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領主の長男ですが、禁忌のスキルネクロマンシーを授かって処刑されかけました。蘇らせた愛するメイドや仲間達と共に、滅びかけの辺境の村から国を興す。  作者: ドラドラ
第六章 魂を賭して戦う者たち

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第43話 静かなる一撃

 三試合目の準備が整い、闘技場の空気はさらに熱を帯びていった。

 歓声は渦を巻き、熱気は砂を震わせ、群衆の息遣いさえ一つのうねりとなって押し寄せる。


 ――負ければ後がない。


 バルドリアは追い詰められているはずだ。

 だが、彼らの士気は微塵も下がっていなかった。


「次は南サルガン領主のガンベル様だ!」

「ここから巻き返すんだ、バルドリアの誇りを見せてください!」


 観客席のざわめきはむしろ勢いを増していた。


 一方のアストレイ側も、静かな緊張と高揚が入り混じっていた。

 その中心で、シグレが腕を組み、凛と顎を上げる。


「今度こそ……今度こそ拙者に任せて貰おうか」


 その声音には焦りが滲んでいた。

 二度も出番を逃した男の、積もり積もった意地と誇りがそこにあった。


 俺は頷く。

 そろそろシグレの番を立てるべきか――そう思った、その瞬間。


「待ってくださいな」


 柔らかい声が、俺たちの背後からふわりと落ちてきた。

 振り向くと、ドレイナが前に進み出ていた。

 長い黒髪が光を受けて揺れ、瞳には芯の強さと、どこか覚悟めいたものが宿っている。


「殿方の相手は、わたくしに任せてくださる? それに……女性もやれるってところを、そろそろ見せておきたいの」


 その言葉を受けたシグレの表情が――完全に固まった。


「…………な……んだと」


 沈黙。

 次の瞬間、シグレの肩が震え、顔が引きつっていった。


「ま、また……! またしても拙者の出番が……!!」


 天を仰ぎ、全身で絶望を表現する武士。


「だ、だがここで譲れば……武人としての威信が……!」


 必死すぎて、逆に不憫だ。

 ドレイナはそんなシグレに微笑み、そっと言う。


「シグレさんの邪魔をしたいわけではありませんの。ただ……一度くらい、みんなの前で戦ってみたいのです」

「む、むぅぅ……!」


 シグレの喉が鳴る。

 譲りたくない。

 しかし、ドレイナの真剣な眼差しを前に、強く拒絶することもできない。


 そして彼は俺の方へ向き直った。


「……確認だ、クロム殿。次は、絶対に――絶対に拙者が行く。よいな?」

「わかった。約束する」


 シグレはようやく息を吐いた。

 肩の力が抜けたその表情は、半分安堵で、半分涙目だった。


 そんなやり取りの最中、対面のバルドリア側から、重々しい足音が響き渡る。


「吾輩は南サルガン領主、ガンベル! 王の杖だ!」


 丸太のような手足、鉄板のような胸板。

 その巨体はただ立つだけで威圧感を放ち、観客席からどよめきが上がる。


 ――あの見た目で術師なのだろうか。


「ガンベル様ぁ! やっちまってください!!」


 ガンベルは腹の底から笑う。


「ガッハッハ! 女か! どれ、せっかくだ。一撃だけは先にくれてやる!」


 豪快な挑発に、ドレイナは涼やかな表情のままリングへ上がる。


 その背中は細く、華奢だ。

 けれど、歩みには迷いが一切なかった。


 リング中央に立ち、二人が向かい合う。


「女よ、好きに仕掛けてみろ!」


 言い終える前にドレイナが動いた。

 軽い、まるで風が触れるような動きで、ガンベルの腕に指先を添える。


「失礼しますね」


 その声は、ため息のように静かだった。

 次の瞬間、ガンベルの身体から白い靄が抜けるように、魔力が吸い上げられる。


「……んあ?」


 間の抜けた声。それだけだった。


「ま……て……こ、こりゃっ……たまらん……イ……く……!」


 絶頂に達したかのような顔で、ガンベルは白目をむいたまま倒れた。


