表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
領主の長男ですが、禁忌のスキルネクロマンシーを授かって処刑されかけました。蘇らせた愛するメイドや仲間達と共に、滅びかけの辺境の村から国を興す。  作者: ドラドラ
第六章 魂を賭して戦う者たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/84

第40話 迫り来る覇の影

 アストレイの空は今日も穏やかで、開拓の槌音があちこちから響いていた。

 木槌の乾いた音、牛の鳴き声、子どもたちの笑い。

 それらが混ざり合って、まるでこの地そのものが呼吸しているかのようだった。


 ギルディア側のネクロスの地――かつては死者の荒野と呼ばれたこの土地に、今では畑と家が並び始めている。

 黒く乾いていた大地が、いつの間にか緑に染まりつつあった。

 かつて死を象徴した土地に、いまは生が芽吹いている。


 俺たちが築いた防衛拠点も、順調に増えていた。

 ネクレアたちに管理を任せつつ、村を囲むように配置されたそれらは、ネクロスからアストレイを守る鎧となっている。


 目を閉じると、彼らの存在を感じ取れる気がした。

 呼吸のように、脈動のように――


 もはやアストレイは、一つの村ではない。


 ――独立領。


 そう意識した瞬間から、俺とネクレアたちの《《繋がり》》も変わった。

 距離を隔てても、アストレイの領地である限り、互いの存在を確かに感じ取れる。

 言葉を交わさずとも、心が届くような不思議な感覚だった。


 誰もが必死に築き上げた日々。

 その努力が、ようやく形になり始めている。


 そんな穏やかな時間を破るように――鐘が鳴った。


 高台から、金属を叩く重い音が響き渡る。

 その響きは静寂を引き裂き、村中を一瞬で緊張に包み込んだ。

 警鐘だ。


 敵襲ではない。魔物でもない。

 ……来訪者。


 胸の奥がざわつく。

 この鐘が鳴るのは、普通ではない存在が近づいているときだけだ。


 すぐにラピが駆け込んできた。

 額には汗、肩で息をしている。


「クロムさん、南の街道に軍勢が見えます。旗印は――バルドリアのものです!」

「……軍勢?」

「はい。見える限りでも五百は下りません。そして使者が面会したいと言っています」


 武闘国バルドリア。

 フェイリア大陸南方に位置する、武をもって統治する国。

 力が正義であり、剣こそが言葉となる土地。


 前回のガリア領の時は敵兵は約二千。

 あれからネクレアの数は増えていて二百になろうとはしている。

 純粋な数だけを見れば、五百なら十分に対抗できる。


 だが、バルドリアが、それを理解していないはずがない。

 それでも軍を動かしたということは、別の意図があるということだ。


「使者と話をしよう」


 ラピが頷き、伝令に走る。

 俺もすぐに後を追った。


 ◇   ◆   ◇


 南門に到着すると、すでに緊張した空気が漂っていた。

 ネクレアたちが周囲を警戒している。


 やがて、護衛に囲まれ、一人の男が姿を現した。


「アストレイ代表、クロム・アストレイだな」

「ああ、俺がクロムだ」

「我らが主、バルドリア王・バハドール陛下の御意により、果たし状を持参した」


 果たし状――


 その言葉が放たれた瞬間、周囲がざわついた。

 戦の前触れだ。


 男は書状を広げ、力強く読み上げた。


「『クロム・アストレイに告ぐ。我が国は貴地に滞在する者のうち、ハーフエルフのフリシアを求む』」


 読み終えた男は巻物を差し出す。

 受け取った瞬間、紙の重さが異様に感じられた。


「……フリシアを、だと」


 フリシアの名が出た瞬間、周囲の空気が変わった。


 ガリアとの代表戦で勝ち取ったフリシア。

 それを今度はバルドリアが国を挙げて奪い取ろうとしている。


 国としてのプライドなのか、なにか別の意図があるのか。

 なんにせよ従う訳にはいかない。


「フリシアは渡さない」


 思わず声に苛立ちが混じっていた。

