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領主の長男ですが、禁忌のスキルネクロマンシーを授かって処刑されかけました。蘇らせた愛するメイドや仲間達と共に、滅びかけの辺境の村から国を興す。  作者: ドラドラ
第十二章 愛を還す者たち

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第102話 断ち切る光

 空気が、震えた。


 目に見えない圧が、広間全体を押し潰すように膨れ上がる。

 それに応じるかのように、メルクアの周囲に控えていたアンデッドたちが、一斉に動き出した。


 鎧を着込んだ騎士の亡骸。異形に歪んだ魔物の骨格。

 かつて名を持ち、戦場を駆け、あるいは恐れられていたであろう存在たち。


 それらすべてが、女王の玉座を守るためだけに存在している。


 ただ動く死体ではない。女王の傍にいる以上、数合わせのはずがない。

 五百年という狂気じみた時間の中で選別され、磨き上げられてきた精鋭だ。


「来るぞ!」


 俺が叫ぶより早く、リヴが踏み出していた。


 床を蹴る音が、炸裂する。加速に迷いがない。

 その拳が描く軌道には、殺すための最短距離しか存在していなかった。


 騎士のアンデッドが盾を構えようとした、その刹那、拳が、正面から叩き込まれる。


 衝撃音。骨が砕け、鎧が歪み、胴体が宙を舞う。

 人の形を保っていたはずの存在が、壁に叩きつけられ、崩れ落ちた。


 だが、敵の攻撃は止まらない。


 今度は左右から、魔物のアンデッドがリヴに飛びかかる。

 牙と爪が、殺意そのものとなって迫る。


 そこへ、鋭い風切り音。


「はあっ!」


 サリアの槍が割り込んだ。


 一歩で間合いを詰め、突き、払う。しなやかな動きの中に、殺意が込められている。

 槍は生き物のようにしなり、一体目の顎を貫き、二体目の脊椎を砕く。

 魔物は床に縫い止められ、そのまま動かなくなった。


 その背後、影のように動いたのは、シュウだった。


 剣閃は控えめで、派手さはないが、一太刀ごとに、確実に命の線を断ち切っていく。


 関節。頸椎。魔力が集中する核。

 無駄な斬撃は一切ない。


 訓練の成果だ。

 サリアと、そしてシグレと積み重ねてきた、血と汗の日々。

 その意味が、今この瞬間に形になっている。


 俺とツムギも、立ち止まってはいなかった。

 俺は後方から魂回帰《ソウルリバース》を使い、ネクレアの力を借り、仲間たちの死角を埋め、攻撃の隙を突く。


 ツムギは糸を張り巡らせる。

 床、柱、空間そのものを縫い止めるように。

 アンデッドの動線を奪い、仲間が踏み込みやすい舞台を整えていく。


 俺たちの連携は、噛み合っていた。


 次々とアンデッドが倒れていく。精鋭だろうが関係ない。


 今の俺たちは、この戦場を支配していた。


「……残るは、お前たちだけだ」


 最後の一体が崩れ落ちたのを見て、俺は玉座の前に立つ女王を睨みつける。


 メルクアは、ゆっくりと拍手した。


「ふふ……素晴らしいわ」


 称賛の言葉。

 だが、その笑みには、焦りの色が一切ない。


「でも……五百年もかけて増えていった私の兵が、ここまでに来る間に倒したり、ここにいるこれだけだと思ってるの?」


 胸が、ざわつく。


「残りは、どこに行ったか……わかる?」


 嫌な予感が、脳裏を突き刺す。


「今頃、ヴァルメイアはどうなってるかしら」


 息が止まった。


 父上。俺の故郷。


「それに……」


 メルクアが、指を鳴らす。


 その音を合図に、倒れたはずのアンデッドたちが、再び動き出した。

 骨が軋み、砕けた体が再構築されていく。

 虚ろだった眼窩に、再び不気味な光が灯る。


「……なっ」


「私がいる限り、この子たちは倒れないわ」


 誇らしげに言い放つ女王。


 焦りが、一気に広がる。


 倒しても意味がない。消耗戦になれば、こちらが先に尽きる。


 ネクレアに変えるべきか。

 だが、それだけの隙を、敵が与えるはずがない。


 そのときだった。


「クロム!」


 シュウの声が、鋭く響く。


「ツムギと魂共鳴《ソウルリンク》しろ!」


「……今?」


 一瞬、判断が遅れる。


「いいから早く!」


 振り返らないまま、シュウは叫んだ。


「あとは、俺とツムギに任せろ!」


 迷う理由はなかった。


「ツムギ、いけるか!」


「……はい!」


 短い返事。

 それで、十分だった。


 俺は意識を深く沈め、彼女と繋がる。


 魂共鳴《ソウルリンク》。


 視界が、反転した。


 ◆   ◆   ◆


 クロムさんと魂共鳴《ソウルリンク》した瞬間、体の奥から魔力が溢れ出すのを感じる。


 私は糸を操る。

 あらかじめ、シュウと打ち合わせた通りに。


 アンデッドたちの体を縛る。

 私は動きを止めるだけでいい。


 その中心で、シュウが目を閉じた。


 集中している。

 シュウの背中は、 その背中は、あの人を思わせる。

 静かで、揺るがない。


 次の瞬間。


「――霽光《せいこう》」


 光が、走った。


 それは斬撃というより、意志そのものだった。

 魂と魂を結ぶ線だけを、正確に断ち切る刃。


 死の女王と、アンデッドたちを繋いでいた線。

 それが――断たれる。


 私は、思わず息を呑んだ。


 重なる。


 シュウの姿と、シグレの影が。


 同じ奥義。同じ覚悟。


 胸の奥が、きゅっと締めつけられる。

 秘めていた想いが、露わになりかける。


 でも、これ以上クロムさんに負担をかけるわけにはいかない。


 私は静かに糸を緩め、魂共鳴《ソウルリンク》を解除した。


 ◇   ◇   ◇


 視界が、戻る。


 アンデッドたちは、完全に崩れ落ちていた。


 今度は、復活しない。


「……ちっ」


 メルクアが、舌打ちする。


 不満そうだが、それでも余裕は崩れていない。


「でも……まだ、私には」


 その声と同時に。


 アルドレインが一歩前へ。

 チェイナードが、愉快そうに微笑む。

 ルナリオが、低く唸り声を上げた。


 強敵ばかりだ。


 ここからが――本当の正念場。


 俺は、仲間たちを見る。


 誰も、退いていない。


 なら、やるだけだ。


 最後まで。

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