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領主の長男ですが、禁忌のスキルネクロマンシーを授かって処刑されかけました。蘇らせた愛するメイドや仲間達と共に、滅びかけの辺境の村から国を興す。  作者: ドラドラ
第十二章 愛を還す者たち

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第103話 魂が交わる刃

 アンデッドの残骸が、ようやく完全に沈黙した。


 骨と鎧の砕けた音が消え、広間に残ったのは、重く張り詰めた沈黙だけだった。

 だが、それは安堵とは程遠い。


 空気が変わる。いや、正確には、俺たちを見つめる視線の質が変わった。


 アルドレイン。チェイナード。ルナリオ。


 玉座の前に並び立つ三体の存在は、先ほどまで相手にしていた精鋭アンデッドとは、明確に異なっていた。


 意思があり、知性がある。そして――殺す覚悟がある。


 死の女王を守るために。俺たちを、ここで確実に排除するために。


「……来るぞ」


 自然と声が低くなる。

 緊張が、背筋を這い上がってくるのが分かる。


 その一言だけで、全員が理解した。

 説明も、合図もいらない。


 俺たちは散開した。


 ◇   ◆   ◇


 アルドレインが、静かに一歩前へ出る。


 その足が床に触れた瞬間、城が呻《うめ》いた。


 床が割れ、そこからありえない速度で樹木が芽吹く。

 根が石を押し割り、幹が天井へと伸び、枝が広がる。


 生命の暴力。

 まるで、この城そのものを苗床にしているかのようだった。


「お前の相手は俺だ!」


 俺が前に出ると同時に、サリアが半歩遅れて位置を取る。


「援護するわ、クロム!」


 迷いのないその言葉で、胸の奥が静かに熱くなる。


 次の瞬間、床を突き破って樹根が襲いかかってきた。

 鞭のようにしなり、鋼鉄よりも硬い一撃。


 考えるより先に、俺は魂を沈めた。


 魂回帰《ソウルリバース》。


 呼びかける名は、ひとつ。


 ドルビ。


 木材を知り尽くした職人の魂。構造を理解し、役割を変える力。


 迫る樹根に手をかざす。

 触れた瞬間、それは力を失い、ばらばらに崩れ落ちた。


「……相変わらず厄介な力だね」


 アルドレインが、どこか楽しげに呟く。


「黙りなさい!」


 サリアが踏み込む。

 槍が閃き、枝を薙ぎ払い、幹を正確に穿つ。


「私たちの力を、思い知りなさい!」


 その気迫に、空気が震えた。


 俺はサリアの動きに合わせ、樹木へと触れて樹木を無力化していく。


 俺たちの連携は完璧だった。

 攻撃がアルドレインに通る。

 確実に、追い詰めている。


 だが、アルドレインは、まだ余裕を失っていなかった。


 後退しながら、彼はゆっくりと両腕を広げる。


「君たち、本当に面白いよ」


 焦りはない。

 むしろ、その瞳には愉悦が浮かんでいた。


 床に散らばっていた木片が、一斉に宙へと浮かび上がる。


 砕いた枝。無力化した幹。それらが、逆再生されるようにアルドレインに集束していく。


「……っ!」


 アルドレインの身体を覆うように、樹木が絡みついた。

 幹が骨格を形作り、枝が重なり、樹皮が鎧となる。


 人の形をした、巨大な樹木の甲冑。


「この城はね、五百年かけて根を張ってきたんだ」


 低く、響く声。


「君が触れたくらいで、止まると思わないでほしい」


 樹木の鎧が、ぎしりと音を立てる。

 次の瞬間、無数の枝が槍となって放たれた。


「クロム!」


「分かってる!」


 俺は前に出て、ドルビの力を、限界まで引き出す。


 触れた枝は崩れ落ちるが、すぐに新しい枝が生え、樹皮が覆う。


 終わらない。


 分解しても、意味がない。

 これは素材じゃない。

 生きたまま、再構築されている。


「クロム、無理はしないで!」


 サリアの槍が叩き込まれるが、衝撃は吸収される。


「くっ……!」


 次の瞬間、巨大な腕が振り下ろされた。


 俺は反射的に前へ出て、サリアを庇う。


 衝撃。肩に走る激痛。


 体が宙を舞い、床を転がる。


 強い。

 単純な力比べなら、完全に向こうが上だ。


「君の力は、確かに厄介だ」


 アルドレインが歩み寄ってくる。

 樹木の鎧が、城を軋ませる。


「でも、戦闘系じゃないスキルなんて、その程度さ」


 俺は、ゆっくりと立ち上がる。


 確かに、ドルビの力は戦闘向きじゃない。

 だが――俺は、一人じゃない。


 脳裏に浮かぶ、静かな背中。


 ――シグレ。


 魂を、切り替える。


 世界の輪郭が研ぎ澄まされる。

 木の流れ。魔力の道。魂の結束。


 すべてが、線として見えた。


「サリア!」


「……ええ!」


 言葉は、それだけでいい。


「次で、終わらせる!」


 サリアが深く息を吸う。

 槍に、全魔力が集束する光の槍となる。


 空気が震える。


 俺は、一歩踏み出した。


「――霽光《せいこう》」


 一閃。


 銀光が、走る。


 樹木の鎧を構成していた魔力の結束が、断たれる。


「はあああああっ!!」


 サリアの槍が、アルドレインに叩き込まれた。


 全魔力を乗せた一撃。

 霽光《せいこう》によって弱体化した鎧を、正面から貫く。


 轟音。


 樹木の鎧が、内側から爆ぜた。


 中心で、アルドレインの身体が宙に浮いた。


「……なるほど……」


 微笑みすら浮かべながら、彼は崩れ落ちる。


「それが……君たちの答えか……」


 床に倒れたアルドレインは、動かない。


 静寂が戻る。


 俺は、大きく息を吐いた。


「……終わったわね」


「ああ。でも……」


 視線を、まだ続く戦場へ。


 本当の正念場は、ここからだ。


 俺は、剣を握り直した。


 まだ、終われない。

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