↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
領主の長男ですが、禁忌のスキルネクロマンシーを授かって処刑されかけました。蘇らせた愛するメイドや仲間達と共に、滅びかけの辺境の村から国を興す。  作者: ドラドラ
第十二章 愛を還す者たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
112/122

第105話 鎖を断つ翼 ☆リヴ視点

 鎖の音が、嫌になるほどよく響きます。


 金属が擦れ合い、床を引きずり、空気を裂くその音は、耳ではなく、直接胸の奥を引っかくように届いてきます。

 それはただの音ではない。

 かつて私を縛り、意志を奪い、思考すら操った――忌まわしい記憶そのものです。


 反射的に、指先がわずかに震えましたが、視線だけは逸らさない。


 目の前に立つのは、チェイナード。


 鎖を自在に操るその男は、歪んだ笑みを浮かべながら、まるで舞台役者のように両手を広げて私を迎え撃っています。


「前回囚われたというのに……また、あなた一人ですか」


 声は柔らかい。

 だからこそ、底に沈んだ嘲笑がはっきりと分かる。


 その背後で、鎖が生き物のように蠢《うごめ》いた。

 床を這い、壁を伝い、天井から垂れ下がり、いつの間にかこの広間全体が、巨大な檻へと変わっていく。


 逃げ場はない。そう、突きつけるように。


 恐怖が、胸の奥で小さく揺れた。


 あの時と同じだ。

 囲まれ、逃げ道を失い、力の差を突きつけられた、あの瞬間。


 ――いいえ。


 私は、ゆっくりと息を吸う。


 その感情は、もう私を縛るものではない。


「……ええ。私一人で十分です」


 はっきりと、そう答えた。

 声に、迷いはなかった。


 視線を逸らさず、拳を握り締める。

 掌に、爪が食い込む感触がはっきりと分かる。


「ですが」


 一歩も退かず、言葉を続ける。


「もう、囚われたりはしません」


 その瞬間、チェイナードの指が、わずかに動くと、床を叩き割るような勢いで、鎖が一斉に跳ね上がる。


 鋭く、速く、迷いなく。


 私の喉元、足元、背後――逃げ道を塞ぐように、複数の鎖が同時に襲いかかってくる。


 私は一歩、前へ踏み出した。

 恐怖に打ち勝つように、迎え撃つために。


 拳に魔力を込め、最初の一本を叩き落とす。

 金属同士がぶつかるような鈍い音が響き、鎖が弾かれて軌道を逸らされた。


 続けて、二本、三本。


 叩く。弾く。払い落とす。


 だが、止まらない。


 鎖は、意思を持つかのように、先端を刃へと変質させて再び迫ってくる。


「ほう……」


 チェイナードが、楽しそうに目を細めた。


「前よりは、多少マシになったようですね」


 その声に、称賛はない。

 あるのは、あくまで玩具《おもちゃ》の出来栄えを確かめるような目だ。


 刃と化した鎖が、横薙ぎに迫る。


 私は身を沈め、床を蹴り、紙一重でかわす。頬をかすめる風圧が、皮膚を焼いた。


 反転し、そのまま拳を叩き込もうとした――その瞬間。


 地面が、動いた。


 嫌な予感が、背筋を走る。


 次の瞬間、床から無数の鎖が噴き出した。


 足首、腰、腕、胴。


 私に絡みつき、締め上げ、動きを封じてくる。


「――っ!」


 体勢が崩れ、膝をつきそうになる。

 歯を食いしばり、必死に耐えるが、拘束は容赦なく力を増していく。


「また同じ事に」


 チェイナードが、ため息交じりに言った。


「何も学びませんねぇ」


 その言葉と同時に、彼の両手からも鎖が伸びる。

 地面の鎖と連動し、私の身体を完全に拘束した。


 締め付けが強まり、肺が圧迫される。

 呼吸が浅くなり、視界の端が、わずかに暗くなる。


 ――違う。


 前と、同じじゃない。


「あの時とは……違います」


 掠れそうになる声を、意志で繋ぎ止める。


 胸の奥に、意識を向けた。


 そこにあるのは、私一人の力ではない。


 クロム様と、何度も何度も繋がった感覚。

 魂が触れ合い、響き合い、限界を越えていった記憶。


 私は、今一人で立っている。


 でも、独りじゃない。


 魔力を、一点に集中する。


 背中が、じんわりと熱を帯びる。

 戦う前にクロム様から込められた魔力が、まるで背中を支える手のように温かい。


 かつては、魂共鳴《ソウルリンク》の中でしか引き出せなかった力。


 だが今は――背中から、黒い翼が顕現《けんげん》した。


 魔力で編まれた、漆黒の翼。

 広がろうとすると同時に、空気が震える。

 鎖が軋み、悲鳴を上げた。


「な……っ!?」


 チェイナードの表情が、初めて大きく歪む。


 私は翼を大きく広げ、魔力を爆発させた。

 拘束していた鎖が、音を立てて弾け飛び、千切れていく。


 私は、自由になった。


 床を蹴り、宙へ舞い上がる。

 そのまま、チェイナードと繋がっている鎖を掴んだ。


 抵抗するのが、はっきりと伝わる。


 だが、構わない。


 翼を羽ばたかせ、一気に引き寄せる。

 鎖ごと、チェイナードを。


「ぐっ……!」


 体勢を崩し近づいてきた、その瞬間。


 私は、拳を振り抜いた。


 魔力を乗せた、全力の一撃。


 鈍い衝撃音が響き、チェイナードの身体が宙を舞う。

 吹き飛ばされ、メルクアの玉座の方へと叩きつけられた。

 石床に転がり、鎖が無秩序に散らばった。


 荒い息を吐きながら、私は地に降り立つ。

 翼は、役目を終えたかのように、ゆっくりと霧散《むさん》していった。


 視線を上げた時だった。


「リヴ!」


 聞き慣れた声。


 振り向けば、戦いを終えたクロム様が駆け寄ってくる。


 その隣には、サリア様。さらに、シュウと、右肩を押さえながら走るツムギの姿もあった。


 私は、はっとして周囲を見る。


 アルドレインは、地面に伏して動かない。

 ルナリオも、すでに倒れていた。


 戦場の空気が、確かに変わっていた。


 これで――ようやく、形勢は逆転した。


 クロム様が、私の無事を確かめるように目を向ける。


 その眼差しに、私は小さく頷いた。


 もう、大丈夫です。

 私は、囚われていません。


 胸の奥に、静かな誇りが灯る。


 この戦いは、まだ終わらない。


 でも――もう、負ける気はしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。