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領主の長男ですが、禁忌のスキルネクロマンシーを授かって処刑されかけました。蘇らせた愛するメイドや仲間達と共に、滅びかけの辺境の村から国を興す。  作者: ドラドラ
第十二章 愛を還す者たち

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第107話 愛という名の呪縛

 ――最初から。


 耳に届いた音は、ただの言葉にすぎないはずなのに、胸の奥で何かが軋む。


 理解できない。理解したくない。

 そう拒絶する感情だけが、遅れて湧き上がってくる。


「……最初から?」


 掠れた声が漏れた。


 それが俺のものだったのか、隣に立つリヴのものだったのか、分からないほど、思考が、完全に追いついていなかった。


 だが、誰よりも大きく反応したのは――メルクアだった。


「……何を、言っているの……?」


 震える声。玉座に座していた時の威厳《いげん》も、冷静さも、そこにはなかった。


 言葉を繋ごうとした、その瞬間。


 ――ガシャリ。


 金属が擦れ合う、乾いた音が広間に響いた。


「……少し、黙っていてもらえますか」


 チェイナードの声は、驚くほど静かだった。感情を荒立てるでもなく、怒気を滲ませるでもない。

 ただ、当然のことを告げるような口調。


 次の瞬間、床を這っていた鎖が跳ね上がる。

 生き物のようにうねり、メルクアの身体に絡みついた。

 腕を縛り、肩を押さえ、逃げ場を塞ぐように巻き付いていく。


「っ……!」


 息を詰まらせ、メルクアは声を失った。

 喉元に絡みついた鎖が、言葉を封じ込めている。


「なっ……チェイナード、自分の主《あるじ》に向かって何を!」


 シュウが一歩踏み出すが、チェイナードはちらりとこちらを見るだけで、動じる様子はなかった。


「今は、話の邪魔です」


 淡々と、まるで当然の権利のように言い放つ。


 メルクアは必死に身をよじるが、抵抗は虚《むな》しく、鎖は一切緩まない。


「……最初から、というのはどういうことだ?」


 俺は、声に力を込めて問いかけた。


 チェイナードは、ゆっくりと立ち上がる。

 リヴから受けたはずのダメージを、まるで感じていないかのように。


「五百年前、メルクア様がネクロマンシーを授かる、さらにその前から、という意味ですよ」


 背筋を、冷たいものが走った。


「五百年前……?」


 サリアが、低く呟く。


 チェイナードは、縛られたメルクアへと視線を向けた。

 その眼差しは、慈《いつく》しみと執着が溶け合った、歪んだ静けさを湛《たた》えている。


「私がメルクア様に仕えるようになった時から……」


 淡々《たんたん》と語られる言葉が、信じ難い真実を一つずつ積み上げていく。


「私は、彼女の心に触れていました」


 広間では、チェイナード以外に誰も声を発しない。


「メルクア様は……少しばかり、純粋すぎた」


 その言葉に、メルクアの肩が、びくりと跳ねた。

 鎖が、かすかに鳴る。


「疑うことを知らず、人の言葉を信じ、心を預けることを恐れなかった」


 チェイナードの声は、どこまでも穏やかだ。


「……だからこそ」


 一瞬、ほんのわずかに、感情が滲《にじ》む。


「私は、その純粋さに惹かれた」


 広間の空気が、ひやりと冷える。


「汚したいわけではなかった。ただ――誰にも触れさせたくなかった」


 その声には、確かな執着があった。


「この心は、私だけのものであるべきだと、そう思ったのです」


 その一言に、リヴが息を呑むのが分かった。


「……その鎖で心を縛り上げたのか」


 シュウが、低く呟く。


「ええ。それが私の愛です」


 チェイナードは、何の躊躇《ちゅうちょ》もなく肯定した。


「彼女は、賢く、強く、誇り高く成長された」


 そこで、わずかに笑う。


「――私の理想通りに」


 ぞっとする。


 愛していると言いながら、選択肢を奪い、導き、閉じ込める。

 それを当然だと信じ切っている。


「やがて彼女は、神に選ばれ、ネクロマンシーを授かった」


 視線が、縛られたメルクアへと注がれる。


「最初に蘇らせたのが、ルナリオだった」


 シュウとツムギの視線が、床に伏した魔狼へと向く。


「その時、彼女は知ったのです」


 チェイナードの声が、少しだけ低くなった。


「彼女のネクロマンシーは……愛した者しか、蘇らせられないということを」


 言葉の意味が、ゆっくりと胸に落ちてくる。


「だから私は、確かめました」


 あまりにも穏やかな口調。


「彼女が、私を愛しているかどうかを」


 嫌な予感が、背中を這い上がる。


「……まさか」


「ええ」


 チェイナードは、深く笑った。


「私は、王の追っ手に自ら居場所を知らせ、あえて殺されました」


 広間が、完全に沈黙する。


「彼女は、迷わず私を蘇らせた」


 鎖が、きしりと音を立てる。


「私が蘇ったその瞬間、私は確信した」


 胸が、締め付けられる。


「私は、メルクア様に愛されている、と」


 その声には、揺るぎない確信があった。


 リヴが、唇を噛みしめる。


「蘇った私は、メルクア様の思う通りに行動させました」


 チェイナードは、腕を広げる。


「彼女の選択を、少しずつ、望む方向へと」


 そして、声が低く沈む。


「……ですが」


 その一言で、空気が変わった。


「アルドレインに出会った時」


 サリアの肩が、ぴくりと揺れた。


「彼女の心は、初めて揺らいだ」


 チェイナードの笑みが、消える。


「私の声が届かなくなり、ネクロマンシーも鈍り始めた」


 ぎり、と鎖が床を削る音が響く。


「だから私は――決めました」


 冷たい瞳。


「彼女には、死の女王になってもらおうと」


 嫌な沈黙。


「そこで第一王子の心を縛り、誘導し、アルドレインを殺させました」


 その言葉を聞いたとき、メルクアが、縛られたまま大きく身を震わせる。

 声にならない悲鳴が、喉元で詰まる。


「……結果は、ご覧の通り」


 チェイナードは、淡々と続ける。


「彼女は、壊れ、そして――私の理想の女王へとなった」


 歪んだ愛。否定できないほど、徹底的な支配。


「その果てに生まれたのが、この国――ネクロスです」


 沈黙が、重く落ちる。


「そして、この愛が永遠になるように」


 チェイナードの視線がメルクアを捉え、鎖が締まる。


「強化された私のスキルで彼女の生命を、呪縛しました」


 ――生命を。


「それが、彼女がここまで生き延びている理由です」


 静かに、言い切る。


「彼女は、私の愛によって生かされているのです」


 愛という名の鎖に、縛られて。


 俺は、拳を握り締める。


 ――許せるはずがない。


 これは、こんなのは、愛じゃない。


 これは生き方そのものを奪う、呪いだ。


 そして、チェイナードは、こちらを見て、微笑んだ。


「……さて、これから、どうしますか?」


 この戦いは、まだ終わっていない。


 いや――本当の戦いは、ここから始まる。

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