 日々魔物肉の魔力を抜いている彼女もまた成長しているのだ。

 魔力が一気に抜かれ、立っていられるわけがない。


 バハドール王は、倒れ伏すガンベルと、涼しい顔のまま佇むドレイナを見比べ、深々とため息をついた。


「……勝負あり。勝者、ドレイナ……だ」


 宣言そのものは王としての威厳を保っている。

 だが声音にはどうしようもなく滲み出ていた。


 ――まさか一瞬で終わるとは思わなかった。

 ――ガンベル、もう少し見せ場はなかったのか。


 そんな複雑な感情が丸ごと詰まった、気乗りしない響きだった。


 歓声が爆発する。

 あまりのあっけなさに、むしろ悲鳴すら混ざっていた。


 ドレイナは小さく息を吐き、こちらへ微笑んだ。


「……お役に立てましたわ」

「十分すぎるほどだ。よくやった」


 三勝。この時点で、アストレイの勝ち越しは確定した。


 その瞬間、シグレが弾かれたように跳ね上がった。


「さぁ第四試合! 拙者が相手をしよう!」


 叫びながらリングへ駆け上がる。

 対して北領主マサクリフが立ち上がる。


「このまま全敗は許されん。俺が――」


 しかし。


「下がれ、マサクリフ」


 バハドール王が冷たく言い放った。


「お前はすでに一度負けている。二度目は要らん。ここはアストレイの不戦勝とする」


 マサクリフは茫然と立ちつくす。

 シグレはリング上で謎の表情をしていた。


「……は、拙者……何もしていないのだが……?」

「……勝ちは勝ちだ、シグレ」

「そ、そうであるか……?」


 微妙な表情である。

 微妙すぎる勝利だった。


 そして、バハドール王がゆっくりと立ち上がる。


「国同士の決闘としては敗北でよい。だが――」


 その声は、闘技場全体を震わせた。


「俺はまだ、アストレイの本当の力を見ていない。そちらで最も強い者を出せ。俺が相手をしよう」


 観客が一斉にざわめく。

 王自らが闘うなど、常識では考えられない。


 シグレが一歩前へ出る。


「このアストレイで最強は、拙者――」

「――リヴだ」


 俺が言うと、シグレの動きが完全に止まった。


「…………え?」


 周囲も一瞬凍りつく。

 リヴだけが、無表情のまま俺を見返していた。

 俺は言葉を続ける。


「確かに、今のアストレイで戦士として最も完成しているのはシグレだろう。だが……今回この場で戦うのに最も相応しいのは――リヴだ」


 ざわめきが走る。

 俺はそのまま言葉を紡いだ。


「バハドール王の求めているのは、ただの勝敗じゃない。アストレイという国が、どんな覚悟を持ってここに立っているかだ。リヴはその役目を果たせる。……俺はそう信じている」


 静まり返った空気の中、リヴが静かに立ち上がった。

 その瞳は揺らぎなく、ただ一点を見据えている。


「クロム様がそう判断されるのであれば……私が行かせて頂きます」


 その声音は淡々としているのに、リングの空気が変わるほどの重みがあった。

 バハドール王は満足げに頷いた。


「ふむ……先ほどとはまた違う気配だ。面白い。そやつを出せ」


 シグレは口をぱくぱくさせ――。


「……ま、また……拙者の出番は……」


 俺は苦笑しつつ、シグレの肩を叩く。


「シグレの剣は切れ味も技も一級品だ。だが今回は……相手が王だ。――国の頂点に立つ相手だ。シグレの腕前じゃ、どうしても殺してしまう可能性がある」


 シグレは口を結んだまま、俺の言葉を飲み込んでいく。


「シグレは強すぎるんだ。だからこそ、今回はリヴのほうがいい」


 シグレはしばらく黙っていたが、やがて深く息を吐いた。


「……そこまで言われては、さすがに拙者も引くしかあるまい」


 そして、小さく、しかしどこか誇らしげに笑った。


 最終試合。

 王と、アストレイの最後の一手。


 この決闘で最も重い衝突が――いま、幕を開けようとしていた。

※作者からのお願い


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