 使者は怯むことなく、むしろ愉快そうに口角を上げた。


「拒むならば、決闘で証明していただこう。五人の代表を立て、一対一の戦いで勝負をつける。それが陛下のご意志だ」

「勝てば――」

「勝てば、ハーフエルフはもうそちらのものだ」


 挑発か、それとも誠意か。


 どちらでもいい。

 その裏に、何かもっと深い意図があるのは確かだ。


 バルドリアが、ただ一人の少女のために軍を動かすはずがない。

 彼らの狙いは、アストレイそのもの――


「……分かった。決闘を受けよう」


 使者の眉がわずかに動いた。

 俺の即答が、予想外だったのだろう。


「二週間後、アストレイ南方の大地にて。陛下自らがお越しになる」


 言い残して、使者は背を向けた。

 去り際の背中には、勝利を確信する者の余裕があった。


 その背に、ガレオンが低く吐き捨てた。


「戦をしたいだけの男たちが……」


 俺はゆっくりと拳を握った。


「だが代表戦なら、この前のガリアの時みたいに勝てる可能性はある」


 その言葉を自分に言い聞かせるように呟く。

 フリシアの方を見ると、彼女は少し怯えたような、それでも真っ直ぐな瞳で俺を見ていた。


 俺は彼女の肩に手を置いた。


「フリシアを渡す気はない」


 彼女は目を見開き、それから静かに微笑んだ。


「クロムさん……ありがとうございます」


 その笑顔を見て、決意が固まった。


 守るべきものがある限り、俺は負けられない。


 ◇   ◆   ◇


 二週間後――

 バルドリアの奇襲を警戒していたが、彼らは宣言どおり現れた。

 南の地平線に、黒い波が見えたとき、誰もが息を呑んだ。


 それは、軍だった。


 槍の群れ、騎兵の列、翻る赤い旗。

 南の大地が生き物のようにうねり、進軍の振動が足元を揺らす。


「……これが、バルドリアの軍ですか」


 リヴの声が低く震えた。


 圧倒的な数の差。

 もしこの軍勢が本気で攻めてきたなら、アストレイは一瞬で消し飛ぶだろう。


 俺たちは丘を下り、バルドリア軍の前へ向かう。


 先頭に、異様な存在感を放つ男がいた。

 まだ若い。俺と十歳も変わらないように見える。


 だがその男の放つ威圧感は桁違いだった。

 赤黒い鎧。鋭い双眸。


 周囲の空気が彼を中心に歪んでいる。


 ――武闘国バルドリア王、バハドール。


 その背後に四人の将が並ぶ。

 その中には前回決闘で倒したマサクリフの姿もある。

 東西南北のバルドリア四領主だろう。


 王が手を挙げると、地が震えた。

 彼が放った一言は、まるで宣告のように響いた。


「まずは、決闘を受けた勇気に応えよう。そしてこの地に――戦の舞台を作る」


 その声が響いた瞬間、魔法兵たちが一斉に動いた。

 地面が裂け、石が隆起し、光の線が走る。


 数分もしないうちに、何もなかった平原が巨大な闘技場へと姿を変えた。


 魔力の奔流が空気を震わせる。

 誰もが言葉を失った。


 俺は悟った。


 ――まともに戦っては、絶対に勝てない。


 それでも、退くことはできない。

 この戦いを避ければ、フリシアだけでなく、アストレイの未来が潰える。


 リヴが隣に立ち、俺を見る。


「大丈夫でしょうか、クロム様」

「……戦う。だが、俺たちのやり方でな」


 握り締めた拳が震えていた。

 恐怖ではない。

 仲間と、この地を守る誓いの震えだった。


 アストレイとバルドリア。

 出来たばかりの小領と、大国。


 魂の重さが試される戦いが、いま始まろうとしていた。

※作者からのお願い


投稿のモチベーションとなりますので、この小説を読んで「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、↓の☆☆☆☆☆から評価頂き作品への応援をよろしくお願い致します!


お手数だと思いますが、ブックマークや感想もいただけると本当に嬉しいです。


ご協力頂けたら本当にありがたい限りです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