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領主の長男ですが、禁忌のスキルネクロマンシーを授かって処刑されかけました。蘇らせた愛するメイドや仲間達と共に、滅びかけの辺境の村から国を興す。  作者: ドラドラ
第十二章 愛を還す者たち

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第106話 女王を縛る者

 広間に、重い静寂が落ちた。

 戦いの余韻すら、音を失ったかのように、空気が張り詰めている。


 倒れ伏す三体の存在が、それぞれ横たわっていた。


 樹木を操っていたアルドレインは、サリアの槍を正面から受け、その場に崩れ落ちている。

 鎖を振るっていたチェイナードは、リヴの渾身の拳によって床へと叩きつけられ、胸を上下させながら荒い息を吐いていた。

 そして、魔狼ルナリオは、シュウの一閃を受け、完全に沈黙している。


 ――勝った。


 状況だけを見れば、そう言い切れるはずだった。


 だが、胸の奥に、どうしても拭えない違和感が残っている。


 視線の先、玉座に座していた女王メルクア。


 彼女は、呆然《ぼうぜん》とした表情で、この光景を見つめていた。


 これまで一度たりとも揺らぐことのなかった女王の顔。

 五百年という時を生き、すべてを見通し、支配してきた存在の余裕。

 それらを当然のように纏っていたはずの姿が、今は失われている。


 唇が、震えている。 瞳が、揺れている。


 ――初めてだ。


 彼女が、女王であることを忘れたような顔をしているのは。


「……アルドレイン様……」


 掠《かす》れた声が、広間に落ちた。


 その声には、威厳はない。

 ただ、不安と焦りだけが滲《にじ》んでいた。


 メルクアは、玉座から立ち上がる。


 ゆっくりと、足を前へ運び、倒れているアルドレインのもとへと向かっていく。


 その足取りには、先ほどまでの優雅《ゆうが》さはなかった。

 あるのは、取り繕《つくろ》うことすら忘れた動揺だけだ。


「アルドレイン様……しっかりしてください……」


 膝をつき、その名を呼ぶ声は、もはや命令ではなく、縋《すが》るような響きだった。


 その姿を見て、胸の奥がざわつく。


 彼女は、アルドレインを駒《こま》として扱っていたはずだ。

 それなのに、その呼び声はあまりにも必死で、切実で――


 そして、彼女は、はっとしたように顔を上げ、反対側を振り向いた。


「ルナリオ!」


 感情が剥き出しになったその叫び声に、思わず息を呑む。


 そこにいたのは、五百年生き、すべてを見通した女王ではない。

 まだ成熟しきっていない、一人の女性の姿だった。


 ――どういうことだ。


 俺は、無意識に歯を食いしばる。


 何かが、決定的に噛み合っていない。


「……魔力の流れが、なんか変だ」


 シュウの声が、静寂を破った。


 彼は刀を下ろしたまま、周囲を警戒するように視線を巡らせている。


「今ならわかる。この城……やっぱり魔力が落ち着いてない」


 その言葉に、俺は即座に意識を研ぎ澄ませた。


 今の俺は、シグレと魂回帰《ソウルリバース》したままの状態だ。

 感覚は、普段よりも遥かに広く、深い。


 戦っていない今なら、魔力の流れが、はっきりと見える。


 城全体に漂う、濃密で淀んだ魔力。

 死と再生の境界を曖昧にする、ネクロマンシー特有の魔力。


 ――やはり、メルクアか。


 そう思いかけた、その時。


『……クロム殿。シュウの言う通り、この城に纏《まと》う魔力、やはりおかしい』


 シグレの声が、内側から届いた。


『ネクロマンシーのものではあるが……それだけではない』


 俺は、さらに集中する。

 視線を、メルクアへ。

 彼女を中心に、魔力の流れを辿る。


 確かに、彼女から強大なネクロマンシーの魔力は発せられている。


 だが――


「……何かある?」


 思わず、声が漏れた。


 メルクアの体は、謎の魔力に絡め取られるように歪められている。


 まるで、彼女自身が――束縛されているように。


 俺は、その魔力の糸を辿った。


 絡まり、ねじれ、城の床を這い、やがて一本の流れへと収束していく。


 その先にいたのは――


「……チェイナード」


 倒れていた男のもとへ、魔力が繋がっている。


 俺は、警戒を解かぬまま、ゆっくりとチェイナードへ歩み寄った。


「どういうことだ、チェイナード」


 問いかける声に、力を込める。


 その声に、反応があった。


 チェイナードの指が、ぴくりと動く。


「……まさか……」


 小さな声が、背後から聞こえた。

 振り向くと、リヴが蒼白な顔で立ち尽くしている。


「いえ……そんな……」


 彼女の瞳が、大きく揺れた。

 震える唇で、言葉を探している。


「……まさか」


 リヴは、一歩前へ出る。


「私を操っていた時のように……メルクアの心を……」


 言葉が、震えた、その瞬間。


「――くくっ」


 低い笑い声が、床から響いた。

 チェイナードが、ゆっくりと上体を起こす。


 口元には、歪んだ笑み。

 鎖が、床の上で、かすかに音を立てる。


「気づかれてしまいましたか」


 その声には、悔しさなど微塵もない。

 あるのは、思惑通りに事が進んだ者の余裕だけだ。


「いつからだ?」


 俺は、鋭く問いかける。


 チェイナードは、視線をアルドレインの傍で呆然《ぼうぜん》とするメルクアへと向けた。

 そこには、執着と歪んだ庇護《ひご》欲だけが静かに滲《にじ》んでいた。


「いつから、ですか?」


 彼は、肩をすくめる。


「……最初からですよ」


 その言葉が、広間に落ちた。

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