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領主の長男ですが、禁忌のスキルネクロマンシーを授かって処刑されかけました。蘇らせた愛するメイドや仲間達と共に、滅びかけの辺境の村から国を興す。  作者: ドラドラ
第七章 礎を築く者たち

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第47話 侍の魂を取り戻す者

 バルドリアとの決闘が終わり、あの喧騒や緊張が嘘のように、アストレイには穏やかな日常が戻っていた。

 風は柔らかく、作物はよく育ち、仲間たちの声も以前より少しだけ明るい。

 俺自身、胸の奥に溜まっていた何かが抜けたようで、久しぶりに深く息が吸えた。


 ――だが、その日常の中に、一つだけ異質な影があった。


 シグレだ。

 姿を見るたび、普段は整った顔が見事なまでに不機嫌そうだった。


 仕事は真面目にこなしているし、文句も一切言わない。

 むしろいつも以上に働いている気すらした。


 だが、どこへ行ってもむすっとしている。


 理由は分かっていた。

 バルドリアとの決闘に、一切関われなかったせいだ。


 俺の姿を見ると、目をそらし、距離を取る。

 今日も、拠点へ戻ったところでばったり出くわした瞬間――


「……おかえりなさいませ、クロム殿」


 低く抑えた声で言い残し、そのまま横を通り過ぎていった。

 俺は思わず頭を抱えた。


「見事に拗ねているな……」


 隣で歩くリヴが、少し申し訳なさそうに笑った。


「シグレ様……あの方、本当に出番を楽しみにしていたんですよ。クロム様の隣で、アストレイの戦力として戦えることを。やっと出番が回ってきたと思ったら、不戦勝で終わってしまったわけですから……」

「まあ、気持ちは分かるけど……あそこまで露骨にされるとはな」


 シグレは戦いを望んでいた。

 ただ暴れたいのではなく、俺の隣に立ち、自分の力を示し、仲間として役割を果たしたかったのだろう。

 そう思えば思うほど、申し訳なさが胸に広がった。


 ――だから、俺は一つの案を思いついた。


 刀を贈ろう。


 シグレの今の武器は、バラクが彼の説明を聞きながら作った刀のようなものだ。あれはあれで十分よくできている。だが、シグレが本当に欲しているのは本物の刀。


 以前、バラクと共に刀について聞いた時、シグレはこんなことを言っていた。


『侍にとって刀とは魂なのです』


 その声は、普段の言葉よりも、ずっと深いところから出ているように感じた。


 だから――贈るべきだと思った。


「リヴ。ガリア領主に、刀が手に入らないか確認しよう。バルドリアなら、伝手があるはずだ」

「はい。クロム様が選んだものなら、きっとシグレさんも……いえ、必ず喜びます」


 その笑顔という言葉が胸に残る。


 シグレが納豆を食べていた時の、あの素直な笑み。

 あれを、取り戻したいと思った。


 ◇   ◆   ◇


 後日、ガリア領へ刀の手配を依頼した。

 以前ギルディアにも頼んだことはあるが、刀は手に入らなかった。

 ならば、武を極めているバルトリアでなら、何とかならないかと期待を込めて。


 数日後――


「クロム様! バルドリアから荷が届きました!」


 ラピが息を弾ませて駆けてきた。俺とリヴは急いで荷物の元へ向かう。

 そこには木箱を前に腕を組むガレオンの姿があった。


「これが……注文した刀か? ……にしては……随分立派な箱だな」

「いや……俺も、こんなものが届くとは思ってなかった」


 木箱は重厚で、装飾すら施されている。

 まるで王家の宝物でも納めるかのように。


 ゆっくりと木蓋を外した瞬間――空気が変わった。


 刀がそこにあった。


 ただの剣ではない。

 一目見ただけで、背筋が震えた。


 細身の刀身は夜明け前の光を秘め、周囲の光を吸い込むようでもある。

 鞘は黒漆塗り。鍔には異国の紋様。柄巻きは深い藍。

 触れてもいないのに、手に馴染む感覚が伝わってくる錯覚すら覚えた。


 ――ああ、これか。シグレが言っていた、『刀は侍の魂』という言葉の意味は。


 目の前の一振りには、確かにその言葉が宿っていた。


 俺が言葉を失っていると、添えられていた手紙を読んでいたリヴが、小さく息を呑んだ。


「クロム様……この刀、差出人は、バハドール王です」

「バハドール王から……?」


 リヴは静かに続ける。


『――この刀は、俺が若き日に武者修行でジャポニアに訪れた際、侍を討ち取り奪ったものだ。あまりの美しさに観賞用として長く置いていたが、前の決闘で見せたお前たちの戦いに免じ、贈り物として送る。あの侍に使わせるがよい』


 俺は思わず息を飲んだ。

 ジャポニア――シグレとツムギの故郷であり、侍の国。

 覇王が守り続けていた宝物。


 それが、今俺の手元にある。


「……これまたすごいものが届いたな」


 俺が呟くと、ガレオンが刀を覗き込み、目を見開いた。


「クロムさん……素人の俺でも分かる。こんな武器、見たことねぇ……」

「バハドール王のお気に入りらしい」


 ガレオンは口を開けたまま固まり、次の瞬間、震える声で言った。


「こんなの……シグレに渡したら、あいつ……嬉しすぎて泣くぞ」

「だろうな」


 刀をそっと持ち上げる。

 重さをほとんど感じない。


 いや――まるで刀のほうが、こちらの手に自ら重心を預けてくるようだった。


「……シグレに渡しに行こう」


 ◇   ◆   ◇


 シグレは丘の上で木刀を振っていた。

 夕日を背に、影が長く伸び、振り下ろすたびに風が震える。

 だが、その動きには焦りにも似た棘があった。


 近づくと気づき、こちらへ向き直る。


「クロム殿……どうかされましたか」


 声は硬く沈んでいる。

 俺は隠していた刀を背中に回したまま、一歩踏み出した。


「シグレ。バルドリアとの決闘で戦わせてやれなかったこと……すまなかった」


 シグレの瞳が揺れた。


「そんな……謝る必要など……。拙者は……ただ……」

「戦いたかったんだろう。俺と、アストレイのために」


 その言葉に、シグレは唇を噛んだ。胸の奥に押し込んでいた悔しさが滲み出るように。

 俺は静かに刀を差し出した。


「だから――これを、お前に贈る」


 シグレの表情が凍りつく。そして、震える手で鞘に触れた。


「こ……これは……本物の、刀……?」

「バルドリアから取り寄せた。覇王の宝物だったらしい」


 シグレは言葉を失い、鞘を胸に抱きしめた。

 その肩が、震えている。


「こんな……こんな立派なもの……。拙者が、持っていてもよいのですか……?」

「持つべきはシグレだ。ずっと……欲しかったんだろう?」


 シグレの瞳から、ぽろりと涙が落ちた。


「……はい……ずっと……クロム殿の為に振るう力を……私は……」


 言葉にならない思いが零れ落ちるように、シグレは刀を抱きしめた。


 その時だった――


「……クロム、シグレ。ちょっと待て」


 バラクが丘へ駆け上がってきた。

 表情が真剣で、いつもの軽さが一切ない。


「バラク? どうした?」


 バラクは刀を見て、息を荒げながら言った。


「クロム……シグレ……悪いが、その刀――」


 一度深く息を吸い、職人としての決意を宿した目で言い切った。


「――分解させてくれ」

※作者からのお願い


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