらは、俺とヴァリアさん。

 後方には数十名の護衛。


 並べて見れば、あまりにも滑稽な戦力差だ。

 それでも――退くつもりはなかった。


 アストレイは俺たちの居場所であり、誰に奪わせるつもりもない。


 敵軍の前列がざわついた。


 宣戦布告も、使者もいない。

 会話という手順を捨て、ただ黙って押し寄せる。


 まるで『話す必要もない』と言いたげに。


 アストレイを、最初から踏み潰す対象としか見ていない。

 そんな無言の敵意が、遠くからでも肌を刺した。


 やがて――


「……来るぞ」


 敵の前衛が詠唱を開始した。

 魔力が空気を歪ませ、無数の光弾が空を白く染めていく。

 第一撃から容赦はない。こちらを距離から削り、押し潰すつもりだ。

 俺は、静かに息を吸った。


 ――準備は、全て整えてきた。


 バハドール王との決闘でリヴと繋がった瞬間の感覚。

 あの三つ子――リリラ、リリリ、リリルの助言から得た糸口。

 リヴやネクレアの仲間たちと何度も試した訓練。


 拾い集めた断片が、やっとひとつの形になった。


「いきます、ヴァリアさん」


「はい、準備はいいです」


「――魂共鳴ソウルリンク、発動!」


 瞬間、世界の輪郭が揺れた。


 鼓動が二つ、重なる。

 内側に流れる魔力がひとつに混じり合い、温かな光のようなものが胸の奥に灯る。

 ヴァリアさんとの境界が、ゆっくり溶けていく。


 その瞬間、視界は暗転し、意識がふっと浮き上がった。


 ◆   ◆   ◆


 クロム殿の気配が、すぐ隣にある。

 いいえ、隣というより……胸の奥で寄り添っている、と言った方が正しいのでしょうか。


 思いが重なる。


 そんな言葉を、私は軽々しく使ったことはない。

 けれど今だけは、それが最も近い表現に思えたました。


 静かで、しかし確かな繋がり。

 その震えが胸の奥を満たす。


『……それでは手筈通りいきますよ、クロム殿』


 声に出していないはずなのに、クロム殿には伝わった気がした。


 これが魂共鳴ソウルリンク


 あの三つ子に言われた。


 「気配をそろえる感じー」「心のリズム合わせるの!」「相手と一緒に落ちるんだよ!」


 彼女たちの突拍子もない助言は、最初は意味が分からず何度も失敗しました。

 でもクロム殿が諦めずに向き合ってくださって、ようやく掴んだ。


 そして今、この戦場で、クロム殿は――私を選んでくださった。

 その事実が、胸の奥を熱くする。


『ヴァリアさん――いくぞ』


 意識で語りかけられ、私は返事より先に行動していた。

 魂が重なっているから、言葉は必要ありません。


 伸ばした手から結界を展開する。

 光が地面を走り、巨大な半球が瞬時に広がった。


 次の瞬間――


 敵軍の光弾が集中砲火のように叩きつけられた。


 轟音、眩い光、爆ぜる衝撃に、空気が震え、砂が舞い上がる。


 それでも私の結界は揺れもしない。


 クロム殿の魔力。

 私の魔力。

 魂の奥で混じり合い、ひとつの奔流となって世界を押し返している。


 これが……魂共鳴ソウルリンクの力。

 胸の奥で、クロム殿の鼓動が重なる。

 それに私の鼓動が応える。


 温かく、静かで、しかし底なしに強い。

 恐怖はなかった。


 一万の兵が相手でも――この方となら、戦える。


 魔法弾は途切れず降り注ぐが、結界は微動だにしない。


 クロム殿……ありがとうございます。

 私を信じてくださって。

 まだ、誰とでもソウルリンクできるわけではないようですが……


 アストレイを守りたいという、私の思いと――共鳴して頂けたのだと思います。


 胸の中でそっとつぶやき、私は深く息を吸った。


 ここからが、私たちの戦い方です。

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