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領主の長男ですが、禁忌のスキルネクロマンシーを授かって処刑されかけました。蘇らせた愛するメイドや仲間達と共に、滅びかけの辺境の村から国を興す。  作者: ドラドラ
第五章 命を営む者たち

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第37話 癖のある手と穏やかな手

 静かな朝だった。

 アストレイの空は今日もどこまでも澄んでいて、地平線の向こうへ吸い込まれるように青が広がっている。風は穏やかで、村の木々を優しく撫でていった。


 村の中心に立ち、俺はまだ形の定まり切らないこの集落を見渡した。

 新しく建った家、畑、作業場。人は増え、生活は根を張り始めている。


 だが――まだ足りない。


 大地に根を張るなら、戦うなら、守るなら。

 この村にはまだ『生き抜くための基礎』が決定的に不足していた。


 思考が深く沈みかけたとき、砂を軽く蹴る足音が近付いた。


「また考えごとでございますか、クロム様」


 柔らかく、しかしどこか計算された響きの声。

 振り返れば、旅装の外套を軽やかに揺らしながらラセルが立っていた。


「ラセル。まさか今日も来るとはな」

「アストレイは今、私にとって最も優先すべき地です。来ない理由がございません」


 あいかわらず、言葉に隙がなく綺麗だ。その瞳には迷いがない。

 ならば、俺も迷っている暇はない。


「ラセル。相談がある」


 ラセルは一瞬だけ息を整え、その表情を真剣なものへと変えた。


「なんでございましょう」

「アストレイには鍛冶師も医者もいない。武具の手入れも修理もまともにできない。薬も道具も、ラセルの商隊から買って補っている状態だ。このままでは、いずれ限界が来る」

「……ええ、確かに」


 ラセルは頷いた。


「そして、治療も問題だ。ツムギのスキルで何とかごまかしているが、彼女も医者ではない。怪我人が出ることは、これから確実に増える」

「……つまり、クロム様は求めている。――アストレイの『次の柱』を」

「ああ。もし、誰か心当たりがあるなら――」


 そのとき、ラセルはわずかに唇を吊り上げ、目を細めた。


「おりますよ」

「……本当か?」

「この地にふさわしい人物を。少々癖はありますが……アストレイでこそ輝く者たちです」


 嫌な予感がした。


「近日中には連れて来られます。ぜひ、会ってみてください」


 ラセルはそう告げ、軽やかに笑った。

 俺は頭をかいた。


 ――嫌な予感は、大体当たる。


 ◇   ◆   ◇


 数日後、ちょうど昼過ぎ、 村の入口で、また騒がしい声が上がった。


「おおッ! ここが噂のアストレイか! こりゃあいいな! 構造がいい! 分解しがいがある!!」


 ……開口一番、それか。


 背の低い、がっしりした体格。深い赤銅色の髭を豪快に揺らし、背には工具袋。

 紛れもなく――ドワーフ。


「ちょっと待て。分解っていったか? 何をしようとしている」

「言った! とりあえず入口門だな! 一度バラせば精度が――」

「やめてくれ」


 即答すると、そのドワーフは腹を抱えて笑った。


「はっはっはっ! まぁそう言うなって! 俺の名前はバラクだ。バラしてもちゃんと組み直すから安心しろ!」


 意味はよくわからないが、勢いはすごかった。


 その横に立つ女性は対照的だった。

 薄いラベンダー色の髪が風に揺れ、まぶたの動きさえゆっくりな女性。

 空気ごと柔らかく緩めてしまうような存在感。


「……トローネ、と申します……」


 声は水滴のように静かだった。


「医師、をしていました……。でも……忙しいところは、あまり……向いていなくて……」


 彼女の声は、村の喧噪さえ緩めるような柔らかさだった。

 ラセルが一歩前に出て、俺に視線を向ける。


「この二人が、クロム様の求められていた鍛冶と治療を担える人物です。どちらもアストレイに――とても合う」


 そう言うと、少し意地悪な笑みを浮かべた。


「癖は強いですが」


 ……だろうな。


「まずは、バラクの紹介からお願いできるか」


 バラクが胸を叩く。


「オレは鍛冶師だ。武器も防具も作れる。……ただ、まぁ」


 言いよどんだ。

 その代わりに、横でラセルが肩をすくめた。


「彼は【分解】のスキルを持っています。構造を理解するために『壊す』ところから入ってしまう。職人としては腕は一級ですが、ドワーフの国の宝剣を……」

「言わなくていい……」


 バラクが眉をひそめた。


「俺はただ造りを確かめてから、手入れをしようとしただけだ」

「結果、国を追い出されたわけですね」

「うるせえ」


 言い合いながらも、そこには確かに信頼があった。

 だからこそ、ラセルは連れてきたのだろう。


 俺は、静かに言った。


「バラク。ここにはまだ大したものはなにもない。必要なのは、手だ。鉄を打てる手。村のために働ける手。それがあるなら歓迎する」


 バラクは驚いたように目を見開いた。

 だが、すぐに笑った。大きく、肩の揺れる笑い


「任せとけ! 武器も防具も道具も全部見てやる! 必要ならぜーんぶ分解してやる!」

「最後のはやめろ」


 その笑顔は、炎のようにあたたかかった。


 次に、トローネ。彼女はゆっくりと、胸に手を当てる。


「わたしは……【停滞】のスキルを使います……血の流れを、痛みを、遅らせます……」


 そこで一度、言葉を探した。


「病院では……『治すのが遅い』と、よく言われました……でも、焦らない治療が必要な場所も……あるんです」


 その言葉に、俺は、静かに頷いた。


「必要なのは、早さではなく――正確さだ。トローネのやり方で、存分にやってくれ」


 トローネは、目を見開いた。

 ほころぶように、微笑む。


「……ありがとうございます……」


 その微笑みは、まるで朝のやわらかな日差しみたいだった。

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